「残業代」とは何か?- 割増賃金が発生する3つの「労働」

神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介

監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士

  • 残業代請求対応、未払い賃金対応

「残業代」という言葉をよく耳にされると思いますが、「残業代」というのは、残業、つまり法定時間外労働に対する割増賃金を指します。
法律上、一定の場合、割増賃金を支払わなければならないとされていますが、上記のような残業に対してだけでなく、3種類の労働に対して割増賃金を支払わなければなりません。
そこで、以下、残業代などの割増賃金について、労務に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が解説したいと思います。

目次

残業代の定義

上記でも少し触れましたが、「残業代」とは、法定時間外労働に対する割増賃金です。
法定時間外労働とは、1日の法定労働時間(8時間)、または1週間の法定労働時間(40時間)を超える労働のことをいいます。
法律上、このような法定時間外労働に対しては割増賃金を支払う義務を会社に課しています。

割増賃金の定義

「残業代」は法律用語ではない

「残業代」というのは、正確には、法定時間外労働に対する割増賃金ですから、法律上でも、「残業代」などと規定されているわけではありません。
ただ逆に、法定時間外労働に対する割増賃金は、残業代を指すと考えていただいて良いかと思います。

割増賃金の発生と36協定の関係

法定時間外労働と密接に関連するのが、いわゆる36協定です。
会社が、従業員に対して法定時間外労働を命ずるために、原則として、労働者との間で協定を結び、所定の労働基準監督署へ届け出る必要があるのですが、この協定を36協定といいます。
ただし、36協定を結んでいても、法定時間外労働に対しては、時間外労働に対する割増賃金を支払う必要があります。36協定は、単に、法定時間外労働を許容する仕組みにすぎず、残業代の支払いを免除するものではないためです。
そのため、36協定を結んでいたとしても、残業代、つまり法定時間外労働に対する割増賃金は支払う必要があることに注意しましょう。

割増賃金はどの時点で発生するのか?

こういった法定時間外労働に対する割増賃金がいつ発生するかというと、当然ながら、法定時間を超えて従業員が労働をした時点で発生します。
では、法定時間を超えて労働をした場合というのは、どういうことなのか具体的に見ていきましょう。

労働基準法で定められる労働時間

従業員の法定時間労働時間については、労働基準法が定めています。
上記1で少し触れたとおり、労働基準法32条では、1日8時間を超える労働、1週間40時間を超える労働を禁止していますが、これはつまり法定労働時間が、1日8時間以内、かつ、週40時間以内であることを示しています。
そのため、例えば、従業員が1日10時間働いた場合、法定労働時間は8時間で、それを2時間超えて働いていますから、2時間分の割増賃金を支払う必要があります。
また、1日7時間であったとしても週6日働かせた場合には、週の合計労働時間は42時間となっており、週40時間を超える2時間分の割増賃金を支払う必要があります。

割増賃金

時間外労働の割増賃金

次に、時間外労働に対する割増賃金の額について見ていきたいと思います。
これについては、以下のとおり区分されます。

⑴法定時間外労働が1か月60時間以内である場合:通常の賃金の25%以上の割増賃金を支払う必要があります。

⑵法定時間外労働が1か月60時間を超える場合:通常の賃金の50%以上の割増賃金を支払う必要があります。ただし、中小企業については、2023年4月まで通常の賃金の50%以上の割増賃金の支払いを猶予され、25%の割増賃金の支払いで良いことになります。

そのため、例えば、ある従業員の1か月の法定時間外労働が70時間であった場合、まず⑴60時間分については、通常の賃金の25%の割増賃金を支払い、⑵60時間を超える10時間分については、50%の割増賃金を支払う必要があります(ただし、中小企業は2023年4月までの例外あり)。

法定内残業には割増賃金が発生しない

法定時間外労働に対して、割増賃金が発生することについては既に説明したとおりです。
そのため、例えば、会社が労働時間を7時間と定めていて、1時間残業したとしても、残業代が発生するとは限りません。
この場合、1日7時間までの労働は会社が定める労働時間(「所定労働時間」といいます)であり、7時間を超えた1時間分は、法定時間内の労働となりますから(このような残業を「法定内残業」といいます。)、割増賃金は発生しません。

法定休日労働と法定外休日労働

深夜労働の割増賃金

割増賃金が発生する場合として⑴「法定時間外労働」についてみてきましたが、割増賃金が発生する2つ目のパターンとして、⑵「深夜労働」の場合が挙げられます。
以下、「深夜労働」の場合に、どのような割増賃金が発生するのか見ていきましょう。

