求人票記載の給与額と契約上の給与額

  • 求人・採用

求人・採用の場面では、会社としては、出来るだけ早く、かつ、なるべく良い人材を確保したいと考えて、なるべく魅力的な労働条件に見えるように求人票や求人広告に表記したいでしょう。
ただし、求人票や求人広告の記載の労働条件と採用時の労働条件が異なるなどのトラブルは多く、ハローワークにおいて、クレームのうちの3割は求人票の記載と実際の条件が違うというクレームが占めているそうです。このように、労働者の側から多くの苦情の申出がされている現状を踏まえると、求人票や求人広告の作成には、会社側として細心の注意を払わなければいけないでしょう。
そこで、会社として、求人票や求人広告にどのような記載をすべきか、求人票や求人広告に記載した条件等にどこまで拘束されてしまうかなど実務上の注意点・ポイントを見ていきたいと思います。

目次

求人票と採用後の給与額が異なることは問題か?

まず、求人票や求人広告の労働条件と採用後の労働条件が異なることは問題になるのでしょうか。
求人票・求人広告は、法的には「申し込みの勧誘」であり、労働者から正式な応募の申し込みがあり、会社がこれに応ずれば雇用契約の成立になるのが基本ですので、求人票は、そこに記載した内容がそのまま採用時の労働条件となるとは限りません。
ただし、労働者は、求人票に記載された条件を参考にして応募するかどうかの判断をしているため、求人票に記載された労働条件とあまりにかけ離れた内容で実際に採用してしまうと、労働者とのトラブルとなる可能性があるため、注意が必要です。

求人票の労働条件は見込みに過ぎない

求人票は、法的に考えると、企業から労働者に対する会社から労働者に対して、自社へ応募するように働きかける「申し込みの勧誘」という意味があります。実際に、『募集事項についてはあくまで採用者側からの申し込みの誘引に過ぎず、求人票に記載された事項がそのまま労働条件になることを保障したものではない』とした裁判例(八洲測量事件、東京高判昭和58年12月19日)もあります。
ただし、求職者と会社間のトラブル防止のため、2018年1月に職業安定法の改正が行われ(民間の求人媒体も対象)、違反した場合には募集企業に対する罰則もあるため、注意しましょう。

労働条件は労使間の契約内容が最優先

既に述べてきたとおり、求人票は、法的には「申し込みの勧誘」であり、会社側としては、求人票に記載した内容そのままに採用しなければならないわけではありません。
そのため、採用時・雇用時に、労働者側と具体的な労働条件について協議し、決定することは何ら妨げられませんから、結局は、会社と労働者との間で協議して決めた労働条件が一番重要となります。

求人票の労働条件と実際の労働条件との相違

求人票と実際の労働条件との相違がある場合には何か問題が生じうるのでしょうか。
上記したとおり、採用時・雇用時に、労働者側と具体的な労働条件について協議し、協議の上で決めた労働条件が一番重要です。
そのため、求人票記載の労働条件と実際の労働条件とが異なるからといって直ちに問題となるわけではありません。しかし、実際の労働条件より好条件で募集をかけ、賃金関係・就業時間・職種等において実際と違う条件を示すなど、初めから求人票・求人広告記載の条件からの変更を前提として募集をかけるのは当然ながら許容されませんので、注意しましょう。

求人票の労働条件と実際の労働条件との相違

会社としては、労働者を採用するに際しては、トラブルを防ぐために、採用時の労働条件をきちんと労働者に対して明示した上で採用する必要があります。
労働条件の明示については、労働基準法15条等に定められた法律上の義務で、これを怠り労基署などに発覚してしまうと、場合によっては 30万円以下の罰金が課されるため注意しましょう(労働基準法120条)。
労働条件において特に重要な部分については、以下に述べるように、書面での明示が求められていますので、会社としてはきちんと把握しておく必要があります。

書面での明示が義務付けられている事項

まず、書面での明示が義務付けられているのは、以下の①~⑤の条件です。なお、2019年4月以降は、労働者本人が希望した場合はFAXや電子メールによって明示する方法も認められています。

  • ①労働契約の期間
  • ②就業の場所及び従事すべき業務
  • ③就業時間(始業・終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間・休日・休暇等)
  • ④賃金の決定・計算、支払いの方法・時期、昇給の有無
  • ⑤退職(解雇の事由を含む)

