親権と監護権|違いや分けた場合のメリット、デメリットについて

離婚問題

親権と監護権|違いや分けた場合のメリット、デメリットについて

神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介

監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士

監護権とは、「親権」の一部であり、「未成年の子と一緒に暮らして、その子の面倒を見る権利」のことをいいます。
夫婦が離婚するときは、どちらか片方を親権者と決める必要があり、その親権者と決まった方の親が子の監護権を持つのが一般的ですが、例外的に、親権者と監護権者を分けるケースもあります。

この記事では、離婚問題、親権問題について多数解決実績のある弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が、監護権と「親権」の違いや、親権者と監護権者を分ける場合のメリット・デメリット、監護権をとるために必要なことなどについて、解説していきます。
監護権について疑問をお持ちの方は、ぜひ参考になさって下さい。

監護権とは

【監護権(かんごけん)】とは、未成年の子と一緒に暮らし、日常の世話や教育を行う権利・義務のことをいいます(民法820条)。
【監護】とは、食事や住まいの提供、しつけ、必要な教育を受けさせること、病気の際の看病など、子の成長に必要なすべての行為を指します。
なお、「親権」との違いについて、疑問を持つ方が多いと思いますが、監護権は「親権」の中に含まれる権利の一つです。「親権」は、以下の2つの権利から構成されています。

①身上監護権:子と一緒に暮らし、世話や教育を行う権利
②財産管理権:子の財産(子の名義の預貯金や土地など)を管理し、その財産に関する法律行為を代行して行ったり、子がした法律行為(売買・貸し借り・アルバイト)に対し同意したりする権利

上述した監護権というのは、①の身上監護権にあたります。この監護権は「親権」と法的に分けることが可能です。例えば、財産管理は父親が適任で、子が幼いので監護権者は母親が適任と考えられるようなケースでは、親権者と監護権者が別々になる場合があります。

親権と監護権の違い

「親権」と監護権は以下のように区別されます。

  • 「親権」
    子と一緒に暮らして面倒をみたり(身上監護権)、子の財産を管理したり、子が行った法律行為に対し同意したりする権利(財産管理権)
  • 監護権
    親権の中に含まれる、身上監護権のみを取り出した、子と一緒に暮らして、面倒を見る権利
    「親権」と監護権を分けた場合は、親権者の権利として、財産管理権が残るため、監護権者には財産管理権が認められないことになります。

なお、「親権」については、以下の記事でも解説しておりますので、ぜひご参照ください。

親権とは

身上監護権の内訳

身上監護権は、子と一緒に暮らして、面倒を見る権利のことであり、以下の4つの権利に分けることができます。

①身分行為の代理権・同意権
②居所指定権
③懲戒権
④職業許可権

以下で、各詳細について見ていきましょう。

身分行為の代理権・同意権

身分行為の代理権・同意権とは、子が身分行為を行う場合、親が同意、又は代行する権利のことをいいます。
身分行為の例として、婚姻や離婚、認知、養子縁組などの手続きが挙げられます。
例えば、未成年の子が結婚するときは、父母の同意が必要となりますが、これが身分行為の同意権の一例となります(民法737条1項)。

居所指定権

居所指定権とは、子の居所(=住む場所)を指定する権利のことをいいます(民法821条)。監護権者である親がその子の世話や教育を行うには、一緒に暮らすことが前提となるため、重要な権利です。子は、基本的には、監護権者が指定した場所に住まなければなりません。

懲戒権

懲戒権とは、子が悪いことをした場合に叱るなどして、しつけを行う権利(民法822条)をいいます。

ただし、しつけは、あくまで、「子の利益のためになされる監護や教育に必要な範囲内」に限って行えるものです。そのため、懲戒権があるといっても、当然ながら、体罰を行うことまでは認められていません(児童虐待の防止等に関する法律14条)。

職業許可権

職業許可権とは、子が仕事をすることを、許可する権利のことをいいます(民法823条)。
未成年の子は、親の許可をもらわなければ、アルバイトなどを行うことができません。
未成年者は精神的にも肉体的にも未熟であるため、子の判断のみで、就業できないよう制限がされています。また、子の成長に悪影響を与えると判断された場合、親が就業を制限する権利も含まれています。

あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います

離婚問題ご相談受付

0120-979-039

24時間予約受付・年中無休・通話無料

メール相談受付
離婚問題の経験豊富な弁護士にお任せください

親権者と監護権者を分けるメリット・デメリット

親権者と監護権者を分けると、次のようなメリット、デメリットがあります。

メリット

夫婦が離婚するにあたって、子の「親権」を父母のどちらとするかは、争いになりやすい大きな問題です。
もしも「親権」で争いとなり、当事者間で協議がまとまらない場合は、調停や裁判による解決を目指すことになります。
親権者の決定には時間を要する場合が多く、1年以上かかるというケースも少なくありません。
ここで、親権者と監護権者を分ければ、親権者は、子の財産を管理する権利を、監護権者は、子と一緒に暮らせる権利を持つことになります。離婚後も、お互いに子とつながっていられるため、双方が離婚に同意しやすくなる可能性もあります。その結果、離婚の早期解決が見込める、さらに、離れて暮らしていても、親としての意識を保持できるため、養育費の不払いの可能性も低下するという点がメリットと言えるでしょう。

デメリット

親権と監護権を分けると、監護権者は、子が法律行為を行うたびに、親権者である元配偶者に連絡をして、確認を取らなければならなくなります。
例えば、子の名義の銀行口座を開設する場合や、子の名義で携帯電話の契約をするような場合は、親権者の同意が必要となるからです。特に、保護者の同意が至急必要なときに、同意がすぐに得られない可能性があるというのは、親にも子にもデメリットといえるでしょう。

また、元配偶者との連絡が、離婚後も頻繁に行われることになるため、大きなストレスとなるおそれがあります。
さらに、再婚をする際に、再婚相手と自分の子(15歳未満)が養子縁組をする場合は、法定代理人、つまり親権者の承諾が必要となります。(民法797条1項)。
これについて、子を監護する者が他にいる場合には、その監護権者の承諾も必要となるため(民法797条2項)、元配偶者が承諾することに非協力的である場合には、養子縁組の手続きがスムーズに進まないおそれもあります。

親権と監護権を分ける手続き

「親権」と監護権を分ける方法として、以下の2つがあります。

①夫婦間の協議で決める
②裁判所の手続を利用して決める

まずは、夫婦間の話し合いにより、親権者と監護権者を決定します。
ただし、親権者と監護権者を分けても、離婚届に監護権者を指定する欄がなく、戸籍にも記載されません。そのため、後日のトラブルを防ぐため、離婚協議書などの書面を作成し、できれば公正証書にして、証拠として残しておくことが望ましいでしょう。
協議で決まらない場合は、裁判所の手続きを利用します。家庭裁判所に「子の監護者の指定」の調停を申し立てる等して、調停委員を介した合意を目指します。調停で解決できない場合は、審判に自動的に移行する等して裁判所の判断に委ねます(調停を行わず審判を申し立てることも可能です。)。

なお、監護権者の指定は、親権者のように法律上の義務ではないため、離婚後に監護権者を決めることも可能です。この場合も、当事者間で協議するか、裁判所の手続き(調停・審判)を利用することになります。

監護者を指定する手続についてより詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

監護者指定とは

監護権をとるために必要なこと

審判において監護権者を指定する場合の基準は、父母のどちらが監護権者であることが「子の利益」となるか、ということです。具体的には、以下のような事情を総合的に判断し、監護権者を決定します。

  • 子への監護体制(経済力、住宅環境、家庭環境、教育環境など)
  • 子に対する愛情や監護の意思
  • 監護の継続性(現在の監護親の下で子が安定していれば、その現状を保持する)
  • 母性優先の原則(乳幼児の場合)
  • 子の年齢・人数・性別・健康状態・兄弟姉妹の関係
  • 子の希望
  • これまでの子育ての状況(主たる監護者がどちらであったか)
  • 離婚における有責性など

そのため、監護権をとるためには、子育てを積極的に行い、自分が子育てのメインを担ってきたという事実(自身が主たる監護者であるという事実)を積み上げることが必要です。

監護を怠った場合の罰則

監護権は子の世話をする親の権利であると同時に、子を守るための親の義務でもあります(民法820条)。
仮に、離婚後、監護権をとったものの、監護権者として、子の命や体、安全を守るべき義務を果たさなかった場合には、児童虐待防止法違反や、保護責任者遺棄罪などに該当する可能性があります。
例えば、子の身の回りの世話や食事の面倒を放棄したり、幼い子を自宅に長時間放置したまま、外に遊びに出かけたりしたような場合は、犯罪行為として重い刑事罰が科される可能性があるため注意が必要です。

一度決めた監護権は変更できる?

