遺産分割調停の流れとメリット・デメリット

相続問題

遺産分割調停の流れとメリット・デメリット

神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介

監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士

相続人同士で遺産分割について話し合ったものの、合意に至らない場合には、【遺産分割調停】にて解決を図ることになります。
実際に遺産分割の話し合いを進めようとした時に、これまで仲の良かった家族であっても、自らの取り分を多く主張したり、他の相続人の取り分について少なく主張したりと、感情等の対立も激しくなり、遺産の分割について当事者だけでは解決できない事態が生じ得ます。このような場合に、【遺産分割調停】を申し立てることになります。
しかし、【遺産分割調停】をどのように進めるかについては、法的なテクニックが必要であり、理論的にも手続的にも非常に複雑なこともあります。
本記事では、【遺産分割調停】とは一体どのような手続なのか、【遺産分割調停】がどのような流れで進んでいくか等について、相続問題、遺産分割問題に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が、以下詳しく解説していきます。

遺産分割調停とは

【遺産分割調停】とは、 故人の遺産を、相続人間でどのように分割するかの話し合いがまとまらない場合に、家庭裁判所へ申立てをして利用することができる手続きです。
つまり、相続人間ではなかなか話がまとまらないために、裁判所に間に入ってもらって遺産分割について再度話し合いを調整してもらうというイメージで良いのかと思います。
【遺産分割調停】には、原則として相続人全員が参加し、調停委員会(裁判官と男性と女性一人ずつの調停委員で構成される)が、各相続人がどのような分割を望んでいるかという意見を聞き取りしたり、必要に応じて遺産の資料等の提出を促したりします。そのように話し合いを調整していく中で、調停委員が遺産分割の話し合いがまとまるように解決案を示したりするなどして、相続人間での合意の形成を目指していきます。
相続人が直接対面して意見を戦わせるわけではなく、調停委員を挟んだ形で話をするため、比較的冷静な話し合いが期待できます。また、調停委員は、遺産分割についての法的な知識を有していますし、担当裁判官もいるため(普段は表に出てこないことも多いです)、法的に適切な内容での話し合いが期待できます。

遺産分割調停の流れ

遺産分割の話し合いを進めるにあたって、遺言の有無、相続人の範囲、遺産の範囲、特別受益や寄与分の内容を確定させていく必要があります。これらの問題は調停の中でも当然問題となるため、調停申立てにあたっては、申立書を提出すればよいというわけではなく、必要書類を集め、どういった主張をしていくかなどの事前準備が必要です。
以下、【遺産分割調停】を行うために必要となる準備、実際の調停期日の流れ、そして、調停が成立し解決に至るまでの流れについてご説明します。

必要書類を集める

【遺産分割調停】には、以下のような書類が必要となります(なお、相続人が誰であるのか、相続人と被相続人はどのような関係性なのかによっては、上記以外にも必要な提出書類があります)。

①被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
②相続人全員の戸籍謄本
③被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している者がいる場合、その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
④相続人全員の住民票又は戸籍附票
⑤遺産に関する証明書(不動産登記事項証明書及び固定資産評価証明書、預貯金通帳の写し又は残高証明書、有価証券写し等) 

これらは、相続人の範囲を確定するため、また、遺産の範囲と評価額を確定するために用いられます。
戸籍及び附票、固定資産評価証明書は各市区町村の役所、不動産登記事項証明書は法務局、預貯金通帳、残高明細等は各金融機関から取り付ける必要があります。
相続人の範囲の確定については、以下の記事で詳しく解説していますので、そちらもご参照ください。

相続人調査の重要性と調査方法

相続人全員の住所が必要なことに注意が必要

【遺産分割調停】の申立ての際には、相続人全員の住所が必要になります。
なぜなら、遺産分割は相続人全員で行わなければならず、相続人のうち一人でも参加しない者がいた場合には、その遺産分割は無効となってしまうため、相続人全員の住所が判明しないまま、遺産分割調停を申立てたとしても、家庭裁判所には受理できないからです。
調停が申し立てられると、相手方に、裁判所から調停が申し立てられたことや調停の期日についての連絡を行うことになります。