このように、契約期間、就業場所や就業時間など労働者が特に気にするような労働条件については、書面で明示することが求められており、一般的には雇用契約書や労働条件通知書といった書類で明示することになるでしょう。

口頭での明示が認められる事項

次に、定めがあれば明示することが望ましいとされているもの、もしくは口頭での明示も許容されている労働条件⑥~⑬を見ていきましょう。

  • ⑥退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払いの方法ならびに退職手当の支払いの時期
  • ⑦臨時に支払われる賃金・賞与等
  • ⑧労働者に負担させるべき食費、作業用品その他
  • ⑨安全および衛生
  • ⑩職業訓練
  • ⑪災害補償
  • ⑫表彰および制裁
  • ⑬休職

これら⑥から⑬の労働条件を明示しない場合であっても労働基準法15条違反とはなりませんが、定めがある場合には雇用契約書などで明示しておくことが望ましいです。

求人票に虚偽の内容を記載する違法性

何度も述べてきましたが、求人票は、法的には「申し込みの勧誘」の意味でしかありません。
しかし、求人票をあくまで「申し込みの勧誘」に過ぎないものと考えて、実際の労働条件とは明らかに異なる虚偽の内容を記載することは、労働者を騙す面がありますから、当然良いわけではありません。また、仮に採用できたとしても、おそらく労働者は会社のこのような対応に不満を募らせて、すぐに退職してしまう可能性があり、虚偽の内容をあえて記載するメリットはありません。
さらに、昨今はSNSなどで容易に情報拡散の恐れがあることも考えれば、実際の雇用の際の労働条件を、求人票に記載した内容と乖離させることは控えるべきでしょう。

悪質な場合は賠償責任を負うこともあり得る

求人票に実際の労働条件とは明らかに異なる虚偽の内容を記載すれば、採用した労働者に不満を与えてしまい、十分な労務提供がなされずに結局退職されてしまうという本末転倒な結末を招きかねません。
さらに、労働者としては、求人票の内容に基づく雇用契約の締結が期待しているにもかかわらず、求人票の記載内容が、実際の雇用契約の内容と大きく異なり、その違いが生じたことについて、会社側に悪質性が認められる場合には、会社に賠償責任が負う可能性もある点は注意しましょう。
職業安定法第65条第8号では、「虚偽の広告をなし、又は虚偽の条件を呈示して労働者の募集を行った者又はこれらに従事した者は6カ月以下の懲役又は10万円以下の罰金に処せられる」とされています。

労働条件に関する裁判例

求人票と異なる労働条件で採用する場合の労働者との合意が問題になったケースとして、以下の、福祉事業団A苑事件(京都地判平成29年3月30日)があります。

事件の概要

労働者Xは、ハローワークで障害児童に対する放課後デイサービス事業を行うY社の求人票を見て、Y社のA宛の指導員として採用されたものの、その求人票には、「雇用期間の定めなし」、「定年なし」と記載されていました。
しかし、Y社から採用の際に交付された労働条件通知書には、契約期間を「1年(更新する場合がある)」、「定年制有(満)65歳」とされていました。Xは、既に前職を退職しており、これを拒否すると仕事がなくなり収入が絶たれてしまうため、当該労働条件通知書の中の、『「本通知書に記された労働条件について承諾します。」「本通知書を本日受領しました。」』と記載されていた部分に署名押印してしまいました。
かかる通知書に基づいて、Y社が、契約期間1年で期間が満了したとしてXを退職扱いしたために、Xが、Y社の従業員である地位の確認と退職後の賃金を求めて提訴したのが本事案です。

裁判所の判断(事件番号 裁判年月日・裁判所・裁判種類)