監護権者だけの変更であれば、当事者間の話し合いで変更することができます。このとき、変更の届出も必要とされません。
ただし、当事者間で監護権者について合意できない場合は、家庭裁判所の手続き(監護権者変更の調停、審判)を利用して、監護権者を変更することになります。

これに対し、親権者については、当事者間の話し合いによる変更が認められておらず、必ず家庭裁判所の手続き(親権者変更の調停、審判)を利用し、親権者を変更しなければなりません。
また、親権者が死亡したときも、一方の親が親権者となるためには、家庭裁判所の親権者変更の手続が必要となります。

監護権に関するQ&A

監護権についてよくある質問をご紹介します。

親権者と監護権者を分けた場合、親権者に養育費を請求することはできますか?

監護権者が親権者に養育費を請求することは可能です。
親権者は子と一緒に暮らしていなくても、親である以上、子の扶養義務を負います。養育費は子の世話や教育のために必要な費用であり、子を育てる父母が分担して支払わなければなりません。
なお、「養育費」については、以下の記事でも解説しておりますので、ぜひご参照ください。

養育費とは

監護権の侵害とはどんなことをいいますか?

監護権の侵害とは、子を監護している親のもとから、他方の親が、正当な理由なく、子を勝手に連れ去るようなことをいいます。
例えば、婚姻中の夫婦の場合は、双方に親権があるため、夫婦いずれも監護権を有することになります。そのため、DVやモラハラなど特別の事情なく、子を勝手に連れ出して別居したような場合は、監護権の侵害と判断される可能性があります。
この場合、子を連れ戻すためには、子の引渡しを求めて、「子の引渡し調停・審判」「監護権者指定の調停・審判」を家庭裁判所に申立てる必要があります。

祖父母でも監護権を獲得できますか?

基本的に、監護権が認められるのは、父母です。
ただし、父母どちらも子育てができない状況にあるなど、特段の事情がある場合は、祖父母でも監護権を獲得できる場合があります。
なお、祖父母が監護権を獲得するために、孫と養子縁組する方法も考えられます。

監護権を証明する書類はあるのでしょうか?

離婚届に監護権者を記載する欄はありません。また、戸籍にも記載されません。
そのため、親権者と監護権者を分ける場合には、離婚協議書などの書面に、誰を監護権者とするのかを明記し、できれば公正証書にして残しておくことが望ましいといえます。

監護権のみを持っている場合でも児童扶養手当をもらうことができますか?

監護権のみを持っている場合でも、所得制限など一定の要件はありますが、児童扶養手当をもらうことが可能です。児童扶養手当は、実際に子を養育している者に対して支払われる手当であるからです。
なお、監護権者であることは、離婚届にも戸籍にも記載されていないため、児童扶養手当をもらうという観点からしても、離婚協議書等の作成が望ましいといえます。作成しておかないと、監護権があることを主張できずに、受給できなくなるおそれがあるため注意が必要です。

監護権についてわからないことは弁護士にご相談ください

原則として、離婚後の親権は、父母のいずれか1人が持つものであり、親権と監護権を分けることは、稀といえます。
このような例外的な方法をとる場合は、注意すべきポイントが多くあり、複雑な法律知識も必要とされます。また、子の監護に関する問題はデリケートであり、子の幸せを考えながら、解決策を見出さなければなりません。

そのため、監護権についてお悩みの場合は、弁護士への相談をおすすめします。
この点、弁護士法人ALG神戸法律事務所の弁護士は、これまで数多くの離婚問題、親権問題を解決してきました。夫婦の置かれた事情に基づき、ベストな解決策をご提案いたしますので、ぜひ一度お問い合わせください。

神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介
監修:弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長
保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:51009)
兵庫県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。