未成年・認知症の相続人がいる場合は代理人が必要

相続人の中に、未成年の相続人や認知症の相続人がいる場合には、注意が必要です。
まず、相続人の中に未成年者がいる場合、原則、法定代理人である親権者が当該未成年者を代理することになります。
しかし、例えば、父・母・未成年者という家族で父が亡くなった場合、相続人は母と未成年者となるのですが、この場合、母は、母個人で相続人であり、かつ、未成年者の代理人も兼ねるため(母は、通常、未成年者の代理人である親権者の立場にあります)、法的には未成年者と母とが利益相反関係にあることになってしまいます。利益相反関係というのは、母の相続分が増えれば、未成年者の相続分が減ってしまうため、利益が相反する関係にあることを指します。
そこで、未成年者については、母とは別の、『特別代理人』という遺産分割のための特別な代理人を選任する必要があります。
また、認知症を患っている相続人がいる場合、認知症の程度によっては、成年後見制度を利用し、選任された成年後見人を代理人として遺産分割をする必要があるケースもあります。

管轄の家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てる

上記2.1で見た必要書類を揃え、【遺産分割調停】の申立書を作成し、これらを家庭裁判所に提出をすることで、調停を申し立てることになります。
その際、どこの家庭裁判所へ【遺産分割調停】を申し立てればいいかというと、申立人以外の相続人の住所地を管轄する家庭裁判所、もしくは相続人で協議して合意した家庭裁判所のいずれかとなります。
なお、申立書等の書類は、窓口へ持参して提出することもできますし、郵送にて提出することも可能です。

申し立てにかかる費用

【遺産分割調停】の申立てにかかる費用としては、まず被相続人1人につき収入印紙1200円が必要となります。
また、連絡用の郵便切手代も必要となりますが、こちらについては、申し立てる家庭裁判所によって額が異なることがありますので、直接申し立てる家庭裁判所へお問い合わせいただくのが良いと思います。

1か月程度で家庭裁判所から呼出状が届く

上記2.2のとおり、【遺産分割調停】を申し立てると、その申立てについて、受け付けた家庭裁判所が書類一式を確認します。
不備等があれば場合によっては、家庭裁判所から必要な修正や追加の書類等を求められることがあります。
こういった裁判所の審査を経て、おおむね1か月程度で家庭裁判所から相手方へ調停期日への呼出状が届くことになります。
呼出状には、遺産分割調停が行われること、第1回期日の日時、場所等が記載されています。裁判所によっては、事情説明書といった書面が添付して、第1回期日までに提出するようにと指示しているケースもありますから、必要に応じて提出書面を準備しておくようにしましょう。

調停での話し合い

第1回期日での調停での話し合いは、調停委員2名(担当裁判官は表に出てこないことが一般です)と各相続人で行われます。第1回期日では顔合わせとして、相続人全員が同席することもありますが、その後は各相続人が交互に調停委員のいる調停室に呼ばれ、それぞれの意見を調停委員に伝え、調停委員が合意に向けて主張の内容や対立などを確認しつつ話し合いを進めていきます。
それぞれの当事者が、1回の調停期日において、2回程度調停委員と話をすることになり、開始から終了までおよそ2時間程度要するのが一般的です。
1回の期日で調停がまとまることは少なく、お互いに合意できるか、これ以上話していても合意できる可能性がほとんどないことが確認できるまで、第2回期日、第3回期回などと調停が続いていくことになります。

調停成立

【遺産分割調停】の期日を何回か重ね、相続人全員が合意できた場合、最後の期日において具体的な合意内容を確認し、【遺産分割調停】が成立することとなります。
【遺産分割調停】が成立すると、最後の期日において確認した具体的な遺産分割の内容が、裁判所の調停調書に記載されることになります。なお、合意の内容によっては、調停調書に記載する部分と、口頭での事実上の約束にとどまる部分とに分けられる可能性もあり、合意内容のうちどこまでが調停調書に記載されるのかは十分に確認するようにしましょう。

