監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士
被相続人が亡くなった場合、遺言がなければ、相続人全員で「遺産分割協議」を行うこととなります。
もっとも、全ての相続人が成人しているとは限らず、相続人の中に未成年者がいることもあります。
この点、「遺産分割協議」も法律行為であることから、未成年者のみでは「遺産分割協議」を行うことができないため、このような場合に遺産分割協議を行うには、通常とは異なった手続きが必要となります。
そこで、相続問題、遺産分割問題に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が、以下、詳しく解説していきますのでぜひご参照ください。
目次
未成年者は原則、遺産分割協議ができない
上記したとおり、民法は、未成年者は判断能力が不十分であるとの理由から、原則として未成年者単独での法律行為は認めていません(仮に行っても取り消しの対象となる。)。
基本的には、未成年が法律行為を行う場合には、法定代理人である親権者などの同意を得るか、親権者などに代わりに行ってもらうことになります。
そして、「遺産分割協議」も、遺産の分け方を決めるものであり法律行為の1つであることから、未成年者が単独で行うことができず、「遺産分割協議」を行うためには、法定代理人である親権者や以下で述べる「特別代理人」などしかるべき者の同意が必要になります。
成年年齢の引き下げについて(2022年4月1日以降)
民法改正により、2022年(令和4年)4月1日以降から、成人年齢が20歳から18歳に引き下げになりました。
従来、20歳以上でなければ「遺産分割協議」を行えなかったところ、18歳以上で「遺産分割協議」を行えるようになりました。
そのため、「遺産分割協議」の時に、18歳以上であれば、成人として単独で「遺産分割協議」を行うことができるので、単独で「遺産分割協議」に参加することが可能となります。
成人になるのを待って遺産分割協議してもいい?
未成年者が成人になれば、単独で「遺産分割協議」を行えますので、未成年者が成人になるのを待って「遺産分割協議」を行うことも考えられます。
しかし、相続税の申告は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内、すなわち、被相続人の死亡を知ったときから10か月以内にする必要があります。
この申告期限は、たとえ相続人の中に未成年者がいたとしても延長はされませんので、成人になるのを待っていたら相続税の申告期限を徒過してしまうような場合には、この方法を取るのは得策ではありません。
相続人に未成年者がいる場合は法定代理人が必要
相続人に未成年者がいる場合に「遺産分割協議」を行うには、未成年者の法定代理人が必要となります。
未成年者が法定代理人の同意を得た上で「遺産分割協議」を行うか、法定代理人が未成年者に代わって「遺産分割協議」を行います。
しかし、法定代理人についても親ではない別の者を選任する必要があるケースもありますので、以下見ていきましょう。
法定代理人になれるのは親権者(親)
未成年者に同意を与えたり、未成年者の代わりに「遺産分割協議」を行う法定代理人になることができるのは、基本的には、親権者です。
親権者以外の人は、未成年者の法定代理人にはなれませんので、注意が必要となります。
親も相続人の場合は特別代理人の選任が必要
もっとも、未成年者と共に親(親権者)も相続人である場合には、未成年者に「特別代理人」の選任が必要となります。
未成年者と親がともに相続人である場合、親が未成年者の代理人を務めてしまえば、未成年者と親とが相続財産を分け合う形になるので、親は未成年者のためではなく、自身のために動くだろうということで、利益相反関係にあることにあります。
そのため、法定代理人(親)は本人(未成年者)の利益を考えて行動する必要があるのですが、利益相反関係にある場合、親が未成年者の利益のために適切に行動しないおそれがあるとして、「特別代理人」の選任をしなければならないことになっています。
親がいない場合は未成年後見人を選任する
未成年者に親がいない場合には、親の代わりになる「未成年後見人」を選任することとなります。
「未成年後見人」は、未成年者本人や親族等が家庭裁判所に「未成年後見人」の申立てを行うことによって、家庭裁判所が選任します。
