
監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士
相続登記とは、相続で得た不動産の所有権の名義を、被相続人から相続人に移転する手続きのことです。
「相続放棄」は3ヶ月、「相続税の申告」は10ヶ月、といった期限が設けられていますが、これまで相続登記には期限がなかったため放置されたままであることが多いです。
しかし、相続登記を放置すると、不動産の売却など有効に活用することができなくなったり、相続人が増えて手続きの負担が重くなるなどするので、相続登記を放置することにメリットはありません。
そして、相続登記も義務化されましたから、放置せずになるべく早く行うべきでしょう。
そこで、本記事では、相続問題に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が相続登記を放置した場合のリスクや対応等について解説していきたいと思います
目次
相続登記の義務化が2024年4月1日から開始
相続登記は、法改正により2024年4月1日から義務化されており、相続によって不動産を取得したことを知ってから3年以内に相続登記を行わなければなりません。
この義務に正当な理由なく違反した場合(=放置した場合)には、10万円以下の過料に処せられるおそれがありますので注意が必要です。
また、この相続登記の義務は、2024年3月31日までに発生した相続についても適用されます。
そのため、2024年3月31日以前に死去した両親や祖父母等の名義のままになっている不動産がある場合には、すぐに手続きを行う必要があります。
そのため、両親や祖父母等が不動産を相続したのが昔のことで、必要書類の入手が難しい等の事情がある場合には、弁護士などの専門家に相談すべきでしょう。
なお、不動産を相続する場合や相続登記とはそもそも何かについては、以下の記事でも解説しておりますので、ぜひご参照ください。
不動産を相続した場合の分け方は? 相続登記とは義務化された理由
それでは、なぜ、かかる相続登記が義務化されたのでしょうか。
それは、不動産の登記簿など登記情報を確認しても、所有者が分からない「所有者不明土地」が増えてしまったからです。
不動産取引などにおいて所有者が誰であるかという点は極めて重要であり、「所有者不明土地」が多すぎることによって、民間の土地取引や公共事業が進まない等、様々な経済活動、事業の障害となります。
また、「所有者不明土地」は、手入れされずに放置されているケースが少なくないので、必要な手入れが行われず害虫が発生してしまう、倒壊のおそれがある等、周辺環境に悪影響を及ぼすことがあります。
こうした理由から、対策が必要であると考えられ、相続登記が義務化されました。
登記の期限は3年
それでは、いつまでに不動産の相続人は、相続登記をしなければならないのでしょうか。
これについては、令和6年4月1日に施行された不動産登記法76条の2第1項が規定しているのですが、不動産を相続により取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をする必要があります。
つまり、相続登記の期限は、相続によって不動産を取得したことを知ってから3年です。ただし、遺産分割協議を行った場合には、協議が成立してから3年となります。
相続登記の義務化は過去の相続にも適用される
相続登記の義務は、上記で触れたとおり、過去の相続についても適用されるため、先祖代々受け継がれてきた土地等についても登記がなされているかどうか確認する必要があります。
もしも不動産が先祖の名義になっていると、必要書類の収集や、その後の相続人を確認するためにかかる労力は大変といえるでしょう。
先祖が不動産を所有していた場合等、気になる方はすぐに確認したり、弁護士に相談するなどしましょう。
過去に相続した分はいつまでに登記手続きすればいいの?
過去の相続についての相続登記は、基本的には義務化されてから3年以内に行わなければなりません。そのため、多くのケースについて、相続登記の期限は2027年3月31日となります。
ただし、遺産分割協議が2024年4月1日以降に成立した等の事情があれば、相続登記は遺産分割協議が成立してから3年以内に行う必要があります。
例えば、2022年1月1日に不動産を相続した人であっても、相続登記の期限は2024年12月31日ではなく2027年3月31日となります。
そのため、期限が切れてしまったと焦る必要はありませんが、相続登記を放置することによるデメリットが発生するリスクがあるので、すぐにでも登記手続きを開始するのが望ましいといえます。
権利者になっていることを知らなかったんだけど期限は伸びないの?
