子供の連れ去りは親権に影響する?連れ去られてしまったときの対処法

離婚問題

子供の連れ去りは親権に影響する?連れ去られてしまったときの対処法

神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介

監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士

昨今、「共同親権」に関する議論も飛び交っているところです。

ただし、別居や離婚する際に、子供と一緒に暮らすべく、子供の連れて出て行くなどは、離婚することとなった夫婦間でよくある話であり、今後も起こり続けるだろう問題かと思われます。

子供の連れ去りは、DV被害から逃れるために子供を連れて家を出る形で行われることもあれば、親権を巡る争いで自分が子供を育てているとの既成事実を持ちたいという考えから行われることもあります。

そのため、子供の連れ去りは、親権にどう影響するのか、また子供を連れ去られた場合どう対処しなければならないのか、など疑問点をお持ちの方も多いかと思います。

そこで、本記事では、親権と子供の連れ去りに関しての注意点などを、離婚問題、親権問題に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が、以下解説していきます。

子供の連れ去りとは

子供の連れ去りとは、通常、夫婦の一方が、相手の合意・同意を得ることなく、勝手に子供を連れ去ってしまうことを指します。

子供の連れ去りは、特に、単独親権を定める現行法のもとでは、夫婦の双方が親権の獲得を強く望んでいるために、なかなか話し合いが進まないような場合に起こり得る問題です。

子供の連れ去りが起こる要因の1つは、裁判実務において、親権者を決める際に、子供と長く一緒に暮らし、その面倒みてきた方の親が有利であると見る傾向にあるためです。

実際、裁判所は、親権者を決定する際に、「監護の継続性」を重視する傾向があるため、子供を連れ去って別居することが、親権争いにおいて有利になる側面を有することは否定できません。

しかし、子供を連れ去った際の方法や経緯などによっては、かえって裁判所に悪い印象を与え、親権者を決める際に、不利になることもありますので、注意しましょう。

なお、別居と親権の関係については、以下の記事でも詳しく解説しておりますので、ぜひご参照ください。

子供の連れ去りは親権獲得に影響する?

子供の連れ去りは、監護権又は親権獲得に有利になることもあれば、不利になることもあります。

子供を連れ去った親は、より長く子供と暮らすことができるため、監護実績という点で有利に働くこともあります。

しかし、他方で、子供の連れ去った際の方法や経緯から、親権獲得に不利になる場合もあります。

例えば、連れ去り方があまりにも強引であったり、子供の意思に反して無理やり連れ去ったりするなど、子供の利益に反するような形で連れ去りが行われた場合には、親権者としての適格性が疑われ、親権争いで不利になる可能性がありますので、注意するようにしましょう。

子供の意思で付いていった場合はどうなる?

それでは、子供の連れ去りではなく、子供の意思で付いていった場合はどうなるのでしょうか。

まず、親権者の決定は、どちらの親を親権者とするのが子供にとって利益かという観点から判断されるものです(民法766条1項後段参照)。

かかる観点からは、子供が自分の意思でその親に付いて行く場合には、子供自身が一方配偶者と生活していくことを望んでいると思われ、違法な連れ去りと判断される可能性や、親権獲得に不利に働く可能性は低くなります。

特に、小学校高学年頃からは、子供の意思が親権決定に大きな影響を与える傾向があるため、小学校高学年以降の子供が自分の意思で付いて来たという事実は親権を決めるにあたって有利に働く事情といえるでしょう。

子供が連れ去られたときの対処法

それでは、逆に、子供が連れ去られたときの対処法としては、どのようなものがあるか見ていきましょう。

まずご注意いただきたいのは、子供が連れ去られてしまった場合、慌てて自力で連れ戻そうとする方も多いかもしれませんが、この方法には大きなリスクがあります。

なぜならば、基本的には自力救済(強引に自力で解決すること)は違法とされており、連れ戻し方や経緯によっては、刑事責任に問われたり、大きなトラブルに発展したりする可能性があるからです。

そのため、突然子供を連れ去られたような場合でも、まずは法的な手続に則って対処することが望ましいといえます。

子供を取り戻す法的な手続きとしては、以下のようなものが挙げられます。

子の引き渡し調停(審判)

まず、「子の引渡し調停・審判」の手続を取ることが考えられます。

調停は、裁判所が当事者間の話し合いを手助けし、当事者間の合意を成立させることにより解決を図る制度です。

他方で、審判は、裁判所の判断により紛争の解決を図る制度です。

ただ、上記のとおり、調停手続は、あくまでも当事者間の話し合いより解決を図るものであり、特に、子供の連れ去りにまで発展している夫婦間において、合意を成立させることはあまり現実的ではないため、調停手続きについては、実効的な解決という点では不十分な面があります。

そこで、子供の連れ去りが起きた場合、一般的には話し合いにより任意で子供を返してくれることはないため、審判を申し立てることとなります。

審判前の保全処分(仮処分)

