監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士
亡くなられた方(以下、「被相続人」といいます。)が【遺言書】を残しているケースもあります。
ただし、【遺言書】を残したとしても、【遺言書】の効力を発生させるためには形式をきちんと守る必要があります。
そして、【遺言書】を残したとしてもあらゆる効果を発生させられるわけではなく、【遺言書】によって効力を発生させることができる事項は法律で限定されています。
そこで、相続問題、遺言書の問題に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が、【遺言書】の効力に着目し、詳しく解説していきますので、ぜひご参照ください。
また、【遺言書】については、以下の記事でも詳しく解説しておりますので、こちらもご参照ください。
目次
遺言書の効力で指定できること
【遺言書】に記載しても全て効果が生じるとは限りません。
遺言の内容について、効力が生じる事項は法律で限定されており、それ以外の事項について【遺言書】に書いても法的な効力は生じません。
そこで、【遺言書】で指定できることについて見て行きましょう。
遺言執行者の指定
【遺言書】に記載して効力が生じるのは、「遺言執行者」の指定です。
「遺言執行者」は、被相続人が残した遺言の内容を実現するために法律で必要とされた手続を行う権限を持つ者です。
「遺言執行者」を指定することで、誰が預金を解約するのか等、遺産分割協議書が作成されたり、相続人全員のサインが集められないと預金の解約ができなかったりなどの不便が解消できます。
「遺言執行者」については、以下の記事でも詳しく解説しておりますので、ご参照ください。
誰にいくら相続させるか
【遺言書】に記載して効力が生じるのは、誰にいくら相続させるか、という点です。
被相続人の遺産について、相続人が取得する割合を定める、「相続分の指定」をすることができます(民法902条1項)。
遺言書がなく、相続人が複数いる場合、法律で定められた遺産の取得割合(法定相続分)に従って相続するのが原則です。
しかし、遺産は被相続人が築き上げた財産であるため、被相続人の遺産の取得割合を定めた場合には、被相続人の意思が尊重されます。
そのため、【遺言書】によって「相続分の指定」がされた場合には、被相続人が定めた取得割合に従って相続されます。
誰に何を相続させるか
【遺言書】に記載して効力が生じるのは、誰に何を相続させるか、という点です(民法908条)。
上記のとおり、遺産は被相続人が築き上げた財産であるため、被相続人の意思が尊重されます。
例えば、【遺言書】の中で、「妻に自宅不動産を相続させる」、「子に●●所在の土地を相続させる」などと、誰に何を相続させるか(遺産の分割方法)についても、指定することができます。
この指定の際には、「誰に」「何を」というのが、具体的にわかるように特定することが求められます。
そのため、【遺言書】によって遺産の分割方法が指定された場合には、被相続人が定めた取得割合に従って相続されます。
遺産分割の禁止
【遺言書】に記載して効力が生じるのは、遺言で遺産分割を禁止することです(民法908条)。
被相続人が、例えば、我が子が幼く、自分の死亡直後に遺産分割をすることは望ましくないと考えた場合には、このような禁止をすることがあります。
もっとも、当然ながら永遠に遺産分割を禁止することはできません。これは、遺産分割を禁止して、例えば、不動産の共有状態が永続的に続くと、相続人が死亡してさらに相続(数字相続)が発生したりして権利関係が複雑になってしまうからです。
そのため、遺産分割の禁止は、5年を超えない期間内でのみすることができます。
仮に、被相続人が期間の指定をしなくても、5年間に限り、遺産分割の禁止の効力が認められます。
遺産に問題があった時の処理方法
【遺言書】に記載して効力が生じるのは、遺産に問題があった時の処理方法、です(民法911条)。
例えば、遺産分割によって問題のある遺産を取得した相続人は、他の相続人よりも損をしてしまうため、相続が不公平となってしまいます。
そのため、相続人間の公平性を保つために、問題のある遺産を取得した相続人に対して、他の相続人は、問題の程度に応じて損害を賠償する責任を負うことになります(担保責任)。
生前贈与していた場合の遺産の処理方法
【遺言書】に記載して効力が生じるのは、生前贈与していた場合の遺産の処理方法として、「持ち戻し免除の意思表示」です。
具体的には、被相続人が共同相続人の一人に生前贈与していた場合には、「特別受益」が問題になるのですが、遺産の前渡しと評価できるほどの生前贈与を放っておいてしまうと、相続人間で不公平が生じるために、とある相続人が受けた利益が「特別受益」と判断されると、その特別受益の分について、利益を受けた相続人の遺産の取得分が減額されます(特別受益の持ち戻し)。
