監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士
目次
症状固定とは
交通事故で怪我を負われた方は、怪我の治療を継続していくと、【症状固定】という言葉をよく耳にすることになります。
この【症状固定】というのは、交通事故の実務において、とても大事な概念ですので、しっかり理解するようにしましょう。
【症状固定】というのは、文字通りですが、「症状」が「固定」した状態、つまり、治療を継続しても、治療効果が見られずに、症状が良くも悪くもならずに、症状が固定しているとみれる状態を指します。
交通事故によって負傷した場合、もちろん『完治』『治癒』が望ましいのですが、残念ながら、一定期間治療を続けても症状が残存してしまうケースも多く見られ、その場合、この【症状固定】という状態にいつなるのか、そのときどういう症状が残っているのか,というところが問題になるのです。
怪我の内容で異なる、症状固定までの期間
上記したとおり、交通事故によって負傷した場合に、【症状固定】となる場合があるのですが、【症状固定】という状態にいつなるのかは、怪我の程度・内容によって異なります。
例えば、一般的に、骨折・脱臼等を伴わない打撲や捻挫(頚椎捻挫や腰椎捻挫,外傷性頚部症候群など)は、事故後半年が目安とされます。
また、骨折した場合には、折れた骨が癒合した後リハビリ3か月程度を経た時点が目安とされますし、どこか体の一部が欠損した場合(人工骨頭を挿入した場合)などは,その時点が目安とされたりします。
ただし、加害者側の保険会社は、例えば、頚椎捻挫・腰椎捻挫の場合などに、「事故後3か月で症状固定だ」、などと主張してくることがあるのですが、上記した事故後半年という目安を知らなければ、加害者側の保険会社の主張に飲まれてしまうかもしれません。
この場合、以下に述べるように、被害者の方が受け取る賠償額に大きく影響が出てくるため注意が必要です。
そのため、交通事故で負傷された方は、自身の怪我の治療期間の目安、症状固定がいつ頃になりそうかの目安をあらかじめイメージしておくことが有益です。
こうした【症状固定】まで治療期間のイメージ、スケジュールなどは、交通事故に精通した弁護士であれば一定程度の理解を有しているでしょう。
症状固定時期は賠償額に大きく影響する
【症状固定】にいつなるのかは、被害者の方が受け取る賠償額に大きく影響してきます。
それは、事故日~【症状固定】までの期間に生じた損害についてのみ、加害者側が賠償すべきとされているためです。加害者側の保険会社から事故後3か月程度で「症状固定だ」などと主張されることがよくありますが、その主張が正当な根拠に基づいているのかきちんと吟味して対応していく必要があります。
まず、①治療費については,基本的に【症状固定】までの治療費しか加害者側が負担しなくても良いとされているので、安易に【症状固定】にしてしまうと、痛みなどの症状が残っているにもかかわらず、【症状固定】になった後の治療費が自己負担となってしまうため,注意が必要です。
そして、②通院に要した交通費も、【症状固定】までに要した分しか請求できないですし、③休業損害や④慰謝料(入通院慰謝料・傷害慰謝料)についても【症状固定】までに生じた分しか請求できないことになります。
さらに、【症状固定】の時に残存した症状などを後遺障害等級認定の申請をするのですが、【症状固定】をいつにするかというのも重要なポイントとなります。
このように、被害者の方が適正な賠償を受け取るにあたり,【症状固定】がいつになるのかは、かなり重要な問題であるとご理解いただけるのではないかと思います。
「症状固定」と言われて後悔しないために知っておくこと
これまで述べてきたとおり、【症状固定】がいつになるのかは大事であるところ、【症状固定】は、主治医の先生からも話が出てくることがありますが、加害者側の保険会社からも話が出てくることも多々あります。
加害者側の保険会社から【症状固定】という話が出ても、以下に詳しく述べていくとおり、それを信頼して【症状固定】にしてはいけません。
【症状固定】というのは、症状が固定したといえる状態を指すため、主治医ではない加害者側の保険会社が簡単に判断できるものではないためです。
症状固定を決めるのは医師
