労務

議事録・録音・録画の必要性

神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介

監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士

    【団体交渉】とは、労働者側が労働組合等を通じて労働条件等を使用者・会社側と協議・交渉することです。交渉する内容が労働条件等であるため労働者側も必死に望んできますし、労働組合等は労働関連法規の知識を有し、【団体交渉】のノウハウ等を持っていますから、会社側としても適切な対応が求められます。

    かかる【団体交渉】は、一度で終了しないのが通常で、交渉を何度も積み重ねて合意を目指すものであるため、交渉過程を記録し、会社にとって不利にならないような内容の合意を目指す必要があります。また、交渉の過程で労働組合とのトラブルが生じるおそれもありますので、【団体交渉】の「議事録」などの記録を残しておくことが重要といえます。

    そこで、本記事では、会社側の労働問題、労務管理、【団体交渉】の問題に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が、以下、【団体交渉】における記録の重要性について解説していきます。

    目次

    団体交渉の内容を記録する必要性

    上記でも触れましたが、【団体交渉】は、1回の交渉で終わるものではなく、交渉を何度も積み重ねて合意を目指していくことが多いと言えます。
    交渉を何度も積み重ねていくことから、交渉過程でどのような要求があったか、どういう点が問題となったかなどを正確に把握したうえで「労働組合」側と会社側との合意を目指していく必要があります。

    かかる観点からは、「労働組合」側との交渉について記録として残しておくことが必要といえます。
    なお、【団体交渉】での協議内容などに関しては、以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひご参照ください。

    団体交渉について詳しく見る

    団体交渉において議事録は作成すべきか?

    上記で触れましたが、【団体交渉】を行う際、「労働組合」側との交渉について記録として残しておくことが必要といえるため、その観点から、記録としての議事録は作成すべきです。
    そこで、以下、議事録の作成目的や議事録に記載する内容等について解説していきます。

    議事録の作成目的

    議事録の作成目的は、「労働組合」側からの要求や主張内容を正確に把握して、検討するためといえます。

    【団体交渉】においては、「労働組合」側からの要求や主張内容が多岐にわたることもありますし、まずは、具体的な要求や主張内容を確認し、会社側として一旦持ち帰って検討すべきケースも多いです。
    そして、「労働組合」側からの要求や主張内容などから、今後の対応について、弁護士といった専門家に相談すべきケースも少なくありません。

    かかる観点から、社内での検討や専門家への相談の際にも、議事録が作成しているとスムーズに進むむものといえます。

    ただし、議論が活発に行われると、議事録の作成のための備忘録が追い付かず、議事録の作成には不十分になってしまうおそれもあります。そこで、事前にICレコーダー等を準備して、録音または録画をしておくと確実です。

    議事録に記載する内容

    議事録には、【団体交渉】の場でなされた要求や主張内容などをなるべく具体的に記載し、会社側の対応も記載すべきでしょう。
    議事録の記載内容に特に決まりはありませんが、以下の点は少なくとも記載するようにしましょう。

    • 日時
    • 出席者
    • 双方の発言者と主な発言内容
    • 合意出来た内容
    • 次回期日までの準備事項

    2-3 議事録へのサインについて

    実際は、「労働組合」側でも、上記のような録音・録画等をすることは多いです。
    そして、「労働組合」側から議事録が送付されてくることがあり、かつ、これにサインなどを求められることがありますが、もちろん応じる必要はありません。

    むしろ、「労働組合」側が作成した書面に、会社側が安易にサインをしてしまうと、内容によっては合意としての効力を持ってしまい、会社側に不利に扱われるおそれがあるため、気を付けましょう。

    団体交渉の内容を録音・録画する必要性と注意点

    上記でも触れましたが、【団体交渉】の中でメモを取るだけでは、追いつかず議事録を作成しようとしても不十分な場合があるため、ICレコーダー等を準備して、記録を残す意味でも録音しておくほうがよいでしょう。

    ただし、【団体交渉】が始まる前に、「録音させていただきます」などを述べて、ICレコーダーを隠さず机上に置き、録音しましょう。机上にICレコーダーを置く理由としては、録音されていることを明示し、「労働組合」側に対して乱暴な言動を防ぐための抑止力にもなりうるところです。

