
監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士
離婚慰謝料は、離婚協議中に請求されることが多いといえますが、離婚後に突如、請求される場合もあります。
場合によっては、口頭で「慰謝料なしで離婚しよう」と話をしていても、後から請求されるケースもあり得るところです。
しかし、離婚慰謝料は、必ずしも請求されたら支払わなければいけないわけではなく、離婚慰謝料の支払いを拒否できるケースもありますし、減額できるケースもあります。
また、離婚慰謝料の請求をされたときの対応にも注意が必要です。
そこで、本記事では、離婚問題、慰謝料問題を数多く取り扱ってきた弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が、相手から離婚慰謝料を請求された場合に、減額できるケースや対応方法について解説しますので、ぜひご参照ください。
目次
離婚慰謝料を請求された!減額はできる?
まず、離婚慰謝料を請求された場合に、そもそも減額できるのかを見ていきましょう。
離婚慰謝料の額は、相手からの言い値で決められるわけではないので、減額できる余地は十分にあります。
特に、離婚慰謝料を請求する理由・原因が何かが問題となることも多く、また証拠の有無や内容が問題となる不貞行為やDV・暴力を理由とする離婚慰謝料であれば、請求する側において、問題となる行為の日時や場所、故意・過失、因果関係、損害の内容(額)を主張立証する必要があります。
また、裁判所の判決により決められる離婚慰謝料の額には、ある程度の相場がありますし、また消滅時効の援用が可能な場合やそもそも婚姻関係が破綻している場合等、様々な方法で離婚慰謝料を減額できるケースがあります。
2離婚慰謝料を減額できるケース
それでは、離婚慰謝料を減額できるケースをいくつか紹介しましょう。
- 相手にも過失がある場合、
- 相場以上の慰謝料を請求された場合、
- 自分の資産・収入が少ない場合、
- 自分のした行為の有責性が低い場合、
の4つを例に挙げて、以下解説いたします。
相手にも過失がある
離婚慰謝料を減額できるケースの一つとして、相手にも過失がある、というケースが挙げられます。
例えば、こちら側の浮気・不倫を理由に離婚慰謝料を請求されたとしても、相手からDVやモラハラを受けていたケースであれば、相手にも過失はあるので減額される可能性があります。
また、夫婦がともに不倫をしていたというケースも、お互いに過失があるといえ、離婚慰謝料についても減額されやすいでしょう。
このように、夫婦のどちらにも離婚の原因について過失がある場合には、それぞれの過失が相殺されて離婚慰謝料の金額が決まっていくといえるでしょう。
そのため、減額されるばかりか、離婚慰謝料を支払わずに済む可能性もあります。
ただし、当然ながら、相手にも過失があったことを証明する必要があるので、証拠をしっかりと集めておきましょう。
相場以上の慰謝料を請求された
離婚慰謝料を減額できるケースの一つとして、相場以上の慰謝料を請求された、というケースが挙げられます。
例えば、離婚慰謝料の金額のあくまでも相場ですが、以下のとおりです。
不貞行為・不倫が離婚原因の場合 | 200万~300万 |
---|---|
DV・モラハラが離婚原因の場合 | 100万~300万円 |
セックスレスが離婚原因の場合 | 50万~200万円 |
ただし、上記のような相場よりも、高額な離婚慰謝料が認められるケースとしては、婚姻期間が長い、有責行為が理由で相手が精神疾患を患った、未成熟子の子供がいる、などの事情があり得ます。
もっとも、それを考慮しても、相場を大きく超える金額を請求されている場合は、離婚慰謝料を減額できる可能性が高いといえます。
なお、離婚慰謝料の相場については、以下の記事でも詳しく解説しておりますので、ぜひご参照下さい。
離婚慰謝料 | 請求できるケースや相場など自分の資産・収入が少ない
離婚慰謝料を減額できるケースの一つとして、自分の資産・収入が少ない、というケースが挙げられます。
裁判所が離婚慰謝料の金額を決めるときには、夫婦それぞれの資産や収入、社会的地位、年齢などが考慮されることがあります。 そのため、自分(請求された側)の資産や収入が少ない場合には、離婚慰謝料が減額される可能性があります。
ただし、たとえお金がなかったとしても、離婚慰謝料を支払う必要がなくなるわけではないので注意が必要です。「慰謝料」は、相手が受けた精神的苦痛・ダメージに対して支払う賠償金であるため、支払う義務がなくなることまではないのです。
自分のした行為の有責性が低い
離婚慰謝料を減額できるケースの一つとして、自分のした行為の有責性が低い、というケースが挙げられます。
例えば、不倫の場合を想定すると、上司からの誘いを断れず肉体関係を持ってしまったケースなど、自分のした行為の有責性(≒悪質性)が低い場合には、離婚慰謝料の減額が認められやすいといえるでしょう。
他にも例えば、浮気の期間が短い、肉体関係を持った回数が少ない等の場合も、有責性が低いとみなされることがあります。