このように選任された「未成年後見人」が、未成年者に代わって、遺産分割協議の手続きを行います。
未成年の相続人が複数いる場合は、人数分の代理人が必要
相続人の中に、未成年の相続人が複数いる場合には、未成年者それぞれに代理人が必要となります。
しかし、親が相続人でないとしても、同じ親の未成年者が複数相続人である場合、原則として親は1人の未成年者の代理人になることはできますが、2人目以降の未成年者には「特別代理人」を選任する必要があります。
この理由は、未成年者同士が遺産を分け合う関係にあるため、未成年者同士の利害が対立するおそれがあり、利益相反となるためです。
特別代理人の選任について
親権者が法定代理人になれない場合、「特別代理人」を選任する必要がありますが、どのような手続きによって選任できるか、以下、ご説明します。
特別代理人とは
「特別代理人」とは、未成年者とその未成年者の親など法定代理人の間で利害関係が衝突する際に、未成年者の代理人として法律行為を行う人です。
民法は、親権者と子(未成年者)の間で利益が衝突する(利益相反)場合には、子のために「特別代理人」を選任することを家庭裁判所に請求しなければならないと定めています。
例えば、父親が死亡して、母と子(未成年者)が相続人となり遺産分割協議を行うときなどに、親権者と未成年者の利益が衝突するとして、特別代理人の選任が必要となります。
申立てに必要な費用
特別代理人選任の申立てに必要な費用は、①収入印紙800円分(子1人につき)、②連絡用の郵便切手(申立てされる家庭裁判所へ確認してください。なお、各裁判所のウェブサイトの「裁判手続を利用する方へ」中に掲載されている場合もあります。)とされるのが基本です。
必要な書類
特別代理人選任の申立てに必要な書類は、以下のとおりです。
①申立書
②未成年者の戸籍謄本(全部事項証明書)
③親権者又は未成年後見人の戸籍謄本(全部事項証明書)
④特別代理人候補者の住民票又は戸籍附票
⑤利益相反に関する資料(遺産分割協議書案、契約書案・抵当権を設定する不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)等)
となります。
なお、利害関係人からの申立ての場合には、利害関係を証する資料(戸籍謄本(全部事項証明書)等)も必要となります。
申し立ての流れ
「特別代理人」の選任の申立ては、子(未成年者)の住所地を管轄する家庭裁判所に行います。
申立人となれるのは、親権者もしくは利害関係人です。申立てを行う際は、必要書類を、家庭裁判所に郵送または持参します。家庭裁判所からの連絡は、必要書類の提出から約2週間程度でくることが多いです。
家庭裁判所から、選任の判断をするために、書面で照会があったり、直接事情を尋ねるための連絡がある場合があります。このような連絡には必ず応じるようにしましょう。
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未成年後見人の選任について
「未成年後見人」は、未成年者の親権者が亡くなっている等の理由でいない場合、「未成年後見人」を選任する必要があります。
「未成年後見人」は、家庭裁判所に、未成年者、未成年者の親族、利害関係人が選任申立てを行うことで、選任されます。
未成年後見人とは
「未成年後見人」とは、親権者の死亡等によって、未成年者に対し親権の行使をするものがいない場合に、家庭裁判所によって選任され、未成年者の代理人となる人をいいます。
「未成年後見人」は、未成年者の監護養育や財産管理、法律行為等を、未成年者の代理人として行います。
「未成年後見人」は、未成年者、未成年者の親族、利害関係人が家庭裁判所に対して選任の申立てを行い、家庭裁判所が選任しますが、未成年者の最後の親権者が遺言によって指定することも可能です。
申立てに必要な費用
「未成年後見人」の選任の申立てに必要な費用は、①収入印紙800円分(子1人につき)②連絡用の郵便切手(申立てされる家庭裁判所へ確認してください。なお、各裁判所のウェブサイトの「裁判手続を利用する方へ」中に掲載されている場合もあります。)とされるのが基本です。
必要な書類
「未成年後見人」の選任の申立てに必要な書類は、以下のとおりです。
①申立書
②未成年者の戸籍謄本(全部事項証明書)
③未成年者の住民票又は戸籍附票
④未成年後見人候補者の戸籍謄本(全部事項証明書)
