相続放棄したのに管理義務?誰がいつまで?人に任せる方法とは

相続問題

相続放棄したのに管理義務?誰がいつまで?人に任せる方法とは

神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介

監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士

相続の際に、相続放棄を検討される方も多いでしょう。
被相続人が死去された後の相続について、生前の親族間の様々なしがらみから解放されるために、相続放棄を選択した場合であっても、必ずしも全ての義務から解放されるわけではないことに注意しましょう。相続放棄を行った場合でも、一定の要件を満たすときには、当該相続財産について相続財産の「管理義務」を負うことがあるためです。

そこで、本記事では、相続問題、相続放棄手続きに精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が、どのような場合に相続財産の管理義務を負うか、またその義務はいつ消滅するのか等について詳しく解説していきます。

目次

相続放棄をしても残る管理義務とは

相続放棄とは、被相続人の遺産について、その権利及び義務の一切を放棄することです。つまり、一切相続しない、ということです。
そのため、相続放棄を行えば、被相続人の遺産に関して一切のことから解放されるようにも思えます。

しかし、相続放棄を行っても、後述する条件を満たす場合には、遺産の「管理義務」を負うことになるため、遺産の管理を行う必要がありますので、注意しましょう。

なお、相続放棄そのもの内容や相続放棄のデメリットなどについては、以下の記事でも詳しく解説しておりますので、ぜひご参照ください。

相続放棄とは 相続放棄したらどうなる?

相続放棄しても管理費用と労力はかかる

相続放棄を行った場合の「管理義務」について、民法では、「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。」(民法940条1項)と定められています。

そのため、相続放棄を行っても、その相続放棄によって相続人となった次順位の相続人が遺産の管理を始めるまでは、自身の有する財産と同じ注意をもって遺産の管理を行わなければならないこととなります。簡単に言えば、相続放棄を行っても、遺産について放置していてはいけないおそれがあるということです。

例えば、仮に、遺産の中に不動産であった場合に、その管理が杜撰であり、第三者に損害を与えたときには、管理者が損害賠償請求をされる等のおそれもあります。
そのため、相続放棄をしても、自身が管理者となった場合には、相続財産の管理を適切に行う必要があります。
なお、上記の中で「次順位」、つまり、「相続順位」について言及しておりますが、この点については、以下の記事で詳しく解説しておりますので、ぜひご参照ください。

相続の順位と相続人の範囲

管理義務の対象となる遺産

それでは、相続放棄しても「管理義務」の対象となる遺産についてですが、被相続人の遺産であれば基本的には全て対象となります。
例えば、金庫内の現金、預貯金口座、動産、不動産等が考えられます。

このように、「管理義務」の対象となる遺産は様々ですが、特に不動産については、例えば周囲のブロック塀が崩れそうなのに放置して適切な管理をせずに第三者に損害を与えた場合、多額の損害賠償請求がなされるおそれもあるため、注意が必要です。

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管理って何をすればいい?管理不行き届きとされるのはどんなケース?

相続財産の管理は、前述したとおり、自身の有する財産と同じ注意を持って行う必要があります。

例えば、建物の管理については、建物が老朽化している場合にはその修繕や解体を行って、倒壊等を防ぐ必要があります。また、土地については、立木竹の伐採や除草等を行って、周辺環境の保全を図る必要があります。

上記でも少し触れましたが、不動産の管理が杜撰だったために、建物が倒壊する等してしまい、第三者に損害を与えた場合には多額の損害賠償を請求される可能性もありますので、管理不行き届きとならないよう、定期的な見回りや、不具合について業者に依頼して修繕する等の対応を行う必要があります。

管理義務は誰にいつまであるの?

「管理義務」は、上記のとおり、自身が相続放棄を行ったことによって、次の順位の相続人が現実に管理が可能となるときまで負うものとされています。

また、相続人全員が相続放棄をした場合は、現実に管理を引き継ぐべき他の相続人が存在しないこととなりますが、「相続人のあることが明らかでない」ものとして、相続財産が法人となることで、相続財産管理人が選任されることで、相続財産管理人が相続財産の管理を開始したときに管理義務が消滅します。

簡単に言えば、相続放棄をしても、遺産を管理する権限を有する人(次順位の相続人、相続財産管理人)に引き継ぐまでは「管理義務」が残ってしまう、というように考えていただいても良いかと思います。

管理を始めることができるようになるまでとは?

