不要な土地は相続放棄できる?管理責任や固定資産税はどうなる?

相続問題

不要な土地は相続放棄できる?管理責任や固定資産税はどうなる?

神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介

監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士

被相続人が亡くなった場合、相続が発生して、遺産を誰が承継するのかという問題が生じます。
そして、遺産に土地や建物といった不動産があると、これを相続すべきか否かの選択に迫られることとなります。

ただし、現金などの流動性のない不動産については、立地などの条件から容易に売却・管理できる不動産もあれば、山林や農地、廃屋が残された土地など容易に売却できないどころか、無償でも引き取ってもらえないものもあります。

そこで、相続問題、遺産分割問題に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が、相続放棄の際の注意点、遺産に不動産がある場合における注意点などを解説しますのでぜひご参照ください。

土地や建物などの不動産は相続放棄できるのか?

まず、遺産に土地や建物などの不動産がある場合に、相続放棄できるのかについてですが、相続放棄できます。

近年問題となっている「空き家問題」などに代表される、不要な不動産を承継したくない場合には、相続放棄することで、その不動産を取得しないことができます。

そして、相続放棄すると、相続財産は次順位の法定相続人に移転します。
相続放棄をした相続人は、基本的に相続財産に関する権利義務一切から解放されますので、固定資産税を支払う必要はありませんし、基本的には不動産を管理する義務もなくなります。
相続放棄の手続や方法、デメリットについては、以下の記事でも解説しておりますので、ぜひご参照ください。

相続放棄の手続や方法 相続放棄のデメリット

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相続放棄せずに土地を所有し続けるリスクとは?

それでは、相続放棄をしなかった場合にはどうなるのでしょうか。
まず、相続が開始した後、3か月以内に限定承認又は相続の放棄をしなかったときは、単純承認したものとみなされます(民法921条2号)。
そのため、不動産の所有者(相続人が複数いる場合は、共有持分権者)となってしまいますので、以下で触れるような所有権者としての義務が生じます。

固定資産税を支払わなければならない

まず、不動産の固定資産税は、不動産の所有者に納税義務が課されるため(地方税法343条)、土地や建物を相続した人は当然に納付義務を負います。
そのため、いくら不要な土地・建物であったとしても、その不動産にかかる固定資産税を毎年支払わなければなりません。

空き家問題と固定資産税について

なお、近年、「空き家問題」が取り上げられることも多いため、触れておきます。
空き家の増加がとまらず、適切な管理が行われていない空き家等が防災、衛生、景観等の地域住民の生活環境に深刻な影響を及ぼしており、地域住民の生命・身体・財産の保護、生活環境の保全、空家等の活用を促進するために、平成26年、空家等対策の推認に関する特別措置法(空家等対策特別措置法)が制定されました。

同法によって「特定空家」に指定されると、行政からの所有者に対して助言又は指導がされます。これに従わないでいると勧告がされ、固定資産税等の特例措置(人の居住の用に供する家屋の敷地に適用される住宅用地特例)を受けられなくなります。また、小規模住宅用地(200㎡以下の部分が1/6に減額)、一般住宅用地(200㎡を超える部分が1/3に減額)に関する特例が受けられなくなるなど不利益が課され、200㎡以下の部分については固定資産税が6倍に、200㎡を超える部分については固定資産税が3倍になるなどの影響も生じます。

共有名義にするとトラブルに発展することも

相続人が複数いる場合に、不動産について相続人の共有名義とすることがあります。
不動産を共有としてしまうと、固定資産税の負担、修繕費、がけ崩れなどの保全措置などの維持管理費を誰が負担するのかなど問題になることが多いです。また、不動産を賃貸に出した場合などには、1人が全体を利用した場合の家賃の取扱い(収益をどう分配するか)で揉めることも散見されます。さらには、不動産を売却するにも、共有持分権だけを売却することは容易でなく、かといって全体を売却するには共有持分権者の同意が必要になります。

このように、不動産を共有名義にするというのは、トラブルに発展する可能性が高いという点で注意が必要です。

土地を相続放棄する際の注意点

それでは、土地や建物の不動産を相続放棄する際にはどのような注意点があるかを具体的に見ていきましょう。
相続放棄における注意点等については、以下の記事でも解説しておりますのでぜひご参照ください。

