遺産分割協議はやり直しできる?

相続問題

遺産分割協議はやり直しできる?

神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介

監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士

相続人間で「遺産分割協議」を終えて、これから遺産を具体的に分割しようとしたところ、例えば、他にも(新たに)遺産が見つかった、他の相続人に騙されていた、などの特殊な事情をもとに、もう一度「遺産分割協議」をやり直したいと思われる方も一定数いらっしゃるかと思います。

ただ他方で、「遺産分割協議」として一度成立したものをやり直すことは容易ではありません。

そこで、本記事では、遺産問題、相続問題に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が、以下、「遺産分割協議」のやり直しにスポットを当てて解説をしたいと思いますので、ぜひご参考にしてください。

遺産分割協議がやり直せるケース

「遺産分割協議」は、相続人全員の合意によって成立してします(民法907条)。

そのため、いったん相続人全員が合意して成立した「遺産分割協議」は、原則として覆すことができず、当然やり直しも認められません。

ただし、やり直しを認めるべき特別の事情がある場合には、やり直しが認められることとなります。

以下、詳しく見ていきましょう。

なお、「遺産分割協議」については、以下の記事でも解説しておりますのでぜひご参照ください。

遺産分割協議について詳しく見る

全員がやり直しに合意した

「遺産分割協議」をやり直しできるケースとしては、相続人全員がやり直しに合意した、という点が挙げられます。

「遺産分割協議」は、上記のとおり、相続人全員の合意によって成立しますが(民法907条)、このように、2人以上で合意したことを、その後再度内容を変えるにあたっては、基本的には、関与した当事者全員で再度合意する必要があります。

そのため、相続人全員の合意により「遺産分割協議」が成立した後、合意をやり直すには相続人全員が、「遺産分割協議」をやり直すことに同意する必要があります。

そのため、一部の相続人が合意内容を修正したりやり直したりしたいと主張するだけではダメで、相続人全員が同意してはじめて、「遺産分割協議」をやり直すことができる点にはご留意ください。

遺産分割協議後に騙されたと気づいた・勘違いしていた

「遺産分割協議」をやり直しできるケースとしては、遺産分割協議後に騙されたと気づいた、または、勘違いしたケースが挙げられます。

例えば、相続人の一人から重要な財産の価値について嘘の説明をされていた、だとか、そもそも遺産がないと嘘をつかれたことで不利益な内容の遺産分割に合意してしまった、というような場合(詐欺(民法96条))や、騙されておらずとも遺産の価値や存在について誤解していた場合(錯誤(民法95条))には、「遺産分割協議」に瑕疵があるとして、取消しを主張できます。

なお、こうした理由で取り消す場合は、取消す原因があることを知ってから5年、知らなかったとしても「遺産分割協議」から20年が経過すると、「遺産分割協議」を取り消すことはできなくなってしまうので注意が必要です。

遺産分割協議が無効になるケース(やり直しが必須になるケース)

上記で見たのは、「遺産分割協議」が一旦成立したものの、諸事情によって覆す、というような類型となりますが、そもそも、「遺産分割協議」が有効に成立していない、つまり無効であるケースも存在します。

ここでも、「遺産分割協議」のやり直しが必要となりますが、成立したものを覆すのではなく、そもそも成立していないため、再度有効な「遺産分割協議」にすべくやり直しする、というものです。

参加していない相続人がいる、新たに相続人が現れた

「遺産分割協議」が有効に成立していないケースとしては、参加していない相続人がいる状態で「遺産分割協議」をした場合です。

「遺産分割協議」は、相続人全員での合意がなければそもそも有効に成立しません。

仮に、生前に存在を知らなくても、法定相続人の地位にある限り、その人物も参加していなければ、その人物以外で協議をしたとしても、「遺産分割協議」はまだ成立していないということになります。

したがって、実は、他にも相続人が存在していた、参加していない相続人がいるという場合、その者を「遺産分割協議」に加えてやり直しが必要ということになります。

認知症等、意思能力のない人が参加していた

また、「遺産分割協議」が有効に成立していないケースとしては、認知症等意思能力のない人が参加していたケースが挙げられます。

上記のとおり、「遺産分割協議」は、相続人全員での合意がなければそもそも有効に成立しないのですが、合意をするためには、前提として、意思能力(有効に意思表示する能力)が必要となります。

逆に言えば、意思能力を欠いた人の法律行為は無効であり(民法3条の2)、遺産分割協議も法律行為に分類されます。

そうすると、認知症等により意思能力を欠いた人が「遺産分割協議」に参加していた場合も無効になりますので、後見人等を選任した上で、その後見人を加えて「遺産分割協議」のやり直しが必要となります。

遺産分割協議後に新たに遺産が見つかった場合は?

