監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士
学生の方が交通事故の被害に遭われても、相手方に慰謝料を請求することができます。
ただし、学生はケガだけでなく、交通事故のせいで「勉強が遅れる」「就職時期が遅れる」「アルバイト収入がなくなる」など、2次的な被害を受ける可能性があります。この場合、どこまでの損害を相手に賠償してもらえるのでしょうか?
本記事では、交通事故案件に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が、交通事故にあった学生の方やご家族の方に向けて、学生がもらえる慰謝料、その他にもらえる休業損害などの賠償金について、裁判例を織り交ぜながら解説していきます。ぜひ参考になさってください。
目次
学生の場合にもらえる慰謝料
学生が交通事故の被害に遭った場合、事故によって受けた精神的苦痛を償うためのお金として、交通事故の被害の程度に応じて、以下の3つの慰謝料を加害者に請求することができます。
①入通院慰謝料
事故でケガをして、痛い思いや入通院をさせられた精神的苦痛への慰謝料。
初診日~治療終了日までの通院期間、実際に入通院した日数、通院頻度、ケガの症状、治療内容などに基づき、金額が決められる。
②後遺障害慰謝料
事故により後遺障害が残ってしまった精神的苦痛への慰謝料。一般的に、自賠責保険を通じて後遺障害等級認定を受けた場合に請求可能となり、等級に応じた金額の慰謝料が支払われる。
③死亡慰謝料
事故により被害者が死亡した場合の、本人及び遺族の精神的苦痛への慰謝料。被害者の家庭内での立場や遺族の数、扶養人数などに基づき、金額が決められる。
慰謝料を計算するための算定基準には3つの基準があり、
①自賠責基準:自賠責保険が使う最低補償の基準
②任意保険基準:各任意保険会社が独自に設定する基準
③弁護士基準:弁護士や裁判所が使う基準
基本的に、①≦②<③の順で、慰謝料の金額が高くなり、弁護士基準が最も高額となります。
なお、慰謝料の金額や、慰謝料を請求できるか否かについては、学生であるかどうかは関与しません。
学生であるからといって、慰謝料を減額されることはありませんので、ご安心ください。
慰謝料相場はいくらになるのかについて、具体的に知りたい方は、以下のページをご覧ください。
交通事故の慰謝料とは慰謝料以外に受け取れるもの
交通事故の被害にあった学生が、慰謝料以外に受け取れる賠償金として、以下のようなものが挙げられます。
- 休業損害
事故によるケガの治療のため、アルバイトなど仕事を休んだことで減った収入の補償。通常、事故前の1日あたりの収入に休業日数をかけて計算され、職業や収入、休業中の通院日数等によって金額が変わる。 - 逸失利益
事故にあわなければ本来得られていたはずの収入の補償。事故で死亡した場合は「死亡逸失利益」、後遺障害を負った場合は「後遺障害逸失利益」を請求できる。職業や年収、労働能力が下がった割合や、労働能力が制限される期間等をもとに計算される。 - 治療関係費
治療費、入通院交通費、付添看護費、入院雑費、装具・器具購入費、将来の介護費用など - 物損に関する補償
壊れた車やバイク、自転車の修理代など - その他
交通事故が原因で、留年や休学をしたために必要となった学費や下宿代など
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
バイト収入があれば学生でも休業損害が認められる
休業損害とは、交通事故のために仕事を休んだことで減ってしまった収入の補償です。
そのため、学業が本業であって、働いて収入を得ていない学生には、休業損害は通常発生しません。
しかし、学生でも次のケースでは、休業損害を請求できる可能性があります。
①交通事故によってアルバイトができずに、収入が減ってしまった場合
実家の親にお金の負担をかけたくない等の理由から、アルバイトをしている学生は少なくないでしょう。生活費や学費を稼ぐためだけでなく、交際費や趣味のお金などを稼ぐためのアルバイトも休業損害の対象となります。
②交通事故による留年や内定取り消しなどによって、就職が遅れてしまった場合