ただし、浮気の期間は数ヶ月程度まで、回数は数回程度だと、短い・少ないと判断される可能性がありますが、具体的な基準が決まっているわけではありませんので、あくまでケースバイケースだということに注意しましょう。
そのほかに、DVの場合を想定すると、手をあげたのが一度だけだったというような場合も、有責性が低いとみなされる可能性があります。
慰謝料の支払いを拒否できるケースもある
上記のように、離婚慰謝料を請求されたとしても、減額できるケースもありますが、さらに慰謝料の支払いを拒否できるケースもあります。
例えば、次のケースでは、離婚慰謝料の支払いを拒否できる可能性がありますので、詳しく見ていきましょう。
- 相手が主張する内容が虚偽である・証拠がない場合
- 時効が成立している場合
- 有責行為時に婚姻関係がすでに破綻していた場合
相手が主張する内容が虚偽である・証拠がない場合
離婚慰謝料の支払いを拒否できるケースの一つとして、相手が主張する内容が虚偽である、証拠がない場合、が挙げられます。
例えば、相手がご自身からのDV行為を理由に離婚慰謝料を求めてきたとします。
しかし、ご自身が相手にDVを行っていない場合は、慰謝料の支払義務は発生しませんし、相手の主張する内容は虚偽であると反論する必要があります。
また、慰謝料の請求の根拠となる事実を証明する責任を負うのは、慰謝料請求する側です。
よって、DV行為を理由に離婚慰謝料を請求する場合は、DV行為が行われているときの動画・音声や医師の診断書、警察への相談記録などのDVが行われていた事実を裏付ける証拠を示す必要があります。
そのため、相手がこういったDV行為を裏付ける証拠を保有していないのであれば、慰謝料の支払いを拒否することができるでしょう。
なお、DVによる離婚の証拠、モラハラによる離婚の証拠、浮気による離婚の証拠については、以下の記事でも詳しく解説しておりますので、ぜひご参照下さい。
DV加害者と離婚するためにすべきこと モラハラの証拠として有効なもの LINE(ライン)は浮気の証拠になる?時効がすでに成立している場合
離婚慰謝料の支払いを拒否できるケースの一つとして、時効がすでに成立している場合、が挙げられます。
離婚慰謝料は離婚後も請求できますが、その時効は、基本的に離婚してから3年です。
時効が成立している場合、そもそも相手は慰謝料を請求することはできないため、請求されたところで支払う必要はありません。
ただし、時効は、期間が過ぎれば自動的に成立するものではなく、相手に「時効だから支払わない」という意思を伝えないと時効は成立しませんので、ご注意ください。
なお、慰謝料の時効については、以下の記事でも詳しく解説しておりますので、ぜひご参照下さい。
浮気・不倫の慰謝料請求には時効に注意!婚姻関係が破綻していた場合
離婚慰謝料の支払いを拒否できるケースの一つとして、婚姻関係が破綻していた場合、が挙げられます。
例えば、浮気・不倫を理由に離婚慰謝料を請求されているケースでは、浮気・不倫した時点で婚姻関係がすでに破綻していた場合、慰謝料を支払わずに済むことがあります。
なぜなら、浮気・不倫が理由で離婚慰謝料を請求する場合には、浮気・不倫によって平穏な婚姻生活を送ることができなくなった、婚姻生活が害されたことに対して、認められるものです。
そのため、浮気・不倫する前から夫婦関係が冷え切っている、離婚に向けて別居中であったなど、婚姻関係が既に破綻していた場合には、浮気・不倫のせいで平穏な婚姻生活を送れなくなった、婚姻生活が害されたとはいえないでしょう。
こういった事情がある場合には、離婚慰謝料を請求されたとしても、裁判所には認められない可能性が十分にあると言えるでしょう。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
離婚慰謝料を請求された場合の対応
それでは、離婚慰謝料を請求された場合には、どのように対応すべきなのでしょうか。
離婚慰謝料が請求された場合の対応に慣れている方は少ないでしょう。
焦ったり戸惑われたりする方も多いと思いますが、初期段階から落ち着いて、冷静に対応をすることが大事です。
離婚慰謝料が請求されたら対応すべきことを、以下見ていきましょう。
慰謝料請求を無視しない
まずは、相手からの離婚慰謝料の請求を無視しないようにしましょう。
相手から慰謝料請求された内容をきちんと確認し、請求された内容に納得がいかない、支払うお金がないなどと思っても、請求を無視してはいけません。
無視したからといって、相手が慰謝料の請求を諦めるとは考えにくいですし、逆に無視されたことで相手はさらに怒りを強めて、離婚慰謝料の支払いを求めて、調停や裁判などの手続きを進める可能性が高くなります。
調停や裁判になると、長期間に渡って対応しなければいけなくなり、余計な時間や手間、労力がかかってしまいます。
さらには、裁判自体も無視をして出頭しなければ、被告(訴えられた側)が敗訴してしまい、相手の請求が全面的に認められてしまうおそれもあります。
慰謝料の減額交渉をする
次に、離婚慰謝料の減額交渉を試みてみましょう。
請求された離婚慰謝料が高額で支払えそうにないときは、安易に合意せず、減額交渉に臨むべきです。
一度合意してしまうと、後から内容を変えて減額することは難しくなってしまうためです。
