遺贈とは?相続人以外にも財産を譲れるの?

相続問題

遺贈とは?相続人以外にも財産を譲れるの?

神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介

監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士

自身の死後に、特定の人に財産を引き継がせたい、逆に、この人には財産を渡したくないといった人もいるかと思います。
このような場合には、【遺贈】という方法があります。ただし、【遺贈】については、その効果や手続きをきちんと理解する必要があり、自身の財産を適切に引き継がせるように対応する必要があります。
そのため、以下では、相続問題、遺贈問題に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が、【遺贈】とは何か、相続の違いは何か、注意点は何かなどに着目しつつ、【遺贈】について解説しますので、ぜひご参照ください。

遺贈とは 

【遺贈】とは、遺言によって、遺言者の財産の全部または一部を特定の相続人や第三者に贈与することを指します(民法964条)。人は、最後の意思表示として、遺言によって、自分の財産についての処分(誰に渡すかなど)を決めることができるのです。
このように【遺贈】は、法定相続人に対してだけではなく、法定相続人以外の他人や団体に対して行うこともできます。
そして、【遺贈】を受ける人は、遺言者が遺言によって指定した相手であり、これを「受遺者」といいます。

遺贈と贈与の違い

【遺贈】と似たようなものとして、「贈与」というものがありますが、その違いはどこにあるのでしょうか。
まず、【遺贈】については、上記したとおり、遺言によって、財産を一方的に「あげる」という意思表示であり、【遺贈】行為段階では、財産をもらう側である「受遺者」の承諾は必要ありません。
他方で、「贈与」は、双方向的な行為であり、財産を贈ることについて、「あげる」という送り手側と「もらう」という受け手側との間で合意が必要な契約行為になります。
また、税金に関しても、「贈与」であれば「贈与税」の課税対象(基本的には、年間110万円が上限)に、【遺贈】であれば「相続税」の課税対象(基本的には、3000万円+法定相続人数×600万が控除対象となり、さらに加算の場合もあります。)になるという点にも違いがあります。

遺贈と相続の違い

では、【遺贈】と似たようなものとして、「相続」というものがありますが、その違いはどこにあるのでしょうか。
まず、【遺贈】については、上記したとおり、最後の意思表示として、遺言によって、自分の財産についての処分(誰に渡すかなど)を決めることを指します。
これに対して、「相続」は、一般的には、民法で定められるルールに従って一定の相続人に財産の所有権が移転することをいいます。
例えば、【遺贈】では、法定相続人以外の友人や他の親族にも財産を移転することができますが、「相続」は法定相続人のみしかできないところも大きな違いです。
また、【遺贈】であっても「相続」であっても、「相続税」の課税対象ですが、一親等の血族(父母・実施・養子)と配偶者以外の人が「受遺者」になった場合には、相続税の2割が加算されるという違いがあります。

遺贈の種類

【遺贈】の種類は大きく分けて、「包括遺贈」、「特定遺贈」の2種類があります。また、この遺贈内容の区別の他に、受遺者に一定の義務を課すことを内容とする「負担付遺贈」というものがあります。以下、詳しく見ていきましょう。

包括遺贈(割合で指定されている場合)

「包括遺贈」とは、遺言によって遺産の全部または一部の割合を贈与するものです。
このうち、遺産の全てを与えるものを「全部包括遺贈」といい、「A子に遺産の3割を遺贈する」「B蔵に遺産の3分の1を遺贈する」というように遺産の一部の割合を与えるものを「割合的包括遺贈」といいます。
これらの「包括遺贈」を受ける側の場合の注意点としては、包括遺贈の「受遺者」は、遺産の全部または一部の割合を贈与するものなので、プラスの財産だけでなく、マイナスの財産も引き継いでもらうことになります。後述しますが、「受遺者」については、【遺贈】を受けないこともでき、その場合には、【遺贈】があったことを知ったときから3か月以内に、家庭裁判所に対し、遺贈の放棄をする必要があります。
また、「割合的包括遺贈」を受けた場合には、「3割」や「3分の1」などといった割合しか定められていないので、どの財産を定められた割合で譲り受けるのが明らかではないために、遺産分割協議への参加が必要になります。

