監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士
「遺産分割協議」の際に、【成年後見】制度の利用をしなければならないケースが増えてきています。
というのは、有効な「遺産分割協議」を進めるにあたっては、相続人全員が参加する必要があるのですが、例えば、相続人の中に認知症等で何の協議をしているのか判断ができない人がいた場合、判断ができないからといって協議から除外してしまうと、「遺産分割協議」は無効となってしまいます。しかし、このような場合でも、判断ができない相続人の【成年後見人】を選任すれば、「遺産分割協議」を進めることができるのです。
そこで、以下、相続問題、成年後見問題に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が、相続における【成年後見】制度の役割について解説いたします。
目次
成年後見制度とは
【成年後見】制度とは、認知症、知的障害、精神障害等によって判断能力(事理弁識能力)が不十分である者を保護する制度です。
具体的には、判断能力が不十分なため契約などを行えない人を後見人が代理して、必要な契約などを締結したり、財産を管理したりして本人の保護を図る、というものです。遺産分割の場面では、成年後見人が、本人(成年被後見人)の法定代理人として代理権を有し、この代理権に基づいて、遺産分割協議などを本人に代わって行うことになります。
この【成年後見】制度には「法定後見制度」と「任意後見制度」の2つがありますが、相続の場面では「法定後見制度」が特に利用されるといえます。
ちなみに、【成年後見】制度と同種の制度として、保佐人、補助人の制度があり、判断能力(事理弁識能力)の不足・欠缺の程度で後見、保佐、補助が使い分けられています。
なお、「遺産分割協議」については、以下の記事でも詳しく解説しておりますのでぜひご参照ください。
相続の場で成年後見人が必要なケース
相続の場面で【成年後見人】が必要なケースは、判断能力(事理弁識能力)が不十分である者がいる場合でしょう。
例えば、上記したとおり、相続人のうちの1人が認知症で本人では判断できないため、「遺産分割協議」が進められない場合が挙げられます。
また、「遺産分割協議」の場面だけでなく、「相続放棄」の場面でも問題になるでしょう。
例えば、亡くなった方に、プラスの財産を上回る多額の借金があるため「相続放棄」をする必要がある際に、判断能力が不十分な相続人がいた場合、その者に代わって【成年後見人】が相続放棄を行う場合もあります。
なお、「相続放棄」については、以下の記事でも解説していますのでぜひご参照ください。
相続人が未成年の場合は未成年後見制度を使う
相続人の中に未成年者がいる場合には、【未成年後見】制度を使わなければならないケースがあります。
というのも、未成年者は、原則として、親権者である両親の同意を得るか、両親が未成年者の代理人として契約などを行う必要があります。しかし、交通事故や病気等で親権者である両親が亡くなった場合、親権者がいない状態になってしまいます。この場合に選任されるのが「未成年後見人」です。
この「未成年後見人」は、親権者に代わる未成年者の法定代理人として、未成年者の財産を管理したり、未成年者に代わって契約を締結したり、未成年者の法律行為に同意をしたりします。
これとは異なり、未成年者に親権者である両親がいるものの、未成年者と両親の利益が相反するときや、他の未成年者との間で利益が相反するとき、親権者である両親は、当該行為について、親権を行うことができません。このような場合、家庭裁判所による「特別代理人」の選任が必要となります(民法826条1項2項)。このような場合に選任するのは、「特別代理人」であり、「未成年後見人」ではないので、注意しましょう。
成年後見人ができること
それでは、【成年後見人】ができることを見ていきましょう。
【成年後見人】は、主に身上監護と財産管理の2つのことができます。
具体例は以下のとおりです。
<身上監護>
①住居の契約(賃貸借契約など)
②治療や入院等医療に関する契約
③介護サービスや介護施設への入退所等、介護に関する契約
<財産管理>
①現金・預貯金の管理
②不動産の管理、家賃の支払や税金・公共料金等の定期的な収入・支出管理
③遺産分割協議等の相続に関する手続き
つまり、【成年後見人】は、本人のための財産管理の一環として、「遺産分割協議」に参加することができるのです。
成年後見人になれるのは誰?
