監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士
相続において【遺産分割協議】は避けて通れない重要な手続です。
相続人が2人以上存在する場合、【遺産分割協議】を行わなければなりませんが、【遺産分割協議】を成立させておかないと、いつまでも遺産は共有のままの状態が続いてしまい、二次相続、三次相続(いわゆる数次相続)の発生によって、権利関係は著しく複雑化します。
このようなことが起こらないように、【遺産分割協議】について、できる限り円滑に進むよう、相続人間で納得のいく協議が早期になされる必要があります。
そこで、【遺産分割協議】において気をつけるべき点や注意点について、相続問題、遺産分割協議の問題に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が、【遺産分割協議】の注意点、ポイント等について詳しく解説していきたいと思います。
目次
遺産分割協議開始前に確認しておくこと
まずは、【遺産分割協議】の流れを確認しておきましょう。
【遺産分割協議】とは、亡くなられた方(以下、「被相続人」といいます。)の遺産の分割方法を決めるため、相続人間で行う話し合いのことです。
この【遺産分割協議】は、基本的に、①相続人調査、②相続財産の調査、③遺産の分割方法についての話合い(遺産分割協議)という流れを経て進んでいきます。
そのため、【遺産分割協議】にあたっては、話し合いの前提として、①相続人として誰がいるのかを把握し、また、②遺産がどれくらいあるのかを確認しておくことが重要です。
以下、詳しく見ていきましょう。
相続人全員がそろっていることを確認する
まずは、①相続人調査を行いましょう。
遺産分割協議で成立した内容が有効になるためには、相続人全員の合意が必要になります。そのため、まずは法定相続人が誰であるか、相続人調査を行い、漏れのないように正確に調べる必要があります。また、相続人として誰がいるかは、ご自身の相続分にも影響しますので、【遺産分割協議】を始める前に、誰が相続人にあたるのかを確認しておくことはとても重要です。
相続人として誰がいるかの調査は、亡くなられた方(被相続人)が出生してから亡くなるまでのすべての戸籍謄本類を取り寄せて行います。
相続する財産を把握できているか確認する
①相続人調査が完了したら、次は、②相続財産の調査を行いましょう。
【遺産分割協議】にあたっては、遺産がどれくらいあって、それをどう分けるかを話し合っていくために、分割する遺産がどのくらい残されているのかを確認します。相続財産に漏れがあると、【遺産分割協議】の無効ややり直し等のトラブルに発展しかねませんので注意が必要です。
調査する対象は、現金・預貯金・不動産・株式等の積極財産(プラスの財産)はもちろん、借入金・ローン・損害賠償義務・税金等の消極財産(マイナスの財産)も含めたすべての相続財産になります。
調査方法としては、⑴被相続人が居住していた家の中をくまなく探したり、被相続人宛の郵便物を調べる、⑵役所で名寄帳(個人ごとに所有している不動産についてまとめたもの)を調べる、⑶法務局で登記簿(地番、家屋番号等ごとに不動産の権利関係をまとめたもの)を調べるといったことが良く行われます。
ひとしきりの調査を終えたら、情報を共有して後の話合いや相続手続をスムーズに進められるよう、財産目録を作成し、書面でまとめておいた方が良いでしょう。
遺産分割協議の流れ
上記1でも触れましたが、遺産分割協議の流れは、①相続人調査、②相続財産の調査、を経て、③遺産の分割方法についての話合い(遺産分割協議)に進みますが、基本的には、以下のような手順で進められることが多いです。
- 相続人の範囲を確定する
- 相続分を確定する(法定相続分か、遺言書などで指定された相続分があるかなど)
- 遺産の範囲を確定する
- 遺産を評価する
- 特別受益の額を確定する
- 寄与分を確定する
- 具体的相続分を確定する
- 遺産分割取得分の額を算定する
- 遺産分割方法を決定する(不動産がある場合などは代償分割にするのかなど)
- 遺産分割協議書を作成する
ただし、相続人間であまり争いにならず、調停外で協議する場合は、⑸特別受益や⑹寄与分等について取り上げないまま【遺産分割協議】が成立するケースも多いです。
遺言書がある場合の遺産分割協議
遺言とは、遺言者の死亡によって、遺言者が生前に行った意思表示についてその意思通りの効果を生じさせるというものです。
そのため、遺言があれば、遺言の内容に従って遺産分割を行っていきます。そのため、基本的に遺産分割協議を行う必要はありません。
しかし、遺言の内容などによっては、遺言に不満を抱く方もいらっしゃるでしょう。
このような場合、相続人全員の合意を得ることができれば、遺産分割協議を行って、遺言の内容に従わずに、遺産の分け方を決めることができます。
以下、詳しく見ていきましょう。
遺言書が詳細に書かれており、内容に不満がなかった場合
遺言書が詳細に、かつ、具体的に記載してある場合には、基本的には遺言書は有効と考えられます(なお、自筆の署名等の他の要件も充足する必要があります)。
そして、相続人が全員、遺言書が有効という前提で遺言書の内容に納得していれば、遺言書の内容に従って遺産が承継されることになります。
そのため、この場合、【遺産分割協議】は不要といえます。
遺言書の内容に不満がある場合
遺言書の内容に不満がある場合であっても、遺言が有効であれば遺言通りの内容で遺産が分けられていくことになります。
ただし、以下の①~③の事情があれば、遺言書の内容とは別の内容で遺産分割協議を行うことができるとされています。
ただし、①遺言者が遺産分割協議を禁じておらず、②受遺者(遺言より財産の分与を受けた者)や遺言執行者も同意しており、③相続人全員が遺言内容を知った上で、これとは異なる遺産分割協議を行うことに合意している場合ということが必要です。
もっとも、受遺者が自ら利益を手放してまで、他者の取り分を増やすような協議のやり直しに合意するというのは想定し難いといえます。