成立しなければ審判に移行する

調停で話し合いがまとまらず、裁判所が調停不成立と判断した場合には、『遺産分割審判』へ移行します。この際、改めて『遺産分割審判』を申し立てるという必要はありません。
『遺産分割審判』とは、調停のように相続人間での合意を形成するものではなく、裁判所が判断をくだすという手続きであり、『裁判』のようなものをイメージしていただくと分かりやすいのかと思います。

調停不成立と判断されるタイミング

【遺産分割調停】が不成立で終了となるタイミングは、少し触れたとおり、裁判所が調停不成立と判断したタイミングです。
調停とは、話し合いで合意を目指す手続きであるため、このまま調停を続けていても、合意が成立する見込みが立たないと裁判所が判断すれば、調停不成立となります。
そのため、例えば、10回目までに合意が成立しなければ調停が終了してしまうというような規則等もありません。ただし、一般的には、調停の期日が増え、1年半~2年も調停が続けば、このまま続けていても合意が成立する見込みがないと裁判所に判断される可能性は高いかといえます。

遺産分割調停にかかる期間

【遺産分割調停】の期日は、通常、1か月~2か月に1回程度のペースで開催されます。
家庭裁判所での【遺産分割調停】にかかる期間ですが、上記したとおり、事案の難易度次第ですが、一般的に、2年以内に調停成立、調停不成立で終わることが多いといえます。

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遺産分割調停のメリット

【遺産分割調停】を行うメリットとしては、以下詳しく述べていきますが、感情面の対立等もあり当事者同士の話し合いではできなかったケースでの冷静な話し合いや、主張が対立していた場合に法的に適正に分割されることを期待することができます。

冷静に話合いを行うことができる

遺産分割は、相続人同士で話し合いを進め解決できるケースもあります。
もっとも、相続人同士での話し合いは、感情的に対立していることも多く、相続人間だけでは話し合いをまとめることが難しいことが多々あります。そのような場合には、第三者である裁判所に公平中立な観点から、それぞれの相続人の主張を法的に整理、調整してもらえることが期待でき、皆が冷静に話し合いを進めることができるというメリットがあります。

遺産分割を進めることができる

上述のとおり、相続人同士での話し合いだけでは、それぞれの意見・主張がぶつかり、なかなか妥協点を見いだせず、合意できないまま何年も経過してしまうということがあります。
それに対し、【遺産分割調停】を申立てれば、決まった期日が指定され、期日では毎回話し合いを進めることができますし、上記のとおり、第三者である裁判所に公平中立な観点から、それぞれの相続人の主張を法的に整理、調整してもらえることが期待できます。
さらに、仮に【遺産分割調停】が不成立となっても『遺産分割審判』に移行することになり、最終的には裁判所が判断を下しますので、遺産分割について解決することができます。

遺産分割調停のデメリット

【遺産分割調停】は、上記したとおり、公平中立な家庭裁判所を通じて話し合いを進めていくものです。そのため、当事者の一方に偏った判断がされることは基本的になく、【遺産分割調停】を申し立てても自己に有利な解決を図れるとは限りません。

希望通りの結果になるとは限らない

調停は、参加者がそれぞれの意見を出し合い、これを調整しながら合意形成を目指すという手続きです。これは【遺産分割調停】でも同じです。
そのため、相続人がそれぞれ自己の求める内容を妥協せずに主張し続けていては、調整は不可能といえるでしょう。時には、自分が納得のできる範囲で譲歩することも、合意形成には必要となりますし、調停委員からも指摘があるかと思いますので、その点においては、完全に希望通りの結果になるとは限りません。

長期化する恐れがある

【遺産分割調停】は、期日が1か月から2か月に1回程度しか開かれません。
そのため、解決までには半年以上かかることが多く、解決までにはある程度長期間かかることを認識しておく必要があります。
もっとも、【遺産分割調停】を行うケースとしては、相続人間での話し合いでは解決する見込みがないことがほとんどですから、協議をそのまま続けるというよりかは解決に資するということもいえるかと思います。また、1か月から2か月に1回だけ話し合いを行うことにより、冷静な話し合いを行うことができるようになったり、長期化することによってお互いの譲歩の余地を生み出すというメリットもあるといえます。