例えば、ケガで長期入院したために留年し、就職が1年遅れた場合は、就職していたら得られていたはずの1年分の休業損害を請求できる場合があります。ただし、事故が原因で留年したことが明らかであるなどそのハードルは高いと思われるため、弁護士に一度ご相談されるべきかと思います。
アルバイトの休業日数の出し方
アルバイトの休業日数は、シフト制であって事故日の時点ですでに出勤日が決まっていた場合は、治療のために休んだ出勤日が休業日数となります。
一方、事故日において出勤日が決まっていなかった場合は、事故前3ヶ月間の勤務状況を参考にして、事故後も同様に働いていたとみなして、休業日数をカウントすることがあります。
なお、休業日数は、実際にアルバイトを休んだ日数ではなく、ケガの治療のためにアルバイトを休む必要があると認められた日数(入院・通院した日など)が対象となります。医師の指示なく、自己判断で仕事を休んだ日は、休業日数にカウントされない場合があるため注意が必要です。
特に、勤務先に、「休業損害証明書」を書いてもらう必要があるので、その点も勤務先との調整が必要になるかと思います。
アルバイトの休業損害の計算方法
アルバイトの休業損害は、慰謝料と同じく、以下の3つの基準のいずれかを適用して、計算します。
①自賠責基準
②任意保険基準
③弁護士基準
基準ごとの計算方法を確認していきましょう。
【自賠責基準】
日額6100円(令和2年3月31日以前では日額5700円)×休業日数
ただし、休業損害証明書などの立証資料等により、休業損害が日額6100円を超えることを証明できる場合は、日額1万9000円を限度に、実際の損害額が認められる場合があります。
【任意保険基準】
1日あたりの基礎収入(事故前3ヶ月の給与÷90日)× 休業日数
ただし、任意保険基準では、基礎収入を低く計算されやすい(稼働率を反映しない)、正当な休業日数を認めてもらいにくい(シフト未確定日は休業日数として認めない)などの注意点があります。
【弁護士基準】
・1日あたりの基礎収入(事故前3ヶ月分の給料÷90日)×休業日数
・1日あたりの基礎収入(事故前3ヶ月分の給料÷稼働日数)×休業日数
アルバイトの場合は、週に2~3回しか働いていないことが多く、事故前に得た3ヶ月分の給料を90日で割ると、1日あたりの基礎収入がかなり低額になってしまうおそれがあります。
そのため、このような場合は、90日をそのまま使用するのではなく、事故前3ヶ月間の実出勤日数(稼働日数)で割った金額を、1日あたりの基礎収入とするケースがあります。
請求には休業損害証明書・源泉徴収票が必要
学生が休業損害を請求するには、「休業損害証明書」と源泉徴収票の提出が必要になります。
「休業損害証明書」とは、交通事故によって仕事を休んだことを証明する書類です。加害者側の保険会社から書式が送られてくるので、勤務先に休業した日、遅刻・早退した日、所定の休日、減収の有無、事故前3か月分の給与などを書いてもらい、証明してもらいましょう。アルバイト先が2社以上ある場合は、すべてのアルバイト先に書いてもらう必要があります。
また、源泉徴収票とは、事故前の学生の3ヶ月分の給与を証明する書類であり、勤務先から発行してもらいます。源泉徴収票がすぐに手に入らない場合は、事故前3ヶ月間の給料額がわかる給与明細書などでも代用可能です。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
学生の後遺障害逸失利益は高額になりやすい
逸失利益とは、交通事故がなければ、将来働いて得られていたはずの収入をいいます。
学生は、現在働いていない場合でも、近い将来就職して働くことが予想されます。
しかし、交通事故により、例えば手や足などに障害が残ると、就職した場合に、事務作業がスムーズにこなせない、外回りの仕事ができないなど労働の一部が制限されたり、就職可能な職種も限定されたりする可能性があるため、将来的に得られるはずの収入が減ることが想定されます。この減収分を、後遺障害逸失利益として、加害者に請求することが可能です。
学生の場合はまだ年齢的に若く、これから長い間働くことが予想されるため、通常のサラリーマンなどよりも、後遺障害逸失利益の金額が高額になりやすい傾向にあります。
学生の逸失利益の基礎になる収入はどうやって計算するの?