「遺産分割協議」をした後に新たな遺産・相続財産が見つかったときは、上記と同様にやり直されなければならないのでしょうか。

結論としては、新しく見つかった遺産のみを別途協議すれば足りるということで、わざわざこれまでに成した「遺産分割協議」を無効などとして扱う必要はない、ということになります。

そのため、これまでに成した「遺産分割協議」をわざわざやり直す必要はなく、新たに見つかった遺産についてのみ協議すれば足ります。

もちろん、相続人全員が同意すれば、このような場合であっても、新たに発見された財産も含めてすべての遺産分割を再度やり直すことができます。

やり直したいけど相続人の中に亡くなった人がいる場合

「遺産分割協議」をやり直したいけれども、参加した相続人の中に、その後亡くなってしまった人がいる場合にはどのようにすべきでしょうか。

この場合には、その亡くなった相続人にも相続人がいるはずでしょうから、その亡くなった相続人の相続人を含めた相続人全員の同意を得ることで、再度、「遺産分割協議」をやり直すことができます。

遺産分割協議のやり直しはいつまで?時効はある?

これまで、「遺産分割協議」のやり直しが必要なケースを見てきましたが、このやり直しはいつまでにしなければならない、というような期限はあるのでしょうか。

この点、「遺産分割協議」のやり直しについては、基本的には、期限は設けられておりません。

ただし、「遺産分割協議」をやり直す理由として、上記で触れた「詐欺」や「錯誤」等の「遺産分割協議」の取消しがあると主張する場合は、詐欺等をされたことを知った時から5年が過ぎた、また、仮に知らなくても20年が過ぎた場合は、やり直しができません(民法126条)。

遺産分割協議のやり直しについては、以下の記事でも解説しておりますのでぜひご参照ください。

遺産分割協議のやり直しについて詳しく見る

遺産分割協議をやり直す場合の注意点

それでは、「遺産分割協議」をやり直す場合には具体的にはどのような点に注意していくべきか、以下見ていきましょう。

遺産分割のやり直しには贈与税がかかる

注意点の1つ目としては、「遺産分割協議」のやり直しの際に、贈与税がかかるケースがある、という点です。

まず、「遺産分割協議」に詐欺や錯誤などの取消事由や相続人全員が参加していないなどの無効事由があることでやり直しをする場合は、初めから「遺産分割協議」がなかったとみなされるため、原則、新たに贈与税等が発生することはありません(但し、相続税の修正申告を要する可能性があります。)。

他方で、相続人全員の合意により「遺産分割協議」をやり直す場合は、贈与税等が発生するリスクがあるので注意するようにしましょう。

再協議によって従前とは異なる人に財産を相続させる場合、税務上「贈与」と取り扱われるからです。

不動産がある場合は不動産取得税や登録免許税が発生する

遺産に不動産が含まれており、その不動産を特定の相続人が取得したものの、再度「遺産分割協議」によって別の相続人に取得させる場合、不動産登記もやり直す必要があるため、別途、登記変更のための登録免許税が発生しますので、この点も注意するようにしましょう。

やり直しができないケースはある?

これまで「遺産分割協議」のやり直しができるケース等を見てきましたが、そもそもやり直しができないケースもあるのでしょうか。

この点、「遺産分割協議」ではなく、遺産分割が「調停」や「審判」にて決まった場合、その後「遺産分割協議」をやり直すことはできないでしょう。

裁判所を介して遺産分割を決めたということで、通常の「遺産分割協議」のように簡単にやり直せないものとご理解いただければと思います。

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遺産分割協議のやり直しについては弁護士にご相談ください

これまで「遺産分割協議」におけるやり直しの注意点などについて解説してきました。

「遺産分割協議」は、将来的にトラブルになることを防ぐためにも、また、第三者にも内容を証明する必要があるので、事前に内容や作成過程に不備がないかしっかりと確認しておくことが重要です。

しかし、事後的に判明した場合や、他の相続人から騙された場合など、それぞれの具体的な事情に応じて、「遺産分割協議」のやり直しの必要性は異なり、注意すべきポイントなども多岐にわたります。

そのため、「遺産分割協議」のやり直しは、専門家である弁護士に相談すべきです。

この点、弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士は、これまで数多くの、遺産分割協議問題、相続問題を解決してきた実績がありますので、ぜひ一度ご相談ください。

神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介
監修:弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長
保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:51009)
兵庫県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。