交通事故の損害賠償とは | 対象になるもの

交通事故

交通事故の損害賠償とは | 対象になるもの

神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介

監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士

交通事故に遭った場合、車は損傷をしますし、運転手や同乗者が怪我をすることもあります。
こういった車の被害や人の被害については、加害者にきちんと賠償してもらう必要があります。
そこで、被害者の方から加害者に対して、生じた損害を賠償してもらうべく損害賠償請求をすることになるのですが、その賠償請求にあたってどのようなことに気を付けるべきか、注意点は何かなどを、交通事故に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が詳しく解説していきます。

交通事故の損害賠償とは

交通事故の損害賠償とは、上記でも少し触れましたが、交通事故に遭い、車や人に生じた被害を加害者側に賠償してもらうことを指します。

賠償の考え方として、原状回復という考え方があり、加害者はその事故の責任割合(9.1で述べる過失割合や9.2で述べる素因減額)に応じて、被害を回復した状態つまり事故がなかった元の状態に戻すべきと考えるのですが、もちろん完全には元通りには戻せないために、生じた被害に対して金銭的に賠償をして損害を事後的に補填するようにすべきと考えられています。

慰謝料との違い

損害賠償の中で、よく例に挙げられるのが慰謝料です。
結論から言うと、慰謝料は、交通事故によって怪我を負わされた場合の肉体的精神的苦痛を金銭的に評価したものであり、損害の種類をもとにした損害項目(費目)の1つにすぎません。
そのため、賠償金・示談金≠慰謝料である点は注意しましょう

慰謝料については、以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。

交通事故の慰謝料とは|計算方法から相場まで解説します

損害賠償の対象になるもの

では、損害賠償の対象となるものは、どのようなものがあるのでしょうか。
実務では、損害の種類をもとに個別に損害項目(費目)を考えて損害を計上する方法で、損害賠償の対象と範囲及び額を算定します。
費目としては、具体的には、【精神的損害】か【財産的損害】か、そして、財産的損害のうち【積極損害】か【消極損害】かに分けられますので、以下詳しく見ていきましょう。

精神的損害

まず、【精神的損害】とは、簡単に言えば、慰謝料のことです。
交通事故に遭い、怪我を負うなどして肉体的にも精神的にも苦痛を被った場合に、これを金銭的に評価して損害とみなすものです。

交通事故によって被った怪我の内容や程度、それによる肉体的精神的苦痛の度合いなども千差万別であるのですが、肉体的精神的苦痛は第三者には目に見えず、また治療費のように明確な額等はわかりませんので、厳密に個別具体的に算定することは極めて困難です。
そこで、実務上は、怪我の程度や内容、通院期間・頻度などによって一定の基準を設けて慰謝料を算定するようにしています。

慰謝料の算定方法については、以下の記事で詳しく解説していますので、ご参照ください。

交通事故の慰謝料とは|計算方法から相場まで解説します 交通事故の慰謝料相場と通院日数の関係

財産的損害

【財産的損害】とは、治療費など財産的に生じたと評価できる損害を指します。
【財産的損害】としては、治療費や通院交通費、休業損害などがありますが、少し触れたとおり、【積極損害】と【消極損害】に分けることができますので、以下詳しく見ていきます。

積極損害にあたる費目

【財産的損害】のうち、【積極損害】とは、被害者の方が交通事故に遭ったことで支出を余儀なくされたとみることができる損害をいいます。
具体的な主な費目としては、以下のとおりです。

  • 治療費 → 怪我の治療に要した病院での治療費や整骨院での施術費、薬局での調剤費等
  • 付添看護費 → 被害者の方の年齢、怪我の程度等から入院や通院の付添いの際に生じたとみることができる損害(別途、付添交通費を請求できることもあります。)
  • 雑費 → 入院雑費等を中心とした事故により生じた雑費
  • 通院交通費 → 通院の際に要した交通費
  • 葬祭費 → 被害者の方が亡くなった際の葬儀費用等
  • 家屋・自動車などの改造費 → 交通事故により被った被害の程度・内容に応じて、自宅・車両の改造が必要といえる場合の改造費等

消極損害にあたる費目

【財産的損害】のうち、【消極損害】とは、交通事故に遭わなければ得られるはずであった利益を事故に遭うことで得られなかったものを損害とみたものです。
具体的な費目としては、以下に述べるような、休業損害や逸失利益があります。

休業損害

休業損害とは、交通事故に遭い怪我をしたことで仕事を休んだり、怪我をしたことで十分に働けずに収入が減った場合に、事故がなければ得られたはずの収入から減収等したことによって発生します。
そのため、休業損害を請求するには、基本的に働いて収入を得ていることが前提になります。
会社員、自営業者、アルバイト・パートなど就労の形式を問わずに、減収が生じているような場合には、休業損害の請求ができることになりますが、主婦の方や場合によっては無職の方が休業損害を請求できるケースがあります。