相続放棄の手続き方法と注意点について

土地だけ相続放棄することはできない

まず、必要な土地だけを相続し、不要な土地だけを相続放棄することはできません。
相続放棄は、故人である被相続人の遺産に関する一切の権利義務を放棄することをいうので、財産の一部を選んで相続放棄する、ということは当然できません。
また、相続放棄する場合には、土地だけでなく、その他の預貯金や株式などの遺産もすべて放棄することになるので注意が必要です。

相続放棄しても土地の管理義務は残る

相続放棄をしてもそれで終わりでないケースも多いので注意が必要です。
相続人は、相続放棄をすることで、土地や建物などの遺産の所有権を放棄することはできますが、その土地や建物の管理義務までは放棄することができません。
相続放棄した土地や建物は、相続放棄した人が、他の相続人又は相続財産の清算人に引き渡すまでの間、管理する義務を負ったままとなります(民法940条1項)。
相続放棄をした人は、他の相続人又は相続財産の清算人が、土地等を管理できる状況になるまで、管理を継続しなければなりません。
特に不動産に関しては、放置することで不動産の価値が毀損されれば、後順位相続人から損害賠償請求を受ける可能性がありますし、屋根が台風で飛ばされたり、倒壊、がけ崩れが発生した場合に、近隣住民などから損害賠償請求を受ける可能性があるので注意が必要です。

土地の名義変更を行うと相続放棄できなくなる

他方で、もし遺産である土地や建物の名義変更をすると、相続財産を処分したことになり、相続放棄をすることはできなくなります。
一部であっても相続財産を処分すると、相続を単純承認したものとみなされることになるからです(民法921条1号)。

「単純承認」とは、被相続人の一切の権利義務を承継することをいい(民法920条)、一旦、「単純承認」が成立すると、以降の相続放棄は認められなくなります(民法919条)。
なお、「単純承認」については、以下の記事でも解説しておりますので、ぜひご参照ください。

単純承認とは

相続放棄には3ヶ月の期限がある

さらに、相続放棄には期間制限がある点も注意が必要です。
相続放棄は、「相続開始を知ってから3か月以内」に行わなければなりません(民法915条1項)。
そのため、被相続人の財産状況を調査するのに時間がかかる場合など、3か月の期間内に相続放棄をするかどうか決めることが難しい場合、家庭裁判所に申請することで熟慮期間を延長することができます(民法915条1項但書)。
なお、相続放棄の期限などについては、以下の記事でも解説しておりますので、ぜひご参照ください。

相続放棄の期限はいつまで?

相続放棄した土地はどうなるのか?

それでは、相続放棄をした土地や建物はどうなるのでしょうか。
相続放棄をした土地や建物は、相続人がいない相続財産として、相続財産法人となり(民法951条)、利害関係人などが「相続財産管理人」の選任を申し立て、選任された「相続財産管理人」が相続財産の精算を行ったのち、残された相続財産が国庫に帰属することとされています。

相続放棄をしたとしても、当然に国庫に帰属するのではなく、誰かが「相続財産管理人」の選任の費用を負担や手続き的負担を強いられるため必要がある点は注意が必要です。
なお、令和5年4月27日から相続土地国庫帰属制度がスタートします。この制度によって、一定の要件を満たした場合には、同日以前に相続した土地を含め相続した土地を手放して国庫に帰属させることが可能となります。

土地を相続放棄する手続きの流れ

それでは、土地や建物を相続放棄する方法を見ていきましょう。
相続放棄の際には、以下の①~④までの手続が必要と言えるでしょう。

①戸籍等の必要書類を市町村に取得申請するなどして集める

②家庭裁判所に相続放棄の申述書及び申立添付書類(必要書類)を提出する

③家庭裁判所から届いた書類(被相続人の死亡日を知った時期や相続放棄するに至った理由などを問う質問状等)に回答し、返送する

④相続放棄申述受理通知書が届いたら手続完了

なお、①必要書類の収集に時間がかかることがありますので、なるべく早くに準備しておくことが肝要です。

相続放棄の手続き等については、以下の記事でも解説しておりますので、ぜひご参照ください。

相続放棄の手続き方法と注意点について

相続放棄以外で土地を手放す方法はある?

