「接近禁止命令」でDVから身を守る|申し立ての流れや注意点

離婚問題

「接近禁止命令」でDVから身を守る|申し立ての流れや注意点

神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介

監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士

夫婦や内縁関係の方の中には、配偶者、内縁の方からの暴力等に悩まされている方も少なくないのかと思います。
この記事では、離婚問題、DV問題、ハラスメント問題を多数扱っている弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が、配偶者(元配偶者を含む)や内縁の夫または妻、同棲相手からの暴力、いわゆるDVにお困りの方に向けて、暴力から身を守るための手続きなどについて詳しく解説していきます。

今、DVにお困りのあなたは、暴力に脅えて暮らす必要はなく、当たり前に安心できる生活を取り戻すために、この記事を読んだらすぐに弁護士に相談に行くようにしてください、そのための一助になれば幸いです。

接近禁止命令とは?

配偶者や内縁の方からの暴力やDVなどにお悩みの方は接近禁止命令というワードを耳にしたことがあるかもしれません。
接近禁止命令とは、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(いわゆる「DV法」)の10条1項1号にもとづく、被害者へのつきまといや被害者の家や職場など通常被害者がいる場所でのはいかいを禁止する保護命令のことです。

ここでいう、「被害者」とは、配偶者(元配偶者を含む)や内縁の夫または妻、同性相手(ここからは「配偶者等」と書きます。)から暴力を受けている人のことで、接近禁止命令は被害者を保護するための制度です。
そのため、DV被害などに苦しむ方は、すぐさま接近禁止命令の申立てを検討すべきと言えます。

違反した場合

では、接近禁止命令が出されたとしても、実効性はあるのでしょうか、接近禁止命令に違反した場合の効果が気になるところです。
この点、接近禁止命令に違反すると、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処せられる可能性があります。
「懲役」や「罰金」とあるように、接近禁止命令の違反に対しては刑事罰が科されるおそれがあるので、上記のような刑事罰に処せられた場合には、違反者には前科がつくことになります。このように、接近禁止命令の違反の効果は強力と言え、加害者のつきまとい等の行為を抑える効果も期待できるといえます。

接近禁止命令が出されたとしても、どうなるか不安に思われる方は、もし接近禁止命令が出されているのに配偶者等があなたの生活圏内に現れた場合、すぐに警察に連絡するようにしましょう。
ご自身の身体や精神の安全を第一に考えて行動するのが何よりも大事です。

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接近禁止命令が出る条件

それでは、接近禁止命令はどのような条件のもとで発令されるのでしょうか。

この点、接近禁止命令が出るためには、
①配偶者から身体的暴力または生命・身体に対する脅迫を受けたことがある こと
②今後、配偶者から身体的暴力を振るわれ、生命・身体に重大な危害が加えられるおそれが大きいこと
の2つが必要とされています。
②については、特に抽象的な条件であるのですが、一度、暴力や脅迫などがあれば直ちに接近禁止命令が出されるとは限りません。ご自身で判断できない場合には、弁護士にご相談するようにしましょう。

接近禁止命令以外の申し立てておくべき保護命令

保護命令の中には、接近禁止命令以外のものもあります。
物理的な接触を接近禁止命令により抑止したとしても、他の行動も抑止しなければならないケースも想定されます。
加害者の予想される行動、想定される被害に応じて、接近禁止命令とともに併せて申し立てておくのがよいでしょう。

電話等禁止命令

無言電話や面会などを要求する連続する着信、LINEの連投、危害を加えるかのような連絡などにお困りの場合は、「電話等禁止命令」を申し立てるのがよいでしょう(接近禁止命令の期間中に限られます。)。
「電話等禁止命令」は、これらのことを禁止する命令です。

子への接近禁止命令

ご自身だけでなく、配偶者等がお子様へ危害を加えることが想定される場合には、「子への接近禁止命令」を申し立てるのが良いでしょう。
「子への接近禁止命令」により、被害者と同居している未成年の子(なお、子が15歳以上の場合は、子の同意が必要です)の身辺につきまとい、又はその通常所在する場所の付近を徘徊することを禁止されます(接近禁止命令の期間中に限られます。)。

親族等への接近禁止命令

ご自身やお子様だけでなく、ご親族や会社の同僚等へ危害を加えることが想定される場合には、「親族等への接近禁止命令」を申し立てるのがよいでしょう。
申立人の15歳未満の子を除き、親族等の同意が必要ですが、彼らへのつきまといや勤務先等のはいかいを禁止することができます。

退去命令

加害者と被害者が同居している場合、同居する自宅から、被害者が引っ越す準備をする必要があります。また、被害者が自宅から逃げ出したあと、荷物を取りに戻るために一時的に退去させる必要がある場合があります。
このような場合、加害者に対し、引っ越し準備期間や荷物引き取り期間として2か月間自宅から出ていくことを命じたり、自宅の付近をうろつくことを禁止したりする命令が「退去命令」です。

