監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士
交通事故での示談の場合の多くは、相手方の保険会社が交渉相手となります。
しかし、保険会社は年間何十件もの示談を行う交渉のプロであり、交通事故の知識に精通しているため、被害者の正当な訴えを聞き入れてくれず、もめるケースも少なくありません。
示談交渉中に相手方とトラブルになった場合、どう対処すればよいのでしょうか?
本記事では、交通事故に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が、なぜ交通事故での示談がもめやすいのかその理由と、解決方法についてご説明します。
これから示談交渉を行う予定の方も、すでに示談交渉でもめている方も、納得のいく示談ができるよう、ぜひ最後までご一読ください。
目次
交通事故の示談でもめる原因
交通事故の示談でもめる原因として、以下のようなケースが挙げられます。
加害者の態度が悪い
交通事故の被害に遭ったのですから、被害者として、加害者から謝罪してもらいたいと思うのは当然のことです。
しかし、加害者が謝罪をしてこないというケースも多々あります。
これは、加害者が任意保険に加入していると、保険会社が代行して示談交渉を行うケースが多いため、加害者は保険会社に任せて、被害者との連絡を控えているか(現に保険会社が窓口となります。)、もしくは、加害者に反省の色がなく、謝罪する気がないということが理由として考えられます。
また、加害者や加害者側の保険会社が威圧的な態度をとってくることもあります。この背景としては、高圧的な態度をとったり、難しい用語を使ったりして、被害者を委縮させ、低額な賠償金で示談させるという意図があるとも言われています。
しかし、加害者側から、上記の対応をとられても、安易に示談するのは禁物です。一度示談してしまえば撤回は基本的に難しく、適正な賠償金がもらえなくなるおそれがあるからです。
加害者が無保険
加害者が無保険(任意保険に未加入)の場合、加害者本人と示談交渉を行うことになります。
加害者本人とのやり取りとなるため、話し合いに応じてくれない、相手の連絡が遅い等の理由で交渉がスムーズに進まない可能性があります。
また、損害賠償金には治療費や慰謝料、休業損害など様々な種類があり、これらの賠償金額を、当事者間で決める必要があります。専門知識がない者同士の交渉となるため、賠償金の計算がうまく行えず、トラブルヘと発展するおそれもあります。
なお、加害者が無保険の場合、被害者がもらえる賠償金は、「加害者側の自賠責保険から支払われる分」+「加害者が支払う分」となるため、自賠責保険を超える部分の損害については加害者本人に請求する必要があります。しかし、加害者に十分な経済力がなければ、直接請求したとしても、賠償金の受けとりは難しくなることが懸念されます。
無保険の相手と示談する方法について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
交通事故の相手が無保険だった場合の示談について過失割合で揉めている
「過失割合」とは、交通事故を発生させた責任が、加害者と被害者お互いにどのぐらいあるかを、割合で表したものです。
示談交渉中に、「過失割合」を巡って争うことは少なくありません。「過失割合」で特にもめやすいケースとして、以下が挙げられます。
- 事故当時の状況を明確に示す証拠がない場合
ドライブレコーダーや防犯カメラ映像など事故状況を明確に示す証拠がない場合は、当事者の証言等から過失割合を算定する必要があります。過失割合をお互いに少なくしたいため、信号無視や一時停止の有無など事故状況について、もめるおそれがあります。 - 駐車場での事故の場合
過失割合は、裁判例など過去の事例にもとづき、算定するのが通常です。駐車場での事故については、参考となる過去の事例が少ないため、過失割合を算定することが難しく、どちらが悪いのかについて争いになる可能性があります。
後から症状が出てきた
事故現場では痛みがなかったので、物損事故で届け出ていたら、数日後に、体に痛みが出てきたり、吐き気などの症状が現れたりするような場合があります。これは、「むちうち」の負傷を負った際によくあることですが、目に見えるケガがなかったので事故当時は気付かなかったが、実は、首の神経など体の内部が損傷していた等のケースがあてはまります。事故発生からケガの発覚までにインターバルがあると、「実はケガをしていた」と被害者が主張したとしても、事故後間もなく痛みがないため「交通事故とは関係のないケガではないか」と反論され、もめる可能性があります。
また、示談成立後に、しびれなどの症状が現れ、後遺障害が発覚するというケースもあります。
いったん示談が成立すると、示談の撤回や追加の損害賠償請求は認められないのが通常ですので、示談のやり直しを巡ってトラブルになるおそれがあります。
「むちうち」については、以下の記事でも解説しておりますので、ぜひご参照ください。
治療費を打ち切ると言われた
交通事故の治療費は、通常、ケガが完治するまで、または「症状固定」(これ以上治療を続けても改善の見込みがない状態に達すること)するまで支払われます。
ただし、ケガの治療に要する一般的な治療期間を過ぎたり、ケガが重傷ではないと判断されたり、通院頻度が低すぎたりすると、保険会社から「治療は終了ですね」と、治療費の打切りを打診されることがあります。
しかし、まだ治っていないのに、通院治療をやめてしまうと、痛みなどの症状が残る、入通院慰謝料が減額されるなど適切な賠償が受けられなくなるおそれがあります。
よって、治療費を打ち切られた場合は、健康保険などを利用して治療費を立て替えて、治療を続けるか、示談交渉時に立て替えた分を請求するようにしましょう。保険会社が治療費の支払いを拒否する場合は、弁護士への相談をおすすめします。
治療費の打ち切りを打診されたときの対処法について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
治療費を打ち切ると言われた場合の対応方法提示された示談金に合意できない
慰謝料などを含んだ示談金については、特にトラブルになるおそれがあります。
交通事故でケガをした場合、加害者に慰謝料を請求することが可能ですが、この慰謝料を計算する基準には、以下の3つがあります。
①自賠責基準:自賠責保険が用いる最低補償の基準で、被害者に過失がない場合は、最も低額となる。
②任意保険基準:各任意保険会社が独自に定める基準で、自賠責基準とほぼ同額か多少高い程度。
③弁護士基準:過去の裁判例をもとに作られた、弁護士や裁判所が使う基準。被害者に過失がない事故の場合は、最も高額となる。
加害者側の保険会社は支払いを抑えるため、自賠責基準か任意保険基準による低額な慰謝料を提示する傾向にあります。被害者からすると、最も高い「弁護士基準」による慰謝料を請求したいところですが、「弁護士基準」は基本的に弁護士が請求しないと認められない基準です。そのため、被害者個人で増額交渉を行っても、保険会社が応じることはほぼ0に等しく、慰謝料額をめぐってトラブルになる可能性があります。
こういった、交通事故における慰謝料については、以下の記事でも詳しく解説しておりますので、ぜひご参照ください。
交通事故の慰謝料相場と通院日数の関係 交通事故慰謝料の算定基準についてまずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
交通事故の示談交渉で揉めてしまった場合、どうしたら良い?