【成年後見人】になるために特に資格は必要ありません。
実際に、親族(配偶者、親、子)が選任されているケースは多いです。ただし、親族間で本人の財産管理をめぐって紛争がある等、親族と本人間で利害関係がある場合には、第三者である弁護士や司法書士等が【成年後見人】として選任されることも多いです。
ただし、【成年後見人】については、民法847条において、欠格事由が定められており、本人(被成年後見人)と【成年後見人】になろうとする者との間で、利害対立があるときについては、その者は、【成年後見人】になることができません。
誰が申し立てすればいい?
【成年後見人】を選任するには、まず、家庭裁判所に対して後見開始の審判の申立てが必要となります。
【成年後見人】の選任の申立てをすることができる者は、以下になります(民法7条)。
- 本人
- 配偶者
- 四親等内の親族(本人からみて、四親等内である必要があります)
- 未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、補佐官特任、補助人、補助監督人又は検察官
成年後見制度申し立ての手続き
【成年後見】の手続については、おおむね以下のような流れで進みます。
①申立て準備
②申立て(※申立て後は、裁判所の許可がなければ取り下げることができませんので、注意が必要です。)
③家庭裁判所における調査(以下のような調査等が行われます)
・申立人調査(面接)
・候補者調査(面接)
・本人調査(面接)
・親族への照会
④鑑定(本人の意思能力を判断するための手続で行われないこともあります)
⑤後見(保佐、補助)開始の審判
⑥審判の確定(この際に、【成年後見人】が選任されることとなります)
⑦登記
成年後見人の候補者を決める
【成年後見】の申立てにあたって、まず誰が成年後見人となるべきか候補者を決めることができます。上記したとおり、【成年後見人】になるために資格はなく、利害対立がなければ候補者となることができます。
ただし、裁判所に対して、申立ての際に、後見人候補者を伝えた場合であっても、必ずしも候補者が選任されるとは限りません。上記した③親族への照会や、本人の財産の多寡などを踏まえて、最終的には家庭裁判所が後見人として誰が適任かを考慮の上、判断します。
なお、【成年後見人】となるべき候補者がいない場合には、家庭裁判所へ選任を一任するとして申し立てることもできます。
必要書類を集める
それでは、【成年後見】の申立てにあたって必要な書類を詳しく見ていきましょう。
①申立書
②本人情報シート
⇒ ケアマネージャーやケースワーカー等福祉関係者に作成してもらいます。福祉関係者の支援を受けていない場合等、作成を依頼できる方がいない場合は、各市町村の福祉協議会や地域包括支援センター、福祉協議会等が運営する権利擁護支援センター、中核機関等にご相談いただき、できる限り準備するようにしてください。
③診断書
⇒ 主治医の方に作成してもらいます。
④戸籍謄本
⑤住民票又は戸籍の附票
⇒ 本人分及び後見人候補者分が必要です。
⑥本人について成年後見等の登記が既にされていないことの証明書
⇒ 郵送等で法務局から取り寄せます。
⑦本人の健康状態に関する資料
⇒ 介護保険被保険者証、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳、身体障害者手帳等の写しがあれば提出しましょう。
⑧本人の財産等に関する資料
⇒ 不動産登記や預貯金の残高がわかる書類、収入、支出に関する資料等を提出します。
必要な書類の記載方法については、以下の裁判所のサイトをご参照いただくと良いかと思います。
後見開始(裁判所)後見・補佐・補助について
上記したとおり、成年後見】制度と同種の制度として、保佐人、補助人の制度があり、判断能力(事理弁識能力)の不足・欠缺の程度で後見、保佐、補助が使い分けられています。
端的に言えば、以下のとおりです。
『後見』=本人に判断能力がまったくない場合
『保佐』=本人の判断能力が著しく不十分な場合
『補助』=本人の判断能力が不十分な場合
このように、本人の判断能力に応じて3つの制度があり、これらのうちいずれが本人にとって適切な制度かを選択することとなりますが、3つのうちどの制度が適切かを最終的に判断するのは家庭裁判所です。
家庭裁判所に申し立てを行う
【成年後見人】の申立てに関する書類等が揃えば、家庭裁判所に対して、成年後見人選任の申立てを行いましょう。
申立先の家庭裁判所は、本人(成年被後見人)の住所地を管轄する家庭裁判所となります。
例えば、被成年後見人が神戸市に住んでいる場合には、神戸家庭裁判所に申し立てることとなります。
家庭裁判所による調査の開始
上記したとおり、【成年後見】の申立て後、家庭裁判所による調査が行われます。
本人や、後見人候補者の面談が行われ、家庭裁判所調査官や参与員が、申立てに関する事情を詳しく聞き取ることになります。