⑤未成年者に対して親権を行うものがないこと等を証する書面(親権者の死亡の記載された戸籍(除籍、改製原戸籍)の謄本(全部事項証明書)や行方不明の事実を証する書類等)
⑥未成年者の財産に関する資料(不動産登記事項証明書(未登記の場合は固定資産評価証明書)、預貯金及び有価証券の残高が分かる書類(通帳写し、残高証明書等)等)
なお、利害関係人からの申立ての場合、利害関係を証する資料が必要となり、親族からの申立ての場合、戸籍謄本(全部事項証明書)等が必要となります。
また、⑤について、後見人候補者が法人の場合は、当該法人の商業登記簿謄本が必要となります。
申し立ての流れ
「未成年後見人」の選任の申立ては、子(未成年者)の住所地を管轄する家庭裁判所に行います。
申立人となれるのは、未成年者、未成年者の親族、利害関係人です。
申立てを行う際は、必要書類を、家庭裁判所に郵送または持参します。その後、家庭裁判所からの連絡は、必要書類の提出から約2週間程度でくることが多いです。
以下にある裁判所のウェブサイトをご参考にしてください。
未成年の相続人が既婚者の場合は代理人が不要
未成年者の相続人が既婚者の場合には、法定代理人や特別代理人、未成年後見人といった代理人は不要です。
もっとも、2022年4月1日に成人年齢が18歳に引き下がったことに加えて、婚姻できる年齢が男女ともに18歳となり、成人擬制の規定が削除されたことから、今後考える実益はなくなります。
未成年の相続人が離婚している場合
未成年の相続人が離婚している場合でも、一度結婚している場合、成人とみなされるため、既婚者の場合と同じで法定代理人等の代理人は不要です。
もっとも、2022年4月1日に成人年齢が18歳に引き下がったことに加えて、婚姻できる年齢が男女ともに18歳となり、成人擬制の規定が削除されたことから、今後考える実益はなくなります。
親が未成年の相続人の法定代理人になれるケース
法定代理人である親とその子がともに相続人である場合は、上記したとおり利益相反関係となるので、原則的に法定代理人となって子のために動くことはできません。
しかし、例外的に親が共同相続人である子の法定代理人として法律行為をすることが認められる場合があります。
親が相続放棄をした場合
親が未成年者の相続人の法定代理人になれないのは、親と未成年者が両方とも相続人であるなど、親と未成年者の利益が相反する場合です。
そのため、親が相続放棄をした場合であれば、親は相続人ではなくなるため、利益相反せず、親が未成年者の法定代理人になることができます。
なお、相続放棄については、以下の記事でも詳しく解説しておりますので、ぜひご参照ください。
片方の親がすでに亡くなっており、未成年者が代襲相続人になった場合
図の状況を想定していただいた場合、未成年者Fは、父であるCが既に死亡しているため、被相続人のAが亡くなった場合、Cの代襲相続人として、Aの相続人になります。
もっとも、母親Eは被相続人Aの相続人ではないため、Fとの間で利益相反が生じません。
そのため、このような場合であれば、母親Eは未成年者Fの法定代理人になることができます。
未成年者を含む遺産分割協議を弁護士に依頼するメリット
相続人に未成年者が含まれている場合、「遺産分割協議」を未成年者単独で行うことはできないのはこれまで説明したとおりです。
この場合、上述したとおり、「特別代理人」、「未成年者後見人」の選任手続き等の通常とは異なる手続きが必要となるケースもあります。そして、こうした手続きを踏むべきにもかかわらず、それを怠った場合、「遺産分割協議」自体が無効になるケースも出てきてしまいます。
通常の遺産分割協議でさえも、どのような遺産をどのように分けるのか法律的に複雑なことがある等大変である中、さらに別の手続きをとらなければならないというのは、負担が大きくなるといえます。
相続人に未成年者が含まれる場合には、その負担を少しでも解消するため、また適正な手続きを経て有効に遺産分割協議を完了させるべきです。
この点、弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士は、これまで数多くの相続問題、遺産分割問題を解決してきた実績がありますので、ぜひお気軽に一度ご相談ください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:51009)