上記では、「子の引渡し調停・審判」についてご説明いたしました。

しかし、「子の引渡し調停・審判」については、いろんな調査をしたり書面提出を求められるので、確定するまで時間を要してしまいます。

そのため、例えば、子供を連れて別居した親が虐待をしている疑いがある場合や、他方の親の悪口を吹き込んでいるような場合、子供の連れ戻しが遅れれば遅れるほど、子供に対して悪影響が及んでしまいます。

そこで、このような場合には、なるべく早急に、子供を連れ戻さなければなりません。

こういった場合には、「子の引渡しの調停・審判」とともに、「審判前の保全処分(仮処分)」を申し立てるべきです。

まず、「審判前の保全処分」を申し立てると、家庭裁判所にも、事件を至急解決しなければならないことが伝わり、審理の迅速化が期待できます。

また、「審判前の保全処分」が認められると、審理が迅速に行われ、「子の引渡しの調停・審判」が確定する前に、連れ去られた子供の引渡しを受けることができます。

引き渡しに応じない場合は「強制執行」が可能

上記のような「子の引渡しの調停・審判」や「審判前の保全処分」が認められると、裁判所が認めたということで、子供を連れ去った親は、子供を任意に引き渡すことが多いです。

しかし、家庭裁判所の判断に従わない親も、少なからずいます。

このような場合、子供の引き渡し請求等の家事手続きにより子供の引渡しが決定したにもかかわらず、任意の引渡しをしない場合には、「強制執行」という手段により取り戻すことが考えられます。

強制執行には大きく分けて、「直接強制」と「間接強制」の2種類があります。

「直接強制」とは、相手の家や保育園など現に子供がいる場所に、執行官が直接赴いて、実際に子供を連れて帰るものであり、家庭裁判所の出す決定に従って行われます。

これに対して、「間接強制」とは、子供を引き渡さない相手方に対して、家庭裁判所が一定の金銭の支払い義務を課することにより、相手方に心理的な圧迫を加え、間接的に子供の引渡しを促す方法のことです。

ただし、子の引渡しの強制執行の成功率は高いとはいえません。

少しでも強制執行の成功率を上げるため、手続選択、強制執行の実施場所など、諸々に注意が必要です。

人身保護請求

さらに、上記のような「子の引渡しの調停・審判」や「審判前の保全処分」によって、子供の引渡しが認められたにもかかわらず、相手が一向に子供を引き渡さず、また、これに対する上記のような強制執行も実現しないような場合には、「人身保護請求」をすることが考えられます。

「人身保護請求」というのは、子供を取り戻す手続きの最終手段として位置付けられており、正当な理由なく子供を拘束している場合や、子供の心身の健康が阻害されている場合など「顕著な違法性」があるような一定のケースに限って、請求が認められます。

なお、人身保護請求を行う場合には、原則として弁護士に代理人を頼む必要がありますので、注意しましょう。

国際離婚における子の連れ去りと「ハーグ条約」

もちろん、日本人同士の子供の連れ去りであれば、日本の裁判所の手続を使って解決することになりますが、国際結婚、一方配偶者が外国籍の方であって、その方が子供を自国に連れ去ってしまうケースもありえます。

このような場合には、「ハーグ条約」をもとに手続を進めることが考えられます。

まず、「ハーグ条約」は、国境を越えた子供の連れ去りがあった場合、子供がそれまで居住していた国に子供を返還するための手続きを定めている条約です。

ただし、「ハーグ条約」は、手続きの大枠を定めたものにすぎないため、具体的な運用は各国の国内法に委ねられています。

したがって、外国籍の方と離婚した際に、相手が子供とともに外国へ帰国した場合には、連れ去られた先の条約締結国に対してハーグ条約やその国のハーグ条約実施法に基づいて子供を日本に帰してもらうことになります。

子供の連れ去りを防止するための対策

子供の連れ去りを防止するための対策はなかなか難しい面があります。

というのは、子供の連れ去りは、ある日突然他方配偶者と子供がいなくなるという、いわば秘密裏に行われるためです。

ただ、同居中に、「子の監護者指定の調停・審判」という手続を申し立てることは有効となるケースもあるでしょう。

裁判官や調停委員に間に入ってもらい、別居した際の子供の監護者を事前に決めておくようにする、もしくは、こういった手続を申し立てることによって連れ去りをけん制する、という狙いのもとで対応することも検討してみましょう。

子供の連れ去りに関する裁判例

それでは、実際に、子供の連れ去りに関して裁判所がどのような判断をしているかなど紹介しますので、ご参考にしていただければと思います。

<福岡高裁決定令和元年10月29日>

<事案>
申立人である妻と相手方である夫には、長女及び次女がいました。
夫が妻の車にGPSを取り付けて妻が他の男性とホテルに行ったことを確認し、その後夫婦間が不和になったところ、夫が長女及び次女を連れて、夫の実家に帰って別居に至りました。
妻から、夫に対して、長女及び次女の監護者指定と子の引渡しの審判を申立てて、原審(福岡家裁大牟田支部審判平成31年2月22日)は妻への引渡しを認容したところ、夫はこれを不服として、福岡高裁の判断を求めました。

