監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士
交通事故の被害に遭ってしまった場合、1日でも早く回復するべく、しっかりと通院することは極めて重要です。
もっとも、交通事故に遭うのは突然であり、受傷した怪我の治療の通院に仕事やプライベートの時間を割くことは、心情的にも苦痛が伴うこともあるかと思います。
しかし、どのような事情があっても適切な通院頻度を保てない場合、結果的に賠償の場面で損をしてしまうおそれがあります。
そこで、本記事では、交通事故案件を多数扱い、交通事故案件に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が、通院日数が少ないとどのようなデメリットがあるのかなどを解説しますので、ぜひご参照ください。
目次
通院日数が少ないと慰謝料にどのような影響が出るのか
通院日数が少ないと「慰謝料」として受け取れる賠償額が減ってしまうというリスクがあります。
「慰謝料」とは、いわゆる精神的苦痛を金銭的に評価して賠償してもらうものといえますが、目に見えないものであるため、治療費などのように客観的に「○○円」と算定できるものではありません。
そこで、怪我の程度や内容、入通院期間、通院日数、通院の頻度などを基礎として、慰謝料の相場を想定するほかなく、その意味で、通院日数が「慰謝料」の額に影響してくる、ということになります。
通院日数が少ないと、怪我として重傷ではないのではないか、と推測されてしまうという説明もでき、こういった説明であれば腑に落ちやすい方もいるのではないかと思います。
なお、交通事故における慰謝料と通院日数との関係については、以下の記事でも詳しく解説しておりますので、ぜひご参照ください。
交通事故の慰謝料相場と通院日数の関係について詳しく見る自賠責保険基準の場合
「慰謝料」の算定にあたって、「自賠責保険基準」という基準が用いられることがあります。
「自賠責保険基準」では、入通院慰謝料は1日につき「4300円」と定められています(ただし、令和2年4月1日より前に発生した事故の場合は、旧基準の日額4200円が適用されます。)。
慰謝料の算定の日数については、通院日数に着目すれば、「①通院期間」と「②実通院日数×2」のどちらか少ない方が適用されます。
例えば、通院期間が30日で、実通院日数が12日の場合、①通院期間=30日、②実通院日数×2=24日、ということで、②の24日分の慰謝料で計算することとなり、入通院慰謝料は、4300円×24日=10万3200円となります。
弁護士基準の場合
上記の「自賠責保険基準」と異なり、被害者の方が弁護士に依頼するなどすれば、「弁護士基準」にて、慰謝料を算定することができます。
「弁護士基準」では、赤い本(東京地裁)に記載されている表ⅠやⅡを参考にして計算するなどします(関西では、大阪地裁の基準の緑本が使われることも少なくありません。)。
例えば、上記と同様のケースで、通院期間が30日、実通院日数が14日の場合、むちうち症や軽い打撲等で他覚所見(医師が診察や検査によって診断することができる症状)がない場合には、表Ⅱを用いて計算すると、19万円の慰謝料となります。
わずか30日の通院期間でも、「自賠責保険基準」と「弁護士基準」では、これだけの慰謝料額の違いがあることをお分かりいただけるかと思います。
なお、交通事故における慰謝料の算定基準については以下の記事でも解説しておりますのでぜひご参照ください。
交通事故の慰謝料とは|計算方法から相場まで解説しますどれくらいで通院日数が少ないと判断されるのか
それでは、どれくらいで通院日数が少ないと判断されるのか、という点が気になる方も多いのではないかと思います。
月1~2回程度の通院はもちろん、週1回程度(月4回程度)の通院であっても通院日数は少ないと判断される可能性は高いと思います。
ただし、通院日数が少ないといっても、怪我の内容や程度によって慰謝料への影響も変わるので、以下見ていきましょう。
骨折等で自然治癒を待つために通院日数が少ない場合
まず、交通事故で骨折等の重傷を負った場合、治療としては、まずは、骨折した部位の骨癒合を優先するでしょう。
その場合、通院してリハビリ治療を受けるなどというよりも、経過観察をしながら骨癒合を待つ、という治療方針になるケースも多いのではないかと思います。
こういった場合には、月1回程度の経過観察になることもあり、そのために通院日数が少ないことに合理的な根拠があるといえ、慰謝料の算定にあたって影響は少ないかと思います。
むちうちなど軽傷であるために通院日数が少ない場合
これに対して、骨折等を伴わず、むち打ちなど比較的軽傷である被害者の方も多いです。
もちろん、骨折等がないのは不幸中の幸いといえますが、そうすると、早期回復のために治療、通院が必要といえるでしょう。