逸失利益は、以下の計算式で使用して算出します。
- 後遺障害逸失利益:基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
- 死亡逸失利益:基礎収入×(1-生活費控除率)×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
しかし、学生の場合は、事故時点で仕事をしておらず、収入がありません。そのため、基礎収入をどのように計算するかが問題となります。
この点、学生については、基本的に、賃金センサスの「学歴計・男女別全年齢平均賃金」を基礎収入として、計算します。賃金センサスとは、厚生労働省が、労働者の性別、年齢、学歴等の別に、その平均収入をまとめたデータで公表されています。
ただし、大学生や、高校生以下でも大学進学が確実視される場合は、「大卒の全年齢平均賃金」を基礎収入とする場合があります。また、大学の学部によっては、「職種別の全年齢平均賃金」を基礎収入とし、内定を得ていた場合は、「内定先でもらえるはずだった給与」を基礎収入とすることもあります。
このように、逸失利益の計算は複雑となる反面、逸失利益の額は高額になりやすく、計算を間違うと受け取れる額にも大きな差が生じる可能性があります。学生が後遺障害等級に認定され、逸失利益を請求する際には一度弁護士に相談されてみた方が良いでしょう。
学生の交通事故被害に関する裁判例
学生の交通事故被害についての裁判例を2つご紹介します。
女子高生の逸失利益
【神戸地方裁判所 平成28年5月26日判決】
事件の内容)
被害者(高校2年生の女子)が、加害者の運転する車に同乗中、加害者が先行車を追い抜こうとした際に中央分離帯に衝突して横転し、被害者が死亡した事案。本件では、被害者の逸失利益の基礎収入の金額について争いとなりました。
(裁判所の判断)
加害者は、逸失利益の基礎収入は、賃金センサス「女性の全年齢平均賃金353万円」とすべきと主張していました。
しかし、裁判所は、被害者は高校の単位の取得状況も順調で、海外居住時には現地に馴染んだ生活をしており、大学進学が話題に出ることはあったが、受験準備は始めていなかったなどの事情を考慮し、基礎収入は「男女の全年齢平均賃金468万円」が相当とし、約4462万円の逸失利益を認めました。
さらに、死亡した本人への慰謝料2200万円、両親への慰謝料400万円の支払いも命じています。
事故に遭った大学生に高額な逸失利益が認められた裁判例
【名古屋地方裁判所 平成23年2月18日判決】
(事件の内容)
被害者(大学3年生の男子)がふざけて、車のボンネット上で寝ていたところ、加害者が車を発進させたため、ボンネット上から転落。結果、遷延性意識障害や四肢体幹運動障害などの重い後遺障害を負い、終日全介護要状態になった事例。
(裁判所の判断)
裁判所は、被害者が大学3年生であったため、後遺障害逸失利益の基礎年収は、賃金センサスの「男子大卒全年齢平均賃金676万円」が相当とし、労働能力の喪失率は100%、労働能力の喪失期間は22歳~67歳まで45年分を認め、約1億1455万円の逸失利益を認めました。
さらに、将来介護費 約1億5903万円、入通院慰謝料+後遺障害慰謝料3130万円、母親への慰謝料500万円の支払いも命じています。
学生の交通事故に関するQ&A
事故により入試が受けられず、入学が1年遅れました。慰謝料は請求できますか?
