監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士
- 問題社員
会社の中に離席が多い従業員がいることで、会社にとって実は様々な問題が生じています。
その問題は、離席が多い従業員本人だけでなく、周囲の従業員や会社自体に生じているため、離席が多い従業員をそのまま放置しておくべきではありません。
しかし、離席が多いといえども、そこには様々な事情等もあるため、当該従業員に対してどのように対応するべきかと悩まれている会社も多いかと思います。
そこで、本記事では、会社側の労働問題、労務管理に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が、離席が多い従業員に対する対応策等について、ご説明いたします。
目次
従業員の離席が多いことで考えられる問題点とは
従業員の離席が多いと、その分だけ労働に充てられる時間が少なくなります。このことによって、次で説明するような、周囲の従業員の不満の蓄積や生産性の低下等の問題が生じてしまいます。
周囲の従業員が不満を持つ
離席によって実際の労働時間は減りますが、減った労働時間の分だけ給与が減らすことは基本的にはできません。
そのため、離席をしない周囲の従業員は、離席が多い従業員に対して、「なぜ私と一緒の給与がもらえるのか」「不公平だ」「さぼっている」と不満を持ってしまうでしょう。
そうした結果、離席が多い従業員と周囲の従業員との関係が悪化するだけでなく、会社の対応が悪いと周囲の従業員から会社への不満もたまり、職場環境の悪化の原因となってしまいます。
生産性の低下に繋がる
離席によって実際の労働時間が減るため、離席する従業員の生産性が下がることは容易に想像できるでしょう。また、離席をしない周囲の従業員の不満がたまる結果、周囲の従業員の労働意欲が低下し、会社全体の生産性の低下につながることも想像できます。
そのため、離席が多いという事情は、離席をする従業員だけでなく、離席をしない従業員にも悪影響をし、会社全体の生産性の低下に影響を及ぼすものだと考えるべきでしょう。
無用な残業代の支払が増えることになる
離席によって実際の労働時間が減っているため、所定の労働時間内で業務を終了させることができず、離席の多い従業員が残業することも多いに考えられます。そして、その残業に対する割増賃金も基本的には支払う必要があります。
この場合、会社側で従業員の不要な離席を防止することができれば、そもそも残業させずに済んだかもしれません。この際、残業の許可制を採用することも有益な手段となるでしょうが、その制度もない場合には、従業員の離席が多いことで、会社は、無用な残業代を支払っている可能性があります。
残業代、残業の許可制については、以下の記事でも詳しく解説しておりますので、ぜひご参照ください。
残業代の計算方法について解説 残業許可制でダラダラ残業を防ぐ!必要以上の離席に違法性はあるのか?
当該従業員の離席が多い点について、以上のような問題はあるものの、離席自体が違法となる場合があるのか等について、さらに解説していきます。
従業員は職務に専念する義務を負う
従業員は、会社との雇用契約によって給与の支払いを受ける代わりに与えられた仕事にしっかり取り組むようにと、「職務専念義務」を負っています。これは、使用者の指揮命令に服しつつ、職務を誠実に遂行するという義務です。
そのため、勤務時間中に、従業員が合理的な理由のない離席で職務を遂行できない場合、この「職務専念義務」に反することとなります。
会社が許容すべき離席理由とは
合理的な理由のない離席の場合、上記のとおり、「職務専念義務」に反することとなります。
他方で、合理的な理由のある離席の典型例としては、生理現象によるトイレの利用や体調不良等を理由とする場合、子供の保育園からの電話対応等を理由とする場合です。
このような場合には、従業員の離席に合理的な理由があるため、「職務専念義務」に反したとまではいえず、会社は従業員の離席を許容するべきとなります。
離席の多い従業員にはどう対応すべきか?
