労務

解雇無効の訴訟を起こされたら?会社側の適切な対応方法について

神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介

監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士

  • 解雇

会社にとって問題社員等を解雇するケースも少なくないと思います。
ただ、解雇した従業員から、会社が訴えられたという話をニュース等で聞くことは多いのではないでしょうか。

もっとも、従業員から、「解雇無効」の訴訟を起こされたといっても、実際にどのような内容で訴えられているのか、会社側として訴えられたときどのように対応すべきなのか、などについて分からない方も多いと思います。

そこで、本記事では、会社側の労働・人事問題、労務管理に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が、従業員から「解雇無効」の訴訟を起こされた場合の対応方法や注意点などについて解説しますので、ぜひご参照ください。

そもそも労働訴訟とは?

まず、「解雇無効」の訴訟を始めとする「労働訴訟」とは何を指すのでしょうか。
この点、「訴訟」とは、裁判のことを意味しますので、「労働訴訟」とは、基本的には労働者と会社間の労働トラブルについての裁判のことを意味するといえます。

「労働訴訟」としては、他に、残業代請求やパワハラ等による会社への慰謝料等の請求があります。
なお、残業代請求については、以下の記事でも詳しく解説しておりますので、ぜひご参照ください。

「残業代」とは何か? 残業代の計算方法について解説

労働訴訟に多い「地位確認請求」とは?

「労働訴訟」の中でも、比較的多く見られるのが、「地位確認請求」と呼ばれるタイプの訴訟です。

上記したとおり、会社が従業員を解雇した場合に、従業員が解雇の無効を主張する場合、「解雇無効」の訴訟ではなく、「地位確認請求」というタイプの訴訟を起こすこととなります。
「地位確認請求」とは、従業員の地位があることの確認、という請求であり、解雇が無効であるために、引き続き従業員の地位があることを確認するというものです。

ただし、主な争点としては、会社がなした解雇が有効か無効か、という点ですので、実質的には、従業員からの「解雇無効」の訴訟とも見れるところではあります。
以下も、イメージが付きやすいように、「解雇無効」の訴訟というワードを使って解説していきます。

解雇無効の訴訟を起こされた場合の対応

それでは、「解雇無効」の訴訟を起こされた場合、会社としては、どのように対応していくべきなのでしょうか。
以下、注意点なども含めて解説したいと思います。

①訴状内容の確認

会社としては、まず、①「訴状」の内容の確認をしましょう。
従業員が「解雇無効」の訴訟を起こしたい場合、自身の主張等を「訴状」と呼ばれる書面に示すことになり、かかる「訴状」を裁判所に提出することになります。

この「訴状」については、従業員が訴えたい相手である会社の分も裁判所に提出するので、裁判所から会社に対して「訴状」が送付されることになります。
そのため、会社としては、かかる「訴状」で従業員が訴えている内容を確認して、それが事実かどうか、その反論内容を検討する必要があります。

②答弁書の提出

会社としては、次に、②「答弁書」を提出しましょう。

「答弁書」というのは、従業員の「訴状」に対する会社の答弁(≒意見)を書面に示して提出するものであり、会社の反論内容を示すものとして重要な書面となります。
「答弁書」には、主に以下の内容を記すことになります。

  • 従業員が主張する内容が事実なのかどうか、事実でないならどの点が事実と異なるのか、また実際の事実は何なのか
  • 会社としての主張、意見

③口頭弁論期日

会社としては、②「答弁書」の作成が終わったら、③「口頭弁論期日」の対応を行いましょう。

「口頭弁論期日」というのは、裁判官が公開の法廷で原告・被告双方から、直接、口頭による弁論を聴く手続を言います。

なお、この「口頭弁論期日」は、一般に公開され、口頭主義の原則に従い、主張は口頭で述べるのが基本です(ただし、①訴状、②答弁書の陳述の確認にとどまることが基本です)。
一方で、双方に代理人弁護士が入るなど裁判官が適切と判断すれば、書面を中心とした手続きに切り替えられることもあります。

④当事者・証人の尋問

会社としては、③「口頭弁論期日」の対応を経たのち、④「当事者尋問、証人尋問」等の対応を行うことになるかと思います。

上記の③「口頭弁論期日」などで、従業員側・会社側双方の主張・立証が尽くされたものの、双方が和解に至ることができないといった場合には、裁判所が判決をするために「当事者尋問、証人尋問」の手続に進むことがあります。

「尋問」というのは、裁判の当事者や証人等が、裁判官の目の前で事実関係等について証言等を行う手続きのことです。
そのため、「尋問」は、裁判官の目の前で事実関係等について証言等を行う手続きですから、会社の代表者や会社の担当者など当該事案に深く関与していた人物がかかる「尋問」手続きに参加することが基本となるといえます。

⑤和解の検討

なお、上記で触れたとおり、ほとんどの訴訟では、裁判所が当事者双方の主張立証を踏まえて、双方に「和解」を勧めてきますから、会社としては、⑤「和解」を検討することになるでしょう。

