監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士
亡くなった方(以下、「被相続人」といいます。)が現れたときは、「相続」の手続として、被相続人が残した財産・遺産を分けることになります。
そうすると、「遺産の種類や内容、価値」が分からなければ、相続人間で遺産をどのように分けたら良いのか分かりません。また、そもそも相続すべきなのか、「相続放棄」をするべきなのかという点も、「遺産の種類や内容、価値」が分からなければ、判断に迷うことになるでしょう。
このように、「相続」の場面では、まずは、「遺産の種類や内容、価値」を把握することから始まることになりますが、これを【財産目録】として可視化していくべきでしょう。【財産目録】を作成しておくことでその後の手続がスムーズに進むでしょう。
そこで、【財産目録】の作成の手続や注意点などを、遺産問題・相続問題に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が、以下詳しく解説していきます。
目次
財産目録とは
【財産目録】とは、被相続人の遺産を「現金」、「預貯金」、「有価証券」、「不動産」等に分けて一覧にまとめたものです。
法律上では、『相続財産の目録』と表現されています(民法1011条他)。
【財産目録】とは、単に「現金」、「預貯金」などの遺産の種類を記載するだけではなく、その残高や評価額を記載する方がより良いでしょう。
財産目録を作成できるのは誰?
【財産目録】を作成できるのは、特に限定されていませんが、基本的には、①被相続人、②遺言執行者、③相続人など、遺産に関係する人でしょう。
そもそも、【財産目録】は、様々な場面で作成されます。
例えば、①被相続人が、生前に、【財産目録】を作成することがあり、遺言書などとともに【財産目録】を作成しておくことで、相続人らが「相続」の手続をスムーズに進めることができるでしょう。
また、例えば、②被相続人が残した遺言の実現のために『遺言執行者』が選任された場合には、遺言執行者は【財産目録】を作成することになります。『遺言執行者』については、以下の記事でも詳しく解説しておりますので、ご参照ください。
さらに、遺言等がなく『遺産分割協議』を行う場合には、相続人が【財産目録】を作成することになります。『遺産分割協議』については、以下の記事でも詳しく解説しておりますので、ご参照ください。
遺産分割協議とは|揉めやすいケースと注意点このように、【財産目録】については、様々な場面で作成されることになります。
財産目録を作成するメリット
上記したとおり、「遺産の種類や内容、価値」が分からなければ、相続人間で遺産をどのように分けたら良いのか分かりませんし、そもそも相続すべきなのか、「相続放棄」をするべきなのかという点も判断に迷うことになるでしょう。
そのため、「相続」の場面では、「遺産の種類や内容、価値」を把握するべく、【財産目録】を作成するメリットがあるといえます。
生前贈与等の相続税対策ができる
【財産目録】を作ることで、相続税対策に資することがあります。
相続税対策については、遺産にかかってくる相続税を軽減するためのものですが、【財産目録】を作っておけば、どのような財産があり、どのように整理していくべきかなど相続税対策もスムーズに進めることができます。例えば、預金が多額にあるため、生前贈与をした方が相続税対策になる場合がある等検討がしやすくなるでしょう。
相続税申告の際に便利
【財産目録】を作成しておくことで、相続税の申告の際に有利になると言えます。
「相続税の申告」は、相続の開始(=被相続人の死亡)から10ヶ月以内に申告をしなければなりませんが、被相続人の死亡後は、葬儀・法要などで追われるなどして、「遺産の種類や内容、価値」を把握しようともある程度の期間を要するため、期限が近付いたタイミングで遺産の把握のために動き始めても間に合わないといったことがあり得ます。
そのため、【財産目録】をあらかじめ作っておくことで、少なくともどういった財産があるのかが容易に把握でき、相続税申告の手続が進めやすくなります。
遺産分割協議がスムーズになる
【財産目録】を作成しておくと、『遺産分割協議』がスムーズに進むでしょう。
なぜなら、【財産目録】があり、遺産の種類、内容及び評価が適切になされていると、どの遺産を誰が引き継ぐのか、(金銭的に評価して)公平な分配になっているかなど、遺産分割にあたって重要なポイントを押さえながら、『遺産分割協議』を進めていくことができるでしょう。
