監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士
【自筆証書遺言】は、自分1人で作成することができるため、一見簡単に作成できると思われるかもしれません。
しかし、【自筆証書遺言】は、作成にあたってのルールが厳格に法律で定められており、そのルールに従わないと無効にされるおそれがあります。そして、【自筆証書遺言】が曖昧に作成されてしまうと、遺言の有効・無効について、遺言者の死後に相続人間での大きな紛争の種になるおそれもあるため、その作成には注意が必要です。
そこで、【自筆証書遺言】とは何か、どのような点を注意すれば良いのかなどについて、相続問題、遺言問題に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が、以下解説していきますので、ぜひご参照ください。
自筆証書遺言とは
【自筆証書遺言】とは、自分1人で作成できる方式の遺言書です。
遺言書の方式は大きく分けて3種類あり、【自筆証書遺言】、公正証書遺言、秘密証書遺言があります。
このうち、【自筆証書遺言】のメリットは、公証役場など第三者の関与もなく、また費用もかからず、自分1人で作成できるところにあります。
ただし、【自筆証書遺言】の作成方法は民法で定められており、そのルールを守っていないと無効になるおそれがあります。
そこで、以下、【自筆証書遺言】が有効になるためのルールを紹介していきます。
なお、遺言書の種類等については、以下の記事でも詳しく解説しておりますので、ぜひご参照ください。
自筆証書遺言が有効になるための4つの条件
一つでも守られていないと無効になるので注意が必要。
【自筆証書遺言】が有効になるためのルールは、以下の4つです。
①遺言書の全文が字書されていること
*ただし、以下で述べるとおり、財産目録については自筆でなくても問題ありません。
②作成日付が、特定できる日付で、字書されていること
*例えば、「●月末日」は問題ありませんが、「吉日」は問題があります。
③遺言者氏名が字書されていること
④捺印がなされていること
これらは基本的なルールであり、この4つのうち、1つでも守られていないと、遺言が無効となってしまうので注意が必要です。
パソコンで作成してもOKなもの
民法が改正され、遺言書の中の「財産目録」を作成する際のルールが少し緩和されました。
具体的には、【自筆証書遺言】中の「財産目録」は、字書である必要がなくなりました。
「財産目録」とは、遺言者の財産について、例えば不動産や預貯金などその種類や内容などを記したものです。
この「財産目録」について、パソコンを使用して記載することや、不動産登記事項証明書や預貯金通帳のコピーを添付する方法で作成することができます。
ただし、パソコンで作ったり、コピーを添付して作成する際には、遺言者は、財産目録の全てのページに署名押印をする必要があるので、注意しましょう。
自筆証書遺言の書き方
では実際に【自筆証書遺言】を作成するにあたって、どんな点に気を付ければよいのでしょうか。
以下では、【自筆証書遺言】作成にあたって押さえるべきポイントや注意点を押さえつつ、【自筆証書遺言】の書き方について紹介していきます。
遺言書の効力などについては、以下の記事でも詳しく解説していますので、ぜひご参照ください。
まずは全財産の情報をまとめましょう
まずは、預貯金、不動産、株・有価証券など遺言者の全ての財産の情報をまとめることから始めましょう。
預貯金については、金融機関、支店、預金種別(普通・定期など)、口座番号、不動産については、所在や地目など登記に記載された情報があるとよいでしょう。また、株式については、銘柄、株数など基本的な情報を押さえましょう。また、プラスの財産だけでなく、借金等のマイナスの財産についても、忘れず情報を集めましょう。
これらの情報が集まったら、財産の情報をまとめた「財産目録」を作成するとよいでしょう。
上記したとおり、「財産目録」はパソコンでも作成できますが、その場合は、「財産目録」の全てのページに署名・押印が必要となる点は注意が必要です。
「財産目録」については、以下の記事でも詳しく解説しておりますので、ぜひご参照ください。
誰に何を渡すのか決めます
財産の情報がまとまったら、次に、その財産について誰に何を渡すのかを決め眞粗油。
例えば、自宅については長男に相続させる等、個別に財産を誰に相続させるかを決めます。
財産として何があり、それを誰に渡すかを構想する段階であれば、自筆にこだわらずパソコンを使用しても問題ないので、パソコンである程度の土台を作成していくのも良いでしょう。
後述するように、【自筆証書遺言】は訂正方法にもルールがあるので、ある程度構想を練って土台を作ってから字書する方が、訂正の手間も減らせるので、土台の作成はおすすめです。
縦書き・横書きを選ぶ
誰にどのような財産を相続させるかが決まったら、【自筆証書遺言】の作成に入っていきます。
【自筆証書遺言】の書き方(縦書き・横書き)については、法律上のルールはありません。
そのため、縦書きでも横書きについては、書きやすい方でかまいません。
もっとも、遺言書であることを明確に伝えるため、題名などとして「遺言書」という記載は入れるようにしましょう。
代筆不可、すべて自筆しましょう
【自筆証書遺言】は、自筆という名前のとおり、遺言者が「自分」で「手書き」する必要があります。
【自筆証書遺言】は、法律で厳格なルールが決められており、全文(上記したとおり、財産目録は除きます。)を遺言者が自筆しなければ無効となってしまいます。
もちろん、代筆も認められません。もし、怪我や病気など何らかの理由で文字が書けない状態なのであれば、「公正証書遺言」を活用するようにしましょう。
遺言書の用紙に決まりはある?
遺言を記載する用紙については、法律上のルールはありません。
そのため、用紙の種類やサイズなどは問われず、便箋、罫紙など文字が書けるものであれば問題ないといえます。
もっとも、遺言書は、その後の相続に大きな影響を与えるものですので、きちんとした用紙に書くべきといえますので、チラシの裏などへの記載は避けましょう。
最近は、書店や文具店などで、遺言書のキットが売られているため、それを活用してみるのも1つです。
筆記具に決まりはある?
