監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士
自動車や自転車などに乗っていて交通事故に遭った場合、乗っていた自動車や自転車が損傷を受けることになります。
この場合、自動車や自転車などの車両の損害をどの程度賠償してもらえるか、被害者の方が損害についてどのような主張をすべきかなど注意すべきポイントはいくつもあります。
そこで、物損事故についての注意点などについて、交通事故に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が、以下詳しく解説していきます。
目次
物損事故とは
まず、【物損事故】とは、物損(物的損害ともいいます。)が生じた事故ということができます。
物損とは、車両の修理費など物に関して生じた損害を指します。
これに対して、治療費や慰謝料など人に関して生じた損害を人身損害、人損などということがありますので、区別して把握した方が良いです。
物損事故で請求できる損害賠償
では、物損事故で請求できる損害賠償としてどのようなものがあるでしょうか。
実務では、損害の種類をもとに個別に損害項目(費目)を考えて損害を計上する方法で、損害賠償の対象と範囲及び額を算定します。
修理費
修理費は、文字どおり、事故車両を修理する際に要する費用です。
修理費がどのように算定されるかについてですが、大半のケースでは、事故発生後に、事故車両が自走ないしレッカーにて修理工場に持ち込まれ、修理工場にて修理見積費を出してもらい、その修理見積費を基準に保険会社のアジャスターと呼ばれる物損事故調査員と話し合いをしてもらい、最終的な金額を合意(協定)してもらいます。
当然ながら、修理工場で出した当初の修理見積費より減額されるケースも多くあります。
ただし、修理費に関連してよく問題となるのが、『全損』か『分損』かという点であり、この点は以下の3で詳しく解説します。
格落ち損(評価損)
格落ち損(評価損)というのは、事故前と事故後の車両を比較した際の評価額の差です。
具体的に言うと、交通事故によって車両が損傷した場合、仮に修理をしても車両の機能や外観に欠陥が残ってしまったり、また事故歴があることにより取引市場で車両の査定価格が低下してしまうことがあります。
つまり、交通事故の事故車両は、修理すれば完全に元通りというものではなく、仮に、修理しても、事故当時の車両の価値と修理後の車両の価値との間に差が生じることがあり、この差のことを格落ち損(評価損)と呼んでいます。
ただし、この格落ち損(評価損)は実務上もよく争いになる点なので注意しましょう。
代車料
代車料とは、交通事故に遭い、車両が損傷し、その修理や買替えのために車両を使用できない場合に、レンタカーなどの代車を借りなければならなかった場合に要した費用のことをいいます。
代車料については、代車を使用する必要性がなければ損害として認められません。
例えば、交通事故が原因で車両を修理に出して、修理期間中に別の車両を使用する必要がある場合(代替車両がない)や、営業用に使用していた車両が損傷を受けた場合などは必要性を肯定しやすいものといえます。
実務上よく問題となるのは、代車の使用期間です。いつまでも代車を使用することできるのではなく、事故車両の修理が完了するまで、もしくは、事故車両の買い替えに通常要する期間までに制限されることもあるので、注意しましょう。
買替差額
買替差額というのは、事故車両の事故当時の時価額と事故車両の売却代金との差額を指します。
買替差額が問題となるのは、3で後述する『全損』の場合です。
具体的に言うと、交通事故に遭い、車両が損傷を受けた場合、被害車両が物理的又は経済的に修理不能になることがありますが、この場合、社会通念上、事故車両を買い替えるのが相当であるとして、事故車両の事故当時の時価額を基本的に損害とみなします。ただし、事故車両についてそのまま売却してもある程度価値がつく場合やスクラップとして売却することで価値を見出すことができる場合に、事故当時の時価額から事故車両の売却代金(修理なしの事故後の有姿のままでの売却)を控除した額を損害とみるのです。
