監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士
交通事故が起こった場合、多くのケースでは、「過失割合」が問題になります。
具体的には、追突や停車中に衝突された、赤信号無視で衝突されたケースなど一定の場合を除いて、「被害者」と「加害者」という立場はあるものの、事故の発生にどの程度影響していたかを検討する必要があり、これを「9対1」、「8対2」などと割合で示したものと「和室割合」といいます。
そして、「過失割合」が決まれば、【過失相殺】を行うことになるのですが、これが被害者の方が受け取る賠償金に大きく影響します。
そこで、本記事では、【過失相殺】とは何か、どのような決め方をしていくのか、どのような注意点があるかなどを、交通事故案件を多数扱って精通している、弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が、以下解説します。
目次
過失相殺とは
まず、【過失相殺】とは何かを改めてみていきましょう。
【過失相殺】とは、被害者の方にも過失が認められる場合、被害者側の過失分を、損害賠償金から減額することです。
右直事故(青信号で直進車と右折車が衝突する事故)など被害者側にも過失が認められる場合、被害者の方に生じた損害全てを、賠償金として加害者側が支払うのは公平ではありません。
そこで、被害者の方が受け取る賠償金を、被害者の方の過失の分だけ減額して、公平を図るというのが【過失相殺】です。
なお、【過失相殺】については、民法722条2項で定められており、「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。」とされています。
過失相殺と過失割合の違い
上記で【過失相殺】が何かを説明しましたが、似た言葉として「過失割合」というものがあります。
「過失割合」とは、冒頭に触れましたが、当該交通事故における被害者側の過失と加害者側の過失を「9対1」「8対2」と割合で表示したものです。
交通事故はこれまで多く発生してきて、裁判等になったケースも少なくなく、大枠の事故類型ごとに(例えば、「歩行者」「自転車」「自動二輪車」「自動四輪車」のいずれか、交差点かどうか、信号機が設置されているかどうか、一時停止規制の有無など)、基本的な「過失割合」が想定されていますので、ここから、修正要素(夜間かどうか、横断歩道を通行かどうか、徐行していたかどうかなど)や過去の裁判例を踏まえて、当該交通事故における「過失割合」を決めていきます。
「過失割合」が決まれば、被害者側の過失分を、賠償額から減額することを【過失相殺】といいます。
過失割合は誰が決める?
上記で見たように、【過失相殺】において、被害者側の過失分を決める「過失割合」は重要と言えます。
では、かかる「過失割合」は誰が決めるのでしょうか。
「過失割合」は、当該交通事故における被害者側の過失と加害者側の過失を決めていくものですので、まずは、事故の当事者の協議によって決めていくこととなります。
そのため、被害者の方からすれば、「過失割合」について相手方保険会社とやり取りする必要が出てくるでしょう。
なお、「過失割合」の協議などについては、以下の記事でも解説しておりますのでぜひご参照ください。
過失割合の協議について詳しく見る過失相殺の計算方法・流れ
それでは、【過失相殺】の計算方法や流れなどを見ていきましょう。
「過失割合」が「8(加害者):2(被害者)」、加害者側に100万円の損害、被害者側に500万円の損害を生じたというケースを想定して解説していきます。
まず、被害者の方が加害者に請求できる金額について、損害額500万円から過失分の2割を差し引くことで導き出します。
<500万円×(1-0.2)=400万円>
次に、加害者の損害補償額を計算します。
<100万円×0.2=20万円>
最後に、被害者側が額を計算していきます。
<400万円-20万円=380万円>
ただし、治療費などを加害者が負担したり、休業損害の内払いなど賠償金を一部受け取っていればしていれば上記380万円から差し引かれますので、ご注意ください。
以下の表もご参照ください。
加害者 | 被害者 | |
---|---|---|
過失割合 | 8 | 2 |
損害額 | 100万円 | 500万円 |
請求金額 | 20万円(100万円のうちの8割分は請求できない) | 400万円(500万円のうち2割分は請求できない) |
実際にもらえる金額 | 0円 | 380万円(ただし、治療費などを加害者が負担していれば賠償金から差し引かれます。) |
労災や健康保険を使った場合
労災や健康保険を使った場合には、被害者の方にも過失が認められる場合でも受け取れる賠償金が変わる可能性があります。
まず、労災事故(業務中の事故、通勤中の事故)の場合には、治療費や休業損害の一部は労災保険から支給されるところ、「費目拘束」という考えを取りますので、賠償金からの控除が制限される可能性があります。
具体的には、公的保険給付を受けたときの損益相殺的な調整は、保険給付の目的・性質に応じて、同一性のある損害の限度で控除されるということを言うのですが、簡単に言えば、治療費等として支給された費用は治療費等としてしか控除できない、慰謝料から控除できない、というものです。
次に、健康保険を使った場合(交通事故においても、第三者行為による傷病届を提出すること等で健康保険を使うことができます。)には、治療費の額が下がるため、加害者側の保険会社が治療費を負担した場合に、賠償金への影響を少なくできる可能性があります。