このように、会社としては、合理的な理由のない離席が多い従業員に対して放置すべきではなく、きちんとした対応を取るべきです。
それでは、離席の多い従業員に対する対応としてどのような方法を取ればよいのかについて、説明します。
離席回数の記録・離席理由の調査
まず、会社として、事実関係を正確に把握するために、そもそも合理的な理由がある離席かどうか、どの程度「職務専念義務」に違反しているのかを事前に認識しておく必要があります。
そこで、まずは、従業員の離席回数、離席時間、離席の理由をしっかりと調査した上で事実関係を把握しておきましょう。
口頭・書面による注意
上記調査によって、合理的な理由のない離席であるものの、「職務専念義務」違反の程度が軽微だと判明した場合などは、従業員自身による改善を促すために、まずは口頭または書面による注意を検討しましょう。
なお、口頭による注意の場合には、今後に資料として利用できない場合もあるので、書面による注意をするようにし、さらに、従業員に対して、顛末書の作成を要請するなどして、書面・資料として残せるように工夫するべきでしょう。
懲戒処分の検討
上記の注意で改善がされなかった場合や「職務専念義務」違反の程度が軽微でない場合には、けん責や減給としった軽度な懲戒処分を検討するべきです。
また、注意や軽度な懲戒処分でも離席の問題が改善されない場合や、「職務専念義務」違反の程度が大きい場合には、諭旨解雇や懲戒解雇も検討するべきでしょう。
この点、諭旨解雇や懲戒解雇の検討は、最終的な方法として考えるべきです。というのも、諭旨解雇や懲戒解雇をするためにはクリアするべき条件が多く、離席が多いという事情だけで解雇をすることは法的に困難で、多くの場合無効と判断されるリスクが高いためです。
そのため、誤って懲戒解雇等をしてしまうと、解雇無効だと従業員から争われてしまい、解決金の支払いなど余計な対応を余儀なくされるおそれがあります。
したがって、離席が多い場合の諭旨解雇や懲戒解雇をする場合には、非常に慎重に判断するべきです。
この場合には、退職勧奨を利用すべきですが、かかる退職勧奨については以下の記事でも詳しく解説しておりますので、ぜひご参照ください。
退職勧奨が退職強要とならないために会社が注意すべきポイント離席が多いというだけで解雇することは困難
上記したとおり、注意や軽度な懲戒処分でも離席の問題が改善されない場合や、「職務専念義務」違反の程度が大きい場合には、諭旨解雇や懲戒解雇も検討するべきですが、諭旨解雇や懲戒解雇の検討は、最終的な方法として考えるべきです。
他の社員からの苦情が出た場合の対応
離席が多い従業員について他の従業員からの苦情が出た場合、会社が何もせずに放置していると、他の社員の不平不満が溜まり、労働環境の悪化や生産性の低下に繋がります。
そのため、会社としては、しかるべき対応をとるべきです。
会社が取るべき対応とは、上記で記載したとおり、離席の回数や時間、職務専念義務違反の程度に応じて、注意や処分など適宜検討する必要があります。
離席回数を制限することはできるのか?
離席回数を職務命令で制限することは可能です。ただし、離席を禁じる職務命令の目的や内容から、違法な職務命令だと評価され、後でトラブルになる可能性があります。例えば、職務に専念させる目的での職務命令は正当ですが、退職させるためといった目的だと違法な職務命令だと評価されるでしょう。また、「1日に1回しか離席してはならない」という職務命令だと、明らかに行き過ぎた内容であるため、やはり、違法な職務命令だと評価されるでしょう。
そのため、離席回数を制限することはできるのですが、後々でトラブルにならないように、「1時間に1回程度、数分程度」といった、ある程度緩やかな内容の職務命令に留めるべきでしょう。
従業員の離席を許可制としても良いか?
従業員の離席について、上司等の許可を取らせることを求める体制を取る企業もあります。こういった許可制が全て違法だとは評価できませんが、限定的な「許可制」をとるべきだと考えます。
例えば、トイレ利用による離席を許可制の対象とした場合、トイレ利用という生理現象を原因とするものについて、不許可とするべき場面は基本的には考えにくいものといえます。そのため、そういった場面で許可制をとること自体の合理性が問われるべきでしょう。
他方で、私用の電話や喫煙での離席について、許可制とすることに一定の合理性はあると思います。しかし、私用の電話について、緊急事態や急病などでの電話もあり得るところなので、喫煙に限定して許可制を取ることであれば許可制の合理性を保つことができるのではないかといえます。
離席の許可制が違法となるケース
離席の許可制が違法となるのは、上記したとおり、許可制の目的や内容について合理性を持たないものといえます。何のために、どういったことを規制するのかについて、合理性がないものについて許可制を取ることは控えるべきと言えます。
席の多い従業員の残業を禁止できるか?