遺言を記載する筆記具についても、法律上のルールはありません。
ただ、鉛筆や消せるボールペンなどは、改ざんされるおそれがある(仮に改ざんがなくてもそう疑われるおそれがある)ため避けましょう。
また、後々に相続人間で改ざんの有無で揉める等のトラブルを防ぐために、書き始めから書き終わりまで同じペンを使用すべきでしょう。
誰にどの財産を渡すのか書く
【自筆証書遺言】の本文中には、上記したとおり、誰にどの財産を渡すのかを記載します。
たとえば、「妻●●に、自宅を相続させる。」、「長男に、△△銀行××支店の普通預金を相続させる。」などというように具体的に記載します。
この際、妻や子供などの法定相続人には「〇〇を相続させる。」、それ以外の第三者に渡したい場合には、「○○を遺贈する。」という文言を使用することをおすすめします。
財産の記載漏れによるトラブルを防ぐためには、「その他一切の財産については、妻に相続させる」等の文言を記載しておくと良いでしょう。
日付を忘れずに書く
上記したとおり、遺言書には、日付も必ず字書しなければなりません。
「〇年〇月〇日」のような形で記載します。
ハンコによる日付記載は問題があります。厳密に「〇日」と書かれていなくても、特定できる日付であれば問題ないですが(例えば、「末日」など)、書いた日付を明らかにすべく、できるだけ年月日の形で記載しましょう。
署名・捺印をする
遺言書の最後に、署名・捺印を行う必要があります。
この際に使用する印鑑は、実印が望ましいですが、認印でも問題ありません。
シャチハタでも遺言書は有効に成立しますが、遺言者の死後、本当に遺言書が押印したのか、本当に遺言者が作成した遺言書か争う等といった相続人間でのトラブルを防ぐために、シャチハタは避けたほうがよいといえます。
遺言書と書かれた封筒に入れて封をする
【自筆証書遺言】を封入することは、法律上のルールではありません。
しかし、改ざん防止のためにも、封入することが望ましいといえます。
封入された【自筆証書遺言】は、勝手に開けてはならず、家庭裁判所で「検認」という手続きを経なければなりません。そのため、相続人が知らずに開封してしまうといった事態を防ぐために、2重に封筒に入れ、注意書きや手続方法のメモ書きを入れておくのも良いでしょう。
自宅、もしくは法務局で保管する
作成した【自筆証書遺言】は、基本的には自宅で保管します。
ただし、自宅保管の場合は、相続人に発見されない場合もあるため、保管場所などには注意が必要といえます。
なお、【自筆証書遺言】は、令和2年7月から、法務局で保管できるようになりました。
法務局で保管する際の手数料は、遺言書1通につき3900円で、収入印紙により納付する必要があります。また、保管期間は、原本の場合、遺言者の死亡後50年間までですし、法務局で保管する場合には、様式のルールがあるので注意しましょう。
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自筆証書遺言の注意点
【自筆証書遺言】の内容次第では、遺言者の死後、相続人間でのトラブルを招くおそれがあります。
そのため、そのようなトラブルを避けるためにも、以下に紹介する点を意識して作成しましょう。
遺留分に注意・誰がどれくらい相続できるのかを知っておきましょう
「遺留分」とは、妻や子供など兄弟姉妹以外の相続人が権利主張をすれば、一定の相続財産を取得できる民法上の制度です。
例えば、被相続人が遺言書に「全財産を○○(第三者)に相続させる」等と記載しても、遺留分の権利者が一定の財産を取得することになります。
そのため、「遺留分」を全く念頭に置かず遺言書を作成してしまうと、遺留分の権利者が権利行使をするなどして後の相続の際に揉める種になるため、誰がどのくらい相続できるのか知った上で、遺言書を作成しましょう。
「遺留分」については、以下の記事でも詳しく解説しておりますので、ぜひご参照ください。
訂正する場合は決められた方法で行うこと
【自筆証書遺言】の訂正方法は、以下のとおり、厳格に方式が決まっています。
それは、遺言者が、①加除・訂正の場所を指示し、②これを変更した旨を付記して署名し、③その変更の場所に印を押さなければならない、というものです。
たとえば、「●●銀行」の預貯金を「△△銀行」の預貯金と訂正するのであれば、①②「●●」を二重線で消し、「この行2字削除2字加入 ○○(氏名)」というように記載し、③印を押す必要があります。
訂正が方式に従っていない場合、訂正が無効となり、訂正が行われていないことになるおそれがあるため、誤りがある状態の遺言が有効となってしまうおそれがあります。
そのため、訂正等が必要な場合には、できれば遺言書自体を書き直すようにしましょう。
自筆証書遺言の疑問点は弁護士にお任せください
これまで見てきたとおり、【自筆証書遺言】は、1人で作成できるというメリットがあります。
しかし、他方で、【自筆証書遺言】は、法律で作成のルールが厳格に決まっており、1つでもルールに従っていないと無効になるおそれがあります。
また、有効に作成できたとしても、内容もしっかり考えた上で作成しなければ、遺言者の死後、相続人間でのトラブルが生じる危険性が高いです。
このように、【自筆証書遺言】を有効に作成し、また、相続人間でのトラブルを回避させるためにも、作成前に一度、相続や遺言に強い弁護士に相談することをおすすめします。
この点、弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士は、相続問題、遺言書の作成に数多く関わってきており、的確なアドバイスなどができるかと思いますので、ぜひ一度弊所へご相談ください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)