交通事故が原因で入試が受けられず、入学が遅れた場合は、慰謝料ではなく、「休業損害」を請求できる可能性があります。ただし、主張内容や立証方法などは工夫が必要であると思われますので、こういったケースでは、弁護士への相談をしていただくべきものといえます。
さて、入学が1年遅れた裁判例をご紹介します。大学進学を目指して受験勉強中だった高校3年生の男子が、交通事故の被害に遭い、当該年度の大学入試を受けられず、翌年に受験して大学に入学したため、就職時期が1年遅れたという事案です。
裁判所は、被害者は1年の就職遅れにより、賃金センサスの「大卒男子20歳~24歳の平均賃金322万円」の休業損害を受けたとして、加害者に支払いを命じています。
また、足に後遺障害が残ったため、入通院慰謝料+後遺障害慰謝料1866万円、逸失利益 約9466万円の支払いも命じられました(東京地方裁判所 平成13年3月28日判決)。
怪我の治療のために就活を中断せざるを得ず、就職が1年遅れました。休業損害は請求できますか?
ケガの治療のために就職が遅れた場合は、「休業損害」を請求できる可能性があります。
同じケースの裁判例をご紹介します。事故当時、大学2年生であった男性が交通事故の被害にあい、長期入院したために、就職が遅れたという事案です。
裁判所は、事故がなければ、被害者は大学4年の3月に大学を卒業し、同年4月1日から就職する可能性があったとして、就職遅れによる休業損害を認めました。具体的には、基礎収入は賃金センサスの「大卒男子20~24歳の平均賃金322万円」とし、就職予定日である4月1日から症状固定日までの期間について、約354万円の休業損害の支払いを命じています(札幌地方裁判所 令和3年8月26日判決)。
交通事故で入院していたために留年してしまいました。授業料や慰謝料は請求できますか?
交通事故が原因で留年してしまった場合は、余分に必要になった授業料や、慰謝料を請求できる可能性があります。
裁判例には、交通事故に遭って1年間留年してしまった大学生に対して、留年期間中に支払った授業料の賠償を認めたものがあります。
ただし、授業料を請求するためには、「ケガで入院して長期間欠席していたため、進級単位がとれず留年した」など、交通事故が原因となって留年したことが明らかであるという因果関係が求められます。
そのため、事故以前から学業成績が良くない、出席日数が足りないなどの場合には、事故のせいで大学を留年したことが明らかであるとはいえないため、損害賠償を請求できないことになるでしょう。
なお、留年や休学、退学などの事情が発生すると、学生が受ける精神的苦痛が大きくなるので、入通院慰謝料や後遺障害慰謝料が通常の基準より高額に算定される可能性もあります。
勉強の遅れを取り戻すために家庭教師を付けました。家庭教師代は請求できますか?
勉強の遅れを取り戻すために、家庭教師を付ける必要があったのであれば、家庭教師代を請求できる可能性があります。
裁判例をご紹介します。高校1年生であった被害者が交通事故で入院し、高校に復学したものの、授業の内容についていけなかったため、夏休みに家庭教師を付けたという事案です。
裁判所は、家庭教師代については、本件事故との因果関係を認めて、178万円の支払いを命じました。ただし、その後の予備校代については、大学受験のための支出であるため、本件事故と因果関係がないため、認めないと判示しています(名古屋地方裁判所 平成26年6月27日判決)。
つまり、交通事故と家庭教師代の出費に因果関係が認められれば、家庭教師代の請求が認められるということになります。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
交通事故に遭われた学生の方・ご家族の方は弁護士にご相談ください
これまで見てきた通り、学生が交通事故の被害にあったときの損害は、通常の社会人とは異なる考え方・損害の算定をすることになります。
特に、学生の休業損害や逸失利益については、相手方の保険会社から、基礎収入を低く計算されやすい傾向にあるため、注意が必要です。
自分の対応が正しいのか不安に感じたり、相手方の示談案に不満があったりする場合は、弁護士への相談をご検討ください。
弁護士であれば、正確で適切な賠償金を計算することが可能です。また、弁護士が介入すると、最も金額の高い弁護士基準で慰謝料を請求できるため、慰謝料アップの可能性も高まります。
交通事故の被害に遭いお困りの学生の方、ご家族の方は、ぜひ交通事故に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所までご相談ください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:51009)