このような場合には、通院をして、リハビリや物量など継続的に続けて受けることが重要といえ、通院日数が少なくなってしまったとしても上記のような骨折等の重傷を負った場合とは異なり、通院日数が少ないことに合理的な根拠を欠くということになってしまいます。
そのため、こういった場合には、通院日数が少ないことは慰謝料の算定にあたって影響が生じてくるといえます。
一般的な通院日数と通院日数が少ない場合の慰謝料相場の比較
それでは、通院日数が慰謝料にどのように影響するのか、一般的な通院日数の場合と、通院日数が少ない場合を比較して見ていきましょう。
通院期間が30日、実通院日数が12日(一般的な通院日数)の場合と、通院期間が30日、実通院日数が4日(通院日数が少ない)の場合の慰謝料を、それぞれ計算した結果が、以下の表になります。
自賠責保険基準 | 弁護士基準 | |
---|---|---|
実通院日数 4日 |
3万4400円 (令和2年4月1日より前の事故では3万3600円) |
28万円 (むち打ち等では19万円) |
実通院日数 12日 |
10万3200円 (令和2年4月1日より前の事故では10万0800円) |
28万円 (むち打ち等では19万円) |
このように、比較してみると、実通院日数が4日の場合でも12日の場合でも、「自賠責保険基準」よりも、「弁護士基準」で計算した方が、一見して高額になるということがお分かりいただけるかと思います。
交通事故の通院日数に関するQ&A
それでは、交通事故における通院日数に関してよくある質問を取り上げて回答していきたいと思います。
通院日数が1日しかなくても慰謝料をもらえますか?
通院日数が1日しかなくても、交通事故により負傷した場合には、慰謝料を請求することができます。
そのため、交通事故に遭った場合には、当初痛みがなかったとしてもその後痛みが出ることも少なくないので、本当に怪我がないかを診察してもらうべく、病院や整形外科で一度診てもらうことが重要であるといえます。
ただし、上記のとおり、通院日数が1日ということで請求できる慰謝料の額は多額にはならない点はご留意ください。
通院日数を多くするため、痛くないのに通院してもいいですか?
上記質問と逆で、通院日数を多くするために、なるべく通院した方がよいのか、という疑問を持たれる方も少なくないかと思います。
しかし、通院日数を増やせば「慰謝料」がそれだけ増えるわけではないため、通院日数をいたずらに増やせばよいというわけではなく、適正な通院日数を確保することが重要といえます。
むしろ、通院日数が多くなると、「それだけ治療を受けたのだから完治したのではないか」などと治療費の一括対応を打ち切られるリスクがあります。
また、最も「慰謝料」が高額になる「弁護士基準」では、基本的に通院日数ではなく通院期間をもとに計算します。
そのため、必要な治療や検査以外のためにいたずらに通院したとしても、通院期間が短ければ慰謝料が増額することはありません。
リハビリでの通院も通院日数や通院期間に含まれますか?
リハビリでの通院も、原則として、通院日数や通院期間に含まれます。
リハビリは、症状を改善させるための治療の一環であるためです。
ただし、交通事故との関係がない怪我でリハビリに通っても、もちろん、リハビリでの通院期間の慰謝料を請求することはできません。
例えば、交通事故により首と腰を負傷したにもかかわらず、足首のリハビリを不要にも受けることです。
リハビリ通院と慰謝料との関係などについては、以下の記事でも解説しておりますのでぜひご参照ください。
弁護士に依頼することで、適正な慰謝料額を請求できる可能性があります
交通事故において、被害者の方が受け取る賠償金の中で、「慰謝料」は大きなウェイトを占めることが多いです。
そのため、「慰謝料」をいかに適切に算定し、いかに獲得するかということは非常に大事です。
これまで見てきた、「弁護士基準」での慰謝料というのは、弁護士しか用いることのできない基準ですから、示談する前には一度弁護士に相談することをお勧めします。
保険会社から提示された賠償額よりも数十万~数百万賠償額を増加できるケースがかなり多く存在します。
また、弁護士に依頼することで、通院に関するアドバイスや相談もできるでしょう。
このように、交通事故に精通した弁護士が担当するからこそ、被害者の方が適正な賠償を受ける可能性が高まるのであり、どんな弁護士に依頼してもよいわけではありません。
この点、弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士は、これまで数多くの交通事故案件に携わり、豊富な解決実績を持ち、知識・ノウハウも備えておりますので、安心してお任せください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)