もっとも、上記したとおり、遺産は被相続人が築き上げた財産であるため、生前贈与の取り扱いについても被相続人の意思が尊重されるべきであるため、特別受益についても持ち戻して遺産分割協議の際に考慮しない、という指定ができるのです。
生命保険の受取人の変更
【遺言書】に記載して効力が生じるのは、生命保険の受取人の変更です。
本来、生命保険の死亡保険金の受取人を変更する場合には、保険の契約者本人が直接、保険会社と受取人の変更手続きをしなければなりません。ただし、【遺言書】を利用することによって保険契約の死亡保険金の受取人を変更することができるようになる法律が施行されました。
ただし、保険会社の判断によっては、受取人の変更が認められない可能性もありますので、ご注意ください。
非嫡出子の認知
【遺言書】に記載して効力が生じるのは、非嫡出子の認知です。
まず、婚姻関係にない、例えば内縁関係の男女の間に生まれた子を非嫡出子と言います。
非嫡出子については、母との関係では生まれたときから母子関係は明らかですが、誰が父親なのか明らかではありません。そのため、非嫡出子については、父から認知されることで、はじめて父親と法律上の親子関係が生じ、父親のほかの子と同様に相続人となることができます。
ただし、非嫡出子が認知されてしまうと、他の相続人は自分の相続権を失う(例えば、被相続人の兄の立場である場合には、先順位の子が出てくると相続人になれない)又は自己の相続分が減少する(例えば、被相続人の子の立場である場合には、他にも子がいると相続分が減る)ことになるので、非嫡出子を認知するという内容の遺言書を発見した相続人は、遺言書を破棄・隠匿する場合があります。
ただし、遺言書を破棄・隠匿したことが発覚すると、相続人となる資格を失うことになるので、くれぐれも注意しましょう。
相続人の廃除
【遺言書】に記載して効力が生じるのは、「相続人の廃除」です。
まず、「相続人の廃除」とは、虐待行為などがあった場合に、被相続人の意思で、特定の相続人の相続権を失わせることをいいます。
「相続人の廃除」としては、被相続人が生きている間に家庭裁判所に申し立てる場合や、被相続人が自分が亡くなったときに備えて【遺言書】を残して意思表示する場合があります。
ただし、【遺言書】で廃除する場合は、被相続人はすでに亡くなっているため、遺言執行者が家庭裁判所に対して廃除の手続きを行います。
そのため、【遺言書】で廃除する場合には、必ず遺言執行者を選任しなければならない点は注意しましょう。
未成年後見人の指定
【遺言書】に記載して効力が生じるのは、「未成年後見人の指定」です。
「未成年後見人」とは、親、つまり、親権者がいない未成年者の身上監護や財産管理を、親権者の代わりに行う者のことです。
【遺言者】に未成年の子がおり、既に配偶者も亡くなっているなど遺言者が亡くなることでその子の親権者がいなくなる場合、「未成年後見人」の選任が必要になります。
未成年者本人またはその親族が未成年後見人の選任を家庭裁判所に申し立てることでも「未成年後見人」は指定されますし、未成年者の最後の親権者が【遺言書【】で指定することも認められています。
相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
遺言書が複数ある場合、効力を発揮するのはどれ?
【遺言書】が複数ある場合には、当該複数の【遺言書】の効力はどのように考えるべきでしょうか。
まず、複数の遺言書の中身を見たときに、内容が矛盾しているかどうかがポイントです。
複数の遺言書があり、かつ、内容が矛盾している場合、より作成日が新しい遺言書が効力を発揮します。
そして、遺言書の形式にも関係なく、例えば、遺言書が2通発見され、1通が公正証書遺言でもう1通が自筆証書遺言だった場合、公正証書で作成されているものの、自筆証書遺言の作成日の方が新しいのであれば、自筆証書遺言が有効となります。
遺言書の効力は絶対か
上記したとおり、【遺言書】が残されていたとしても、方式を具備しているか、内容はどうかが問題となります。
まず、民法に定められている【遺言書】の方式に従っていない遺言は効力を発揮しません。
例えば、自筆証書遺言では、遺言者の署名・押印がない場合には、もちろん被相続人が作成したかどうか不明であるため、【遺言書】は無効になります。また、詐欺や強迫によって真意でないのに作成された遺言、意思能力がない状況で作成された遺言なども無効になります。
遺言書の内容に納得できない場合
また、遺言書の内容に納得できない場合には、【遺言書】の効力を失わせることができます。
具体的には、【遺言書】があったとしても、すべての相続人が合意すれば、遺言で指定された内容と異なる遺産分割を行うことができます。
そのため、【遺言書】の効力は絶対というわけではありません。ただし、「すべての相続人」の合意が必要なので、すべての相続人を探したうえで、遺言の内容で利益を受ける相続人がいる場合でもその相続人の合意も必要です。
勝手に遺言書を開けると効力がなくなるって本当?
