監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士
子供がいる夫婦が離婚する場合、子供の親権をどちらが持つかという話に関連して、子供の養育費が問題になることは多いです。
離婚しても、親であることに変わりはない以上、子供と離れて暮らす親は、子供の養育費を支払う義務があるのですが、配偶者と揉めて離婚した、子供と面会できていない、再婚した、などの多くの事情があって、養育費が離婚後もずっと支払われているケースは必ずしも多くはありません。事実、厚生労働省によれば、平成28年度統計において、養育費の取り決めができている母子世帯は42.9%であるものの、実際に現在も養育費を受け取っている世帯は24.3%にすぎないとされています。
そこで、離婚問題、養育費問題に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が、養育費の取り決め片や変更方法など詳しく解説したいと思います。
目次
養育費とは
養育費とは、「未成熟子」が社会人として独立自活ができるまでに必要とされる費用とされています。
「未成熟子」というのは、経済的に独立して事故の生活費を獲得することが期待できるかどうかを踏まえて判断されるので、未成年者=未成熟子というわけではありません。例えば、高校を卒業して就職している場合には、未成年ですが、未成熟子ではないといえそうですし、大学や専門学校に進学するなどして20歳を超えても学生である場合には、成人していますが、未成熟子であるといえそうです。ただし、高校を卒業して働くか、大学に進学するかは離婚時に判明していないケースが大半であり、この点が問題になることが多いです(以下の4でも触れています。)。
「未成熟子」という言葉は聞きなれないでしょうから、以下、平易に「子供」という言葉を使っていくようにします。
養育費に含まれるもの
養育費は、子供の衣食住のための費用や、健康保持のための医療費、住居関係費など生きていく上で必要な費用、社会人として成長するために必要な教育費など、子供が「通常」の生活をする上で必要となる費用全てを含むとされます。
具体的に考えていくと、子供が小さい頃は、おむつやミルク代、病院代やおもちゃ、離乳食などが必要になりますし、そこから成長すれば普通の食費、保育園や幼稚園に行くとその費用、学校に行くようになれば学校の教材、体操服、文房具、制服、鞄など様々なものが必要になります。
このような子供にかかる費用について、子供の親権者となっていない親に一部負担してもらうことになります。
養育費の相場は?養育費算定表による支払額の決め方
親権者となった親からすれば、他方の親から養育費としていくらもらえるのかというのは重大な関心事項だと思います。離婚を決断するときに、離婚後をどうしていくかは特に気になることでしょうし、逆に、離婚を決断しても、離婚後の生活が成り立たないから子供のために我慢するという声は、弊所でも数多く相談を受けます。
そこで、養育費がどれくらい支払われるかの相場を見ていきたいと思います。
養育費の相場となるのは、家庭裁判所でも用いられている【養育費の算定表】です。
具体的な養育費の計算方法は、子供の人数・年齢と、親権者と親権者でないもう一方の親の収入(給与所得者か自営業者かなども影響します。)に応じて相場の額を算出します。
ただし、子供が私学に通っており、通常より学費が高いなどの特別の事情があれば、相場の額からの増額ということもあり得ます。
もちろん、生活水準として、高所得な家庭から低所得の家庭まで様々あるのが実情であり、もちろん個々のケースで養育費の金額は大きく異なってきますが、相場などを踏まえて決めた養育費の額は、基本的には支払う義務があるものと考えていただく必要があります。自分の生活が苦しいので、子供へ養育費を支払う余裕がないという理由は原則通じませんし、子供が生きていける程度の最低限の額を支払えばよいというものでもありません。
養育費の支払期間はいつからいつまで?
こうした養育費が支払われる期間というのは、基本的には、子供が20歳になる月まで十考えていただいて良いと思います。子供が小さいときに離婚した場合、その子供が高校を卒業して働くか、大学に進学するかは将来のことであり分からないため、大半のケースでは基本的には20歳までと決めています。
ただし、上記1で見たとおり、養育費は、「未成熟子」が社会人として独立自活ができるまでに必要とされる費用ですので、実際に子供が大学や専門学校に進学した際の養育費が問題になることは多いです。この場合には、4年制の大学や専門学校等に進学する子供が増えている実情を踏まえて、夫婦の学歴や子供の大学への進学に同意していたかなど様々な要素を踏まえて考えていくことになります。
あと、よく質問を受けるのが、成人年齢の引き下げの影響です。
民法改正により、成人になる年齢が20歳から18歳に引き下げられることが決まり、養育費の支払終期が20歳→18歳に引き下げられるのではないかという質問です。
この点について、法務省としても、成人年齢の引き下げは原則として養育費の終期に影響しないと考えており、実務上も、基本的には養育費の支払終期は20歳を維持していくように思われます。
養育費の請求・支払いに時効はある?