深夜労働に該当する労働時間とは

「深夜労働」とは、原則として、午後10時から午前5時までの労働をいいます。
飲食店などで多いかもしれませんが、例えば、会社がある労働者の労働時間を午後6時(18時)から翌午前2時(26時)を定めた場合、午後6時から午後10時までの労働は通常の賃金を支払えば良いのですが、午後10時以降翌午前2時までの労働に対しては「深夜労働」に対する割増賃金を支払う必要があります。
「深夜労働」に対する割増賃金は、残業代と同様、通常の賃金の25%以上とされていますので、「深夜労働」に当たる場合には、通常の賃金+通常の賃金の25%の割増賃金を支払う必要があります。

法定休日労働の割増賃金

割増賃金が発生する場合として⑴「法定時間外時間労働」や⑵「深夜労働」についてみてきましたが、割増賃金が発生する3つ目のパターンとして、⑶「法定休日労働」の場合が挙げられます。
以下、「法定休日労働」の場合に、どのような割増賃金が発生するのかを見ていきましょう。

法定休日と法定外休日の違い

上記したとおり、「法定休日労働」に対して割増賃金が発生するのですが、法定休日と法定「外」休日があることに注意しましょう。
具体的には、休日には、基本的に、⑴法律上与えなければならない「法定休日」と⑵会社が与えた「所定休日」(法定「外」休日にあたります)の2つがあります。割増賃金の支払いが必要なのは、⑴法定休 日における労働に対してのみです。

例えば、⑴法定休日を日曜日、⑵それとは別に会社が土曜日を休日と定めていた場合、従業員が土曜日に出勤したとしても、「法定休日労働」に対する割増賃金は発生しません。他方で、従業員が日曜日に出勤した場合は、「法定休日労働」にあたるため割増賃金が発生することになります。
「法定休日労働」に対する割増賃金は、残業代や深夜労働とは異なり、通常の賃金の35%以上とされておりますので、注意しましょう。

法定休日労働と法定外休日労働

時間外・深夜・休日労働が重なる場合の割増賃金

⑴「法定時間外労働」、⑵「深夜労働」、⑶「法定休日労働」において、割増賃金が発生することを解説してきました。では、⑴や⑵や⑶が重なる場合にはどのようになるのかも見ていきたいと思います。

まず、⑴「法定時間外労働」であり、かつ、⑵「深夜労働」である場合、⑴と⑵が重なる部分については少なくとも通常の賃金の50%以上の割増賃金を支払う必要があります。
上記4で見たとおり、「深夜労働」で、かつ、①法定時間外労働が1か月60時間以内の場合には通常の賃金の25%以上の割増賃金を支払う必要があるため、全体で通常の賃金の50%以上(25%以上+25%以上)の割増賃金になるのですが、②法定時間外労働が1か月60時間を超える場合には通常の賃金の50%以上の割増賃金を支払う必要があるため、全体で通常の賃金の75%以上(50%以上+25%以上)の割増賃金になります。

次に、⑵「深夜労働」であり、かつ、⑶「法定休日労働」の場合、⑵と⑶が重なる部分については60%以上の割増賃金を支払う必要があります。

ただし、⑴「法定時間外労働」であり、かつ、⑶「法定休日労働」の場合、法定休日には法定労働時間というものを観念できませんから、⑴「法定時間外労働」に対する割増賃金は重複して発生しません。そのため、⑶「法定休日労働」の割増賃金である35%以上の割増賃金を支払えばよいことになります。

割増賃金に関する裁判例

実際に、割増賃金に関して、裁判所としてどのような判断をしているか見ていきたいと思います。
ここでは、福星堂事件(神戸地裁姫路支部平成28年9月29日判決)を取り上げたいと思います。

事件の概要

 

和洋菓子の製造・加工並びに販売等を主たる目的とするY社の従業員であったXが、Y社に対し、未払いの法定時間外労働の割増賃金等の支払を求めた事案です。

主な争点は、Xが早朝から出勤していたことを示すタイムカードに打刻された時間が全て労働時間として計上されるのかどうかでした。というのは、Y社代表者は、Y社の女性従業員から、Xが早朝に電話をかけてきて1時間以上電話をされては困る旨の苦情を言われ、Xに貸与している携帯電話の使用料金を調べたところ、平均すると1月当たり4万円から5万円(一番多い月で15万円以上)の通話料金を使っていることが判明し、始業開始前の出勤が労働時間ではないのではないかと疑われたためです。