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接近禁止命令の申立ての流れ

接近禁止命令の申立ての流れは、基本的には以下の①から④の流れになります。

①DVセンターや警察への相談
②裁判所に申立てを行う
③口頭弁論・審尋
④接近禁止命令の発令
以下、詳しく見ていきましょう。

①DVセンターや警察への相談

申立ての準備として配偶者暴力相談支援センター(DVセンター)や警察へ相談しましょう。申立書にこれらの相談実績を記載する欄があるためです。
具体的な相談方法などは以下のとおりです。

【配偶者暴力相談支援センター(DVセンター)】
配偶者暴力相談支援センター(DVセンター)に電話で連絡し、相談に行く

【警察】

  • 近くの警察署に直接行って相談する
  • 相談専用電話「#9110」に連絡する

なお、これらの機関への相談実績等については、離婚等のケースでは、離婚原因の一つとして主張することがありますので、その点も踏まえると相談には行っておくようにしましょう。

相談実績がない場合

上記DVセンターや警察へ相談したことがない場合、公証役場へ行き、公証人の前で被害について語り、それを「宣誓供述書」にしてもらうことが必要になります。

②裁判所に申立てを行う

接近禁止命令等については、裁判所が発令するために、発令のためには、裁判所への申立てが必要になります。
以下、詳しく見ていきましょう。

申し立てができるのは本人だけ

接近禁止命令の申立てができるのは、被害者の方だけです。
被害者の方の両親や兄弟姉妹が代わりに申立てをすることはできません。
恐怖等もあるかもしれませんが、被害者の方自身で申立てをすることを決断する必要があり、もし不安な場合等には、弁護士に依頼して代理してもらい申し立てるようにしましょう。

申立先

DV法11条によれば、接近禁止の申立先は、以下の①~③のとおりです。
①相手方の住所(日本国内に住所がないとき又は住所が知れないときは居所)の所在地を管轄する地方裁判所
②申立人の住所又は居所の所在地を管轄する地方裁判所
③当該申立てに係る配偶者からの身体に対する暴力又は生命等に対する脅迫が行われた地を管轄する地方裁判所

必要書類

接近禁止命令の申立てには、主に次のような書類が必要になります。

  • 申立書2部(正本・副本)
  • 申立人と相手方の関係を証明する書類(例:戸籍謄本、住民票など)
    身体的暴力または生命等に対する脅迫を受けたこと、今後、配偶者から身体的暴力を振るわれ、生命等に重大な危害が加えられるおそれが大きいことの証拠(例:診断書、怪我の写真、脅迫の録音データ、申立人本人や第三者の陳述書  など)

また、申立の内容によっては次の書類も必要です。

【「子への接近禁止命令」も申し立てる場合(※子供が15歳以上のとき)】

  • 子の同意書
  • 同意書の署名が子供本人のものであることが確認できるもの(例:学校で受けたテストの答案用紙など)

【「親族等への接近禁止命令」も申し立てる場合】

  • 対象となる親族等の同意書(対象者が成年被後見人である場合には、成年後見人など法定代理人の同意書)
  • 同意書の署名押印が親族等本人のものであることが確認できるもの(例:印鑑証明書、パスポートの署名欄など)
  • 申立人と親族等との関係を証明する書類(例:戸籍謄本、住民票など)
    ※なお、法定代理人による同意書の場合は、加えて資格証明書も必要。
  • 「親族等への接近禁止命令」が必要な事情を明らかにする資料(例:親族等の陳述書、ラインなどの通信履歴など)

申立てに必要な費用

申立てに必要な費用は、1000円分の収入印紙と2000円程度の郵便切手です。郵便切手の正確な額については、申立てを検討していると連絡して、裁判所に確認していただくと良いかと思います。

③口頭弁論・審尋

上記裁判所への申立てが受理された後、裁判所は、申立人と速やかに面接し、申立の経緯や事情を聴きます。
その後、早ければ申立てから1週間程度で、口頭弁論又は審問期日を開いて相手方からも事情を聴くなどして、発令の是非などを審理していきます。
ただし、命の危険が迫っているなど、緊急を要する事態の場合には、口頭弁論や審尋は行わずに発令されるケースもありますし、相手方からの事情を聞き取った上で、その場で発令されることもあります。

④接近禁止命令の発令

接近禁止命令の要件を満たしていると判断されたら、早ければ、口頭弁論または審尋が行われたその日に発令されることがあります。
そして、裁判所で相手方に接近禁止命令が言い渡されたときから効力が生じます(つまり、その日から、「接近禁止」等になるということです。)。
なお、相手方が口頭弁論や審尋の期日に来なかった場合は、相手方に「決定書」が送達されることで、効力が生じます。