養育費の時効は、原則として5年間といえます。
養育費は、通常、毎月●●万円などという内容で決めていきますが、この場合、毎月養育費の請求権が発生しているものと考え、こうした請求権は「定期給付債権」にあたり、民法169条で5年間の消滅時効に服すると定められています。
そのため、養育費が支払われるべき月から5年間が経過してしまうと消滅時効に服するため、5年を経過していくごとに養育費が消滅時効で請求できなくなるおそれがあります。
なお、公正証書で養育費の支払いについて合意したときも5年の消滅時効に服しますし、調停や審判、裁判など裁判所の手続で養育費に関して取り決めがされた場合でも、取り決め後に将来的に発生する養育費は5年の消滅時効に服します(ただし、裁判所の手続の中で過去の未払い分として取り決めされた分の消滅時効は10年間と変わります。)。
もっとも、注意していただきたいのは、消滅時効は時効を援用しないと効力が生じず、5年等が経過すれば効果が自動的に発生するものではないということです。
そのため、5年が経過しても親権者でない親が養育費の時効による消滅を主張しなかった場合は、時効の効力は発生しません。また、未払養育費を支払うと合意した場合、養育費の一部を支払ったりした場合にも、時効が中断されるという事態が起こります。
養育費の取り決め・変更の流れ
では、これまで見てきた養育費をどのように取り決めていくべきか、一度決めた養育費をどうやって変更していくべきかを見ていきましょう。
まずは話し合いを試みる
養育費の取り決め方、変更の仕方としては、まずは他方の親と話し合いで決めるべきでしょう。二人の間に生まれた子供に関する事柄ですから、親同士が責任を持って話し合って決めていくべきことといえます。
仮に、話し合いで養育費の額や支払期間などを決めることができれば、後で言った言わないがないように、合意書や協議書などきちんと書面にして残しておくようにしましょう。
話し合いを拒否された場合、通知書(内容証明郵便)を送る
もっとも、離婚後に互いに新しい生活をスタートさせていることもあり、必ずしも円満に話し合いができるとは限りません。時には、話し合いを持ち掛けても無視されたり、拒否されたりすることもあるでしょう。
その場合には、一度、書面できちんと養育費の請求の意思や、変更の意思などを伝えるべきでしょう。書面で通知することで、話し合いに発展するケースもあります。
また、書面で通知する際には、可能であれば、内容証明郵便で、送付した内容が残るような形で通知すべきでしょう。
養育費に関する合意書は公正証書で残しておく
仮に、上記6.1や6.2のように、当事者で話し合いが出来た場合には、その話し合って合意した養育費の額や期間等について合意書を作成するようにしましょう。
6.1でも触れましたが、後で言った言わないの話が出てこないために書面化をしておくべきです。
さらに言うなれば、養育費のように将来の長期間にわたって支払いが予定されていることを合意内容とする場合には、公正証書、特に強制執行受諾(認諾)文言付きの公正証書にすることをおすすめします。
こうすることで、仮に、養育費の不払いが後々起こった場合でも、給与や財産の差押えなどで養育費を回収することができるためです。
話し合いで決まらなかったら調停へ(入れ替え)
上記6.3とは異なり、話し合いができたものの、話し合いがまとまらない、また、書面を送るなどしても無視や拒否されるなどのケースもあると思います。
その場合には、裁判所の【調停】という手続を利用して、裁判所を介して、養育費の額や期間を決めて行くようにしましょう。
具体的には、養育費請求調停という調停を申し立てることとなり、裁判所に必要書類を提出して調停手続きを進めることになります。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
養育費を請求する方(権利者)
親権者となった親からすれば、他方の親から養育費としていくらもらえるのか、実際に払ってもらえるのかというのは重大な関心事項だと思います。
そのためには、どういう風に養育費を請求していくか、獲得していくか、何が問題になりそうかという点をしっかり理解して動いていく必要があります。
そこで、「養育費を請求する方=権利者」として、以下詳しく解説しているのでご参照ください。
公正証書もあるのに、相手が養育費を払わない・払ってくれなくなった
上記6.3でも触れましたが、養育費の定めについて公正証書がある場合、特に、強制執行受諾(認諾)文言付きの公正証書がある場合、相手が養育費を支払わなくなったとしても、養育費を獲得していく手段があります。
それは、【強制執行】という裁判所の手続で、相手が養育費を任意に支払わない場合に、養育費を強制的に回収すべく、相手が受け取る給与や相手が管理する口座の預金を差し押さえて養育費の支払いに充てるというものです。
ただし、相手の所在や、差し押さえるべき財産として、相手の勤務先の情報や口座情報などが必要なので注意が必要です。
裁判所の手続ですので、強制執行や養育費の回収に詳しい弁護士に相談すべきでしょう。
一括で請求はできる?
