監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士
親族が亡くなった際に、相続財産の中に家や土地、山などの不動産がある場合は、相続人においてどのような手続きを取っていくべきか悩まれる方もおられると思います。
基本的には、相続人間で、遺産分割において不動産を取得する者を決めたうえで、その者に所有権を移転させるために、相続登記をする必要があります。
相続登記をすることで、第三者から見ても、その人が所有者なのかと明らかになりますし、相続登記が完了していなければ、当該不動産の管理処分に支障が出るなど、多くの不都合が生じます。また、今後は法改正により相続登記が義務化されることになります。
そこで、以下では、相続問題、遺産分割問題に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が、不動産の相続や相続登記について解説したいと思いますので、ぜひご参照ください。
目次
家屋の相続手続きには相続登記が必要
家屋、土地などの不動産を相続した場合、相続によって家屋、土地が自分のものになったことを対外的に、第三者に明らかにするため、相続登記をしておく必要があります。
相続登記をしておかないと、登記簿上、亡くなった方のままの名義が表示されたままであり、相続人全員で家屋を共有している状態となってしまい、相続した家屋を売却したり、担保にすることができないほか、家屋に居住する場合であっても自身の家屋に対する権利が不安定な状態となります。
そのため、相続登記は、家屋を相続することが決まった後、自分のものであることを明らかにすべく、速やかに行うべきといえます。
相続登記をするとできるようになること
相続登記をすることで、自身が家屋の所有者であることを明確になり、その家屋の管理処分が円滑に行うことができます。
例えば、相続した後、その家屋を売却する際には買主に所有権登記も移転することになりますが、相続登記がなければ買主への所有権移転登記を行うことができません。
また、売却に限らず家屋を他人に賃貸する場合にも、相続登記がなければ、被相続人が所有者のままであるため、借主としては、本当に借りていいのかと不安になってしまうでしょう。
さらに、相続登記の未了のうちに、他の相続人の債権者から家屋を差し押さえられるリスクを回避することもできるようになるでしょう。
相続登記の手続きに期限はある?
かかる相続登記について期限があるのか、という点についてですが、2022年時点では期限はないものの、2024年4月1日からは相続登記が法的義務になります(改正後の不動産登記法76条の2)。
つまり、相続により不動産の所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から「3年以内」に、所有権の移転の登記を申請しなければなりません。
これに違反すると罰則規定もありますので、2024年4月以降は相続登記についての注意が必要といえます。
家屋の相続手続きの流れ
家屋などの不動産に関する相続の手続の流れはおおむね以下のとおりです。
①相続人が一人の場合、家屋を含めた相続をするかどうかを決める。相続人が複数いる場合には、誰が相続をするかを決める(遺産分割協議を行う)
②家屋を相続する相続人が決まった場合、相続登記に必要な書類を集める(登記簿や固定資産評価証明書、遺産分割協議書など)
③必要書類とともに、登記申請書を法務局に提出する
④相続登記完了後、窓口か郵送にて登記識別情報を受け取る
なお、遺産分割協議については、以下の記事でも詳しく解説しておりますので、ぜひご参照ください。
遺産分割協議とは|揉めやすいケースと注意点相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
相続登記の必要書類
相続登記は、相続の対象となっている家屋などの不動産が所在する場所を管轄する法務局に対して申請することになります。
法務局に申請をする際には申請書のほか、登記簿などの複数の必要書類を準備する必要がありますので、詳しく見ていきましょう。
基本的に必要なもの
相続登記の申請には、基本的には以下のような書類が必要となります。
- 当該不動産の登記事項証明書
不動産の特定のために必要となります。 - 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
相続人を確認するために必要となります。 - 被相続人の住民票除票等
被相続人を特定するために必要となります。 - 相続人全員の戸籍謄本
相続人であること及び存命であることを確認するために必要となります。 - 遺言書もしくは遺産分割協議書
家屋などの不動産を取得する者を特定するために必要です。 - 遺産分割協議書の場合には相続人全員の印鑑登録証明書
遺産分割協議書には相続人全員が実印で押印する必要があるため、全員が合意していることを示すために必要となります。 - 家屋などの不動産の固定資産評価証明書
相続登記の際に必要となる登録免許税を計算するために必要となります。