    団体交渉の記録が争点となった事例

    【団体交渉】における録音等が問題となった事例として、東京都労委令和2年(不)第52号(筑波学院大学不当労働行為審査事件)を取り上げます。

    事件の概要

    学校法人Aが設置運営していた「筑波学院大学」を、Y法人が設置運営することとなったところ、「労働組合」側とY法人とが【団体交渉】を3回行い、【団体交渉】の開催条件としての録音をめぐり議論を行ったものの、合意は成立しませんでした。

    特に、「労働組合」側が、【団体交渉】の申し入れの際に、【団体交渉】における録音を認めないことについてY法人から合理的な理由の説明がないため録音を行う、と通知したところ、Y法人が、一方的に録音するのであれば【団体交渉】を中止すると回答したこと等が、労組法第7条第2号に該当する不当労働行為であるとして、争われたものです。

    労働委員会の判断

    労働委員会は、以下のとおり判断しました。

    ・本件における【団体交渉】では、いずれも録音に関するやりとりに終始してその他要求事項に関する交渉は行われなかったものの、それだけの時間を掛けた3回の【団体交渉】においても録音についての合意には至らなかったが、その内容は、「労働組合」側が録音を必要とするその根拠を説明し、録音データ流出の懸念について具体的な方策を提案してY法人の懸念の払拭に努めたのに対し、Y法人はデータ流出に関する一般的抽象的な不安を繰り返し述べるだけで録音を拒否し続けていたため、合意に達しなかった主な原因はY法人側にあったといわざるを得ない。

    ・「労働組合」側からの団体交渉の申入れに関する団体交渉が開催できなかったのは、3回の団体交渉において一般論を超えた具体的な理由を示さずに録音を拒否していたY法人が同様の対応を繰り返す意向を示すことにより、実質的に団体交渉の開催を拒否したということができ、このような法人の対応は正当な理由のない団体交渉の拒否に該当する。

    ポイント・解説

    録音の際に、協議事項のデータ流出などを心配する会社も少ないかと思います。
    しかし、本件では、データ流出に関する具体的な懸念点を十分に主張できなかったために、録音を拒否したことで、実質的に【団体交渉】を拒否したものと見られたものと思います。

    【団体交渉】の録音等は、むしろ【団体交渉】を適切に進められることに資することも多く、会社側にとってもメリットがあるといえます。【団体交渉】の場において労働組合側が録音することを望む場合には、録音禁止の条件をつけたり、録音を理由に交渉を拒否したりする等の対応は避けた方がよいでしょう。

    よくある質問

    【団体交渉】における議事録等に関してよくある質問に回答したいと思います。

    団体交渉における議事録の作成について、法的義務はあるのでしょうか?

    【団体交渉】における議事録の作成については、法的義務はありません。
    ただし、【団体交渉】を行う際、会社側としても、「労働組合」側との交渉について記録として残しておくことが必要といえるため、その観点から、記録としての議事録は作成すべきです。

    労働組合側から録画の要求があった場合、会社側も録画すべきでしょうか?

    「労働組合」側から録画の要求があったとしても、会社側として録画しなければならないわけではありません。

    しかし、録画に関しては、映像として残ってしまうため、必要以上に委縮してしまい、自由な議論を妨げるおそれがあるので、「労働組合」側から録画の申し入れがあっても拒否して、録音にとどめておくべきといえるでしょう。
    そして、会社側としても、録音等はしておくべきでしょう。

    団体交渉時の内容を無断で録音することは違法ですか?

    【団体交渉】時の内容を無断で録音しても違法になるとはいえません。
    しかし、無断で録音したことが判明した場合、「労働組合」側と関係性が崩れ、協議が進みにくくなってしまうでしょう。

    上記したとおり、机上にICレコーダーを置き、録音されていることを明示し、「労働組合」側に対して乱暴な言動を防ぐための抑止力にすべく、【団体交渉】が始まる前に、「録音させていただきます」などを述べて、ICレコーダーを隠さず机上に置き、録音するようにしましょう。

    労働組合側の録画で、会社側にだけカメラを向けられることは問題ないのでしょうか?

    録画に関しては、映像として残ってしまうため、必要以上に委縮してしまい、自由な議論を妨げるおそれがあります。
    特に、会社側にだけカメラを向けることは【団体交渉】の記録を残す観点からも過剰であり、「労働組合」側から録画の申し入れがあっても拒否しておくべきといえるでしょう。

    録音・録画した団体交渉の内容は、文章に起こして保管しておいた方が良いですか?

