監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士
相続に当たっては、故人(=被相続人)が『どのような財産を有していたか』が非常に重要です。
故人がどのような財産を有していたかについては、遺産分割だけでなく、その他の手続(遺留分減殺請求、相続放棄などの法的手続や、被相続人名義の不動産の名義変更などの手続)のために必要不可欠です。
しかし、家族といっても、自分以外の財産を完全に把握していることは通常ありません。そのため、相続人たちで故人の財産を調査することが必要となります。
そこで、故人の【相続財産調査】に関して、注意点や財産毎の調査の方法などを相続問題、遺産分割問題に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が以下解説いたします。
目次
相続財産調査の重要性
ある人が亡くなると、相続が開始しますが、相続が開始した後は、【相続財産調査】、すなわち、相続財産(遺産)をきちんと調査することが必要です。
【相続財産調査】が不十分な状態で、遺産分割を行ってしまうと、後から遺産が出てきた場合にせっかく決めた遺産分割のやり直しが必要になることがあります。また、負債(相続債務)があることを知らないと、負債も相続してしまい、膨大な支払義務を負うことになってしまう、といった事態が起きかねません。
このように、【相続財産調査】は、相続が開始した後に必須の手続です。
相続財産にあたるもの
では、早速、【相続財産調査】をどのように進めていくべきかを見ていきましょう。
まずは、そもそもどのような財産が相続財産にあたるのかを事前に把握しておきましょう。プラスの財産とマイナスの財産に分けて把握するのが有用かと思います。
プラスの財産の種類
プラスの相続財産として典型的なものは、以下のとおりです。
- 手許現金やタンス預金
- 金融機関などに預けている預貯金
- 土地や建物などの不動産
- 株式、投資信託など有価証券
- 自動車や宝石などの価値ある動産
- 他人にお金を貸しているなどの債権
- ゴルフ会員権など一定の価値を有する権利
マイナスの財産の種類
マイナスの相続財産として典型的なものは、以下のとおりです。
- 住宅ローンなどを含む借金(金融機関、消費者金融、個人間の貸し借りなども含まれます)
- 賃貸物件の未払い賃料や未払いの税金、未払いの公共料金といった未払いの生活費
- 入院中の費用などの未払いの費用
- 他人の借金の保証人になっているなどの場合の保証債務
相続財産調査の流れ
相続財産調査は、一般的に、預貯金などのプラスの財産の調査を行いながら、同時並行で、消費者金融からの借り入れなどのマイナスの財産の調査を行っていきます。
ただし、例えばですが、不動産の登記からローン付などが分かって債権者が判明する、預貯金等の取引履歴から誰かに借金を支払っているなどの事実が判明する等、プラスの相続財産に関連してマイナスの相続財産が判明することが多いです。
そのため、積極的に、プラスの相続財産から調査した方が良いかもしれません。
なお、マイナスの相続財産の調査は、信用調査機関(CIC、JICC等)に照会することでも行います。
財産調査に期限はある?