裁判所は、上記のようなケースで以下のように判断しました。

  • ①求人票は、求人者が労働条件を明示した上で求職者の雇用契約締結の申込みを誘引するもので、求職者は、当然に求職票記載の労働条件が雇用契約の内容となることを前提に雇用契約締結の申込みをするのであるから、求人票記載の労働条件は、当事者間においてこれと異なる別段の合意をするなどの特段の事情のない限り、雇用契約の内容となると解するのが相当である。
    本件では、求人票には雇用期間の定めはなく、また、定年制なしと記載されており、面接でも求人票と異なる旨の話はないまま、Y社はXに採用を通知した以上、ため、本件労働契約は、期間の定めのない労働契約、定年制のない労働契約が成立したと認めるのが相当である。
  • ②Y社がXに対して労働条件通知書を提示し、Xが署名押印している点については、①で成立を認定した本件労働契約(期間の定めなし、定年制なし)の変更を主張する趣旨を含むと解される。
    使用者が提示した労働条件の変更が賃金等に関するものである場合には、当該変更を受け入れる旨の労働者の行為があるとしても、労働者が使用者に使用されてその指揮命令に服すべき立場に置かれていること等に照らせば、当該変更に対する労働者の同意の有無についての判断は慎重にされるべきである。
    その同意の有無については、当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度、労働者が当該行為に至った経緯等に照らして、当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも、判断されるべきである。
    本件では、定年制の有無等について、契約締結当時64歳のXの場合には、賃金と同様に重要な労働条件である。
    そして、期間の定め及び定年制のない労働契約を、1年の有期契約で、65歳を定年とする労働契約に変更することには、Xの不利益が重大であるなどから、本件労働条件通知書にXが署名押印した行為は、その自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとは認められず、労働条件の変更についてXの同意があったと認められない。

ポイント・解説

本件では、求人票に記載された労働条件と実際に労働条件が異なり、かつ、XがY社から交付された労働条件通知書に署名・押印したというケースにおいて、求人票に記載された労働条件が成立したとしたものです。
Y社は、求人票記載の内容と異なる労働条件で採用するとの説明等を面談で行わずにXを採用したものであり、いくら労働条件通知書において採用条件を明示しても、求人票記載の内容での労働契約が成立したとみるというもので、実務上重要です。
会社としては、労働条件通知書などに労働者の署名・押印を得たからといって、それが契約内容になったと誤信せず、求人票と実際の労働条件がどのように異なっていて、それが労働条件として労働者の立場からどの程度重要なのかを吟味すべきであり、会社においてその点についての説明責任が課されたものとして、しっかり対応するようにしましょう。

労働条件に関するQ&A

求人票と採用後の労働条件が異なると、会社にはどのようなリスクが生じますか?

求人票と採用後の労働条件が異なると、上記裁判例のように求人票記載の労働条件であると争いを起こされるリスクがあります。
また、採用した労働者に不満を与えてしまい、十分な労務提供がなされずに結局退職されてしまうという本末転倒な結末を招きかねません。
さらに、昨今はSNSなどで容易に情報拡散の恐れがあることため、実際には応募者を雇用する際の労働条件を、求人票に記載した内容と乖離させることは控えるべきでしょう。

求人票に記載している労働条件が、虚偽の内容と判断される具体的なケースを教えて下さい。

求人票に記載した条件と実際の条件が明確に異なる場合で、かつ、求人票記載の条件>実際の労働条件となる場合には、求人票に記載している労働条件が虚偽の内容と判断される可能性があるでしょう。
例えば、求人票には契約期間を定めなしと記載しているにもかかわらず、実際の契約期間は1年間と限定されているもの(たとえ更新の定めがあっても虚偽と判断される可能性はあるでしょう)などが挙げられるでしょう。

求人票の給与額を記載ミスしていました。誤った給与額で採用しなければならないのでしょうか?

既に見てきたとおり、求人票は、法的には「申し込みの勧誘」でしかなく、会社側としては、求人票に記載した内容そのままに採用しなければならないわけではありません。
そのため、採用時・雇用時に、労働者側と具体的な労働条件について協議し、決定することは何ら妨げられません。しかし、求人票の記載と異なる労働条件で採用する場合には、面談時や採用時にきちんと説明を行い、その点について説明を尽くし、採用を受けてもらった記録を残すようにしましょう。

労働契約の締結時、求人票と同じ条件を求められた場合、会社はどう対応すべきでしょうか?

既に見てきたとおり、求人票は、法的には「申し込みの勧誘」でしかなく、会社側としては、求人票に記載した内容そのままに採用しなければならないわけではありません。
ただし、実際に求人に応募してきた人の経験や能力が当初想定したレベルには及んでいないものの、労働条件を調整したうえであれば採用したい、という場面もあるのかと思います。その場合には、求人票と異なる労働条件でなら採用できる旨を説明し、それでも、求人票と同じ条件での採用を求められた場合には採用を見送ることを考えるべきでしょう。

労働条件の内容は、就業規則や雇用契約書と同一でなければならないのでしょうか?