    録音・録画した【団体交渉】の内容は、文章に起こして保管しておくべきでしょう。
    議事録の作成の目的は、具体的にどのような議論がなされたかの過程を記録するためであり、文字で残る議事録の方が、どのような議論がなされたのかを把握するのに適切であり、議事録をもとに、その後の交渉をどのように行なっていくのか、その後の対応・対策を練る場合にも有用です。

    労働組合から団体交渉時の録音・録画を求められました。拒否すると不当労働行為にあたりますか?

    「労働組合」から【団体交渉】時の録音・録画を求められて、それを拒否することは不当労働行為にあたる可能性が高いです。
    なぜ【団体交渉】時の録音・録画を拒むのかの理由によるのかもしれませんが、基本的には、協議内容の確認のために録音・録画が行われるのであり、合理的に拒むことは難しいでしょう。

    労働組合が作成した議事録にサインをしてしまいました。後から取り消すことはできますか?

    「労働組合」側が作成した議事録に一度サインしてしまった場合、後から取り消すことは難しいでしょう。
    ただし、その後の【団体交渉】において、議事録にしたサイン等について取り消しを求めることはできるかと思います。

    議事録の内容を、会社の顧問弁護士に開示しても問題ないですか?

    【団体交渉】の議事録を会社の顧問弁護士に開示することは問題ありません。
    むしろ、「労働組合」側の具体的な要求や主張内容を確認し、会社側として検討する際に、議事録は有益といえますので、弁護士等の専門家に開示するようにしましょう。

    労働組合側の暴言・脅迫行為を録音することができれば、団体交渉を打ち切ることは可能ですか?

    「労働組合」側の暴言・脅迫行為を録音したことで、直ちに【団体交渉】を打ち切るべきではないでしょう。
    何度も暴言・暴力・脅迫行為等があり、さらに、将来的にも暴力・暴言等が続く見込みが高いと判断できるようなケースでは、過去の暴力行為等に対する謝意や、将来的において暴力等の行使をしない意の表明がない限り、会社側としては、団体交渉を拒否することができ、誠実交渉義務に違反しないものとされています。

    こういった「労働組合」側からの不当な要求塔等に対する対応については、以下の記事でも詳しく解説しておりますので、ぜひご参照ください。

    組合からの不当な要求に対する対応例

    団体交渉時の録音データを改ざんした場合、会社はどのような責任を問われますか?

    【団体交渉】時の録音データを改ざんした場合、そのデータをもとに【団体交渉】を続けると、会社側として、誠実に交渉していないものとして、不当労働行為にあたるおそれがあります。
    「誠実交渉義務」については、以下の記事でも詳しく解説しておりますので、ぜひご参照ください。

    使用者の誠実交渉義務

    議事録は、労働組合側と使用者側で別々に作成すべきでしょうか?

    議事録は、会社側は、会社独自で議事録を作成すべきでしょう。
    「労働組合」側で作成しているからといって作成を怠ってしまうと、「労働組合」側が作成した議事録に無用にサインしてしまったり、「労働組合」側の議事録をもとに【団体交渉】が進んでしまうおそれがあるため、注意が必要です。

    団体交渉の記録で不備が無いよう、人事労務を得意とする弁護士がサポートさせて頂きます。

    「労働組合」側からの要求について、正当な要求なのかなどの判断は容易ではなく、また、法的な解釈を伴うものであるため、必ずしも簡明ではありません。

    かかる観点からも、これまで見てきたとおり、【団体交渉】において交渉の過程を記録することが重要であり、その交渉の過程を踏まえて、今後の【団体交渉】でどのような対応・対策を取っていくかを十分に検討すべきと言えます。

    【団体交渉】の申し入れがあった時点で、どのように対応すべきか、記録はどのように残すべきかを検討できるよう、早期に労働問題に精通した弁護士へご相談ください。
    この点、弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士は、これまで数多くの、会社側の労働問題、労務管理、団体交渉案件を解決してきましたので、ぜひ一度ご相談ください。

    神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介
    監修:弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長
    保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:51009)
    兵庫県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

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