なお、本人の面談は、本人の体調、精神状態等により実施されないこともあります。
成年後見人が選任される
家庭裁判所が、後見開始を相当と認めた場合、後見開始の審判がなされ、成年後見人が選任されます。
ただし、上記したとおり、申立書に記載した後見人候補者がそのまま選任されるとは限りません。
親族間の対立が大きかったり、本人の財産が多額である場合などは、親族ではなく弁護士、司法書士等の専門職が選任されることがあります。
後見開始の審判が確定すると、家庭裁判所から、法務局に対し、成年後見登記の嘱託がされます。
成年後見登記が完了すると、家庭裁判所から、成年後見人に対し、「登記番号通知書」が送付されますので、受領後は、成年後見登記にかかる登記事項証明書の取得が可能となります。
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成年後見人の役割は本人の死亡まで続く
【成年後見人】に一度就任すると、その任務・役割・責任は、本人(成年被後見人)・成年後見人の死亡又は家庭裁判所から解任され若しくは辞任が許可されるまで続くので注意するようにしましょう。
つまりは、【成年後見人】の仕事は、簡単にやめられないので、相続手続だけのために成年後見人になったりすることはできませんので、【成年後見人】となる場合には、その職責についてしっかり理解した上で就任するようにしましょう。
成年後見制度にかかる費用
【成年後見】の申立てにかかる主な費用は、以下のとおりですのでご参照ください。
- 申立て手数料の収入印紙…800~2400円
- 郵便切手…3500~4500円程度(裁判所によって異なりますので事前に確認しましょう)
- 後見登記手数料の収入印紙…2600円
- 鑑定費用…10~20万円程度(鑑定が実施されないケースもあります)
鑑定以外に、1万円弱の費用がかかると理解してもらえれば良いかと思います。
成年後見人に支払う報酬の目安
【成年後見人】は、本人の財産管理等の職責を担うため、報酬が支払われます。
裁判所によって【成年後見人】の報酬が決定された場合、本人の財産から【成年後見人】に報酬が支払われることとなります。
報酬額については、裁判所が、期間内の後見人の事務内容(財産管理及び身上監護)、成年後見人が管理する本人の財産の内容等を総合考慮して、裁量により決定します。
目安としては、管理財産額が1000万円以下で月額2万円、1000万円以上5000万円以下で月額3~4万円、5000万円超で月額5~6万円程度とされています。
なお、親族が【成年後見人】になる場合でも、報酬付与の申立てをすれば、裁判所が報酬を決定します。
成年後見制度のデメリット
では、【成年後見人】が選ばれることによるデメリットはあるのでしょうか。
あえて指摘するなら、【成年後見人】以外が、本人(被相続人)の財産を管理することができなくなることでしょう。
【成年後見人】が就任した場合、本人(被後見人)の財産の管理や処分は、【成年後見人】が行います。例えば、親族が、後見開始前は事実上本人の財産を管理や処分していたケースも散見されますが、【成年後見人】が就任すると、このような管理や処分ができなくなります。本人(被後見人)が、多額の財産を有する場合、いわゆる相続税対策を自由に行うこともできなくなります。
しかし、そもそもですが、本人(被後見人)の財産を管理や処分できるのは、あくまで本人(被後見人)です。本人(被後見人)に十分な判断能力がなくなったからといって、親族が、本人の財産を自由に管理や処分して良いものではないので、注意するようにしましょう。
成年後見制度についてお困りのことがあったらご相談下さい
本記事では、相続の場面において【成年後見】制度がどのように利用されるのかなどについて解説してきました。
上記したとおり、一度選任された【成年後見人】は、本人が死亡するまで職務が継続しますし、報酬等の問題もありますので、制度を理解した上で申立てを検討する必要があります。
そこで、相続が発生し、相続人の中に判断能力に不安がある方がいらっしゃる場合は、そのまま遺産分割協議を進めるのではなく、一度専門家である弁護士にご相談いただくことが有益です。
そのまま協議を進めてもよいのか、あるいは【成年後見】制度の利用が必要なのかをご一緒に検討させていただき、申立てが必要となった場合には、申立書の作成や必要書類の収集等もお手伝いさせていただけます。
弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士は、これまで多数の成年後見申立て、ひいては遺産分割協議を解決してきた実績と経験がありますので、ぜひ一度お気軽にご相談ください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:51009)