特定遺贈(財産が指定されている場合)

「特定遺贈」とは、遺言によって特定の財産を指定して贈与するものです。
例えば、「A銀行の預貯金100万円を孫B子に遺贈する」といったものです。
「特定遺贈」の「受遺者」は、包括遺贈の受遺者と異なり、いつでも遺贈義務者(相続人等)に対し遺贈の放棄ができますし、負の財産が指定されていない限り遺言者の借金等を負う必要もなく、遺産分割協議に参加する必要もありません(但し、法定相続人の場合には、遺産分割協議に参加する必要があります。)。

負担付遺贈

「負担付遺贈」とは、「受遺者」に何らかの義務を課した上で、遺言者の財産を与える遺贈のことをいいます。
例えば、「自己の死後に、病気の妻の介護をすることを条件に、長男太郎に、自宅建物及びその土地を遺贈する」というものです。
この際に、遺贈の目的物の価値を超える義務・負担を課すことは出来ません。また、「受遺者」が義務を履行しない場合には、他の相続人が相当の期間を定めて、受遺者に対して履行の催告をすることができ、相当の期間内に義務の履行がないときは、遺言の負担付贈与に関する部分の取り消しを請求できます。

遺贈の放棄はできる?

「(生前)贈与」については、「あげる」と言われても「いりません」と断れば足りるのですが、【遺贈】については、上記したとおり、遺言によって、財産を一方的に「あげる」という意思表示ですので、「受遺者」において改めて放棄するという意思表示が必要になります。
そのため、「受遺者」側で、財産がいらない場合には、【遺贈】の放棄をする必要があります。
「包括遺贈」の場合には、法定相続人と同様の期間制限が課されており、遺贈があったことを知ってから3か月以内に、家庭裁判所に対して、遺贈の放棄の申述を行わないと、遺贈の放棄はできなくなるので注意が必要です。
他方で、「特定遺贈」と「負担付遺贈」は、遺贈の放棄の意思表示を遺贈義務者である法定相続人または遺言執行者にすれば、いつでも放棄を行うことができます。もっとも、遺贈義務者から相当の期間を定めて、その期間内に遺贈の承認または放棄をすべき旨の催告があった場合には、受遺者がその期間内に遺贈義務者に対して意思表示を行わなければ遺贈を承認したものとみなされるため、こちらも注意が必要です。

遺産の寄付もできる(遺贈寄付)

【遺贈】によって、第三者の団体・機関へ寄付することもできます。
例えば、遺言によって、遺産の一部または全部をNPO法人や公益法人、学校法人等その他団体や機関に寄付するものです。これを「遺贈寄付」と呼ぶことがあります。
「遺贈寄付」は、自己の遺産を用いて社会貢献を行いたい場合や、相続人に全ての財産を渡したくない場合などに活用できます。
また、「遺贈寄付」を行った場合、一定の要件を満たせば、相続税の課税対象から外れる特例があり、相続税が発生しないこともあります。
もっとも、「遺贈寄付」を行う場合、相続人の遺留分を侵害してしまうと、遺留分権利者である相続人から遺留分侵害額請求などがなされる等トラブルを招くおそれがあるため、どの程度寄付をするのかには十分留意することが必要です。

遺贈の効力がなくなるケース

せっかく行った【遺贈】の効力がなくなるケースもあります。
注意点を含めて具体的に見ていきましょう。

遺贈したい相手が先に死亡した場合

まず、財産を「あげる」対象がいなかった場合には、【遺贈】の効力がなくなります。
例えば、遺言書で受遺者に指定した人物が、遺言者より先に亡くなった場合には、「あげる」先がないので、その【遺贈】は効力を生じません。
この場合、遺言のうちの亡くなった受遺者に財産を【遺贈】するとした部分については無効となります。
この無効となった部分の財産については、法定相続人で分けることとなり、「代襲相続」のように死亡した受遺者の相続人に引き継がれることはありません。