ご自身が権利者になっていることを知らなかったケースではどうなるのでしょうか。
自分が不動産を相続したことを、相続登記が義務化されるまで知らなかった場合には、相続したことを知ってから3年が期限となります。
そのため、親が死去したものの親が不動産を所有していたことに最近になって気づいたようなケースでは、気づいてから3年以内に相続登記すれば問題ありません。
なお、親の不動産を兄弟姉妹が相続しており、自分は不動産をまったく相続していないようなケースについては、その相続人が相続登記を行っていなくても、自分が過料のペナルティを受けてしまうことはありません。
相続登記をせず放置するとどうなる?
それでは、もし相続登記を行わずに放置すると、どのようなリスクがあるのかを見ていきましょう。
10万円以下の過料の対象になる
まず、リスクの一つ目としては、相続登記を放置すると、10万円以下の過料の対象となるおそれがある点です。
相続登記が義務化されるまでは法律上のペナルティは存在しませんでしたが、法改正によって過料が科されるおそれがあるようになりました。
しかし、以下のような事情がある場合には、例外的に、相続登記を行わない正当な理由があると判断される可能性があります。
- 相続人が多いため、戸籍謄本等の必要書類の収集に時間がかかる
- 遺言について、有効性等に争いがあるため、不動産の相続人が不明である
- 不動産を相続した人が重病である
- 不動産を相続した人がDVを受けたために避難している
- 不動産を相続した人が困窮しており、相続登記を行うための費用がない
権利関係が複雑になる
次に、リスクの2つ目としては、相続登記を放置すると、新たな相続が発生して権利関係が複雑になるおそれがある点です。
例えば、被相続人Aが亡くなってB、Cの2人が相続し、相続登記を放置したままB、Cが二人とも亡くなってしまうと、Bの子のDとE、Cの配偶者のF、Cの子のGとHといった新たな相続人が発生します。
そして、相続登記を行うためには、「遺産分割協議」が必要となりますが、かかる「遺産分割協議」においては、基本的に、D、E、F、G、Hの全員の同意と印鑑証明書が必要となります。
この点、相続人が増えてしまうと、誰か1人でも強硬に自身の取り分を主張することによって協議がまとまらないリスクが高まります。また、たとえ不動産を相続できても、印鑑証明書の取得が面倒である等の理由により手続きに応じてくれない相続人が現れるリスクもあるため、なるべく関係者が少ないうちに相続登記を行うのが望ましいといえます。
なお、「遺産分割協議」については、以下の記事でも解説しておりますので、ぜひご参照ください。
不動産を差し押さえられる可能性がある
そして、リスクの三つ目としては、相続登記を放置すると、不動産を差し押さえられるおそれがある点です。
例えば、法定相続人に借金をしている人がいると、法定相続分による登記が債権者によって行われ、債務者の持ち分が差し押さえられてしまうリスクがあります。
遺産分割協議によって不動産を1人で相続した相続人がいたとしても、差し押さえを行った債権者に自身の権利を認めさせるのは難しくなります。
仮に、借金が返済されなかったとしても、競売にかけられてしまうのは債務者である相続人の法定相続分だけですが、競売により赤の他人と不動産を共有することにもなりかねません。
そして、不動産を共有すると、売却等に支障をきたすおそれがありますので、注意が必要です。
不動産の売却ができなくなる
さらに、リスクの四つ目としては、相続登記を放置すると、不動産の売却ができなくなるおそれがある点です。
相続登記をしないままでいると、被相続人名義の不動産を相続登記せずに、売却相手に直接登記を移転することは認められないため、スムーズな不動産売却が叶わず、不動産の売却の機会を逃すおそれがあります。
そして、相続登記のためには、遺産分割協議書や印鑑証明書、被相続人が生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍謄本等、数多くの必要書類が要求されます。そのため、売却の話がまとまったとしても、相続登記に時間がかかってしまい、契約が失効してしまうリスク等があります。
また、そもそもですが、売却したい本人の名義になっていない不動産の売却の話は信用されないこともあるので、なるべく早く相続登記を行うべきといえます。
相続登記しないまま相続人が死亡してしまった場合はどうする?