離席が多いことが原因で、所定労働時間内に作業が終わらず、残業をしてしまう事態はあり得るところです。会社としては、無駄な残業代を削減するべく、離席の多い従業員に対して残業を許可制にして、許可のない残業を禁止することがあります。
この点、残業を許可制にする職務命令を出したり、就業規則に定めることは法的に可能です。しかし、残業を許可制にしたからといって、この許可なく残業した従業員に対して、残業代を払わなくてよいとはなりません。例えば、残業の許可制を取ったものの、従業員の残業を放置した場合や残業しないと終わらない程の業務量を指示していた場合は、残業代を支払う必要があるでしょう。
そのため、残業禁止の命令を出すことはよいのですが、従業員に対して、残業させないように適宜対応する必要があり、離席の多い従業員に対しては、注意改善の指導等をしていく必要があります。
なお、残業の許可制については、以下の記事でも詳しく解説しておりますので、ぜひご参照ください。
残業許可制でダラダラ残業を防ぐ!頻繁な離席を防止する社内ルール・就業規則
社内ルール(服務規律)で、離席に関する規定を盛り込むことは可能です。
社内ルールの具体例としては、「職務中は職務に専念し、正当な理由なく勤務場所を離れないこと」というのがあり得るかと思いますが、もっと具体的に、「喫煙等の正当な理由なく」と記載してもよいかと思います。
さらに、就業規則で、「正当な理由のない離席が多数ある場合」を懲戒事由だと定めることも可能です。ただし、就業規則で定めたとしても、これだけで懲戒処分ができるとは言い難いので、実際に懲戒処分をする場合には、慎重な判断が必要となることは留意が必要です。
メンタルヘルス不調との関連性について
離席が多い従業員の中には、メンタルヘルスに不調をきたしており、そのために、頻繁にトイレ等へ離席していることがあります。例えば、職場の人間関係が悪化したことで、職場にいることができず、離席してしまうという場合です。
このような場合には、従業員に対して離席に関する指導等だけでなく、会社として負う安全配慮義務を全うするために、様々な対応を検討する必要があります。具体的には、従業員からの聞き取りや、産業医への面談を指導するなどもしていく必要があります。
そのため、離席が多い従業員に対して対応する場合、メンタルヘルスに不調を来している可能性を考慮する必要があり、離職の原因などを会社として正確に把握できるようにしましょう。
業務中の離席が争点となった判例
業務中の離席でよく問題となる点は、離席中の時間が労働時間に該当するかという点です。
今回、業務中にタバコ休憩で離席した時間が労働時間に該当するのかという点で争点となった判例(大阪地裁令和元年12月20日判決)を紹介します。
事件の概要
本件は、元従業員Xが、元勤務先Y社に対して、未払時間外割増賃金の支払を求めた事件です。
この事件では、システム部課長であったXが、就業時間中に、就業規則上の休憩時間である1時間だけでなく、タバコ休憩等で離席しており、このタバコ休憩等の時間は労働時間には含まれるか、その時間も含めて残業代が計算されるのか等が争点となりました。また、その他、Xが職務時間中にインターネットサーフィンに興じていたなどという労働時間に含めるのかも争点になりました。
裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)
裁判所は、証人とXの供述から、Xは、昼食時の休憩時間の他に、少なくとも合計1時間程度の喫煙時間を取っていたことを認定しました。そして、この1時間程度の喫煙時間について、Xの労務の提供がないとして、休憩時間として評価する(労働時間ではない)と判断しました。
他方、Y社は、Xが喫煙以外にも個人的なインターネットサーフィンや夕食を取るための休憩を取っていたと主張しましたが、裁判所は、インターネットサーフィンの点は証拠がないこと、夕食のための休憩については、「夕食を摂るために労務提供を中断していた日程,時間が継続的に存在していたと認めることはできない」と示し、労働時間からこれらの時間を除外することはできないと判断しました。
ポイント・解説
裁判所が判断したポイントは、Xがシステム部課長であり、間断なく労務提供の必要があったこと(手待時間がなかったと推測できる点)及び喫煙の事実や喫煙時間(本件では1時間程度)に関する証拠があったことだと考えられます。
具体的には、Xの地位(システム部課長)から間断なく労務提供の必要があったことが前提とされ、喫煙によって、その時間に労務提供ができていないと判断された点も重要です。例えば、手待ち時間(作業中ではないものの指示があればすぐに従事できるように待機している時間)があり得る職務内容だった場合、手持ち時間中に喫煙をしたとしても、「労務提供がない」(労働問題ではない)とは判断されないでしょう。そのため、元従業員の職務内容も重要なポイントだと考えられます。
また、証拠の点について、インターネットサーフィンをしていたY社の主張について、裁判所は証拠がないと判断していることから、証拠の確保やはり重要です。そのため、離席が多い従業員に対する指導等の記録化は是非ともしておくべきでしょう。
以上の事から、証拠の内容や従業員の職務内容等の具体的な事情によって、喫煙時間が労働時間に含まれるかが大きく左右されると認識するべきでしょう。
必要以上に離席が多い従業員への対処法でお悩みなら、企業の労働問題を得意とする弁護士にご相談ください。
離席が多い従業員の問題点や対応方法等について、これまで説明してきました。
しかし、離席に対応する際の対応方法として何が適切かはケースバイケースであり、他方で、離席の問題に対する対応方法等を誤ると、余計なトラブルも生じかねませんので、どういった対応がよいかと悩まれる会社も多いかと思います。
その際には、会社側の労働問題、労務管理に精通した弁護士に相談するべきかと思います。
この点、弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士は、これまで数多くの労働問題を解決してきましたので、お気軽にお問い合わせの上、ご相談ください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:51009)
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