遺贈の対象財産が相続財産にない場合

【遺贈】は、特定の財産などを「あげる」というものなので、「あげる」という対象財産が遺言者の死亡時において遺言者の財産として残っていることが必要です。
そのため、遺言者の死亡時に【遺贈】の対象財産が残っていなかったときは原則としてその【遺贈】は効力を生じません。
また、なぜ【遺贈】の対象財産が残っていないのか理由は問われないものとされています。例えば、気が変わって別の人に生前贈与したなどでも【遺贈】の効力はなくなります。
あと、「負担付遺贈」の条件が達成できない場合、例えば、「遺言者の妻の介護を条件として自宅不動産を遺贈する」となっているケースで、介護対象者の妻が既に亡くなっているときには、できないことを条件としているので、条件を達成することができず、【遺贈】は無効となります。

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遺贈にかかる税金

それでは、【遺贈】にかかる税金についても見ていきましょう。

遺贈には相続税がかかります

上記したとおり、【遺贈】は、相続と同様に、相続税の課税対象となるので注意が必要です。

相続と異なる点については、受遺者が一親等の血族(父母・実子・養子)及び配偶者以外の場合(例えば、孫や兄弟姉妹)には、相続税が2割加算されるので注意が必要です。

不動産を取得した場合はさらに税金がかかる可能性も

「特定遺贈」によって、法定相続人以外が不動産を取得する場合には、不動産取得税の課税対象となるのでこの点も注意しましょう。
また、不動産を取得した場合には、不動産登記手続きを行わなければいけません。この不動産登記手続きに際して、遺贈を受けたのが誰であっても、登録免許税の課税対象になります。
【遺贈】による所有権移転に伴う所有権移転登記の登録免許税の税率は固定資産税評価額の2%ですが、受遺者が法定相続人である場合には、相続を原因とする所有権移転登記と同じ税率である固定資産税評価額の0.4%となります。
そのため、不動産を「特定遺贈」する場合に、受遺者が法定相続人以外であるときは、不動産取得税及び固定資産税評価額の2%の登録免許税がかかることになります。

遺贈の注意点

【遺贈】の注意点を詳しく見ていきましょう。

遺留分を侵害している場合は請求可能

【遺贈】をする際に気を付けなければいけないポイントとして、遺留分権利者の「遺留分」を侵害していないかどうかに留意する必要があります。
簡単に言えば、これまで見てきたとおり、【遺贈】は、全てもしくは一部の財産を「あげる」ことなのですが、すべての財産を自由に処分できるわけではありません。
「遺留分」とは、被相続人の兄弟姉妹以外の相続人(妻、子、親等)に保障されている、贈与や遺贈等があっても侵害されない最低限守られる相続財産の一定の割合です。
「遺留分」に配慮せず【遺贈】を行った場合、たとえば「全財産を太郎に遺贈する」との遺言をしても、遺留分権利者の遺留分を侵害することはできないので、後に遺留分権利者から受遺者が遺留分侵害額請求を起こされるなどトラブルのもとになります。
受遺者と遺留分権利者との間のトラブルを未然に防ぐためにも、遺留分に注意して遺贈を行いましょう。
なお、「遺留分」については、以下の記事でも詳しく解説していますので、ぜひご参照ください。

遺留分とは|不公平な相続割合で揉めないための方法 遺留分侵害額請求とは|請求の方法と注意点

不動産の遺贈は遺言執行者を指定しておいた方が良い

不動産を【遺贈】する場合には、遺言執行者の指定をしておいた方が手続きがスムーズになります。
通常、不動産の移転には、「あげる」側と「もらう」側で協力して登記手続きを行う必要があるところ、【遺贈】による不動産の移転については、「あげる」側が死去しているため、誰が登記手続きをするのかが問題となるためです。
この点、「遺言執行者」を指定していた場合には、【遺贈】を原因とした登記の手続きは、遺贈義務者である登記義務者(遺言執行者)と受遺者である登記権利者が共同で申請をすることができます。
他方で、「遺言執行者」がいない場合には、受遺者とその他の法定相続人全員での登記手続きが必要となります。
なお、「遺言執行者」については、以下の記事でも詳しく解説していますので、ぜひご参照ください。

遺言執行者とは|権限と選任の方法

受遺者が単独で名義変更できないのはなぜ?