養育費については、毎月●●万円、と毎月決めた額を20歳になるまで支払ってもらう、いわば分割で支払ってもらうのが基本です。
そうすると、将来的に支払われなくなるのが困るので、一括で事前に支払ってもらいたいと考える方も多いかと思います。
養育費の一括払いについては、当事者間で合意できれば可能です。
ただし、あくまでも強制できないこと、一括払いということで何年もの養育費を一気に支払うことからそもそもお金に余裕がない人でないと難しいこと、のちのち養育費が足らなくなったとして増額を求めること、場合によっては贈与とみなされて税金が発生する危険があるなどの注意点が挙げられます。
きちんと払ってもらえるか不安なので連帯保証人をつけたい
上記7.2のように、養育費の一括払いが容易ではないことを踏まえると、権利者の方の中には、将来的に支払ってくれるかどうかが心配であるため、連帯保証人を付けたいと考える方も多いかと思います。
養育費の支払いに関して連帯保証人を付けられるかというと、連帯保証人となるべき人が同意すれば可能です。養育費の額は、何年もの分となるとかなり額が大きくなり、連帯保証人の責任は非常に重くなるため、必ず連帯保証人となる人の同意を得なければなりません。
特に、養育費の支払いに関して連帯保証人をつけるためには、その旨の内容を含んだ養育費についての合意書を作成しておく必要があります。
金額を決めた当初と事情が変わったので増額してもらいたい
権利者の方の中には、「養育費について当初●●万円と決めたけれども、子供も大きくなり、学費等でお金がかかるから●●万円+αの養育費がほしい」と考える方も多いかと思います。
当初決めた養育費の額を変更することができるかと言えば、それは可能です。
まずは、当事者間の合意により、養育費の増額ないし減額をすることができます。
例えば、相手の収入が増加した、自分が働けなくなったなど、当初養育費を決めたときの事情から変更があれば、新たに適切な額を決めるべきといえるでしょう。
もし、当事者間の話し合いで決まらない場合には、養育費の増額ないし減額の調停を申し立てることが可能です。
養育費を減額してほしいと言われた
権利者の方の中には、相手が再婚した等の理由で、養育費の減額を申し入れられたという方もいるかと思います。
上記7.4でも触れたとおり、当初養育費を決めたときの事情から変更があれば、養育費の増額だけでなく、減額もなされる恐れがあります。
これは、公正証書や調停調書などしっかりした書面で養育費の額を決めていても、変更される可能性がありますので、相手の言い分が本当に正しいのか、応じる必要があるのかなどを、養育費に詳しい弁護士に相談すべきでしょう。
妊娠中の離婚でも養育費を受け取れる?
権利者の方の中には、第一子、第二子など子供を妊娠中に相手と離婚する方もいるかと思います。
こうした場合、生まれた子供の養育費はどのように考えるべきでしょうか。
結論的には、子供が生まれた後に、子供の親が相手であると確定できれば(嫡出推定など)、親である相手に養育費を請求することができます。
なお、未婚の場合でも、妊娠し出産することもありうるところですが、この場合には、認知をしてもらい、認知後に養育費の請求をしていくことになります。
養育費を受け取りながら生活保護を受けることはできる?
権利者の方には、自身で働くことができない事情があり、生活保護を受けている方もおられると思いますが、その方が養育費を別途相手から受け取ることはできるのでしょうか?
結論から申し上げますと、養育費を貰いながら生活保護を受給することは可能です。
ただし、養育費は収入として認定されるようなので、福祉事務所に申告しておく必要があります。もっとも、保育園や幼稚園の料金については、収入として除外されることもあるようなので忘れずに福祉事務所と相談するようにしましょう。
不正受給などと認定されないように、「養育費は貰っていません」などと嘘を付きながら生活保護を受給しないようにしましょう。
養育費はいらないので子供を会わせたくない
権利者の方には、相手との婚姻生活に辟易し、金輪際会いたくないし、子供にも会わせたくないなどと考える方も多いかと思います。
そういった場合に、養育費はいらないから子供に会わせたくない、ということはできるのでしょうか?