裁判所が和解を勧めてくるタイミングとしては、④「当事者尋問、証人尋問」の前が比較的多く、あとは、④尋問の後にも多いといえます。
もっとも、裁判所としては、尋問の前後で当該事案に対する考えが変化する可能性がありますので、尋問の前後のいずれのタイミングで和解する方が有利になるかといったことはケースバイケースとなります。

そして、当事者双方が和解することに合意した場合は、当該裁判は終了になります。

⑥裁判所による判決

上記した、⑤「和解」に当事者一方ないし双方が応じない場合には、裁判所は、⑥「判決」といった形で当該事案に対する最終判断を示すことになります。
裁判所は、これまでの当事者の主張、提出された証拠関係、及び当事者や証人の証言等を踏まえ、判決を下すことになります。

なお、仮に裁判所の「判決」の内容に不服がある場合には、控訴という不服申し立てを行うこともできます。
控訴を行う場合には、判決書を受け取った日から2週間以内に控訴状を裁判所に対し提出することになります。控訴を行った場合には、上級裁判所に判断が委ねられることになります。

解雇無効を訴えられたらなるべく早く弁護士に相談を

上記したとおり、従業員から、「解雇無効」の訴訟が起こされた場合には、会社としては、②答弁書の提出、③口頭弁論期日の対応、④尋問の対応、⑤和解の検討、⑥判決への対応、などさまざまな対応に追われることとなります。

特に、裁判の行く末を決めかねない、②答弁書の提出、③口頭弁論期日の対応については、どのように書面を作成するか、対応していけばよいのか、分からない方も多いでしょうし、曖昧なまま対応をしてしまい、不利に扱われてしまうリスクさえあります。

そのため、従業員から「解雇無効」を訴えられた場合には、なるべく早く弁護士に依頼すること、特に、労務問題に精通した弁護士に相談・依頼をすることを強くお勧めします。

裁判で不当解雇と判断されるとどうなるのか?

それでは、仮に、従業員が訴えてきた「解雇無効」の訴訟において、裁判で不当解雇である、解雇無効である、と判断された場合には、どのような対応を取る必要があるのでしょうか。 注意点とともに、以下、詳しく見ていきましょう。

解雇した従業員を復職させる必要がある

まず、注意点の一つ目としては、解雇した従業員を復職させる必要がある点です。

不当解雇、解雇無効と判断された場合には、当該従業員に対する解雇が無効となるため、従前のまま解雇されずに従業員の地位を持っていたということになってしまいます。
そのため、会社としては、当該従業員を復職させる必要が出てきますので、在籍時と同様に、出社させて就労させる必要がある点に注意が必要です。

周りの従業員や関係者からは、出社していなかった従業員が再度出社することになりますから、その説明や対応に追われてしまうことになるでしょう。

解雇期間中の給与を遡って支払わなければならない

また、注意点の二つ目としては、当該従業員の解雇期間中の給与を遡って支払わなければならない点です。
会社として、当該従業員を復職させるだけではなく、解雇期間中の「バックペイ」の支払いが必要になる点も注意が必要です(民法536条2項)。

この「バックペイ」というのは、会社が労働者を解雇した後、解雇が無効と判断された場合には、上記のとおり、会社に在籍していたことになりますから、その在籍期間中の給与相当額を支払うというものです。

裁判所は、不当解雇であると判断した場合に、会社に対して当該従業員に向けて支払を命じる解雇期間中の賃金として、通常は、解雇の時点から判決日までの期間について「バックペイ」の支払いを命じることが多いです。

損害賠償の支払いを命じられることもある

その他の注意点としては、会社から従業員に対する損害賠償の支払いを命じられることがある点です。
不当解雇の結果、当該従業員が精神的な損害を被ったような場合には、損害賠償の支払いが命じられることもあります。

ただし、不当解雇を行ったために、直ちに損害賠償の支払いが必要になるのではなく、特に、悪質性の高い行為と判断されたような場合に損害賠償の支払いが命じられるケースがほとんどです。

解雇無効の訴訟を有利に進めるためのポイント

それでは、「解雇無効」の訴訟を有利に進めるポイントとしては、どのような点があるのか見ていきましょう。

具体的には、以下のとおりです。

①訴訟の前提である事実関係について詳細な調査や検討を行いましょう。
調査・検討の結果、解雇に合理的な理由がなかったり、社会的な相当性が認められないようなケースでは、解雇に固執することなく、従業員の主張を認めて早期の和解を目指す方が会社の利益となる場合があります。

②調査・検討の結果、解雇に合理的な理由がある、社会的な相当性もあるかどうか検討しましょう。
解雇が合理的で相当であると判断できる場合には、それらの調査結果や証拠等を資料としてまとめた上で、訴訟においてしっかりと主張できるようにしておくことが必要になります。

このような証拠等を十分に収集できない場合、訴訟において会社の正当性を主張できず、結果として不当解雇と判断されてしまう可能性があります。

不当解雇として訴えられることを未然に防ぐには?