裁判所の判断

裁判所は、以下のとおり判断して、Xの請求を一部のみ認容しました。

⑴所定の就業時刻前のタイムカードの打刻時間を始業時刻として主張する場合(早出残業)には、労働者側で、使用者が明示的には労務の提供を義務付けていない始業時刻前の時間が、使用者から義務付けられまたはこれを余儀なくされ、使用者の指揮命令下にある労働時間に該当することについての具体的な主張立証が必要であると解するのが相当である。

⑵本件では、Xのタイムカードには、始業時刻の午前8時30分よりも相当早い時間帯(5時台、6時台のものが多い)に打刻されているものが多いが、Xは、業務日誌等を一切提出しておらず、始業時刻よりも相当早い時間帯に出勤しなければならなかった理由については判然としない。
本件では、タイムカードがあるからといって、Xがタイムカードに打刻されている早朝の時間帯に出勤を余儀なくされ、Y社の指揮命令下に置かれていたとの事実を認めるに足りる証拠はない。むしろ、Xが早朝出勤を繰り返していたのは、被告の業務のためではなく、被告から貸与されている携帯電話を使って被告の女性従業員に長時間プライベートな電話をかけるためであったことが窺われる。

⑶XがY社に早朝出勤を命じられ、日常的に所定の始業時刻前の時間外労働を余儀なくされていたとは認められないこと等を考慮すれば、Xの主張する時間外労働の時間は相当に過大である。

ポイントと解説

本判決については、X側がタイムカードに記載された時刻をもとに労働時間を計算して、残業代を請求してきた労働者に対して、会社側が明示又は黙示に労務の提供を義務付けているかどうかという実質的な観点から労働時間を判断しました。

従業員から残業代請求をされるケースも増えてきていますが、会社側としては従業員側の主張する労働時間が合理的なのかをきちんと吟味すべきと言えます。特に、タイムカードがあるからといって、それが全て労働時間とみなしてよいかどうかについては、本判決のように実質的に見ていくべきでしょう。

割増賃金に関するQ&A

以下、割増賃金についてよくある質問について答えていきたいと思います。

残業代を毎月定額で支払うことは可能ですか?

残業代を毎月定額で支払うことは不可能ではありませんが、注意が必要です。
残業代を毎月定額で支払うというのは、「定額残業代」や「固定残業代」と呼ばれるものを支払うということだと思いますが、ただし、毎月定額で支払えばそれだけで良いというわけではありません。
「定額残業代」と「実際の法定時間外労働に対する割増賃金」を比較し、後者が大きい場合には、その差額を支払う必要があるので注意してください。

早朝出勤に対しても割増賃金を支払う必要があるのでしょうか?

早朝出勤に対しても、法定時間外労働にあたるのであれば割増賃金を支払う必要があります。
ある従業員の1日の労働時間が8時間を超える場合には、法定時間外労働にあたりますので、定時で帰社しても、早朝出勤の時間を含めて労働時間として8時間を超えるというような場合には、法定時間外労働に対する割増賃金を支払う必要があります。

未払い残業代が発生した場合、会社にはどのような罰則が科せられますか?

残業、つまり法定時間外労働に対しては、法律上、割増賃金の支払い義務が課されています。
そのため、残業代、つまり法定時間外労働の割増賃金を支払わないことに対しては、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金という罰則が科せられる可能性がありますので、注意が必要です。

未払い割増賃金に付される遅延損害金・付加金について

定額残業代制の従業員が深夜労働をした場合、割増賃金は発生するのでしょうか?

「定額残業代」ないし「固定残業代」については、9-1でも少し触れたとおり、残業代を毎月定額で支払うというものです。
そのため、「定額残業代」ないし「固定残業代」については、通常、深夜労働に対する割増賃金は含まれていません。「定額残業代」ないし「固定残業代」を支払っていたとしても、深夜労働をした場合には、深夜労働に対する割増賃金を支払う必要があると考えておきましょう。

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就業規則において、割増賃金は支払わない旨を定めることは可能ですか?

就業規則において、「法定時間外労働」や「深夜労働」、「法定休日労働」に対する割増賃金を支払わない旨を定めることは可能ですが、効力はなく、意味はありません。
9-3でも見たとおり、割増賃金については、法律上、支払い義務が課せられているものであり、就業規則において、こういった法律に違反する内容を定めても無効となります。
そのため、就業規則において、割増賃金を支払わない旨を定めても意味はなく、割増賃金を支払う必要があることに注意しましょう。

就業規則

法定休日労働の後に代休を与えました。この休日労働に割増賃金は発生しますか?