不動産を特定の相続人等に渡す場合には、「Aに相続させる」、「Aに遺贈する」という2つの方法が考えられるのですが、「Aに遺贈する」という場合には、上記したとおり、「受遺者」であるAが単独で登記手続きができません。
これは、【遺贈】が「贈与」の一種であることによります。上記したとおり、不動産の移転には、「あげる」側と「もらう」側で協力して登記手続きを行う必要があるところ、【遺贈】による不動産の移転については、「あげる」側が死去しているため、移転をどのように行うかが問題となります。
他方で、「相続させる」という方法では、遺産分割方法を指定したものと解されているので、相続するAが単独で登記ができるのです。ただし、「相続させる」という方法を用いれるのは、法定相続人に対してのみという点で注意が必要です。

遺贈登記(遺贈による所有権移転登記)の手続き方法

まず、「遺言」が自筆証書遺言など公正証書遺言以外の場合には、家庭裁判所での「検認」手続きを経る必要があります。
「検認」手続きを経た後は、不動産登記簿を確認し、登記申請書等の必要書類を集めて法務局へ申請を行うのが基本です。

遺言書の検認

自筆証書遺言など公正証書遺言以外の方法で遺言がなされている場合には、家庭裁判所で「検認」を受ける必要があります。「検認」を受けなければ手続きを進めることができないため、まずは検認を受けましょう。
なお、「検認」に関しては、以下の記事でも詳しく解説していますので、ご参照ください。

遺言書とは|遺言書があった場合の対応と効力について

登記簿を取りよせて内容を確認する

「検認」を経たら、登記簿を取り寄せて遺贈された不動産の所有者が遺言者であるかを確認します。この際に着目すべきは、「地番または家屋番号」、「氏名」「住所」です。
また、所有者(遺言者)の住所が死亡時と異なる場合には、遺贈登記の前に住所変更登記が必要となるので注意しましょう。

書類を集める

「遺言執行者」がいる場合といない場合とで登記申請書が異なるので注意しましょう。
上記したとおり、「遺言執行者」がいない場合には、登記申請書の義務者の欄に受遺者以外の相続人の名前を書く必要があり、また、添付資料に相続証明書が必要となります。

申請書を作成して提出する

遺贈登記の登記申請書は法務局のホームページにテンプレートがあるため、登記申請書の作成時にはこのテンプレートを利用すると便利です。

遺贈についての疑問点は弁護士にご相談ください

【遺贈】は、法定相続人以外に自己の財産を渡したい場合や、自己の財産を使って社会貢献をしたい場合、特定の相続人に財産を引き継がせないようにする場合などに活用できます。
もっとも、【遺贈】は、遺言によって行う必要があることから、無効とならない遺言書の作成をする必要があります。また、遺留分を侵害しない内容となっているか等、不要な争いの種を作らないことにも留意しなければなりません。さらに、上述のとおり、【遺贈】と「相続」では様々な場面で違いが出てくることから、どちらを選択する方が良いのか迷われることもあると思います。
この点、相続問題、遺贈問題について詳しい弁護士に相談・依頼していただければ、一番お気持ちにそった財産の残し方ができる方法についてのアドバイスや、遺言書作成時のサポートなど、不安なお気持ちを解消しつつ、適切に財産を残すためのお手伝いをすることができます。弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士は、相続問題、遺贈問題についての数多く案件に携わり、ノウハウや経験を遺憾なく発揮できるものと思います。
【遺贈】についてお悩みの方は、是非一度、ご相談ください。

神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介
監修:弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長
保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:51009)
兵庫県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。