監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士
夫婦仲に亀裂が入って、いざ離婚を考えたとき、夫側として、「父親は親権をとるのが難しい」という言葉が頭によぎることがあるのはないでしょうか。
この点、協議離婚、調停離婚や裁判などの手続きにおいて、たしかに、母親が子供の「親権者」となっている事例は数多くあり、他方で、父親が「親権者」となっているケースは多くはなく、父親側での親権の取得は難しいという実態はあります。
そこで、この記事では、離婚問題、親権問題に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が、なぜ父親の親権の取得が難しいのか、どうすれば父親が親権を獲得できるのか等について、詳しく説明します。
目次
父親が親権を取りにくい理由
まず、父親が親権を取りにくい理由として以下の要素があります。
親権の獲得にあたってご自身の状況はどうか考えてみましょう。
フルタイムで働いているため子供の世話が難しい
裁判所が「親権者」を決める際に、子供への愛情の深さや子供との関係性等をもとに「主たる監護者」がどちらであったかが非常に重要視されます。これは単に、「私は子供を愛している」等の意見表明によって認められるものではなく、以下の客観的な事情を考慮して判断されます。
①これまで子の世話をしてきた実績(監護実績)
②普段の子供と過ごす時間の長さ、コミュニケーション
③仕事と育児の両立
④休日の子供との過ごし方
これら①~④の要因を考えたときに、まだまだ父親側はフルタイムで会社で働き、母親側ではパートなどで働きつつ家で家事・育児を行うことが多い社会実態があります。
そのため、父親はなかなか家にいることができず、子の世話ができない父親は、家で子の世話をしている母親と比べられた際に、時間的にも量的にも、①から④の要素で劣る可能性が高く、親権者として認められにくい傾向にあるといえます。
子供への負担を考えると母親優先になりがち
また、裁判所は、離婚後の子の環境や福祉・成長を考える際に、子をとりまく現在の監護状況に問題がなければ、子の精神の安定のために、なるべく子の生活環境を変化させないようにしようとします(監護継続性の原則)。
そうなると、上述したとおり、母親が子と接する時間が長く、子の世話をしていて、さらに子と円滑なコミュニケーションがとれている等の経緯がある中で、その監護状況に問題がなければ、裁判所は「これまでどおりお母さんが子の世話をする方が子に負担をかけず、精神の安定に良い」と判断する可能性があります。
そうなると、どうしても、子の負担の観点からも母親優先となる傾向にあることも指摘できるでしょう。
父親が親権を獲得するためのポイント
それでは、上記のような父親が親権を取りにくい背景を理解してもらえたところで、父親が親権を獲得するためのポイントは何かなども見ていきましょう。
これまでの育児に対する姿勢
上記したとおり、裁判所は、どちらが「親権者」にふさわしいか判断する際に、「私の方が子供を愛している」等の言葉によって判断することはありません。あくまでも監護実績などを踏まえた主たる監護者であったかなどの客観的事情によって判断します。
これまで、子の日常生活の世話をほとんどやってこなかった側の親に子の親権を認めるのは、子の成長・福祉にとって好ましいものとはならない可能性が高いため、裁判所は、上述したとおり、これまでの子育ての経緯や子との関係性等の客観的事実を見るのです。
そのため、これまでの育児に対する姿勢(子の食事や入浴等の補助、予防接種につれていく、保育園等の送迎等)を父親側で対応してきたなどと、しっかりと資料をもって伝えることが大切です。
離婚後、子育てに十分な時間が取れること
裁判所が「親権者」を判断する際に重視することは、子の福祉です。
この親を「親権者」とした際に、子が親からの愛情を受けて、健やかに成長していける環境を整えられるかを考えて判断します。