上記したとおり、【症状固定】は、症状が固定したといえる状態を指すところ、症状の改善があるか、逆に言えば治療効果があるかを判断・診断できるのは、もちろん医師免許を持った医師です。 もちろん、怪我の程度・内容によって、【症状固定】となる時期の目安などはあるものの、症状の改善の程度、治療内容、治療効果などは、被害者の方によって違いがあるため、【症状固定】となる時期の目安を参考にしながら、主治医の先生と被害者の方で具体的に相談等しながら【症状固定】の時期を決めていくことになります。
症状固定後は治療費や入通院慰謝料が打ち切りに
上記したとおり、【症状固定】というのは、賠償額を決めるにあたって重要な概念です。なぜなら、事故日~【症状固定】までの期間に生じた損害についてのみ、加害者側が賠償すべきとされているためです。
そのため、治療費や入通院慰謝料は、基本的には、事故日~【症状固定】までのものしか請求できず、その後に生じた治療費などは被害者の方の自己負担となってしまいます。
このように、【症状固定】の時期をいつにするかということが重要であることがお分かりいただけると思います。
保険会社の言いなりで症状固定にすると後遺障害慰謝料に影響が出る可能性も
主治医の先生ではなく、加害者側の保険会社から【症状固定】の話が出ても、それを信頼して、または鵜呑みにして【症状固定】にしてはいけません。
上記したとおり、事故日~【症状固定】までの期間に生じた損害についてのみ、加害者側が賠償すべきとされており、治療費や入通院慰謝料については、基本的には、事故日~【症状固定】までのものしか請求できず、その請求額が小さくなれば加害者側の保険会社にとっては有利になるためです。
その上、既に述べたとおり、【症状固定】の時に残存した症状などを後遺障害等級認定の申請をするのですが、【症状固定】をいつにするかというのも重要なポイントとなりますが、早期に【症状固定】にしてしまうと、それだけで後遺障害等級として認定されないという事態にも陥ってしまうのです。
このように、加害者側の保険会社から【症状固定】の話が出ても、それを信頼して、または鵜呑みにして【症状固定】にしてはいけないことがお分かりいただけると思います。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
症状固定後の流れ
では、【症状固定】になった後には、一体どのような流れで進んでいくのかについて見ていきましょう。
【症状固定】になった場合、そのときに残存した症状(痛み、しびれなどの神経症状や可動域制限等)等について、後遺障害として認定してもらうための後遺障害等級認定の申請を行うかどうかを考えます。
後遺障害等級認定の申請を行う場合には、それをまず進め、その結果が返ってきた後に、示談交渉に入っていくという流れになります。
示談交渉は症状固定後から開始
【症状固定】になった場合、そのときに残存した症状(痛み、しびれなどの神経症状や可動域制限等)等について、後遺障害等級認定の申請を行わない場合には、そのまま示談交渉に入っていきますし、後遺障害等級認定の申請を行う場合には、それをまず進め、その結果が返ってきた後に、示談交渉に入っていくという流れになります。 そのため、【症状固定】になった場合には、そろそろ示談交渉に入るのかと心づもりをしてもらい、通院交通費を請求するにあたってどのような交通手段を用いたか(車や電車・バスなど)、休業損害を請求するにあたって休業損害証明書などの不備・記入漏れはないかを確認するようにしましょう。
後遺障害診断書を医師に書いてもらう
【症状固定】になった場合、そのときに残存した症状(痛み、しびれなどの神経症状や可動域制限等)等について、後遺障害等級認定の申請を行う場合には、残存した症状の内容・程度によって認定される等級が変わるので、申請手続は注意して進めましょう。
申請手続を進めるにあたって、特に重要なのが後遺障害診断書です。
後遺障害等級認定の申請を行う場合には、残存した症状の内容・程度によって認定される等級が変わると述べましたが、その残存した症状の内容・程度を記載するのが後遺障害診断書です。
後遺障害診断書は、医師にしか記載できず、残存した症状の内容・程度を十分に理解してもらっているであろう主治医の先生に記載をお願いしましょう。
後遺障害診断書を入手したら後遺障害等級認定申請を行う