ここまで相続放棄を中心に見てきましたが、相続財産に預貯金や株式等がある場合のように、土地以外のプラスの財産が多い場合など、相続放棄をしたくないケースもあるでしょう。
そのような場合には、以下で触れるように、土地を含めた遺産を相続したうえで、寄付や譲渡等の処分をして、手放すことが可能です。
ただし、土地を相続する場合は、相続登記(不動産の名義変更)が必要となるため注意が必要です。

売却する

まず、不動産の処分方法として一般的なのは、土地などの売却です。
もっとも、土地が田舎にあるなどの立地面に問題がある場合や、古い家屋が建っているなどして取壊し費用がかかりそうな場合には、買い手が見つからないことも多いです。
そういった場合には、価格を下げて売却したり、取壊し費用を負担して更地にしてから売却することが考えられます。
また、自分で買い手を見つけることが困難である場合には、不動産会社に仲介を依頼することや空家バンクに登録するなどの方法を検討しましょう。

寄付する

また、不動産の処分方法として、不要な土地を寄付することも可能です。
寄付先としては、①自治体、②個人、③法人が考えられます。
まず、①自治体への寄付についても、行政目的で使用する予定のない土地等の寄付については、維持・管理コスト(国民負担)が増大する可能性等が考えられ、これを受け入れないものとされるケースも多いため、自治体に寄付する場合にも、問い合わせが必須です。
また、②個人や③法人への寄付には贈与税がかかることがあるため、別途注意が必要です。

土地活用を行う

そして、不動産の処分だけでなく、その土地を有効活用することも考えられます。
例えば、賃貸物件(マンションなど)を建築して賃料収入を得ることや、トランクルームを経営することなどが考えられます。
土地については、立地さえよければ安定的に収益を得ることも見込めますので、土地を処分する前に一度、その土地に利用方法があるか検討するべきでしょう。
また、その際には土地の立地調査をしてもらうことも有益です。

土地の相続放棄に関するQ&A

土地や建物などの相続放棄についてよくある質問を取り上げたいと思います。

被相続人から生前贈与された土地を相続放棄できますか?

相続人が、被相続人(故人)から「生前贈与」で受け取った土地については、相続の対象となるものではないため、相続放棄によって所有権を手放すことはできません。
「生前贈与」とは、被相続人(故人)が、生前に自己の財産を子や親族その他第三者に無償で譲り渡すことをいい、被相続人が亡くなる前に「生前贈与」を行い、相続人の財産となり、被相続人の死亡時にも遺産に残っていないものは、相続財産にはならないので、相続放棄の対象ともなりません。
なお、生前贈与をした場合には贈与税の申告が必要となるため、注意が必要です。

土地の共有持分のみを相続放棄することは可能ですか?

上記したとおり、相続放棄の際に、特定の財産だけを選択して放棄することができません。
相続放棄は、故人である被相続人の遺産に関する一切の権利義務を放棄することをいうので、財産の一部を選んで相続放棄する、ということは当然できません。
そのため、土地が相続人間で共有となった場合、相続人の一人が自分の所有権の割合(これを「共有持分」といいます。)のみを相続放棄をすることはできません。

農地を相続放棄した場合、管理義務はどうなりますか?

農地であっても、上記したとおり、その相続放棄によって相続人となった者(次順位相続人)が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならず、管理義務は残るので注意が必要です。

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土地を相続放棄するかどうかで迷ったら、一度弁護士にご相談ください。

以上見てきたように、不要な不動産の固定資産税の支払いを免れるために相続放棄を行っても、その際に守るべきさまざまなルールがあります。
また、相続放棄をしても不動産の管理義務が残るなど注意点が必要です。
このように、遺産に不動産がある場合には、相続放棄に関する手続自体も少なからず負担がありますし、相続放棄までの間の遺産の管理等についてどうすべきか、どのような行為なら対応してもいいか、してはいけないかについてなど、専門家でなければ判断の難しいことも多々あります。
そのため、遺産に不動産がある方は、早めに相続問題、遺産問題に精通した弁護士に相談すべきです。
この点、弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士は、相続放棄の手続も多数経験し、また、相続放棄後の「相続財産管理人」の選任などについても多数アドバイスをしてきました。
遺産問題や相続放棄については、ぜひ一度弊所までご相談ください。

神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介
監修:弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長
保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:51009)
兵庫県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。