そのため、離婚後にしっかりと子供を看ることができ、子にとって親からの愛を感じられる環境を整えられるか、すなわち子と十分に過ごすことができて、寂しい思い等をさせないということ(例えば、仕事の時間が子の養育に問題ない、監護補助者が多数いるなど)を資料等をもとに示す必要があるのです。
子供の生活環境を維持できるか
上述したとおり、子にとって、離婚後にこれまでの生活環境が大きく変わってしまうことは大きな負担となります。
大人にとっても、生活環境の変化というのは精神的な負担が大きなものですが、まだ発達途中で不安定な子にとっては、大人以上に負担が大きいものです(例えば、学区が変わり、転校しなければならないなどの場合に、子にとって大きな負担になることはお分かりいただけるものと思います。)。
そのため、裁判所は、少しでも子に対する精神的負担を低減するために、これまでの子の生活環境に問題がないものであったのであれば、その環境を維持することを求めます。
そのため、これまでの子の生活環境を大きく変えることなく(例えば、生まれ育った家を維持してあげておくなど)、子を戸惑わせるようなことはないということをしっかりと伝える必要があります。
父親が親権争いで有利になるケース
父親の親権の獲得が難しいといわれる理由は、上述したとおり、母親よりも育児に携わる時間が取りづらいというところにあります。
もっとも、以下のような場合には、父親が親権の争いで有利になることもあります。
母親が育児放棄をしている
母親が育児放棄をしている場合には、そもそも母親が子に対して適切な監護ができていないということになりますから、父親に親権を認められる可能性が高まります。
もっとも、母親が育児放棄をしていたと主張するだけでは、裁判所を説得することが難しい場合もあるため、母親が育児放棄をしていたことを証明する証拠をとっておくことが望ましいです。
例えば、子供に食事を与えない、服を着替えさせない、部屋の片づけができておらず不衛生である、保育園や学校に行かせていない等の事情を詳述したメモを残したり、母親に対してこれについて形に残るライン等で話し合って彼女自身の認識を残したりすることが考えられます。
母親が子供を虐待している
母親が子を虐待している場合も、父親に親権が認められる可能性が高くなります。
この場合も、母親が子を虐待していることについて、客観的な証拠を残しておくことが重要となります。
なお、母親が子を虐待している場合には、家庭内のみの問題にとどまらせるべきではなく、子の保護も第一に考えるべきなので、警察への相談や児童相談所へ相談することも必要となってくる可能性があります。
また行政機関への相談記録も、母親の子への虐待を立証する資料となることもりますので、しっかりと相談しておくことが望ましいです。
子供が父親と暮らすことを望んでいる
子が父親と暮らすことを望んでいるというのも、父親に親権が認められる可能性が高くなる要素の1つといえます。
子が小学校の高学年あたりの年齢になると、子自身がしっかりと自身で考えて意見表明ができるようになると考えられていることから、ある程度、裁判所も子の意思を汲んだ上で判断をするようになります。
もっとも、子にとっては、どちらかの親を選ばされること自体が大きな負担となる場合もあるため、子の意向確認にあたっても注意が必要です。
妻の不貞は父親の親権獲得に有利にはならない
例えば、妻が不倫・不貞行為をした場合に、妻が不倫・不貞行為をしたのだから、もちろん親権は父親に認められるだろうと考えられるかもしれませんが、これは必ずしもそうではありません。
不貞したからといって、子を適切に育てる能力が否定されるわけではなく、妻として問題のある行為を行ったとしても、子の監護の観点から直ちに母親として問題があると判断されるわけではありません。
もっとも、不倫相手と長時間過ごすために、全く家におらず子の世話をしていない等の事情があれば、育児放棄等の観点から、父親に親権が認められる可能性が高まるということはあります。
父親が親権を獲得した場合、母親に養育費を請求することは可能か?