基本的に法定相続分の主張しかできない

【遺産分割調停】は、話し合いの手続きであり、取得する相続分について必ずしも法定相続分にとらわれる必要はありません。
しかし、【遺産分割調停】では、特別受益、寄与分といった相続分の修正が認められないときは、法定相続分での分割となることが一般です。「長男だから遺産を全て引き継ぐべきだ」となどという主張をしても認められないでしょう。

遺産分割調停で取り扱えないもの

相続に関連する問題であれば、全て【遺産分割調停】では取り扱えるというものではありません。
【遺産分割調停】は、基本的には、「遺産をどのように分けるか」ということに焦点を当てて調停を進めていくことになります。
例えば、①被相続人の生前、多額の使途不明金があり、その使途不明金に関わったと思われる相続人に対する返還請求(不当利得返還請求権又は不法行為による損害賠償請求権)は、別途、地方裁判所に、民事訴訟を提起する必要があります。
また、②故人が書いたとされる遺言書が無効化有効かといった遺言書の有効性の問題なども、遺言無効確認などの調停・訴訟提起が必要になります。
これらについては、【遺産分割調停】で取り上げることが全く許されないというわけではありませんが、これらの問題について当事者間が合意できない場合、遺産分割の審判において裁判所が判断することができず、別途民事訴訟等を起こす必要があるため、【遺産分割調停】において、当事者間の合意の見込みがないと判断された時点で、調停や審判で扱える問題ではないとされてしまいます。

遺産分割調停を欠席したい場合

家庭裁判所での【遺産分割調停】は、当然ながら裁判所が空いている平日に開催されます。

仕事等で指定された調停期日に出席できない場合、期日変更を求める他、期日を欠席するという選択肢もあります。 もっとも、期日を欠席すると、期日で必要な主張ができなかったり、場合によっては、話し合う気がないということで調停成立の見込みがないと裁判所に判断されて審判に移行してしまうリスクがあります。
【遺産分割調停】において主張したい事項があれば、代理人を選任する等して、期日に欠席しないようにすべきです。また、欠席を続けた場合、自己に有利な判断は基本的になされないというリスクがあることも理解しておく必要があります。
なお、【遺産分割調停】が行われる家庭裁判所が遠方で出席しにくい場合には、電話会議システムによる手続参加も裁判所に上申すべきでしょう。

遺産分割調停の呼び出しを無視する相続人がいる場合

裁判所からの【遺産分割調停】への呼び出しを相続人の一部が何回も無視し続ける場合には、話し合いの余地がない、話し合う気がないものとして、調停不成立にて終了するでしょう。
もっとも、その場合でも『遺産分割審判』に移行するでしょうから、審判については相手方が全く出てこない場合でも裁判所の判断を受けることができます。
そのため、最終的に、遺産分割についての解決を図ることはできるでしょう。

遺産分割調停は弁護士にお任せください

以上、【遺産分割調停】について解説してきましたが、【遺産分割調停】は、申立書の作成、必要書類の取り付け等の最初の段階から、調停への毎回の出頭、調停の場での立ち振る舞い、法的に主張を構成して自己に有利なように手続きを進めていかざるをえず、時間と労力、また法的知識が必要となる手続きです。
相続問題や遺産分割問題に精通した弁護士にご依頼いただければ、申立書や主張書面の作成、戸籍の収集、財産資料など必要書類の取り寄せも弁護士が代理で行い、調停の出頭にも弁護士が同席しますから、調停の場での調停委員からの指摘等も適切に対応することが可能となるでしょう。
その結果、自身の意見・主張を効果的に調停委員に理解してもらうことも可能です。また、ご自身が万一出頭できない場合には、裁判所が認めれば代理人として弁護士のみが調停に出頭することともできます。
中には、「後々、不利になったら弁護士に相談すればいい」というお考えの方もいますが、既に進んだ調停を取り返すことは難しく、時すでに遅しとなってしまうおそれもあります。
【遺産分割調停】の申立てを検討されている方、相続人間での協議がなかなか整わない方、【遺産分割調停】が既に始まっている方、相続については様々な問題と向き合う必要がありますから、相続問題や遺産分割問題に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士に一度ご相談ください。

神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介
監修:弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長
保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:51009)
兵庫県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。