法定休日労働をした労働者に対しては、上記6でも触れたとおり、法定休日労働に対する割増賃金の支払い義務が生じます。
そのため、法定休日労働の後に代休を与えたとしても、法定休日に労働したことに変わりないですから、法定休日労働に対する割増賃金の支払い義務は基本的に消えません。
しかし他方で、休日を振り替えることができる旨の就業規則があるなど一定の条件を満たす場合、会社としては、従業員の休日の振り替えを行うことができます。この場合、振り替えた日が法定休日となりますので、会社が事前に休日を振り替えた場合であれば、元々の法定休日に労働したとしても会社としては割増賃金を支払わなくてよいことになります。

割増賃金が適用されない管理監督者とは、どのような者のことを言うのでしょうか?

労働基準法41条2号でいう「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者」(「管理監督者」といいます。)に対しては、普通の労働者とは異なり、残業代などを支払う必要はありません。
この管理監督者とは、「部長」などの肩書や役職などではなく、①当該者の地位、職務内容、責任と権限からみて、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にあること、②勤務態様、特に自己の出退勤をはじめとする労働時間について裁量権を有していること、③一般の労働者に比してその地位と権限にふさわしい賃金(基本給、手当など)上の処遇を与えられていることなどの実態を踏まえて判断されます。
ただし、「管理監督者」が法定休日労働や法定時間外労働をしても、会社は割増賃金を支払う必要がありませんが、深夜労働に対する割増賃金については支払う必要がありますので、注意が必要です。 

割増賃金に関する規定の適用除外

「管理監督者」の残業代等については詳しくは以下の記事もご参照ください。

管理職と残業代請求-管理監督者とは

出張の移動時間にも割増賃金を支払う必要はあるのでしょうか?

出張の移動時間には基本的には割増賃金を支払う必要がありません。
割増賃金は、「法定時間外労働」に対して支払うものですから、出張の移動時間が労働時間に含まれるかどうかを考えます。通常、出張の移動時間は、目的地へ移動するための時間ですから、食事・読書・睡眠など従業員が自由に時間を使用することができますから、出張の移動時間に対しては、法定時間外労働に対する割増賃金は支払わなくてよいでしょう。

祝日を休日と定めています。祝日に労働させた場合は割増賃金が発生しますか?

会社が、祝日を法定休日と定めている場合は、祝日に従業員に労働させた場合、法定休日外労働にあたるため、割増賃金が発生します。
他方で、会社が、祝日を所定休日と定めている場合には、祝日に従業員を労働させても、法定休日外労働ではなく、割増賃金は発生しません。
このように、会社が祝日について、所定休日としているのか、法定休日としているのかによって変わりますので、会社の就業規則等をご確認ください。

フレックスタイム制の場合でも割増賃金は発生しますか?

フレックスタイム制の場合でも割増賃金が発生することがあります。
フレックスタイム制とは、エンジニアやデザイナーなど個人作業が多い職種の方に導入されることが多いですが、1か月など特定の期間(「清算期間」といいます。)の中で一定時間労働することを条件に、1日の労働時間の開始、終了を労働者が自由に選択できるという制度です。このようなフレックスタイム制の場合、従業員が1日の労働時間を自由に選べますので、仮に従業員が8時間を超える労働をしても割増賃金は発生しません。
ただし、清算期間における労働時間の合計が法定労働時間の枠を超える場合は、割増賃金が発生します。

フレックスタイム制における時間外労働
フレックスタイム制導入のメリット・デメリット
フレックスタイム制において割増賃金の支払が必要となるケース

割増賃金に関する様々な疑問に弁護士がお答えします。不明点があれば一度ご相談ください。

これまで見てきたとおり、会社が割増賃金を支払う場合として、「法定時間外労働」、「深夜労働」、「法定休日労働」の3種類の労働があります。
こういった場合には会社は法律上割増賃金を支払わなければならず、未払いが生じた場合には、場合によっては罰則が科されるおそれがあります。
そのため、どのような場合に、会社が割増賃金を支払わなければならないかをきちんと把握し、対応していく必要があります。

このような割増賃金に関する様々な疑問等については、労務管理に精通した弁護士に相談すべきです。弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士は労務管理に精通しておりますので、お困りの場合には、一度ぜひご相談ください。

神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介
監修:弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長
保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:51009)
兵庫県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。
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