逆に、【財産目録】を作っていないケースや、【財産目録】を作っていても重要な遺産が抜けていたり、評価が誤っていたりすると、『遺産分割協議』がスムーズに進まなかったり、相続人間の不信感を招いて揉めるおそれがあるため、注意が必要です。
相続トラブルを防げる
【財産目録】を作成しておくことで、相続トラブルを防ぐことができるケースがあります。
上記の『遺産分割協議』でのトラブルとも重複する部分があるのですが、例えば、相続トラブルとして挙げられるのは、遺産隠しを疑われるケースです。具体的には、相続人の中で、被相続人と疎遠になっている相続人と、近くに住むなどして身の回りの世話をしている相続人とがいる場合、被相続人と疎遠になっている相続人が身の回りの世話をしている相続人が遺産隠しをした・横領したなどと疑われるケースがあります。このようなケースでは、『遺産分割協議』を成立させるまで数年かかってしまうこともありますので、正確な【財産目録】があることでこのような相続トラブルを防ぐことができるケースもあるかと思います。
また、遺産分割協議の終了後に、新たに財産が見つかった場合、改めて遺産分割をしなければならなくなることもありますので、適切な【財産目録】があることでトラブルを防ぐことができます。
相続放棄の検討材料にもなる
【財産目録】を作成しておくことで、『相続放棄』の検討材料にもなるでしょう。
被相続人が死亡し、「相続」手続が発生した際、基本的には、『単純承認』するか、『相続放棄』をするかを検討することになります。
遺産の中で、借金などのマイナスの財産が多いような場合には、『相続放棄』したほうが良いと検討できるケースと考えられますが、そもそも、プラスの財産の方が多いのか、マイナスの財産の方が多いのかは当然相続の当初では明らかではありません。
そこで、【財産目録】を作れば、プラスの財産とマイナスの財産の種類、内容及び評価が明らかになり、『相続放棄』すべきか検討しやすくなるでしょう。
なお、『単純承認』や『相続放棄』については、それぞれ以下の記事でも詳しく解説しておりますので、ご参照ください。
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財産目録の作成方法
それでは、これまで見てきた【財産目録】の作成方法を詳しく見ていきましょう。
財産目録の書き方
まず、【財産目録】の書き方ですが、手書きでもパソコンでも問題ありませんし、また、特定の書式はありません。
ただし、裁判所等で勧められる書式はありますので、それに沿って作成すると良いでしょう。
記載する内容
【財産目録】に記載する内容としては、「遺産の種類、内容及び評価」が基本です。
「種類」というのは、以下見ていくような「現金」や「預貯金」、「株式」、「不動産」等の財産の種類です。
「内容」というのは、「預貯金」などは複数の口座があるケースがほとんどですし、「不動産」も複数保有するケースもありますから、財産の特定のための情報を記載することです。
「評価」というのは、遺産の金銭的な価値・評価です。
以下、各財産に沿って具体的に見ていきましょう。
預貯金
預貯金の記載内容としては、一般的に、「金融機関名」、「支店名」、「預金種別」、「口座番号」という内容の情報と、評価額として「残高」を記載することが必要であるといえます。
つまり、「●●銀行●●支店 普通預金 口座番号〇〇〇〇〇〇〇」と「残高 〇〇円」といったものです。
不動産
不動産がある場合、まずは、「土地」と「建物」に分けて記載するようにしましょう。
「土地」であれば、所在、地番、地目、地積を記載することになります。
つまり、「●●市●●町●丁目 ●番● 地目宅地 地積100㎡」といったものです。
また、「建物」であれば、所在、家屋番号、種類、構造、床面積を記載します。
つまり、「●●市●●町●丁目●番● 家屋番号● 種類:居宅 構造:瓦葺屋根2階建 床面積:1階●㎡ 2階●㎡」といったものです。
ただし、マンション(区分所有建物)等の場合には表記が若干複雑ですので、専門家等に確認するのがよいでしょう。
不動産については、評価額も記載することになりますが、評価方法は複数あるところ、参考として固定資産評価額を記載するのが一つでしょう。
有価証券