相続財産をどのように分割するか決める遺産分割協議について期間制限がなく、【相続財産調査】についても期限はありません。
しかし、相続放棄をする場合、被相続人がなくなったこと、及び自分が相続人であることを知ってから3か月以内に行う必要があるため、相続放棄も選択肢に入る場合には、【相続財産調査】は、3か月以内に行うようにしましょう。
この3か月の期間期限を過ぎると、基本的には、相続放棄をすることができず、プラスの財産だけでなく、マイナスの財産も含めて全て被相続人の財産を引き継ぐことになりますので、注意が必要です。
預貯金の調査方法
【相続財産調査】において基本となる預貯金の調査方法を見ていきましょう。
まず、どの金融機関に預貯金があるかを調べなければなりません。
これについては、故人の自宅に遺された通帳、キャッシュカードから判明することが多いです。これらの他、金融機関からの粗品(カレンダーやペンなど)から、預貯金口座の存在が分かることもあります。
また、被相続人が、どこの銀行のどこの支店に口座を開設しているか判明していない場合でも、各金融機関に対して、『全店照会』という方法を用いることで、被相続人が対象とした金融機関に口座を開設しているかを確認することもできます。
そして、預金口座が判明したら、故人が亡くなった日付での残高が必要になりますので、残高を明確に示すものとして、被相続人が亡くなった日付で『残高証明書』を発行してもらうことが有効です。
他方で、故人から他の相続人へ生前贈与がなされていたかを確認したいなど、故人の名義の財産の変動まで調査したいときには、過去●年分の『取引明細書(証明書)』を取得することになります。
相続人に気付かれなかった口座はどうなるか
上記のような預貯金の調査をしても預金口座が判明しなかった場合、故人の名義のまま、その口座及び預貯金が残り続けることになります。その結果、長年、その預金が引き出されることなく、放置されてしまうこととなります。
もちろん、預金債権についても債権であるため、長年引き出さないことで預金を引き出す権利が時効により消滅する可能性があります。しかし、実際に金融機関が時効を主張して預金の引き出しを拒否することはないようです。
ただし、10年以上取引をしていない場合、『休眠預金』等となってしまいます。その口座から預金を引き出すためには、休眠預金等から預金を引き出すための手続きを必要としますので、注意が必要です。
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不動産調査の方法
次に、【相続財産調査】で預貯金に次いで多い、不動産の調査方法を見ていきましょう。
まず、どこにどのような不動産を所有しているかを調べなければなりません。
これについては、不動産を所有している場合、市役所等から『固定資産税の納税通知書』が送られて来ますので、それで故人が不動産を所有しているかどうかを知ることができます。
また、故人が『不動産の権利書もしくは登記識別情報』を持っている場合があり、それに基づいて故人の不動産が所有していることを知ることができます。
そのほかにも、市区町村で『名寄帳』を確認することで故人が有する不動産を確認することができます。ただし、市区町村の名寄帳では、その市区町村の不動産しか分からず、とある市区町村の名寄帳で、全国すべての不動産を調べられるわけではありませんので、注意が必要です。
株式の探し方
そして、【相続財産調査】として、近時増えている株式の調査方法について見ていきましょう。
株式については、故人がどの会社の株式を何株持っているのかを調査しなければなりません。
ただし、株式と言っても、現在は、ほぼ電子化されており、紙媒体の株券を持っていることは非常に稀です。
そのため、まずは、株式を発行している『株式会社からの故人宛ての連絡』(株式総会の通知、株主優待券の送付など)から、故人の株式の保有について確認していくことになります。
また、株式を取得する場合、証券口座を開設することが多く、『証券口座を開設した金融機関から書面』などから、株式の相続財産調査を進めることができる場合もあります。さらに、株式、公社債、投資信託等の有価証券については、『証券保管振替機構(ほふり)』に問い合わせにより故人の証券口座の有無を確認することもできます。
他方で、非上場株式の場合、株券が発行される場合であれば株券を基に、株券が発行されていない場合には、故人の自宅に、『株主総会招集通知』等の、株主に対して送付される手続関係の書類がないかを探す等の地道な作業が必要になります。
借金の調査方法
【相続財産調査】においては、マイナスの財産の代表である、借金の調査も重要です。
借金の調査方法としては、まず、故人の自宅から、金融機関や消費者金融の請求書面や督促書面、借入の契約書が出てこないかを確認します。また、上記4で見た故人の名義の預金口座の履歴で定期的な引き落としがあるかどうかも確認しましょう。