買替差額は、2.5の登録手続関係費とも関連しますので、ご参照ください。
登録手続関係費
登録手続関係費とは、2.4と関連しますが、事故車両を買い替えることが相当であるとして、買い替える際に要する手続関係費です。
というのは、事故車両を買い替えることが相当であるとして、いざ車両を買い替えようとしても、車両本体の価格を支払えば済むというものではないので、以下の必要な手続に関する費用を要します。そこで、これらの費用の相当な額を損害と見て、2.4の買替差額とともに請求することができるのです。
- 登録費用 → 車両を自らの名義にするための登録費用
- 車庫証明費用 → 車両の保管場所を証明する車庫証明の取得費用
- 廃車費用 → 廃車する際の費用
- 登録手数料 → 登録手続を代行してもらった場合のディーラーの手数料
- 車庫証明手数料 → 車庫証明手続を代行してもらった場合のディーラーの手数料
- 納車手数料 → 買い替えた車両を納車する場合のディーラーの手数料
- 廃車手数料 → 廃車手続を代行してもらった場合のディーラーの手数料
などがあります。
休車損害
休車損害とは、交通事故に遭い、営業用車両が損傷したことで、修理期間ないし買替期間中、営業用車両を稼働させることができないために、車両を稼働していれば得られたであろう営業利益の損失を損害ととらえたものです。
ただし、営業用車両といっても、仕事で使用している全ての車両が対象になるのではなく、主に貨物トラック、バス、タクシーなどの営業車(緑ナンバー)が、一般的に休業損害の対象となります。
また、事故車両の他に、普段稼働していない車両(遊休車)がある場合には、その游休車を稼働させれば営業損害は発生しないのではないかということで、遊休車の存在が休車損害に与える影響が問題となることが多いです。
その他
上記の他に物損として請求できるものとしては以下のようなものがあります。
- 車両の牽引費・レッカー費:事故により自走不能となった場合のレッカー費用等
- 保管費:修理するか買い替えるかの判断の際に、修理工場等に事故車両を一定期間保管してもらっていた際の費用
- 見積費用:修理見積を依頼する際に要した費用
- 積載物の費用:積荷などが損傷を受けた場合の損害
- 衣服・カバン等の費用:バイクなどに乗車中に転倒した際に損傷した衣服やカバンの損害
ただし、上記のような費用は、必ず認められるわけでないために、請求の際には交通事故に精通した弁護士にご相談ください。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
『全損』か『分損』か
これまで少し触れてきましたが、物損について重要な考え方として、『全損』か『分損』かというものがあります。
具体的には、実務上、2.1で見た【修理費】と、2.4と2.5で見た【買替差額(基本的には事故車両の時価額)】と【登録関係手続費】を比較して、どちらか低い方しか加害者から賠償されないのが基本です。
例えば、修理費が50万円、事故車両の時価額が30万円、登録関係手続費が5万円だとした場合、加害者側は、30万円+5万円=35万円を賠償すればよく、仮に、被害者の方が修理しようとしても、原則としては、差額15万円(50万円-35万円)は被害者の方の負担となってしまうのです(ただし、対物超過特約があれば別)。
こうした、【修理費】>【買替差額(時価額)】+【登録関係手続費】の場合を『全損』(特に、経済的全損)といいます。
他方で、【修理費】<【買替差額(時価額)】+【登録関係手続費】の場合と『分損』といい、被害者の方は、実際に修理して修理費を支払ってもらうか、修理せずに修理費相当額を受け取ることができます。
仮に、被害者の方に全く過失がなくとも、修理費全額が賠償されない可能性もある点について注意が必要です。
物損の場合は慰謝料が請求できない?