結論から言うと、『養育費』の問題と、『面会交流』の問題は別問題として扱われるため、養育費はいらないから子供に会わせたくないという言い分が通るというわけではありません。
特に、面会交流については、子供の健やかな成長のために重要と考えられていることから、一度冷静に考えていただいてもよいかもしれません。もし、面会交流を拒みたい場合には、面会交流の問題に精通した弁護士に相談すべきでしょう。
養育費を払う方(義務者)
上記7では、「養育費を請求する方=権利者」として、権利者目線でどう対応していくべきかを解説しました。
しかし、他方で、養育費を支払う側にとっても、子供のための生活費とは言えども、養育費は離婚後の生活における少なくない負担になるのは事実です。支払う側として、離婚後の相手からの要求・対応に苦慮されるケースも多いかと思います。
そこで、「養育費を支払う方=義務者」として、以下詳しく解説しているのでご参照ください。
増額請求をされたが、応じなければならない?
義務者の方には、相手から養育費の増額の請求を求められたという方も少なくないと思います。
上記7.4や7.5のように、一度決めた養育費を状況が変わったということで事後的に増額ないし減額することは可能です。
そのため、相手が増額を請求する根拠をしっかり検討して増額に応じるべきかどうかを考えるようにしましょう。
自分の生活が大変なので減額したい
義務者の方には、自分の生活が大変であるから、養育費を減額したいと考える方も多いと思います。
上記3でも触れましたが、養育費の支払いにおいては、基本的には、自分の生活が苦しいので、子供へ養育費を支払う余裕がないという理由は通りにくいと言わざるを得ません。
しかし、転職や休業、場合によっては失業したことによって、または再婚して新しい家族を持ったことで養育費を支払えなくなったなどの場合には、養育費の減額が認められることもありますので、養育費の問題に詳しい弁護士に相談すべきでしょう。
養育費を払わず(払えず)にいたら強制執行をされた
義務者の方の中には、養育費を支払えずにいたら強制執行されたという方もいるかと思います。
強制執行という手続が始まった場合、基本的には、話し合いをして強制執行を取り下げてもらうか、強制執行に対する不服申し立てをするなどしなければ強制執行の手続は止まりません。
一度強制執行をされているほどですから、当事者間での話し合いが難しい状況にあるかと予想されるので、養育費の回収や強制執行に詳しい弁護士にすぐに相談しましょう。
離婚した相手が生活保護を受けているので、養育費を減額してほしい
義務者の方には、離婚した相手が生活保護を受けているから養育費を減額してほしい、と考える方もいるかと思います。
しかし、この考えは正しくなく、上記7.5でも少し触れましたが、養育費を受け取っていることで、それが一部収入として認定されることで生活保護費が減額されるおそれがあるのです。
そのため、生活保護を受けている相手だからという理由だけで養育費を減額させられる理由にはなりません。
養育費は扶養控除できる?
義務者の方には、養育費を支払っているから扶養控除してほしいということで、税金面で優遇を受けたいと考える方も多いかと思います。
結論から申し上げますと、養育費を支払っていれば、別居していても扶養控除を受けられる可能性はあります。
ただし、扶養控除の要件である「生計を一にしている」ことなどを充たす必要があります。
また、扶養控除はどちらか片方の親にしか適用できないので、子供の親権を取得した親が子供を扶養に入れている場合、義務者が扶養控除を受けることは出来ません。
自己破産したら養育費を支払わなくてもいいですか?
義務者の方には、自己破産をすれば養育費を支払わなくてよいと考えている方もいるかもしれません。
しかし、結論的には、この考えは誤っています。
養育費の支払義務は、自己破産をしても支払いを免れられません(免責されません)。
これは、自己破産によって養育費の支払義務を免れられてしまうと、子供が生活に困窮し、また、必要な教育などを受けられなくなってしまうためです。
養育費について困ったことがあったら、弁護士への相談がおすすめ
以上、養育費に関して様々な観点から問題となる点、注意点等を見てきました。
離婚したとはいえ、二人の間から生まれた子供のことを双方が真摯に考えながら養育費の問題に向き合っていくべきではありますが、やはり、離婚の経緯、離婚後の事情、経済的余裕などからなかなか冷静に話し合うことは難しい面もあります。
養育費を貰う側からすれば、なるべく多く、かつ、確実に支払われるようにと考えるでしょうし、養育費を支払う側からすれば、適正な額であれば支払う、もしくはなるべく少なくしたい、子供と面会させてくれないから支払いたくない、などと考えるでしょう。
しかし、こうした双方の思い、意向などは食い違うことが多く、自身の権利・利益の実現のためには、どのように話し合いを進めていくか、どの点を注意すべきか、どのように手続きを進めていくかについてしっかり理解しておくことが必要です。
弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士は、離婚問題だけでなく、養育費の問題、強制執行の問題など離婚に関連する問題に幅広く精通しているので、きっとお力になれると思います。お困りの方は、ぜひ一度弊所にご相談ください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:51009)