休業損害については、詳しくは以下の記事で解説していますので、ご参照ください。

交通事故の休業損害とは | 請求条件や計算方法

逸失利益

逸失利益とは、被害者の方に後遺症が残った場合、もしくは被害者の方が死亡した場合に、働けなくなることによって本来得られるはずであった収入が将来的にも得られず減収等することを見込んで計上する損害です。

後遺症が残り後遺障害等級が認められた場合などは、後遺障害逸失利益として、後遺障害の残存の程度、内容によって、どれくらい働けなくなるか、労働能力をどれくらい喪失するかを考え、それがどれくらいの期間続くかを踏まえて、将来的な減収等の見込み額を算定します。

また、被害者の方が死亡した場合には、死亡逸失利益として、被害者の方が働けなくなったことは明らかであるため、働けたであろう期間を踏まえて、減収等の見込み額を算定します。さらに、被害者の方が年金を受給していた場合には、年金についても逸失利益として計上していきます。

物損事故における損害賠償について

物損事故における損害賠償については、基本的には、【財産的損害】のみ算定していくことになります。物を壊された悲しみなども踏まえて【精神的損害】が問題になることがありますが、基本的に認められないとされています。
【財産的損害】としては、主に以下の費目があります。

  • 修理費 → 車両などを壊された場合に修理に要する費用等
  • 車両時価額 → 車両などが壊された場合のその車両の時価額
  • 買替諸経費 → 事故車両と同車種・同程度の車両を買い替える際に要する諸経費
    *実務上、「修理費>車両時価額+買替諸経費の一部」であれば「全損」、「修理費<車両時価額+買替諸経費の一部」であれば「分損」として、修理費や車両時価額等のどちらか低いほうが賠償の対象になりますのでご注意ください。
  • 代車費用 → 車両の修理中に要したもしくは買替えまでの間に要した代車の費用
  • 牽引費・レッカー費用 → 事故車両の牽引・レッカー移動の際に要した費用

まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします

交通事故被害者専門ダイヤル

0120-979-039

24時間予約受付・年中無休・通話無料

メール相談受付
交通事故の経験豊富な弁護士にお任せください

損害賠償額に相場はある?

損害賠償額の相場を算出することは難しいと言わざるを得ません。
個々の交通事故で生じる車両及び怪我に対する被害の程度・内容も千差万別であり、そのために損害賠償額も千差万別とあるためです。
ただし、個別の費目、例えば、慰謝料については、以下に述べるとおり、算定基準が設けられているため一定程度の相場を観念することができます。

使用する算定基準によっても損害賠償額は大きく変わる

損害賠償額の算定にあたって、費目によっては算定基準が3つあり、そのどれを用いて損害算定するかによって損害賠償額は大きく変わります。
3つの基準とは、①自賠責保険基準、②任意保険基準、③裁判基準(弁護士基準)です。

損害賠償額としては、①自賠責保険基準≦②任意保険基準<③裁判基準(弁護士基準)の順で大きくなり、③裁判基準(弁護士基準)で算定した損害賠償額が適正な賠償額といえます。
例えば、慰謝料について、①自賠責保険基準や②任意保険基準で算定したものと、③裁判基準で算定したものを額として比較した場合、数十万円~数百万円まで異なることが多いです。
慰謝料を例に3つの算定基準について以下の記事で詳しく解説していますので、ご参照ください。

交通事故の慰謝料とは|計算方法から相場まで解説します 交通事故の慰謝料相場と通院日数の関係

損害賠償請求の流れ

損害賠償請求の流れとしては、①事故の発生 → ②治療等 → ③損害額の算定 → ③賠償請求・交渉という流れになります。

まず、①事故が発生して、直ちに損害額が全て判明するわけではありません。
例えば、治療が一定期間継続する場合には、治療が終了しないと治療費全体の額が算定できませんし、慰謝料についても通院期間を基準に算定するため、被害者の方には、まずは②治療等に専念していただくことになります。
そして、治療が終了した後、後遺症が残存した場合には、後遺障害の等級認定申請をするなどして、③損害額を算定していくことになります。
損害額が算定できた場合には、加害者側に請求をして、賠償金をどれくらい獲得できるか交渉をしていくことになります。

こういった事故~示談交渉の流れについては、以下の記事で詳しく解説していますので、ご参照ください。

示談とは | 交渉の流れや成立前に注意すべきこと

自賠責保険に請求する方法

損害賠償請求については加害者側に行っていくのですが、加害者の加入する自賠責保険へ請求することもあります。
例えば、加害者が任意保険に加入していない場合、任意保険に加入していても治療途中で一括対応(治療費の支払い)を一方的に打ち切ってきた場合などには、加害者の加入する自賠責保険へ請求するという手段・方法を考えることになります。

自賠責保険への請求については、被害者側で資料を集めて請求する『被害者請求』と、加害者側へ請求手続きを任せる『加害者請求』という方法がありますが、当然ながら加害者側になるべく手続きを任せるべきではなく、『被害者請求』で手続きを進めていくべきです。

損害賠償請求に時効はある?