物損の場合には、人身損害の場合と異なり、原則として慰謝料請求できません。
一般的に、物損について、車両、携行品等に被った損害は、修理費用または事故当時の時価額等で損害額を算出し、金銭で損害賠償されると、財産的損害が回復され、それにより、被害者の方の精神的苦痛も癒やされるのが通常であると考えらえるためです。
物損においては、その物の財産的価値以外に考慮すべき精神的価値等を見出すのは難しいために、精神的損害である慰謝料を認めるのが難しいといえます。
例外的に物損でも慰謝料が認められる場合
そうすると、例外的に物損で慰謝料が認められる場合とは、その物の財産的価値以外に考慮すべき精神的価値等を見いだせる場合ということができます。
例えば、特別の愛着を持っているペット、深い敬愛追慕の念を抱く墓石・骨壺、代替性のない芸術作品などが被害対象となった場合には、財産的価値以外に考慮すべき精神的価値等を見出すべきとして、慰謝料が認められたもの裁判例上があります。
逆に、被害対象が自動車などの車両である場合には、たしかに車両に強い思い入れがある方も多いと思いますが、上記のようなペット等とは異なり、その精神的価値が慰謝料として賠償等されることは難しいものといえます。
物損事故の事故処理の流れ
物損事故の場合の事故処理の流れとしては、①事故の発生 → ②修理費等の算定 → ③賠償額等の交渉 → ④示談、という流れになるものといえます。
以下、具体的に見ていきましょう。
①事故が発生して、直ちに損害額が全て判明するわけではありませんから、まずは、損害額の算定が必要です。なお、物損事故であっても警察へ届け出る必要がありますのでご注意ください。
そこで、②修理費等を算定するために、2.1で見たように、修理工場に入庫して、修理費の合意・協定をすることが多いかと思います。
その後、3で見たような『分損』か『全損』か、過失割合はどうするかなどを踏まえて、③賠償額を交渉していくことになります。
損害額を合意できた場合には、④加害者側と示談することになります。
少しでも人的損害があった場合は物件事故ではなく人身事故に切り替える
損害賠償など民事手続上の物損事故・人身事故と似たものとして、刑事手続上の「物件事故」「人身事故」というものがあります。
交通事故に遭い、怪我をした場合には、重傷ではなくともなるべく「人身事故」の届け出を行うようにしましょう。
ここでいう「人身事故」の届け出というのは、あくまでも刑事手続上のものではあるのですが、刑事手続においては「物件事故」で、損害賠償請求などの民事手続においては人身事故というのは不自然ではあり、ケースによっては、人身に関する補償に影響が出てくる可能性があります。
以下、詳しく見ていきましょう。
人身事故を物件事故にしておくリスク
実際は、交通事故が発生した場合、被害者の方が怪我をしていても、加害者は警察に対して「人身事故」の届け出をせずに物件事故の届け出をするように強く求めることが多いです。
これは、警察の届け出の際に、人身事故で届け出た場合、人に怪我をさせたとして、加害者が刑事事件の対象となり、場合によっては罰金等に処せられる可能性があるためであり、物件事故のままの届け出にしておけば、そのような危険はなく、加害者にいわばメリットがあるといえるためです。
他方で、被害者の方からすれば、自身が怪我した以上、人身損害が発生するのですから人身事故扱いにして届け出をしておくべきといえます。物件事故のままですと、物的損害「のみ」発生した軽微な事故だと思われて、賠償額をあえて低くされる可能性も否定できませんから注意が必要です。
物損事故から人身事故に切り替える方法
そこで、物損事故から人身事故に切り替えるにはどうすればよいかですが、怪我をしたことを示す診断書を病院に発行してもらい、警察へ提出して、人身事故へ切り替えるように要請しましょう。
怪我の程度にもよりますが、通常、事故が発生した後2週間以上経過してしまうと、警察の動きは鈍くなってしまい、診断書を事後的に提出しても切り替えてくれないというケースもあります。
そのため、人身事故の切り替えについては、なるべく早く行うことが必要になります。
物損事故の弁護士依頼は損?費用倒れにならないケースとは
これまで見てきた、物損事故の場合、弁護士に交渉を依頼することは損をしてしまうのでしょうか。
通常、弁護士費用はそこまで安価ではなく、被害者の方の物損額を弁護士費用が超えるなどして、依頼しても費用倒れになるケースもあります。
ただし、弁護士費用特約があるケースでは弁護士費用を気にしなくても良いことがありますので、弁護士費用特約がある場合には、物損事故でも、交通事故に精通した弁護士に一度相談すると良いでしょう。
さらに、物損だけでなく、人身損害も発生するケースでは、人身損害と物損を両方依頼することで弁護士費用特約が無くても、費用倒れにならないということも想定できます。
物損でも場合によっては弁護士の介入がプラスになることがあります。まずはご相談ください
物損については、修理費や時価額の算定、代車費用の計算、過失割合の交渉など行うべきことは多くあります。
日々の生活を送りながら、また仕事をしながら、こういった手続きを進めることについては被害者の方にとって大きな負担になるものといえます。
加害者側の保険会社は、物損について被害者の方のために適正な額を算定してくれるとは限りません。
こういった場合には、交通事故に精通した弁護士に相談するようにしましょう。特に、弁護士費用特約があるケースでは、弁護士費用については気にせず依頼することができる場合もあります。
弁護士法人ALGは交通事故の被害者側の対応に特化しており、弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士は交通事故で数多くの実績をあげております。交通事故に遭い、物損に関してお悩みの方は、まずはお早めに交通事故に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士にご相談ください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:51009)