遺言書がない場合の追加書類
上記が相続登記に必要な基本的な書類ですが、これで足りるかは具体的な事情によって異なります。
例えば、遺産分割調停や審判における調書に基づく場合は、その調書の謄本を添付しますが、審判の場合は確定証明書も必要になります。
遺言書があり、遺贈がない場合の追加書類
遺言書がある場合で、遺贈がないケースとしては、以下のものが考えられます。
①法定相続分どおりに相続することをあえて遺言書に記載しているケース
②特定の相続人の一部に家屋を相続させる旨の遺言が記載されているケース
が考えられます。
①の場合、遺言書を必要書類として添付することになるでしょう。
②の場合には、相続させる旨の遺言書があるため、相続を受けた相続人は単独で相続登記を行うことができ、相続登記の必要書類として遺言書を用意する必要があります。
なお、遺言書が「自筆証書遺言」の場合、裁判所での「検認」を受ける必要があります。
「自筆証書遺言」や「検認」については、以下の記事でも詳しく解説しておりますので、ぜひご参照ください。
遺言書があり、遺贈がある場合の追加書類
遺言書があり、遺贈がある場合には、「遺言執行者」によって相続登記の手続きを行うことが必要となります。 そのため、「遺言執行者」を指定した遺言書や家庭裁判所で遺言執行者を指定した遺言執行者選任の審判書が追加書類として必要となります。他方で、「遺言執行者」の指定のないまま相続登記をする場合には、相続人全員での共同申請とする必要があり、相続人全員分の印鑑証明書が必要となります。
なお、「遺言執行者」については、以下の記事でも詳しく解説しておりますので、ぜひご参照ください。
遺言執行者とは書類の郵送先
上記の書類の提出先ですが、いずれも当該不動産の所在地を管轄する法務局に提出する必要があります。
なお、窓口に提出する方法だけではなく、当該法務局宛の書留郵便による郵送でも申請することが出来ます。
何を相続するのかによって相続登記の範囲が異なる
不動産といっても、土地、建物、マンションなど様々なものがあり、何を相続するのかによって相続登記の際に注意すべき点があるので、見ていきましょう。
相続する家屋が戸建ての場合
まず大前提として、土地と建物は別物として扱われます。
相続する不動産が戸建て家屋の場合、自身の土地に家屋を持っていることが多いでしょうが、まずは、家屋だけでなく、土地の所有者も被相続人であるのかを確認しましょう。
そして、被相続人が土地及び家屋の所有者である場合には、家屋と土地の両方を相続するようにしましょう。
そして、家屋の相続をする場合には、家屋だけでなく、土地の相続登記もセットで行うことを忘れないようにしましょう。
戸建ての相続の際には土地を相続するにあたっての相続税が減免される特例がありますので利用できるかどうかを忘れずに確認しましょう。
分譲マンションを相続する場合
分譲マンションの場合も同様に建物と土地とは別個に考える必要があります。
建物の専有部分については、被相続人が単独で所有していることが多いですが、敷地権については他の入居者との共有となっています。
敷地については、建物が1つであったとしても複数の土地に跨っていることもよくあるため、複数の敷地権がある場合には、すべてについて相続登記を行うようにしましょう。
相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
手続きせず空き家として放置したらどうなる?
遺産分割が行われず、空き家の状態が続いていた場合、仮に当該家屋の倒壊によって近隣住民に損害が生じたとすれば、相続人全員が損害賠償をする責任を負う可能性があります。
また、相続が生じた後も、遺産分割をせず、共有状態のまま放置すると、時間の経過とともに相続人の死亡と相続が繰り返され、権利が細分化し、相続人の数が膨大で話し合いをすることも困難という状況を招来します。
上記したとおり、相続登記の手続が法的義務化されることもあるため、相続登記を放置しないようにしましょう。
家屋の相続は揉めやすいので弁護士への相談をお勧めします
今回は、不動産に関する相続登記について解説してきましたが、相続登記を行うにあたって、そもそも「遺産分割協議」を行う必要があり、その協議において不動産の取得者が決まっている必要があります。
不動産は良くも悪くも大きな財産であるため、時には奪い合い、時には押し付け合い、紛争に発展する可能性が高い財産です。分割方法、評価方法など一つ一つが揉め事の種になります。
相続財産に不動産がある場合には、相続人本人同士で話し合い、揉め事が大きくなる前に、一度相続問題、遺産分割問題に精通した専門家に相談した上で、それぞれのケースで適切な進め方を検討されることをお勧めします。
この点、弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士は、これまで数多くの相続問題を解決してきた実績がありますので、ぜひ一度お問合せください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:51009)