株式がある場合には、株式の情報を記載することになります。
この点、保有する株式が上場株式なのか、非公開株式なのかによって変わり得ます。
上場株式の場合は、証券口座を特定するために証券会社の名前や支店名、口座番号と共に、保有株式数、財産目録作成時点における評価額(時価)を記載するのがよいでしょう。
上場されていない会社の株式である場合は、会社名と保有株式数を記載し、会社の決算書がある場合には、純資産額を記載しておくのがよいでしょう。
自動車等の動産
自動車や絵画などの動産がある場合に、動産をどこまで詳しく具体的に記載するのかは悩ましい問題であるのですが、一定以上の価値のあるものを特定して個別に記載し、それ以外については「家庭用財産」などとして一括で数万から数十万(実際の家具等の価値にもよります)等で評価することが多いかと思います。
一般には、自動車は比較的高価になることがありますので、自動車がある場合には【財産目録】に記載するようにしましょう。
自動車がある場合、車検証を元に、登録番号、車体番号、登録年式、評価額等を記載するのがよいといえます。
借金やローン等の負債
借金やローンなどマイナスの財産(負債)もある場合には、その情報を記載するようにしましょう。
相続は、プラスの財産だけでなく、マイナスの財産も相続することになること、負債も記載することで、財産全体でプラスかマイナスかを判断することから、記載は必須です。
マイナスの財産の典型例は借金、ローンですが、その他にも、病院の治療費や施設の利用費の未払分や、税金の未納分等がよく問題となります。
負債の欄には、債権者名(支払先・返済先)、種別、残額、借入金額等を記載するようにしましょう。
財産目録はいつまでに作成すればいい?
【財産目録】は、いつまでに作成しなければならないという期限はありません。
もっとも、相続税の申告をするのであれば、申告期限である相続開始時から10か月までに作成する必要があるでしょうし、相続放棄するかどうかを検討するために財産目録を作成するのであれば、3ヶ月という熟慮期間内に作成する必要があるでしょう。
いずれにしても、相続財産の全体像は早めに把握しておくに越したことはありません。可能な限り早期に財産目録は作成するべきでしょう。
相続手続に関する期限については、以下の記事でも詳しく解説しておりますので、ぜひご参照ください。
財産目録が信用できない・不安がある場合
誰かが作成した【財産目録】が信用できない場合は、自ら相続財産の調査を行い、改めて【財産目録】を作成した方がよいでしょう。
遺産分割の場面であれば、相続人は、被相続人名義の財産・遺産を、相続人という立場によってある程度の範囲まで調査することができます。
銀行であれば過去の取引履歴を取り寄せることができますし、内容を精査することで、財産の流れを把握できることも可能となります。
また、遺産の範囲等も含めて相続人間で争いがある場合は、家庭裁判所における遺産分割調停を利用するのも一つの方法です。
相続財産の調査の方法等については、以下の記事でも詳しく解説しておりますので、ご参照ください。
円滑な相続は財産目録の作成が大切です。弁護士へご相談ください
これまで見てきたように、【財産目録】の作成は、どのような遺産があるのかを一見して明らかにできるとともに、相続の手続きに必要となりますし、なるべく早期に作成しておくことで、相続問題全体をスムーズに進めていくことができます。
もっとも、ご自身が【財産目録】を作成する場合でも、相続開始後に別の相続人の方が【財産目録】を作成する場合でも、どこから手を付けてよいかわからないという方もたくさんいらっしゃると思います。
そして、実際に【財産目録】を作成しようとしても、金融機関への照会や、名寄帳の取得、特定情報の正確な記載、評価額の考え方等、簡単に作成できるとは限りません。
そのため、遺産が多い、どのような遺産があるか分からないという方は、【財産目録】をきちんと作成するためにも、相続問題、遺産分割問題に精通した弁護士に一度相談されることをお勧めします。
この点、弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士は、これまで、相続問題、遺産分割問題を数多く解決してきましたので、ご不安な方は、ぜひ一度弊所にご相談ください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:51009)