上記したとおり、離婚慰謝料を減額できるケースとして、相場以上の額を請求されているケースが挙げられますので、相手が請求してきた金額が適正なのか確認しましょう。
相場よりも高い場合には減額できる可能性がありますし、そのほかにも減額できそうな事情があるかもしれないので、悩まれた方は弁護士に相談するようにしましょう。
相手は、自身のダメージから、高額な離婚慰謝料を請求してくることもありますので、「自分に非があるから…」と負い目を感じたとしても、言われるがまま支払う旨返事してしまわないようにご注意ください。
相手の気持ちを考えた対応をする
また、相手の気持ちを考えた対応をすることに心がけましょう。
離婚慰謝料を請求してきたということは、少なからず相手は傷ついているものと思います。
そのため、離婚慰謝料を請求された側は、相手の怒りや苦しみを増幅・増悪させないように、相手の気持ちに配慮した対応をする必要があります。
当事者同士で話し合うと感情的になってしまうこともあるかもしれませんが、相手の気持ちを逆なでしてしまった結果、話し合いがこじれて、離婚慰謝料の請求額を増額されてしまう可能性もありますので、そのような場合には、弁護士に相談すべきでしょう。
ケースにもよりますが、自分に非がある場合は謝罪して、真摯に対応することも検討すべきです。
交渉を弁護士に任せる
そして何よりも、離婚慰謝料を請求されたら、弁護士に交渉を依頼することをお勧めします。
弁護士であれば、代わりに交渉を任せられますので、相手と直接やり取りしないで済みますし、感情的になることなく、法的観点に基づいて冷静に話し合いができます。
また、婚姻期間、子供の有無、離婚に至った経緯など個別の事情に基づいて適正な離婚慰謝料の金額を算出できますので、請求されている離婚慰謝料の金額が通常より高額だと判断した場合は、代わりに減額交渉をしてもらえます。
さらに、弁護士は、交渉のプロといえますので、離婚全体の解決に向けた進め方も精通しており、早期に解決できる可能性が高まるでしょう。
離婚慰謝料が支払えない場合の対処法
それでは、相手から請求された離婚慰謝料について、その額からしてどうしても支払えない場合にはどうすべきでしょうか。
まず上記したとおりに、減額交渉をすべきですが、それをしても一括での支払いが困難である場合は、分割払いの提案をすることも考えられます。
相手と金額だけでなく、分割で支払うことを交渉するという方法もあるでしょう。
ただし、分割払いでは支払いが途中で止まってしまう可能性があるとして、相手からは難色を示される場合もありますので、支払回数やその期間については、弁護士に交渉を任せるとよいでしょう。
離婚慰謝料を減額した事例
弊所で取り扱った事例で、離婚慰謝料を減額したケースを紹介いたします。
ご依頼者様は、不貞行為をし、それが元妻にバレてしまったところ、まずは不貞相手の女性に慰謝料請求がなされました。
不貞相手の女性は、元妻から慰謝料300万円を請求され、最終的には、100万円の慰謝料を支払って合意にて解決しました。
その後、元妻から、ご依頼者様に対して、おなじく300万円の離婚慰謝料が請求されたところ、高額で支払えないと考えて、弊所に相談されました。
担当弁護士が、元妻が、不貞相手の女性から、100万円を受領していたことを突き付け、また、不貞行為前までの夫婦関係(そもそも夫婦関係が円満ではなかったことなど)について反論を行ったところ、最終的には、離婚慰謝料として150万円まで減額することができました。
何を材料にして、離婚慰謝料の減額の交渉を行うかについては、ケースバイケースといえますから、離婚問題に強い弁護士に相談するようにしましょう。
離婚慰謝料を請求されてお困りなら弁護士に相談してみましょう
これまでご説明したとおり、離婚の際に、離婚慰謝料を請求されるケースは少なくなく、慰謝料を請求くらいですから、相手は感情的になっているケースも多々見られます。
ただし、その離婚慰謝料の請求について、本当に応じるべきなのか、応じるとして額が適正といえるのか、など十分に検討しておくべきケースも当然ありますし、離婚慰謝料の交渉が、離婚の成立自体に影響するなどもありますから、離婚慰謝料を請求されている場合には、離婚協議の進め方なども注意が必要です。
特に、相手方が離婚慰謝料に固執している場合には、調停や訴訟にも発展することがありますが、その請求根拠や額などについて、離婚慰謝料について積極的に争うべきケースも多いです。
そのため、離婚慰謝料を請求された場合には、反論の仕方、離婚の進め方などしっかりと対策を考えることが重要となります。
そして、これらについては、法的な知識等も駆使して具体的に考えていく必要があるため、法律の専門家である弁護士に早い段階で相談することをおすすめします。 この点、弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士は、これまで離婚問題、慰謝料問題を数多く取り扱ってきた実績等がありますので、一度お気軽にご相談ください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)