接近禁止命令における注意点

接近禁止命令を申し立てるにあたって、注意点がいくつかあります。
以下、詳しく確認していきましょう。

発令されるためにはDVの証拠が必要

接近禁止命令が発令されるためには、「身体的暴力や生命等に対する脅迫を受けた証拠」と、「この先、身体的暴力を振るわれ、生命等に重大な危害が加えられるおそれが大きいことの証拠」が必要となります

例えば、次のようなものが有効な証拠になり得ます。

  • 医師の診断書
  • 怪我の写真
  • 暴力を振るわれている様子や脅迫されている様子を、録画・録音したデータ

ただし、証拠を集めたとしても、申立て時から数ヶ月前の暴力等を示すもののみで、直近の暴力等を示すものがない場合には、この先暴力を振るわれる危険性が高いと判断されないおそれがあるため注意が必要です。この場合には、接近禁止命令の申立てが却下されてしまうこともあります。
そこで、以下の記事では、DVの証拠やそのうちの「診断書」について詳しく解説していますので、ぜひご参照ください。

DV加害者と離婚するためにすべきこと DVが原因で離婚するときに用意するべき診断書について

相手に離婚後の住所や避難先を知られないよう注意

裁判所へ提出する接近禁止命令の申立書には、被害者の方の住所を書く欄があります。申立書は相手(加害者)も見るものなので、現実の住所を書いて相手に自宅におしかけられては元も子もありません。

この場合には、住民票上の住所や、かつて相手と住んでいた家の住所などを記載すれば足りると考えられます。しかし、申立先の裁判所に確かめた方が確実ですので、一度相談してみましょう。
なお、証拠書類(診断書等)に現住所が記載されている場合は、黒塗りしてマスキングしたものを相手への送付用として提出するなどの方法が考えられます。

モラハラは対象にならない

「モラハラ」はDVの一種ではありますが、接近禁止命令の対象ではありません。
DV法の正式名称が配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律であることからも分かるように、DV法が配偶者からの暴力及び脅迫から被害者の方を守ることを趣旨としているためです。
ただ、耐えきれないほどのモラハラに悩んでいるのであれば、すぐに弁護士に相談して別居を検討してください。

別居については、以下の記事でも解説しておりますのでぜひご参照ください。

離婚前の別居で知っておきたいポイント

接近禁止命令に違反した場合の対処法

接近禁止命令が発令されているにも関わらず、相手がつきまとい等の行為をしているのを見かけた場合には、すぐに警察に通報するようにしましょう。
接近禁止命令が発令されていることは警察にも共有されているのですぐに対処してくれているはずです。

まずは、通報することを恐れずに、身の安全を最優先に確保してください。暴力を受けてからでは遅いのです。
なお、偶然に接触するケースも考えられるため、そもそも相手の行動範囲に近づかないようにする、夜間に一人で出歩くのは控えるなど、自分で自分の身を守ることも大切です。

接近禁止命令に関するQ&A

接近禁止命令の期間を延長したい場合はどうしたらいいですか?

接近禁止命令は、一度発令されると基本的に6か月間は有効です。
この期間を延長する場合は、再度、裁判所に申し立てる必要がありますが、これは期間の延長ではなく、新しい申立てとなります。

この申立てにも先ほどの説明のとおり、警察への事前相談や証拠が必要ですので、申し立てたからといって証拠等は処分せずきちんと保管しておきましょう。

接近禁止命令はどれくらいの距離が指定されるのでしょうか?

接近禁止命令は、「被害者から半径30メートル以内に近づいてはいけない」というように具体的に距離が指定されたり、●●町には立ち入り禁止などエリアが制限されるわけではありません。
そのため、あなたのご自宅や勤務先等に近づいたりうろついたりすることが禁止されるだけである点はご留意ください。

離婚後でも接近禁止命令を出してもらえますか?つきまとわれて困っています。

離婚後でも、付きまとわれている場合には、接近禁止命令を出してもらえる可能性はあります。ただし、あくまでも、婚姻期間中のDVを受けていたケースが想定されています。
そうではなく、離婚後につきまとわれているのであれば、「ストーカー規制法」という法律が守ってくれる可能性があります。ただ、この場合でも証拠が必要ですので、日ごろから証拠を集めておき、そのうえで、警察へ相談してください。

DVで接近禁止命令を申し立てる際は弁護士にご相談ください

以上ご説明しましたとおり、DV法に基づく接近禁止命令を裁判所に発令してもらうのはなかなかハードルが高いと思います。
しかし、加害者からの暴力やDVに悩まされて人生を諦める必要はありません。きちんと証拠等を集めて裁判所へ申立てをしていけば、接近禁止命令などによって法律が被害者の方に安心できる生活を提供してくれるものといえます。

ただし、接近禁止命令の申立てについても、被害者の方ご自身で対応するのは大変かと思います。 この点、弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士は、これまで離婚問題、男女問題、DV問題など多数の案件に携わってきた経験と実績があります。 まずは、遠慮せずに怖がることなく、弊所の弁護士にご相談ください。

神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介
監修:弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長
保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:51009)
兵庫県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。