交通事故の示談交渉でもめてしまった場合、どうすれば良いのでしょうか?
示談案に納得がいかないのであれば、示談に応じる必要はありませんが、あまりに期間が経ちすぎると、時効の問題が生じてしまいます。
示談自体に期限はありませんが、加害者に損害賠償金を請求できる権利には時効があり、物損事故は3年、人身事故は5年(なお、自賠責保険への請求は3年です)が期限となっています。時効が過ぎると、損害賠償金を請求できなくなるため注意が必要です。
以下で、示談交渉でもめた場合の対処法について解説していきます。
なお、交通事故で示談交渉が進まない場合の留意点等については以下の記事でも解説しておりますのでぜひご参照下さい。
ADRなどの機関を利用する
示談交渉がうまくいかない場合は、ADRなどの機関を利用するという方法があります。
ADRとは、裁判以外で交通事故のトラブル解決を目的とする機関の総称のことです。
交通事故のADR機関として、以下が挙げられます。
- 交通事故紛争処理センター:弁護士による相談、示談のあっせんを行う。
あっせん案で示談が成立しない場合は、審査会による裁定を行う。加害者側の保険会社は裁定に従う必要あり。 - 日弁連交通事故相談センター:弁護士による相談、示談のあっせんを行う。
ただし、加害者側の保険会社はあっせん案に拘束されない。
上記の機関に連絡すると、登録弁護士による面接相談や示談のあっせん、審査会による裁定などが行われます。無料で利用でき、加害者側の保険会社は審査会の裁定に従う必要があるというメリットがあります。しかし、ADRは中立の立場でのあっせんを行うため、被害者に有利なあっせん案が提示されるとは限りません。
被害者はADRによる解決策に拘束されないため、あっせん案に同意できない場合は、裁判を起こすなど他の解決手段をとる必要があるでしょう。
なお、「交通事故紛争処理センター」については、以下の記事でも解説しておりますのでぜひご参照ください。
弁護士に相談する
示談交渉でもめた場合、最もおすすめする方法は、弁護士に相談して、代わりに示談交渉を行ってもらうことです。
交通事故に詳しい弁護士であれば、示談交渉の重要ポイントを熟知しているため、被害者に有利な条件で示談を成立させる可能性が高まります。例えば、「過失割合」の交渉等においてもどのような点に着目して交渉を進めるべきかアドバイスをもらえるなどするでしょう。
また、弁護士は、保険会社が提示する過失割合や賠償金額の妥当性を判断することができるため、正しい額の賠償金を受け取ることが可能です。さらに、「弁護士基準」による慰謝料を請求できるため、慰謝料の増額も期待できます。
そうは言っても、弁護士に依頼したいが費用が心配と思う方が多いのではないでしょうか。
しかし、「弁護士費用特約」に加入していれば、一定の上限額があるものの、保険会社が弁護士費用(着手金、報酬金、裁判費用など)を負担してくれます。特約を使えば、費用面の心配なく、弁護士に依頼することが可能です。
まずは、ご自身やご家族の保険証券などを確認し、弁護士費用特約が付帯していないか確認することをおすすめします。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
示談でもめてしまったら早めに弁護士にご相談下さい
示談でもめた場合、ベストな方法は交通事故に詳しい弁護士に対応を依頼することとご説明しました。
弁護士に相談するのであれば、なるべく早い段階をおすすめします。
早めに相談すれば、多くのサポートが受けられるため、ご自身の受けるメリットが大きくなります。
例えば、通院中にご相談いただければ、慰謝料を想定した通院方法のアドバイスや、治療費の打ち切りの延長交渉等、後遺症が残った場合は後遺障害認定のサポート等を受けられるため、正当な賠償金の受け取りが可能となります。また、弁護士が交渉に入れば、保険会社が裁判などを意識して、弁護士基準に近い額での慰謝料に応じることも期待されます。
示談交渉でお悩みの方は、まずは弁護士にご相談ください。
この点、弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士は、これまで数多くの交通事故案件を解決に導いてきた実績と経験がありますので、ぜひ一度お気軽にご相談ください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:51009)