損害賠償請求には、時効があるので注意しましょう。
物的損害については、事故から3年間、人的損害については、事故ないし症状固定から5年(民法の改正により、2020年4月1日時点で時効が完成していないものは、改正民法の時効が適用され、5年に延長されました。ただし、自賠責保険への請求は引き続き3年です。)の時効にかかることになります。
一度時効が完成して援用されてしまうと、それ以降損害賠償請求をして、相手方と示談を成立させることは困難ですので、注意しましょう。

損害賠償額の減額要素

被害者の方に生じた損害については、全て加害者側に請求して賠償してもらえるかというと必ずしもそうではありません。
以下で述べていく『過失相殺』や『素因減額』などがなされる場合には、損害賠償額が減額されることになるため、加害者側がこれらを主張してきた場合には注意するようにしましょう。

過失相殺

『過失相殺』とは、被害者の方に認められる過失の割合に応じて、損害賠償額を減額するというものです。
『過失』というのは、簡単言えば、「落ち度」や「不注意」のことで、被害者の方にも交通事故の発生に一定の落ち度・不注意が認められる場合に、被害者の方に生じた損害の全責任を加害者に負わせるのは過剰であるため、適正な賠償の観点から、加害者側の責任を一定程度で減ずるのです。

交通事故が起こったとき、例えば、車対車の交通事故では、出会い頭の事故など双方の車が動いている状態での事故が多く、このような場合、加害者に100%の過失があるというケースというよりも、被害者の方にも一定程度過失があると判断されるケースがほとんどです。

そこで、例えば、過失割合として、加害者:被害者=85:15というような場合には、被害者の方は、被害者の方に生じた全損害のうち、85%分しか請求できなくなるため、被害者の方にとっていかに過失を減じていくかが重要と言えます。

素因減額

『素因減額』というのは、被害者の方が事故前から有していた既往症や、身体的特徴、心因的な要因といった事情がある場合に、その既往症等が交通事故による症状の悪化や損害の拡大等に影響している場合に、被害者の「素因」として賠償額の算定の際に斟酌して減額することをいいます。

この『素因減額』についても、過失割合と同様に、被害者側の事情によって損害が拡大等している場合に、被害者の方に生じた損害の全責任を加害者に負わせるのは過剰であるため、適正な賠償の観点から、加害者側の責任を一定程度で減ずるのです。

例えば、修理費が数万円という比較的軽微な事故であるにもかかわらず、治療期間が1年など長期に及ぶ場合に、被害者の方にもともとヘルニアがあったから治療期間が長期化した、そのために、賠償額を20%減ぜよ、などと加害者側の保険会社が主張してくるのです。

ただし、『素因減額』による損害賠償金額の減額については加害者側の主張が正当なものかどうかを検討しましょう。既往症が存在すれば、どのような場合でも『素因減額』の対象となるわけではなく、その既往症が疾患といえる程度のものであることが要求されるなど、きちんと減額の正当性について吟味すべきです。

加害者が損害賠償を払えない場合

損害賠償請求にあたって、加害者が賠償金を支払えない場合も一定数あります。
特に、加害者が任意保険に加入していない場合などは、加害者に十分な金銭的な余裕・資力がないと、被害者の方に生じた損害を十分に補償してもらうことは難しいといえます。

こういった場合、少しでも被害の回復を図るため、加害者の加入する自賠責保険への請求を行う、人身傷害補償特約など被害者の方の保険を使うなど手段・方法を検討する必要があります。

弁護士に依頼することによって適正な損害賠償を受け取れる可能性が高まります

以上見てきたとおり、交通事故に遭い、被害者の方に甚大な被害が生じたとしても、その全てを十分に補償してもらえるとは限りません。
特に、その損害の算定方法を適切に行えない、例えば、算定基準を③裁判基準(弁護士基準)を用いて損害を算定できなかったり、過失相殺や素因減額に安易に応じてしまうと、被害者の方が受け取れる損害賠償金は著しく少なくなることも多く、適切な被害の回復ができないこともあります。

そういった場合には、交通事故に精通した弁護士に相談して、今後の対応・対策について相談するようにしましょう。交通事故に精通した弁護士であれば、被害者の方が適切に賠償金を受け取れるように、今後どのように対応していくべきかをアドバイスしてくれるものと思います。

弁護士法人ALGは、交通事故の被害者側の対応に特化した事務所であり、弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士も数多くの被害者の方の損害賠償請求にお力添えをしてきました。
被害者の方の適切な被害の回復、適切な損害賠償請求については、交通事故の損害保険に関して数多くの実績を積んでいる弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士に一度ご相談ください。

神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介
監修:弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長
保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:51009)
兵庫県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。