上記した後遺障害診断書を入手したら、いよいよ後遺障害等級認定の申請手続に具体的に移っていくのですが、後遺障害等級認定の申請においては、①事前認定と、②被害者請求、の2つの申請方法があります。
簡単に言えば、①事前認定は、加害者側の保険会社に任せて手続きを行うもので、②被害者請求は,被害者側で資料を一式集めて申請手続きを行うものです。
もちろん、①事前認定で行うよりも、必要な書類を被害者側で集めて②被害者請求で後遺障害等級認定の申請を行ったほうが等級認定の可能性は上がるものと思います。
そのため、後遺障害等級認定の申請にあたっては、②被害者請求の方法で申請手続きを行うようにしましょう。
症状固定後の通院はしても良いのか
既に述べてきたとおり、【症状固定】は、「症状」が「固定」した状態を指すのですが、これはあくまでも、治療を中止しなければならないことを指すわけではありません。
つまり、【症状固定】になったとしても、さらなる症状の改善を求めて治療することは何ら制限されずに許容されます。そして、【症状固定】になった後も通院していることについては、ケースによっては症状の重篤性などを示すための資料として用いることができますので、【症状固定】になった後も治療は続けていただくほうがよいのかと思います。
ただし、【症状固定】になった後の治療費については基本的に自己負担となるため、その点にはご留意いただく必要があります。
症状固定時期を延ばし、慰謝料を増額させた事例
弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所において扱ったケースの中に、加害者側の保険会社から、事故後3か月で【症状固定】と言われたものの、その後も治療を続けて半年程度通院して【症状固定】とし、さらに、後遺障害等級の認定申請を行い、後遺障害等級14級を認定されたケースがあります。
具体的には、追突事故で負傷した被害者の方が、加害者側の保険会社から事故後3か月で【症状固定】と言われ、治療を中止しようとしたものの、まだ痛みが残っていたために、弊所に相談されたのですが、担当弁護士は、事故後3か月での【症状固定】はおかしいと考えて、治療費等について自賠責保険にて回収すること、半年程度継続して通院することを提案しました。
事故後半年程度で【症状固定】となり、必要書類を精査した上で担当弁護士が後遺障害等級の認定申請を被害者請求にて行い、結果、後遺障害等級14級が認定されました。
そのため、加害者側の保険会社の提案に応じて3か月で治療を中止していれば、おそらく30~50万円程度の賠償金しか得られなかったのですが、担当弁護士のアドバイスの元で適切な【症状固定】の時期まで通院し、後遺障害等級14級が認定されたことによって、結果として300万円を超える賠償金を取得されました。
被害者の方は、事故後の慢性的な痛みに苦しめられながら、加害者側の保険会社に「もう症状固定です」、「治療費も支払いません」、などと心ない対応をされてかなり不安に思われていたために、担当弁護士の的確なアドバイス等によって適切な賠償額を受け取っていただくことができ、被害者の方に非常にご満足いただけた事案でした。
症状固定の判断を誤る前に弁護士へご相談ください
これまで述べてきたとおり、【症状固定】というのは、賠償額を決めるにあたって重要な概念であり、その判断を誤れば適切な賠償を受けることができなくなってしまいます。
ただし、加害者側の保険会社も、実務における考え方を熟知していることがあり、そこをうまく利用して、被害者の方を誘導してくるでしょう。
そういった場合には、やはり、交通事故に精通した弁護士を介入させ、適切な時期まで通院し、【症状固定】になったのち、後遺障害等級の認定申請を行うことをおすすめします。
こういった流れで進めることで、被害者の方が適正な賠償を受けることができる可能性が格段に上がるためです。
弁護士法人ALG&Associatesの神戸法律事務所では、交通事故に精通した弁護士が揃っており、加害者側の保険会社から【症状固定】と言われたなどの被害者の方が抱えるご不安・ご心配について親身にかつ適切に対応することができますので、お困りの方はぜひ一度弊所にご相談ください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:51009)