経済DVとは | 経済的DVで離婚できる?

離婚問題

経済DVとは | 経済的DVで離婚できる?

神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介

監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士

いわゆる「DV(ドメスティックバイオレンス)」には、種類がいくつか存在します。

物理的な暴力を振るわれていることだけが「DV」とは限りません

中でも【経済的DV】と呼ばれる、「DV」の種類があり、気づかないうちにこれに該当する行為をしている(あるいはされている)場合も少なくありません。

例えば、妻が専業主婦であっても、生活費やお小遣いを渡さなかったり、お金の使い方を極端に制限したり、外で働くのを拒否したりするのは【経済的DV】にあてはまる可能性があります。

そこで、本記事では、離婚問題、男女問題に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が、【経済的DV】とは何か、具体例はどのようなものかなど詳しく解説していきますので、ぜひご参照ください。

経済的DVとは

【経済的DV】とは、上記でも触れましたが、配偶者の一方が、他方配偶者に対して、生活費を渡さない、仕事をさせない・制限する等、経済的に他方配偶者を追い詰める行為を指します

「精神的DV」の一種とも、「モラルハラスメント」の一種ともされており、分類については様々な見解があるとされています。

後で触れますが、【経済的DV】は、その態様も多岐にわたり、自分がされていることが【経済的DV】に該当するかも判断しづらく、注意すべき点といえます。

なお、「(暴力などの)DV」、「モラルハラスメント」での離婚をご検討されている方は、以下の記事でも詳しい解説しておりますので、ぜひご参照ください。

DV加害者と離婚するためにすべきこと モラハラを理由に離婚できる?離婚する際に知っておくべきこと

経済的DVの具体例

【経済的DV】は、上記のとおり、他方配偶者を経済的に追い詰める行為を指しますので、金銭関係、就労関係に関する言動で、経済的に追い詰めるような言動がこれに当たるものと考えられます。

以下で取り上げる行為については、一般的に、【経済的DV】に該当すると言われておりますので、ご参照ください。

生活費を渡さない・足りない金額しかくれない

どの家庭でも夫婦間で収入に格差がある、というケースが大半かと思います。

この場合、収入のある配偶者から収入の少ない他方配偶者へ生活費を渡すなどして、生活費をやりくりするということが多いだろうと思われます。

その際に、そもそも生活費を一切渡さないという場合や、渡したとしても明らかに生活費として足りない分しか渡さないといった場合などには、【経済的DV】に該当する可能性があるでしょう

ただし、【経済的DV】であるというにはかかる対応による生活が苦しいといえる必要があるので、独身時代の貯金を切り崩すしかなくなったり、実家を頼らざるを得なくなったりするなど、生活が苦しい状況になっているかどうかも重要な要素といえます。

給与や貯金額を教えてくれない

配偶者に対し、給与や貯金額を隠しているという場合も【経済的DV】に該当する可能性があります

ただし、上記でも指摘しましたが、これにより生活が苦しいといえることが必要となりますので、給与や貯金額を教えてくれないという事情のみで【経済的DV】に該当するというわけではありません。

働けるのに働かない

ご自身の収入だけでは生活をすることができない場合には、家庭生活を営んでいくためには、他方配偶者にも協力して働いてもらわなければならないことも少なくありません。

もっとも、他方配偶者が病気や怪我をしている場合、子供が小さく保育園に預けたいのに保育園に入園できなかったから子供の世話をしなければならない場合など、やむを得ず他方配偶者が働けない場合はあると思われます。

しかし、世帯の収入が明らかに不足している場合に、他方配偶者が働くことができない合理的な理由がないにもかかわらず、他方配偶者が頑なに働かないときには、【経済的DV】と判断されるケースがあります

働かせてくれない・仕事を辞めさせられた

上記とは逆に、ご自身が働きたいと思っているにもかかわらず、他方配偶者が働くことに強く反対する場合があります

このような配偶者は、他方配偶者に対して経済的に優位に立ち続けることで、家庭内の力関係を有利なものにしたいと考えているケースがあります。

合理的な理由がないにもかかわらず働かせてくれないというような場合には、働きたい理由、家庭内の役割り分担、働いていないことに対する配偶者の言動等によりますが、【経済的DV】と判断されるケースがあると思われます。

自由に使えるお金を渡してくれない

相手方は、自分の収入から生活費を除いた金額を自由に使用しているのに、自分は生活費の中から自分のためのものを買うことも許されず、小遣いもないといった場合は、【経済的DV】にあたると判断されるケースがあります

また、生活費が領収書と引き換えの後払い制のような場合、特に、領収書の内容次第で生活費としては認めず、浪費だとして領収書を渡してもお金を渡さない場合には、【経済的DV】であるとされるケースがあるでしょう。