では、相続登記をしないまま、相続人が死亡してしまった場合、どうすればよいのでしょうか。
例えば、ある不動産の所有者Aが死亡して、その妻B及び子C、Dが相続人となったものの、当該Aからの相続登記を行う前に、相続人であるCが死亡し、Cの妻E、子F及びGが相続人となった場合に、どのようにすればよいのでしょうか。
この場合、まずは、被相続人AについてB、C、Dを所有者とする相続登記を行い、その後、BについてD、E、Fを所有者とする相続登記を行うこととなります。
登記簿には、実体的な権利の移転を正確に反映させる必要があるため、Aから、B、D、E、F、Gに直接所有権が移転したとの登記(中間省略登記)を行うことはできないので注意が必要です。
すぐに登記ができない場合はどうしたら良い?
それでは、すぐに相続登記ができないような場合には、どのようにすればよいでしょうか。
例えば、相続登記をしたいが、相続人が何人いるかわからない場合や、相続人が何人いるかはわかっているが、相続人間の関係が良好でなく、早期に遺産分割が行えない等の理由で、すぐに相続登記を行えない場合もあり、このような場合にはどのようにすべきでしょうか。
この点、このようなケースで、法務局において「相続人申告登記」の手続を行うことが考えられます。
「相続人申告登記」は、相続登記の義務化に伴って創設された制度であり、かかる「相続人申告登記」の手続を行うことにより、相続登記の義務を一旦履行したこととなります。
もっとも、「相続人申告登記」の手続を行うことにより相続登記申請義務を履行した場合、相続登記の申請をしたわけではないので、不動産に関する権利を公示したことにはならないため、相続登記の対象である不動産を売却したりするためには、やはり相続登記を行う必要があるので注意が必要です。
手続きが大変そう…専門家に依頼するとどれくらいかかる?
これまで見てきたとおり、相続登記については手続きが大変そうということで、専門家に任せたいと思われた方も少なくないのではないかと思います。
この点、相続登記を依頼できるのは、我々「弁護士」と「司法書士」です。
かかる専門家のうち、相続人の間でトラブルが一切なく、相続登記の手続きだけを頼むということであれば、「司法書士」に依頼することができます。依頼料は、ケースバイケースと言わざるを得ないところです。
他方で、相続登記を弁護士に依頼する場合には、登記手続きだけでなく、その他預金の払戻し、株式の名義変更の手続きなどの代行も依頼できるでしょうし、相続財産の取り分について争いがあるケース等では、「司法書士」に対応できる範囲には制限が設けられているため、「弁護士」でなければ解決できない場合が多いため、基本的には、「弁護士」に相談すべきといえます。
相続登記を放置してしまった場合は弁護士にご相談ください
これまで見てきたとおり、不動産の相続は、権利関係の把握だけでなく、相続登記を行う必要があるところ、その手続きを行うにも、「遺産分割協議書」が必要となったり、戸籍や印鑑証明書など必要書類を集めたり、手間や時間がかかる煩雑な手続きが伴います。
また、そもそも、不動産は高額となることが多いため、相続人間でどのように遺産分割を行うのかについて話合いがまとまらない可能性もあり、そう簡単に相続登記までこぎつけられる可能性があるとは限りません。
そして、これらの手続きは非常に複雑であることから、相続手続きを円滑に進めるためにも、相続の専門家である弁護士へ相談されることをおすすめします。
弁護士法人ALG神戸法律事務所はこれまで数多くの相続問題、遺産分割問題を解決してきた実績を有しておりますので、ぜひ一度お問い合わせください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)