【遺言書】が封をされている場合には、勝手に封を開けないようにしましょう。
なぜなら、公正証書遺言以外の遺言を見つけた場合、家庭裁判所の「検認」という手続きを経る必要があるためです。
仮に家庭裁判所の検認手続きを経ずに遺言書を開封した場合、5万円以下の過料という行政罰が科されるおそれがあります。
ただし、手続きを経ずに遺言書を開封してしまったとしても、要件を満たした遺言書である限り、【遺言書】が無効になるというわけではありませんが、他の相続人から偽造や変造などを疑われてしまうでしょう。
効力が発生する期間は?
【遺言書】の効力が発生するのは、遺言者が亡くなった時が原則です(民法985条)。
そして、【遺言書】の効力が発生した後、【遺言書】の有効期限といったものはなく、【遺言書】の効力は被相続人が亡くなって以降ずっと継続します。
認知症の親が作成した遺言書の効力は?
実務上よく問題となるのは、認知症(程度は差はありますが)の親が作成した【遺言書】の効力です。
被相続人が認知症の場合は、どの程度理解して【遺言書】を作成したのか、どの程度被相続人の意思が反映されているのか不明であるためです。
つまり、遺言書を有効に作成するには、意思能力が当然必要になるのですが、被相続人が認知症の場合、【遺言書】作成の際の意思能力が問題となります。
意思能力とは、自らの行為がどういう動機に基づいてどういう結果をもたらすのかを認識し、その認識に基づいて正常な意思決定をすることができる能力を言うのですが、認知症のすべての人が意思能力がないと判断されるわけではありません。
遺言者の認知症の症状の程度や遺言書の記載内容を考慮したうえで、【遺言書】の作成された時点で意思能力があるか否かが判断されます。
例えば、認知症の症状が軽度であり、遺言書の記載内容が比較的簡易なもので判断できたであろうと判断される場合には、遺言書が有効であるとされる可能性はあります。逆に、認知症の程度が重度であったり、記載内容が複雑であったりした場合には、無効とされる場合もあります。
記載されていた相続人が亡くなっている場合でも効力を発揮するの?
【遺言書】が作成された時点では、相続人が生きていたものの、被相続人の死亡前に当該相続人が死亡しているというケースもあります。
遺言を残した人が亡くなる前に、遺贈を受ける人が亡くなっていた場合には、遺贈の効力は発生しません(民法994条1項)。この場合、「代襲相続」などは発生せず、遺贈の対象となっていた遺産は、相続人間で遺産分割されることになります。 もっとも、【遺言者】の中で、先に受遺者が死亡している場合には、受遺者の子に遺贈するというような記載をしていた場合、効力が発生することになります。
遺留分を侵害している場合は遺言書が効力を発揮しないことも
「遺留分」を侵害している場合には、【遺言書】の効力が一部制限される可能性があります。
「遺留分」とは、兄弟姉妹とその代襲者を除く法定相続人に対して保障されている最低限の相続分のことをいいます。
【遺言書】があったとしても、遺言で「遺留分」を侵害することはできません。
例えば、「友人Aに遺産をすべて遺贈する。」という遺言を残したとしても、法定相続人が遺留分侵害額請求をすることができ、それによって遺言は遺留分を侵害している限度において効力を失います。
なお、遺言で遺留分が侵害されている場合、「遺留分侵害額請求」を行うことで初めて遺留分が確保されることになり、権利行使が必要であることに注意が必要です。
「遺留分」や「遺留分侵害額請求」については、以下の記事でも詳しく解説しておりますので、ご参照ください。
遺言書の効力についての疑問点は弁護士まで
これまで【遺言書】の効力、注意点などについて解説してきました。
弊所でも【遺言書】に関するトラブルは大変多くの相談が寄せられています。
しかし、【遺言書】の有効性、効力がどうかなどは、複雑な法律上のルールがあったり、個別的に判断しなければならないものばかりです。
この点、弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士は、相続問題・遺産分割問題の実績が豊富であり、遺産分割協議、遺留分減殺請求等、多数の事件を取り扱ってきています。
当然ながら、【遺言書】についても、作成依頼から遺言書無効確認訴訟等まで手掛けています。
これから遺言書を作成したいという方も、遺言書に関するトラブルが生じてしまっている方も、ぜひ一度弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士にご相談ください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:51009)