まず、労働契約における労働条件は、就業規則と同一の内容でなくともよく、基本的には、労働契約における労働条件が優先されます。
しかし、就業規則で定めている条件よりも悪い労働条件が労働契約上定められてしまっている場合、個別の労働契約(の悪く定められている部分)は無効なものとなります。
例えば、労働契約において基本給が20万円となっており、就業規則上は22万円と定められている場合、20万円と定めた労働契約が無効となり、基本給は就業規則に記載された22万円となります。

求人票に記載しなければならない項目について教えて下さい。

職業安定法5条の3は、ハローワークや人材紹介会社を利用する場合、次の6項目を求人票に記載する必要があると定めています。

  • ①労働者の業務内容
  • ②労働契約の期間
  • ③就業する場所
  • ④始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間と休日
  • ⑤賃金(賞与などについては別途規定あり)
  • ⑥健康保険、厚生年金、労働者災害補償保険及び雇用保険の適用有無など

ハローワークなどを利用せず求人サイトや求人誌などに求人広告を掲載する場合には、上記6項目を記載しなければならないわけではありませんが、労働者が応募するにあたって有益な情報を提供するためにも上記6項目は掲載すると良いでしょう

経営不振で求人票通りの賃金が支払えなくなった場合、会社は賠償責任を負うのでしょうか?

仮に、求人票通りの賃金額で採用しない場合でも、直ちに会社は賠償責任を負うものではありません。
求人票と異なる労働条件で採用する場合には、上記裁判例のとおり、面談時や採用時にきちんと求人票と異なる労働条件である旨の説明を行い、その点について説明をして採用を受けてもらった記録を残すようにしましょう。
求人票通りの賃金額で労働者を採用してしまった場合には、採用後は基本的に当該賃金額を支払う必要がありますが、経営不振等で採用後に賃金額を変更する場合には、労働者にきちんと変更の理由や経緯等について説明を行い、個別の同意を取るようにしましょう。

求人票と労働条件が変わることに納得してもらえない場合、採用内定を取り消すことは可能ですか?

採用を通知した場合には、「内定」として、新たに労働者を採用する際、勤務が開始される前から入社契約を結ぶ「始期付解約権留保付労働契約」として扱われるでしょう。
かかる「内定」の取り消しが全くできないわけではありませんが、労働契約と同等のものとして扱われており、実際に内定取り消しを行う場合は多くの制限が設けられています。
そのため、求人票記載の条件で採用通知を出した後で、経営不振による内定取り消しなど会社側の事情によって内定取り消しを行う場合には、労働者への説明を尽くすことなど最大限の配慮が求められますので、簡単に採用内定を取り消せるわけではありません。
これに対して、提出書類に虚偽があった場合など労働者側の事情であれば内定取り消しは行いやすいといえます。

求人票には「月給25万円~」と記載しています。この金額にはみなし残業代も含まれていますが問題ないでしょうか?

求人票に「月給25万円~」と記載していて、みなし残業代(定額残業代)も含まれている場合、みなし残業代(定額残業代)が含まれていることを明記する必要があります。
例えば、「月給25万円(うち3万円は●時間分の残業代)」などと明記しなければ、基本給が25万円~と扱われるので、残業代の計算などで会社に不利に扱われるおそれがあります。

定額残業代制に関する重要判決と時代の変化への対応
定額残業代制が否定された場合の三重苦

労働条件通知書の交付は、契約内容について合意がなされたことの証明になりますか?

裁判例でも触れましたが、会社としては、労働条件通知書などに労働者の署名・押印を得たからといって、それが契約内容になったと誤信せず、求人票と実際の労働条件がどのように異なっていて、それが労働条件として労働者の立場からどの程度重要なのかを吟味すべきであり、会社においてその点についての説明責任が課されたものとして、しっかり対応するようにしましょう。

労働条件の明示でお悩みの経営者の方は、一度弁護士にご相談ください。

求人票にどのように労働条件を記載するか、採用時に労働条件をどのように明示するか、どのように労働者に説明するかについては、労働者との後々のトラブルを避けるために、また、会社への不信感を抱いた労働者の退職を避けるために重要です。
このような場合には、労務管理に精通した神戸法律事務所の弁護士に一度ご相談ください。

この記事の監修

弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介
弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長弁護士 小林 優介
兵庫県弁護士会所属。弁護士法人ALGでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。
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