割合のみで具体的な内容が書かれていなかった場合
遺言があっても、遺産の分割方法について、相続する「割合のみ」しか指定されていなかったケースもあります。
例えば、「妻に遺産の2分の1、子Aに遺産の4分の1、子Bに遺産の4分の1を相続させる」と遺言に記載されているようなケースです。
ただし、この場合、各相続人が遺産のうち何を相続すれば良いのかがわかりませんから、【遺産分割協議】を行い、各相続人が指定された割合でどの遺産を相続するのか、具体的に協議していく必要があります。
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遺産分割協議で話し合う内容
【遺産分割協議】では、それぞれの遺産を誰がどのように取得するかという点で、それぞれの希望を話し合います。
預貯金のように分けやすいものであれば、割合にしたがって金額を調整するだけですが、不動産や株式、事業用財産等、分け合うのが容易でないものが含まれていると、話し合うべき内容は複雑になっていきます。例えば、不動産を単独で取得する場合、他の相続人よりも取得分が大きくなってしまうことが多いため、誰が取得するのか、その場合の代償金はどうするのか等が問題になりうるからです。
この場合でも、遺産の中に相続人間の不平等を解消するだけの現預金があれば問題ないのですが、現預金が十分にない場合には、相続人が自身の財産から代償金を拠出しなければならない場合があります。
遺産に不動産などが含まれる場合の分割方法については詳しくは以下の記事で解説していますので、ご参照ください。
話し合いは電話やメールでも構わない
こうした【遺産分割協議】は、相続人全員が必ずしもどこかに集まって対面で行わなければならないわけではなく、電話やメールでやりとりすることも可能です。
ただし、最終的には相続人が話し合って決めた内容が遺産分割協議書に明確に現れなければなりませんし、相続人間でお互い納得のいく結論を出すためには、十分な協議が必要なケースも多いです。
話し合いがまとまったら遺産分割協議書を作成する
相続人間で話し合うなどして、相続人全員が遺産分割の内容に納得し合意に至った場合には、【遺産分割協議】の内容がきちんと反映された『遺産分割協議書』を必ず作成するようにしましょう。
【遺産分割協議】は、相続人全員の合意(=意思表示の合致)によって成立しますが、どのような合意が成立したかを証明するものがなければ、言った言わないの争いになり、結局、【遺産分割協議】がいつまでも解決しないことになってしまうためです。
また、遺産に不動産が含まれており、法定相続分とは異なる相続分で遺産分割を行う場合(例えば、代償分割で、特定の相続人が不動産を取得する場合など)には、遺産分割協議書がなければ相続登記を行うことができないので、【遺産分割協議書】の作成は必須です。
遺産分割協議証明書でもOK
「遺産分割証明書」「遺産分割協議書証明書」とは、それぞれの相続人が、【遺産分割協議】が整ったこととその内容を証明する書類です。
【遺産分割協議】で話し合って成立した内容を書き、相続人が「この内容で間違いがありません」として署名押印し、中身が正しいことを証明します。
『遺産分割協議書』と同じく、「成立した遺産分割協議の内容を証明する書類」であり、不動産の相続登記(名義変更)の際などにも使えます。
『遺産分割証明書』を用いるケースとしては、相続人が何人もいて、遠方にいるために一堂に会せない場合など遺産分割協議書への署名・押印等の取り付けが大変な場合が挙げられます。
『遺産分割協議書』の場合、1つの書類に相続人全員が署名・押印します(各自が原本を保管するので、相続人の数だけ同じ協議書を作成します)が、「遺産分割証明書」は、相続人ごとに個別の書類に署名・押印するものであり、相続人全員分を取りまとめた時点で完了となるため、多少手間を省くことができるケースもあるといえます。
遺産分割協議がまとまらなかった場合
これまで何度も述べてきているとおり、【遺産分割協議】は、相続人全員が合意しなければ成立せず、それぞれの希望の調整が困難であったり、感情的な対立などでそもそも話し合いすら困難な場合等もありますので、そう簡単に成立するわけではありません。
相続人間で【遺産分割協議】が成立しなかった場合、遺産分割調停を申し立てることになり、裁判所に間に入ってもらい、引き続き協議を進めることになります。
遺産分割協議で揉めないために、弁護士にご相談ください
これまで、【遺産分割協議】の流れを踏まえた注意点やポイントなどを解説してきました。
【遺産分割協議】は、①相続人調査、②相続財産の調査、③遺産の分割方法についての話合い(遺産分割協議)を経て進めていくことになりますが、①相続人の確定のために戸籍を収集したり、②遺産がどれくらいあるのか調査したり、その遺産を財産目録にして表したり、こういった手続だけでも、ご自身で行うのは骨が折れる大変な作業だと思います。
また、③【遺産分割協議】は、親子間、兄弟間などで行うことが多く、親族同士の利害対立に直面することも多々あります。遺産が多い、少ないなどにかかわらず、近しい関係にあればこそ、長年抱えてきた他の相続人への不満が噴出し、感情的対立を深めたまま長年解決できていないというケースも散見されます。
その上、相続人の数が多ければ多いほど、それぞれの利害の調整は困難になりますし、不動産のようにそれ自体を分割することが容易でないものや、会社や事業の経営権に関する問題等が絡むと、その相続問題の解決はとても複雑であり、専門的な知識や経験が要求されます。
このように、遺産分割の問題は、ご自身の力だけでの解決には限界のあるものですので、少しでも不安を感じているなら、一度、相続問題、遺産分割問題に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士に相談していただき、適切な方針の選択や、助力を得ておくことを強くお勧めします。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)