<裁判所の判断>
以下のような様々な事情を考慮して、夫が監護者として不適切とはいえないとして、妻の子の引渡しの申立てを棄却しました。

  • 妻は、当初は仕事をしながら家事と育児を全面的に担っていたが、とある時期から頻繁に転職を繰り返し、抑うつ神経症の診断も受け、この頃から借入金の増加、他の男性との密接なやり取りも見受けられ、精神状態が極めて不安定になり、監護能力が相当低下していたと考えられ、別居に至るまでの3年程度は、食事の準備を除けば、長女及び次女の監護を主として担っていたのは夫であると推認される。
  • また、原審判後に、二女も小学校に入り、クラブチームにも入るなど、夫のもとでの生活に適応し、夫も、妻との別居後、長女及び次女の生活や学習の細部にわたって配慮し、心身の安定にも寄与している。
  • さらに、妻との宿泊付き面会交流も安定的に実施している。

子供の連れ去りについてのQ&A

最後に、子供の連れ去りについてよくある質問について回答していきたいと思います。

子供の連れ去りは違法ですか?

子供の連れ去りは、直ちに違法とされるわけではありません。

ただし、子供の連れ去りの態様や原因によっては、違法とみなされるケースがあります。

例えば、子供の親権争いが激化する中で子供を連れ去った場合や、子供が嫌がっているにも関わらず無理やり連れ去った場合、面会交流の際に乗じてそのまま無断で連れ去った場合などには、違法と判断されるケースもあるかと思います。

他方で、子供を連れ去っても違法と判断されない場合としては、例えば、虐待やDVなどが行われていた場合や、子供の心身を害するほど生活環境が阻害された状況にあった場合など子供の連れ去りが正当な理由に基づくものといえるようなケースが想定されます。

妻が子供を連れ去りました。父親が親権を得るためにできることはありますか?

母が子供を連れ去って子供が母に監護されている状況をそのままにしてしまうと、父親として親権を得られなくなる可能性が高まってしまいます。

したがって、早急に監護者指定の審判、子の引渡しの審判、審判前の保全処分を申し立てることにより、子を監護できる状態とする必要があります。

ただし、父親が監護権や親権を獲得するにあたっては、

  1. 従前の子供との結びつきや養育状況
  2. 子供の年齢や意思
  3. 親の健康状態
  4. 離婚後の生活環境
  5. 離婚後の経済状況

などの様々な事情から父親が親権者として適格であると主張立証していく必要があります。

そのため、父親側で十分な養育環境を整えておくことは、親権を得るためにも重要でしょう。

父親と親権については、以下の記事でも詳しく解説しておりますので、ぜひご参照ください。

父親が親権をとるためのポイント

連れ去られた子供を相手に黙って連れ戻しても良いでしょうか?

連れ去られた子供を相手に黙って連れ戻す行為はかなりリスクのある行為といえます。

まず、突然の連れ去りや連れ戻しは子供の生活環境を急激に激変させ、子供に精神的負荷を与えてしまうといえ、子供の福祉という観点から適切ではないとされるでしょう。

また、相手方に黙って子供を連れ戻してしまうと、たとえ先に相手方が子供を連れ去った場合であっても、違法行為を行ったとして、親権者としての適格性を疑われるおそれが高いといえます。

そのため、監護権や親権の獲得を目標とするのであれば、自力で奪い返すのではなく、合意や子の引渡しの審判など正規の手続により子供の連れ戻しを実現すべきです。

面会交流時に子供を連れ去られたら親権も奪われてしまいますか?

面会交流時の子供の連れ去りは、当事者間の合意、裁判所の関与した合意、決定を実力で一方的に破棄するものであるため、違法である可能性が高いといえます。

そのため、面会交流時の子供の連れ去りは、連れ去った親が親権を獲得するにあたって不利に評価される事実であるため、連れ去られたことによって親権を奪われるわけではありません。

もっとも、連れ去られた状況を放置していると、相手方による子供の監護状況が確立され、また、子供を養育する意思がないと裁判所に評価されかねないため、早急に監護者指定や子の引渡しの審判を申し立てることが必要でしょう。

子供の連れ去りに関するご相談は、経験豊富な弁護士にお任せください

離婚の際に、未成年の子供がいる場合に、子供を連れて別居すべきかどうかについて悩んでおられる方は非常に多いと思います。

そして、離婚の際の親権者は、自分にとっての大切な子供の将来を左右しかねないので、他方配偶者とどのように協議していくべきか、どのように別居を進めるべきかを十分に検討した上で進めるべきと言えます。

しかし、その判断は容易ではありませんし、他方配偶者との折衝をうまく進められないと思われる方も多いかと思います。

そのような方は、離婚問題、親権問題について多数携わり、男性・女性問わず親権を獲得してきた弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士にぜひ一度ご相談ください。

神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介
監修:弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長
保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:51009)
兵庫県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。