父親が親権を獲得した場合に、母親に養育費を請求することは可能です。
離婚しても母親は母親ですから、離婚して父親に親権が認められたからといって、母親に子に対する扶養義務がなくなるものではありません。
なお、養育費は、互いの収入や子の年齢、その他の諸事情によって変動があります。
養育費の大体の相場を知るために、裁判所が出している算定表等を目安にするのも1つです。
親権を得られなくても子供には会える
仮に父親が親権を得ることができなくても、面会交流として子供に会うことは可能です。
離婚をしても、子にとっての親という事実は変わりませんし、子の福祉にとっても親権者に指定されなかった側の親との交流を持つことは非常に重要になります。
そのため、離婚の際に、親権を妻に譲るかわりに面会交流を充実させて欲しいと相手に伝えて、具体的な面会交流の条件を定めておく等も子に会うための方法の1つとなります。
子供の親権を父親が勝ち取れた事例
弁護士法人ALGの神戸法律事務所にも、男性側からの離婚相談は数多くあり、その中で子の親権を父親が勝ち取れた事例がありますので、紹介いたします。 ケースとしては、小学1年生の子がいる夫婦の離婚で、夫婦喧嘩が絶えなかった中で、妻と夫で協議をして妻が単独で妻の実家に帰らせたというケースです。
その後、夫のもとで、子をしばらく監護し、安定的な環境を整えさせ、その後、妻から子の引渡し請求がされるなどしましたが、父親側の環境が安定していることなどから、請求は認められず、そのまま、離婚調停の中で父親を「親権者」として協議が進み、父親側で親権を取得することができました。 上記でも触れましたが、父親側でしっかりと監護養育環境を整えていることや子の監護実績があることなどが重要であったと再認識できたケースです。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
父親の親権に関するQ&A
それでは、以下、よくある父親の親権に関するQ&Aを取り上げたいと思います。
乳児の親権を父親が取るのは難しいでしょうか?
子供が乳児のように非常に幼い場合には、父親が親権を取るのは極めて困難となります。
これまでの先例においても、実務上の運用においても、乳児の時期にはやはり母親が必要だという考えから、母親に親権が認められる事案がほとんどという現状です。
もっとも、母親が子供を虐待していたり、育児放棄をしている等、他の親権者として不適格だと判断される事情があれば、父親に親権が認められる可能性はあります。
未婚の父親が親権を取ることは可能ですか?
未婚の父親の場合、血縁上の父親ではあっても、法律上の父親ではありませんので、まずは法律上の父親となるために子の認知をすることが必要となります。
また、未婚の状態の子については、母親の単独親権となっていることから、認知をした上で、母親と協議を行って父親を「親権者」とすることで合意にいたれば、父親は「親権者」となることができます。
もっとも、協議がまとまらなかった場合には、家庭裁判所に親権者変更の調停や審判を求めることになりますが、これについては虐待がある等よっぽどの理由がない限り、裁判所は認めない傾向にあります。
元妻が育児をネグレクトをしています。父親が親権を取り返すことはできますか?
一度決まった「親権者」を変更するためには、当事者間の協議では足りず、裁判所で親権者変更の調停や審判を行う必要があります。
もっとも、一度決まった親権者の変更が認められることはそう多くはなく、困難という現状があります。
そのため、母親が育児放棄をしているという事情があるならば、しっかりとその事実を裏付ける証拠を用意することが大切です。
妻は収入が少なく、子供が苦労するのが目に見えています。経済面は父親の親権獲得に有利になりますか?
たしかに、収入が安定しているという事情は、親権が認められる際の1つの考慮要素にはなります。
もっとも、母親側に収入が少なかったとしても、これまでしっかりと子の監護をしていた場合は、経済力については養育費や公益な援助で解消されるべきものであることから、経済力のみを理由に父親に親権が認められることは少ないといえます。
父親の親権争いは一人で悩まず弁護士に相談しましょう
父親側での親権の争いは、これまでお伝えしてきたとおり、ご自身で解決するには非常に困難であるといえます。
また、子の成長をしっかりと見守りたいにもかかわらず、親権が認められることが難しい現状から、泣く泣く何も手も打たず諦めてしまうこともあるかもしれません。
しかし、子の親権を獲得できる可能性は0ではありませんし、また、親権が獲得できなくてもしっかりと面会交流を重ねていけるように条件を決める等、できることはあります。
これについては、法律の専門家である弁護士に相談をして、できる手段を共に考えて行動していくことが必要となります。
弁護士法人ALG神戸法律事務所は、離婚問題、親権問題に精通した弁護士が在籍しておりますので、ぜひお気軽に一度ご相談ください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)