ただし、故人が、借入に関する書類を破棄してしまっている可能性もありますし、請求書面などがたまたま届いていない場合もあります。その場合には、信用情報機関(JICC、CIC、全銀協)に問い合わせをかけることも重要です。信用情報機関は、銀行や消費者金融等から得た個人の信用情報を管理しており、返済状況や延滞情報を把握しているためです。
連帯保証人になっていないか調査する方法
保証人とは、債務者が弁済をできない場合に、代わりに債務を弁済する者をいいます。
故人が保証人となっている場合、この保証債務(場合によっては連帯保証債務)がある場合、この保証債務もマイナスの相続財産となります。
故人が保証人となっている場合、債務者が弁済を続けている限り、保証人の故人が弁済をすることはありませんので、通知や督促などが来ないことも多く、また、預金の取引履歴を見ても判明しないことが多いです。
ただし、故人が保証契約書などの書面を残していれば、その書面で判明しますので、故人が保管していた書類をよく確認したほうがよいとでしょう。
また、上記の信用情報機関に登録がされている場合は、その信用情報機関に照会をかけることで判明します。
住宅ローンがある場合
住宅を購入する場合、住宅ローンを組むことが多いかと思います。住宅ローンは、30年以上にわたって支払い続けることも多く、非常に長期にわたって支払い続けることとなります。
もし故人に未返済の住宅ローンがあった場合、ローンは借金ですから、当然相続の対象となります。
ただし、住宅ローンを借りるにあたっては、併せて『団体信用生命保険』(団信)に加入することが多いのでしょう。この『団信』に加入している場合、住宅ローンの債務者が亡くなった場合、保険会社から残りの住宅ローン相当額が支払われることになるでしょう。
このように、住宅ローンに関しては、上記のように『団信』によって返済できることがありますので、故人に住宅ローンがあることが判明した場合は、併せて『団信』に加入しているかを確認したほうがよいと思います。
借金が多く、プラスの財産がない場合
これまで述べてきたとおり、故人の財産を相続する場合、プラスの相続財産だけではなく、マイナスの相続財産も引き継ぐことになります。
マイナスの相続財産が大きい、もしくは生前借金などが多かったために相続時にいくらあるか不安であるときには、『相続放棄』を検討することになります。
『相続放棄』とは、簡単に言えば、プラスの財産もマイナスの財産も一切引き継がないようにする手続です。
『相続放棄』にあたっては、プラスの相続財産・マイナスの相続財産を引き継ぐことはなくなるために、家庭裁判所への申述手続が必須です。
『相続放棄』にあたっては、マイナスの財産を引き継ぐことを回避することができますが、他方でプラスの財産も引き継ぐことができないので注意が必要です。
財産目録の作成について
上記のような方法、手順で【相続財産調査】が終わったときは、どのような財産があったかを『財産目録』として形に残すことが有用です。『財産目録』とは、故人の相続財産を一覧表などにしたものであり、遺産分割協議で使用したり、相続税の申告の際に参照したりします。
この『財産目録』については、作成にあたって、特定の決まりがあるわけではないですが、相続財産の内容と数量、できれば価値などが一目でわかるようにすることが重要といえます。
例えば、実務では、預貯金については、単に残高を記載するだけではなく、金融機関名、支店名、口座番号、種別なども一緒に記載することが基本です。不動産については、登記簿謄本の記載に従い、地番や家屋番号、持分なども記載します。他方で、金額の評価が必要な財産(株式、車など)については、いつの時点を評価の基準とするかを検討する必要もあります。
相続財産調査は弁護士へお任せください
これまで見てきたとおり、【相続財産調査】というのは、簡単そうに見えて簡単な手続ではありません。
どのような資料からどのような財産があると目星をつけて情報や資料を取得していくか、相続放棄のことも念頭に置くと悠長に調べることは出来ませんので、スピード感を持って財産を調べていくことが重要です。
他方で、故人が亡くなってすぐに財産の調査を進めることについて、他の相続人から苦言を呈されるなどのケースも散見されますし、何より自分自身で財産を調べることは予想以上に大変です。
そのような場合には、相続問題、遺産分割問題に精通した弁護士に依頼することをおすすめします。
弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士は、相続案件や遺産分割案件を数多く取り扱っており、その際、当然に必要になる【相続財産調査】も行っており、適切な調査を行っていく経験を有しています。
遺産分割協議で揉めてからというのでは遅いことも多くありますので、【相続財産調査】から弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士にご相談していただくことをお勧めします。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:51009)