個々のケースで影響も変わり得るので、労災や健康保険を使った場合には、弁護士に相談されると良いでしょう。
過失相殺の計算例
それでは、上記でも少し触れましたが、【過失相殺】の具体的な計算例を見ていきましょう。
基本的な考え方は、
- 「過失割合」を決める
- 被害者側の請求額を計算する(被害者側の損害額×(1-被害者側の過失分))
- もしあれば加害者側の請求額を計算する(計算方法は上記と同様)
- 具体的な請求額を「②-③」により算出する。
過失割合9対1のケース
①「過失割合」が「9(加害者):1(被害者)」で、被害者側の損害額を300万円、加害者側の損害額を100万円というケースを想定します。
まず、②被害者側の請求額を計算します。
<請求額=300万円×(1-0.1)=270万円>
次に、③加害者側の請求額を計算します。
<請求額=100万円×(1-0.9)=10万円>
最後に、具体的な請求額を計算します。
<請求額=270万円-10万円=260万円>
なお、「過失割合」が「9:1」の交通事故については、以下の記事でも解説しておりますのでぜひご参照ください。
交通事故の過失割合9対1について詳しく見る過失割合8対2、加害者が高級車の場合
次に、①「過失割合」が「8(加害者):2(被害者)」で、被害者側の損害額を50万円、加害者側の損害額を200万円というケースを想定します。
まず、②被害者側の請求額を計算します。
<請求額=50万円×(1-0.2)=40万円>
次に、③加害者側の請求額を計算します。
<請求額=200万円×(1-0.8)=40万円>
最後に、具体的な請求額を計算します。
<請求額=40万円-40万円=0円>
過失相殺について弁護士に相談するメリット
上記計算例でも見たとおり、「過失割合」は、被害者の方が受け取ることができる賠償金に大きく影響します。
それこそ、数十万円の損害が生じた場合でも、1~2割の過失が認められてしまうだけで、賠償金が数万円減額になってしまうということとなり、数百万円の損害が生じた場合には、1~2割の過失が認められてしまう場合には、数十万円、場合によっては100万円以上の減額になってしまうおそれがあるため、「過失割合」を決めるにあたってはかなり慎重に進めていく必要があります。
特に、加害者側の保険会社と協議をしていく必要があるので、被害者の方自身で対応するのはかなり負担が大きいものと思います。
この点、交通事故案件に精通した弁護士であれば、事故状況から過失割合について検討し、被害者の方に少しでも有利な要素がないか協議してくれるものと思いますので、ぜひ「過失割合」、【過失相殺】については弁護士に相談するようにしましょう。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
被害者の過失割合を修正した解決事例
それでは、実際に、弊所の弁護士が被害者の方から依頼を受けて、「過失割合」を修正した事例を紹介します。
事故の状況としては、ご依頼者様が、片側1車線の道路を走行していたところ、交差点の手前で、左手にコンビニがある場所に差し掛かったところ、コンビニの駐車場からトラックがご依頼者様の車両が走行する道路に路外進出しようと進行してきました。
加害者の車両は、明らかによそ見をしてご依頼者様の車に気づかずにそのまま路外進出をし、ご依頼者の車両と加害者の車両とが衝突して、ご依頼者様は負傷するに至りました。
相手方保険会社の主張は、路外進出の車両と直進した車両が衝突した事故における基本的な過失割合である「8(加害者):2(ご依頼者様)」でした。
そこで、担当弁護士が、ご依頼者様の車に搭載されていたドライブレコーダーの映像を確認したところ、事故の直前に、①ご依頼者様がクラクションを鳴らしていたこと、②加害者がご依頼者様の車に気づくことなく(こちら側を見ることなく)路外進出しようとした様子が映っていたので、かかるドライブレコーダーの画像を用いて、交渉を進めることとしました。
ドライブレコーダーの映像を、相手方にも開示し、具体的な事故状況、特に、上記の①②の点を、秒数とともに示すことで、相手方保険会社に有無を言わせずに、「8:2」の過失割合から修正すべき事案であると認識させることができ、結果としては、相手方保険会社もあっさりと1割の修正を認め、「9:1」と、10%もご依頼者様に有利に修正することができました。
過失相殺の不明点は弁護士にご相談ください
これまで見てきたとおり、【過失相殺】、特に、「過失割合」については、被害者の方が受け取ることのできる賠償金に大きく影響します。
そのため、加害者の保険会社も、十分な根拠を提示しないと「過失割合」の修正等に応じないことも多く、このような保険会社との協議は、交通事故により怪我を負われて日常生活もままならない被害者の方にとってかなりの負担になってしまいます。
特に、「過失割合」については、基本的に想定されている過失割合をそのまま当てはめてよいのか、具体的な事故状況から過失割合についての修正の要素はないかなど、十分に検討すべき点が多いと言えます。
そのため、【過失相殺】、特に「過失割合」について疑問点がある場合には、速やかに交通事故案件に精通した弁護士に相談すべきです。
この点、弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士は、これまで数多くの交通事故案件を解決に導き、上記事例のとおり、過失割合を被害者の方に有利に修正した事例も経験しておりますので、ぜひ一度ご相談ください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:51009)