それでは、ここまで見てきたとおり、不当解雇として訴えられた場合には、会社として、多大なる負担を強いられることになるので、不当解雇として訴えられることをなるべく未然に防ぎたいものと思います。

従業員が、会社に対して、「解雇無効」を主張して訴えるのは、多くの場合、会社が解雇を行うため必要な手続きを踏まなかったような場合や、当該社員を解雇するに当たり当該従業員に対して解雇の理由を具体的に示していない、従業員からの言い分もしっかりと聞かなかったなど、従業員との間のコミュニケーションが不足し一方的に解雇をしてしまったような場合です。

したがって、不当解雇として訴えられることを防ぐには、解雇を行うために必要な手続きをきちんと踏む、当該従業員に解雇の理由を明示する、従業員からの言い分もしっかり聞くなどの対応が必要といえるでしょう。

解雇の有効性について争われた裁判例

解雇の有効性が争われた裁判例を見ていきましょう。

ここでは、従業員に対してした解雇が無効とされた裁判例として、高知放送事件(昭和52年1月31日最高裁判所判決)を取り上げたいと思います。

事件の概要

従業員Xは、Y社のアナウンサーであったのですが、とある日の午後6時から翌日の午前10時までの間、ファックス担当放送記者と宿直勤務に従事していたところ、明け方まで仮眠してしまったため、同日朝に放送されるべき定時ラジオニュースを全く放送することができませんでした(以下「第一事故」といいます。)

また、別日でも、宿直勤務に従事したところ、寝過ごして、朝の定時ラジオニュースを約5分間放送することができませんでした(以下「第二事故」といいます。)。

そして、第二事故については、Xが上司に事故報告をせず、その後、第二事故を知った部長から事故報告書の提出を求められ、事実と異なる事故報告書を提出したことから、Y社はXを解雇したところ、Xが「解雇無効」を主張して、Y社の従業員としての地位の確認を求めた事案です。

裁判所の判断

裁判所は、Xの行為が、Yの就業規則に規定された普通解雇事由に該当すると認定したものの、普通解雇事由がある場合においても、会社は、常に解雇しうるものではなく、当該具体的な事情のもとにおいて、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないときには、解雇権の濫用として無効になるものと判示しました。

その上で、本件では、Xの起こした第一、第二事故は、Y社の対外的信用を著しく失墜するもので、また、Xが寝過ごしたという同一態様で、特に2週間内に2度も同様の事故を起こしたことは、アナウンサーとしての責任感に欠け、Xに非がないとはいえないが、本件事故はXの悪意・故意によるものではなく、両事故では別の担当者も寝過ごしており(別の担当者は譴責処分のみ)、会社として、放送の万全を期すべき措置も講じられておらず、Xの平素の勤務成績は悪くなく、Y社でそれまで放送事故を理由に解雇された例はなかったこと等の事情を考慮すると、Xの解雇は合理性を欠き、必ずしも社会的に相当なものとして是認することはできないとして、同解雇を権利濫用として無効と判断しました。

ポイント・解説

本件では、Xの行為は、解雇事由に該当すると判示しながらも、当該事案においては、Xの悪意・故意による事故でないこと、別の担当者も寝過ごしていること、Xの平素の勤務成績は悪くなく、Y社でそれまで放送事故を理由に解雇された例はなかったこと、など、従業員側に有利な事情を極力考慮して、解雇事由に照らし解雇をもって臨むことの妥当性、他の労働者との均衡、手続の妥当性等、解雇の社会的相当性を審査し、解雇が無効とされました。

したがって、形式的に、解雇事由に該当するとしても、当該従業員の行為の性質や当該従業員の勤務状況、改善の可能性等の事情から、解雇することがやむを得ないとはいえない場合には、「解雇無効」と判断される可能性があるので、注意しましょう。

解雇無効の訴訟を起こされたら、法的知識を有する弁護士にお早めにご相談下さい。

以上見てきたとおり、従業員を解雇するという場合、従業員から「解雇無効」の訴訟をされるおそれがあります。

従業員から「解雇無効」の訴訟を起こされた場合、上記で見たとおり、会社として、裁判対応をしなければならないことに加えて、「解雇無効」と判断された場合に会社が負うリスクについて十分に覚悟して対応しなければならないものといえます。

他方で、解雇相当の事情があるにもかかわらず、適切なタイミングを失してしまうと、他の従業員への影響や、取引先への影響等会社にとって看過できないほどの影響が生じるリスクもあります。

そこで、そもそも、解雇が有効と言えるケースか、そして、解雇に必要な手続きをきちんと取っているかという基本的な部分は押さえておくようにすべきでしょう。

そのため、従業員を解雇する場合、まずは、解雇に適切に対応すべく、会社側の労働問題、労務管理に精通した弁護士に相談しましょう。
この点、弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士は、これまで数多くの会社側の労働問題、労務管理に関する案件を解決に導いてきた実績がありますので、ぜひ一度相談されることを強くお勧めします。

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神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介
監修:弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長
保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)
兵庫県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

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