それでは、他の相続人が管理を始めることができるようになるまで、とは、どういう状態を指すのでしょうか。
一般的には、他の相続人に相続財産を具体的に引き渡すことによって、その相続人が現実に管理できる状態になるまでのことをいいます。

特に、民法改正により(改正法の施行が2023年(令和5年)4月1日です。)、相続放棄をした人の財産管理義務の終期について「相続人又は相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまで」と明文化されました。
この点については、以下でも解説したいと思います。

民法改正の2023年4月1日以降は誰に管理義務があるのか明確になる

民法改正により、相続放棄をした場合の「管理義務」について「相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第952条第1項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない」とされており、相続放棄時に、遺産を現に占有している相続放棄者が管理義務を負うことが明確化されました。

そのため、令和5年4月1日以降は、遺産中に不動産がある場合でも、相続放棄の時に不動産を占有していない相続人は相続放棄をしても、基本的には不動産の管理責任を負わないことになったといえるでしょう。

民法改正以前に起きた相続でも適用される?

改正民法の適用対象は、施行日である2023年(令和5年)4月1日以降になされた相続放棄となります。
そのため、2023年(令和5年)4月1日より前に起きた相続放棄に関しては、適用がないものと考えるべきでしょう。

管理義務のある人が未成年、または認知症などで判断能力に欠ける場合

「管理義務」のある人が未成年者であったり、認知症などで判断能力に欠ける場合は、そもそも相続放棄自体、単独で行える能力がないとは行えませんので、法定代理人や後見人、特別代理人等が本人の代理人となって行う必要があります。

その上で、上述した未成年者などが相続放棄時に相続財産を占有しており、財産の管理義務が生じる場合には、適切な管理能力が見込めないことから、代理人等が管理義務を負うことになると考えられます。

管理義務のある人が亡くなった場合

相続財産について、「管理義務」がある人が亡くなった場合でも、その「管理義務」は相続されません。
相続放棄の後の「管理義務」は、「相続を放棄した者」が、次順位相続人等に対して負う保存義務ですから、相続放棄者の相続人がその管理義務を単体で相続することはありません。

もっとも、当該相続人が、被相続人が管理していた対象財産を占有している場合には、占有者として、別途、損害賠償責任を負うこともあるので、そのような損害賠償責任を負わないように管理を行う必要があることもあるでしょう。

遺産の管理をしたくないなら相続財産管理人(改正後:相続財産清算人)を選任しましょう

相続人の存在が明らかでない場合や、相続人の全てが相続放棄をした場合、利害関係人等の申立てによって「相続財産管理人(改正後:相続財産清算人)」が選任されます。
この申立ては、家庭裁判所に対して行い、家庭裁判所は、「相続財産管理人(改正後:相続財産清算人)」を選任する必要がある場合には、「相続財産管理人(改正後:相続財産清算人)」を選任します。
この「相続財産管理人(改正後:相続財産清算人)」について少し解説していきます。

相続財産管理人(改正後:相続財産清算人)とは

「相続財産管理人(改正後:相続財産清算人)」とは、利害関係人または検察官の請求によって、家庭裁判所に選任され、被相続人の相続財産を管理する人です。

「相続財産管理人(改正後:相続財産清算人)」になるために必要な資格はないため、申立ての際に候補者を上げることもできますが、必ずしもその候補者が選任されるわけではありません。
家庭裁判所が相続財産の管理・処分に適正な人物であるかを考慮して選任することから、弁護士や司法書士等が選任されることが多いのが実情です。

選任に必要な費用

「相続財産管理人(改正後:相続財産清算人)」の選任に必要な費用は、家庭裁判所に納める収入印紙800円分と、連絡等に必要な郵券を数千円程度、また、予納金を支払う必要があります。

このうち、予納金とは、相続財産管理人の業務遂行等に必要な経費であったり、相続財産管理人の報酬に支払われる金銭です。
予納金については、裁判所が事案の内容に応じて決定するものであり、遺産の多さや内容など個々の事案によって異なりますが、大体数十万円から100万円程度といわれています。
相続財産が多ければ、その中から予納金が返還されますが、そうでない場合には、申立人が負担することになりますので、注意が必要です。

選任の申立・費用の負担は誰がする?

選任の申立て・費用の負担は、「相続財産管理人(改正後:相続財産清算人)」の選任を申し立てた申立人が支払うこととなります。そのため、「相続財産管理人(改正後:相続財産清算人)」を申し立てた利害関係人は、上述した収入印紙、郵券、予納金等の負担をすることとなります。
なお、上記したとおり、相続財産が少ない場合には、予納金の返還を受けることができないため、この点には注意が必要です。

相続財産管理人(改正後:相続財産清算人)の選任方法

「相続財産管理人(改正後:相続財産清算人)」の選任方法は、相続財産に関する利害関係人等が、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に、選任の申立てを行います。