借金を繰り返す・借金を強制される

仮に他方配偶者が働いていて、ご自身に一定額の生活費を渡すものの、ギャンブル、浪費やその他の理由で借金を繰り返し、又は、自分はブラックリストに登録されているため借金ができないことから他方配偶者の名義で借金をさせようとする場合には、【経済的DV】にあたると判断されるケースがあります。

経済的DVとはいえないケース

家計や家庭内の状況は家庭によって様々ですので、上記したような事情が存在するからといって、直ちに【経済的DV】に該当するわけではありません

例えば、そもそも他方配偶者の収入が少なく、ご自身に対して渡している金額以上の生活費を渡すことができない場合、他方配偶者は生活費を渡してくれない又は他方配偶者が働かないが自分に収入があるため生活は苦しくない場合、借金をしているものの、生活費を圧迫しない範囲で返済が可能となっている場合などには、【経済的DV】とは判断されないでしょう。

経済的DVは離婚の原因として認められるのか

【経済的DV】は、離婚の原因として認められる可能性があります

「認められる可能性がある」というにとどまるのは、【経済的DV】の内容やそれによる生活の困窮の程度、それが夫婦関係の悪化にどれだけ起因したかなど様々な事情をもとに離婚の原因と言えるかどうかを見ていくためです。

そもそも、民法上定められた離婚原因として、【経済的DV】があるときと明記されているわけではないので、「配偶者から悪意で遺棄されたとき。」(民法770条1項2号)、「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。」(同5号)に該当するかどうかが問題となるところです。

基本的には、別居に至る経緯、別居期間など【経済的DV】を中心とした様々な夫婦間の事情・問題を踏まえながら、離婚の原因として妥当かどうかが判断されるものとお考えください。

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経済的DVで離婚するときに加害者に請求できるもの

他方配偶者から【経済的DV】をされた被害者の方は、加害者である他方配偶者にどのような請求をすることができるのか、以下詳しく見ていきましょう。

婚姻費用

例えば、【経済的DV】による生活苦から他方配偶者と別居して実家に戻った場合などのケースでは、離婚をするまでの間の生活費として、「婚姻費用」を請求することができます

そもそも、「婚姻費用」は、【経済的DV】の有無にかかわらず、収入が高い配偶者が、収入の低い(ない)他方配偶者に対して支払わなければならないとされているためです。

「婚姻費用」としての相当な金額は、当事者双方の収入の有無及びその金額(働いていない場合には、その働いていない理由)、子供の有無、その人数、年齢、どちらが監護養育しているのか、といった事情によって、どちらがどちらにいくら支払うのかは変動します。

なお、「婚姻費用」については、以下の記事でも詳しい解説しておりますので、ぜひご参照ください。

婚姻費用算定表で婚姻費用の相場を知る方法

慰謝料

【経済的DV】の被害を受けている場合、他方配偶者に対して、「慰謝料」を請求できる可能性があります

ただし、そもそも、【経済的DV】についての立証が容易ではなく、また、それによる被害の内容や程度がどの程度であるのかを立証することも容易ではないため、ご注意ください。

もっとも、生活費を渡されない等の態様がひどく、「配偶者から悪意の遺棄をされたとき」に該当すると評価できるようなケースでは、「慰謝料」の請求も行いやすいかといえます。

なお、離婚時の「慰謝料」の請求については、以下の記事でも詳しい解説しておりますので、ぜひご参照ください。

離婚慰謝料 | 請求できるケースや相場など

経済的DVの証拠になるもの

上記したとおり、【経済的DV】による被害について、「慰謝料」を請求する場合には、【経済的DV】を受けていたこと、その内容や程度を被害者側で立証することが必要となります

【経済的DV】を受けた証拠としては、例えば、以下のようなものが挙げられます。

  • 受け取っている生活費では、生活ができないこと、生活が苦しいことを示す家計簿
  • 生活費を支払ってもらっていないことを示す通帳の入出金履歴、メッセージアプリでのやり取り
  • 相手方の借金を証明する借入明細、借用書、借金の返済の履歴
  • 経済的DVのせいで精神科・心療内科への通院をしている場合には、当該病院の診断書

もちろん、証拠としてはあればあるほど請求しやすくなるため、客観的な資料として【経済的DV】を証明する資料についてはしっかり集めていくべきと考えます。

財産分与

【経済的DV】を受けていたか否かにかかわらずですが、婚姻中に夫婦で築いた財産があれば、「財産分与」として他方配偶者に対して請求することは可能です

もっとも、【経済的DV】の加害者である配偶者が、散財をするなどして生活費以外のお金を全て使い切ってしまっていた場合には、「財産分与」の対象財産がないことになるため、「財産分与」の請求は難しい可能性もあるので注意が必要です。