「相続財産管理人(改正後:相続財産清算人)」は、家庭裁判所が、被相続人との関係や利害関係の有無、相続財産の内容、相続財産の管理能力等を考慮して,相続財産を清算するのに最も適任と認められる人を選ぶことから、上述したとおり、有資格者である弁護士や司法書士等が選任されることが多いです。

相続放棄をした財産に価値がない場合、相続財産管理人が選任されないことがある

「相続財産管理人(改正後:相続財産清算人)」を選任して、その管理人が相続財産の管理をする場合には、その業務遂行や報酬について費用がかかります。

このような費用は、最終的には相続財産から支払われるところ、相続放棄をした対象の遺産に価値がない場合には、「相続財産管理人(改正後:相続財産清算人)」を選任しても経済的な合理性が乏しく、むしろ費用が生じて損をするおそれがあるため、「相続財産管理人(改正後:相続財産清算人)」を選任しないこともあります。

管理義務に関するQ&A

以下では、相続財産の「管理義務」についてよくある質問に回答していきます。

相続放棄した土地に建つ家がぼろぼろで崩れそうです。自治体からは解体を求められていますが、せっかく相続放棄したのにお金がかかるなんて…。どうしたらいいですか?

相続放棄した対象の遺産の空き家の管理責任について、空家の倒壊等が生じ、第三者に損害を与えた場合には、その損害について、損害賠償責任を負わなければならない可能性があります。
もっとも、相続財産である不動産を解体する等してしまうと、相続財産を処分したとされ、相続放棄が無効となる可能性も考えられます。

この場合に、管理責任を問われることを防ぎ、また、相続放棄が無効となるリスクを解消するためには、上記した「相続財産管理人(改正後:相続財産清算人)」を選任して、管理人に相続財産の管理を引き継ぐことが考えられます。
ただし、上述のとおり、「相続財産管理人(改正後:相続財産清算人)」を選任するには一定の費用がかかるため、この点も考慮する必要がありますが、建物の崩壊による損害賠償等のリスクを回避するための選択肢としては有用といえます。

全員相続放棄しました。管理義務があるなんて誰も知らなかったのですが、この場合の管理義務は誰にあるのでしょうか?

上述したとおり、相続財産の管理義務を負うのは、相続放棄を行った際に、現に相続財産を占有していた者です。
そのため、全員が相続放棄をした場合でも、現に相続財産を占有している方はいることが多いでしょうから、「相続財産管理人(改正後:相続財産清算人)」が選任され、「相続財産管理人(改正後:相続財産清算人)」へ当該相続財産を引き渡すまでの間、その者に管理義務があります。

相続放棄したので管理をお願いしたいと叔父に伝えたところ、「自分も相続放棄するので管理はしない」と言われてしまいました。私が管理しなければならないのでしょうか?

改正民法には、相続放棄を行った際に、現に相続財産を占有している者に、相続財産の「管理義務」が発生すると定められています。また、その「管理義務」は、その管理者が、他の相続人等に当該財産を引き渡したときに消滅します。

そのため、相談者が、叔父に相続財産の引き渡しを行って、叔父が相続財産の占有を開始しない以上、叔父に相続財産の「管理義務」は発生しませんし、叔父が相続放棄をするまでに、叔父に相続財産の引き渡しを行わなかった場合には、相談者が管理義務は消滅しないものと考えられます。

相続放棄したのに固定資産税の通知が届きました。相続しないのだから、払わなくても良いですよね?

相続放棄をした以上は、その遺産の不動産を引き継ぎませんので、当該不動産の固定資産税を支払う必要はありません。

もっとも、相続放棄を行っても、上記したとおり家庭裁判所への申立てをした後は役所が自動的に知るわけではありませんので、役所に対して、自身が相続放棄を行ったことを証明する相続放棄受理証明書等を提出して、相続放棄を行ったことを知らせる必要があります。

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相続放棄後の管理義務についての不安は弁護士へご相談ください

このように、相続放棄をしたとしても「管理義務」を負うケースがあり、かかる「管理義務」について、そもそも誰が管理義務を負うか、対象財産は何になるのか、適切な管理方法はどのようなものなのか、「相続財産管理人(改正後:相続財産清算人)」の選任はどうすれば良いのか等、様々な点で複雑なところがあります。

そのため、それらについて、しっかりと判断するためには、法律の専門家である弁護士に相談することをお勧めします。
この点、弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士は、これまで数多くの 相続放棄の事案、「相続財産管理人」の選任などに携わってきましたので、相続放棄後の管理義務についてお悩みの場合は、ぜひ、相続問題に精通した弁護士法人ALG神戸法律事務所までご相談下さい。

神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介
監修:弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長
保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:51009)
兵庫県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。