なお、離婚時の「財産分与」の請求については、以下の記事でも詳しい解説しておりますので、ぜひご参照ください。

離婚時に行う財産分与とは

養育費

【経済的DV】を受けていたか否かにかかわらず、夫婦の間に未成年の子供がおり、ご自身が親権を獲得する場合には、他方配偶者に対して「養育費」を請求することは可能です

かかる「養育費」の具体的な金額は、上記「婚姻費用」と同様、当事者双方の収入、子供の人数、年齢といった事情によって変動します。

また、仮に他方配偶者が働いていないとしても、働けるのに働かないなど働いていない理由によっては、一定額の収入があるものとして判断してもらうことも可能ですので、しっかり争っていく必要があります。

もっとも、実際に働いていない場合には、「養育費」の回収の当てがなく、「養育費」をすることができない可能性もありますので、ご注意ください。

なお、離婚時の「養育費」の請求については、以下の記事でも詳しい解説しておりますので、ぜひご参照ください。

養育費とは|相場と変更方法|請求したい・請求された場合の対応

経済的DVと離婚に関するQ&A

それでは、【経済的DV】と離婚に関してよくある質問を取り上げて回答していきたいと思います。

勝手に連帯保証人にされてしまった場合は経済的DVに該当しますか?

勝手に連帯保証人にされた場合には、そのこと自体が【経済的DV】と判断される可能性はあるでしょう。
ただし、仮に、他方配偶者による【経済的DV】と判断されたとしても、借金の貸主(債権者)との間では何の関係もないため、ご自身としては、貸主に対して、「この保証契約は、本人である自分の意思に基づかないものであるため、無効である。」などと主張して、保証契約を無効とするための行動をする必要があるので、注意が必要です。

専業主婦で経済的DVを受けているため、収入や貯金がありません。それでも子供の親権はとれますか?

専業主婦で、収入や貯金がなくても、「親権」を取れる可能性は十分にあります。
「親権」の判断において、考慮されるのは親の収入・経済力だけではないため、収入や貯金がないことだけを理由として、「親権」の獲得を否定されることはありません。
むしろ、「親権」においては、これまでの子育ての実績や、子育てを手伝ってくれる親類の有無等これから子供を育てていくための環境が整っているのか、子供の年齢によっては、子供の意思等が重視される傾向にあるので、こういった事情の有無がポイントとなります。
また、経済的な面については、離婚時に財産分与を受けたり、離婚後に養育費の支払いを受けたり、行政からの給付金等が考えられるため、収入や貯金がないとしても生活費を賄うことができる、と反論することもできます。
なお、離婚時の「親権」については、以下の記事でも詳しい解説しておりますので、ぜひご参照ください。

親権とは | 親権を決める流れと獲得のポイント

経済的DVの加害者と離婚するために別居を考えていますが、DVシェルターには入れますか?

DV被害を受けている方は、別居の際に、DVシェルターに入ることができます。
【経済的DV】もDVの一種であるため、DVシェルターに入れる可能性はありますが、DVシェルターは、DVを受けている被害者が、加害者から一時的に避難するために入るべき場所で、収容人数が限られており、【経済的DV】の場合は、身体的にDVを受けている場合と比較して、緊急性があると判断されにくい傾向にあるといえるでしょう。

6.4 給料が下がってしまい生活が苦しい状況で、妻に経済的DVだと言われてしまいました。妻は働けるのに働いていません。これでも私が悪いのでしょうか?

給料が下がったことが原因で生活が苦しくなっている場合、意図して相手の経済的自由を奪っているわけではないと思われます。
他方で、ご自身の収入だけでは生活が苦しいうえ、他方配偶者が働けるにもかかわらず働いていないような場合には、むしろ相手の行動が【経済的DV】に該当すると判断される可能性があります。
このように【経済的DV】の判断にあたっては、総合的な事情を考慮する必要があります。

経済的DVを理由に離婚を検討しているときは弁護士に相談してみましょう

これまで見てきたとおり、【経済的DV】といっても、その判断は容易ではありません。

そもそも、経済的事情は各家庭により異なるのであり、生活に困窮していれば直ちに【経済的DV】に当たると言えるわけではありません

様々な事情を考慮して【経済的DV】かどうかが判断されるものになりますので、現在直面している状況が【経済的DV】に該当するかどうかの判断に悩まれる場合もあるかと思います。

特に、また、相手方が働いていない場合には、婚姻費用、養育費、財産分与等、経済的DVの有無に寄らず請求しうる項目について、しっかりと争っていかなければ適正な金額を算定できない可能性があります。

このように、【経済的DV】による離婚の問題は根深く、かつ、適切に対応していかなければなりません。

そのため、【経済的DV】を理由として離婚を検討している場合には、離婚問題・離婚案件に精通した弁護士に相談すべきでしょう。

この点、弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士は、これまで数多くの離婚問題・男女問題を解決してきた実績と経験がありますので、ぜひ一度ご相談ください。

神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介
監修:弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長
保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:51009)
兵庫県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。