相続放棄の手続き方法と注意点

相続問題

相続放棄の手続き方法と注意点

神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介

監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士

相続問題が起こった際には、当然ながら、莫大な財産を相続するケースばかりではありません。
例えば、故人(以下、「被相続人」といいます。)が借金を残して死去するケースも想定されます。
もっとも、相続をしてしまうと、被相続人の財産だけではなく、借金といった負の財産までも受け継ぐことになります。また、さまざまな背景から、親族といえどもはや被相続人と関わりたくないということもあるでしょう。
このようなケースでも、もし、死亡した被相続人に莫大な借金があった場合、関わり合いになりたくないときにも相続せざるを得ないのかというとそうではありません。このような事態に陥った場合に、【相続放棄】という手段があります。
そこで、相続問題、遺産問題に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が【相続放棄】のポイントや注意点等について解説していきたいと思います。

相続放棄とは

【相続放棄】とは、被相続人の財産・遺産に対する相続権の一切を放棄することです。
つまり、一切相続をしないということです。
一切相続しないということで、放棄の対象となるのは被相続人のすべての財産であり、預貯金や不動産などのプラスの財産だけでなく、負債などのマイナスの財産も含まれます。
そのため、【相続放棄】した場合、プラスの財産もマイナスの財産もいずれも相続人が承継することはありません。
【相続放棄】は、被相続人の債務を免れるために利用されることが多いですが、相続人の誰か一人に遺産を渡したいという場合や、遺産分割の手続が面倒で関わりたくないといった場合に利用されることもあります。

相続放棄の手続き方法

【相続放棄】を行うためには、詳しくは後述しますが3か月の熟慮期間内に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対し、必要書類を提出し、相続放棄を行う旨を伝える必要があります。
これを相続放棄の申述と言います。
以下、詳しく見ていきましょう。

必要書類を集める

【相続放棄】の手続のためには、「相続放棄申述書」の他、戸籍等の必要書類を揃えることが必要です。
必要書類の代表的なものとして、①被相続人の戸籍、②相続放棄をする相続人の戸籍、③被相続人の住民票の除票又は戸籍の附票があります。
①被相続人の戸籍は、被相続人の出生から死亡まで全てを揃える必要がありますが、婚姻、離婚、転籍等に伴って本籍地が変っている場合、各地の役場とやり取りしなければなりませんので、収集に時間がかかる点には注意しましょう。
なお、戸籍の収集等に時間がかかり、提出までにすべての戸籍が揃わない場合、追加提出でも良いとされています。

家庭裁判所に必要書類を提出する

上記の必要書類が準備できたら、家庭裁判所に提出して、【相続放棄】の申述手続きを行います。 相続放棄の申述先(申請先)となるのは、「被相続人の生前の最後の住所地を管轄する裁判所」です。家庭裁判所の窓口に持参する方法のほか、郵送で提出することもできます。 いずれの場合も、必要な収入印紙を相続放棄申述書に貼付し、予納郵券(各裁判所により必要な金額・枚数が異なります。)を添える必要があります。

家庭裁判所から届いた書類に回答し、返送する

上記した【相続放棄】の申述書の提出を終えてから、2週間~1か月程度で、家庭裁判所から、「相続放棄照会書」が送られてきます。この照会書の目的は、相続放棄が相続人の真意に基づくかどうかや、相続放棄の理由等についての問い合わせです。
「相続放棄照会書」が送られてくることなく、【相続放棄】の申述が受理されることもありますが、それほど多いわけではありません。相続放棄の申述から一定程度経過して、相続放棄照会書が届かない場合には、申述先の家庭裁判所に確認をした方が良いかもしれません。

返送期限内に回答書を送れない場合

返送期限内に「相続放棄照会書」を返送できない場合には、【相続放棄】の手続が進みませんので、【相続放棄】ができなくなる可能性もありますので、注意しましょう。
なお、返送期限にどうしても間に合わない場合は、家庭裁判所に問合せを行えば、返送期限の延長など、柔軟に対応してもらえる場合があります。

相続放棄申述受理通知書が届いたら手続き完了

【相続放棄】が受理されると、家庭裁判所から、「相続放棄申述受理通知書」が送られてきます。
この通知書は、被相続人の債権者(借入先の金融機関など)に対して、【相続放棄】が受理されたことを証明するときに用います。「相続放棄申述受理通知書」は、再発行できないので、大切に保管するようにしましょう。
相続放棄申述受理通知書を紛失してしまった場合や、相続債権者から求められた場合等には、家庭裁判所から、『相続放棄申述受理証明書』を発行してもらうことができます。
『相続放棄申述受理証明書』は、再発行してもらうことが可能ですので、各債権者に対しては、『相続放棄申述受理証明書』で対応するようにしましょう。

相続放棄の期限は3ヶ月

【相続放棄】の期限は「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月」(民法915条1項)と規定されています。
そのため、相続人は、「相続の開始があったこと」、つまり、被相続人が亡くなったことを知った日から3か月以内に【相続放棄】の手続を行う必要があります。
【相続放棄】の手続としては、上記したとおり、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ「相続放棄申述書」を提出して、相続放棄の申述を行います。 当該申述書が家庭裁判所に到達した時点が、相続放棄の意思表示を行った時点とされるのが基本です。

3ヶ月の期限を過ぎそうな場合

【相続放棄】をすると、上記したとおり、遺産を一切相続しないこととなります。そのため、相続財産を調査した上で、相続放棄するか否かを決めるのが望ましいと言えますが、当然、3ヶ月では遺産の調査が足りないこともあります。また、葬儀などの手続に追われて、なかなか調査が進まないこともあるでしょう。
このように、【相続放棄】のための3ヶ月の期限を過ぎてしまいそうな場合、家庭裁判所に、『相続の承認又は放棄の期間の伸長』を求めることができます。
この申立てが認められると、通常は、3か月程度、期間を延ばせることができます。

3ヶ月の期限を過ぎてしまった場合

相続を知ってから3ヶ月を過ぎてしまった場合、【相続放棄】は認められなくなるのが基本です。
しかし、例えば、「相続人に財産がないと思っていた」、「自身が引き継ぐべき財産がないと信じていた」ような例外的なケースでは、3ヶ月を過ぎても【相続放棄】が認められることがあります。 ただし、【相続放棄】を行うべき3ヶ月の期限を超えているため、通常のケースよりは【相続放棄】が認められづらいことは間違いありませんので、このようなケースでは、まずは弁護士に相談をするのがよいでしょう。

相続放棄の申し立ては一度しかできない

【相続放棄】の申述は一度きりであり、却下されてしまうと、『即時抗告』という不服申立ての手続きもありますが、そう簡単に判断が覆るものではありません。
また、再度、【相続放棄】の申述をしても認められません。
被相続人が亡くなって3ヶ月以内であり、かつ、相続財産を何ら費消していなければ、【相続放棄】の申述が受理されるケースは多いでしょう。しかし、裁判官も書面のみで判断するため、記載の仕方が悪くて誤解させる内容になっていると不許可となることもあり得ます。この場合には、もちろん、やり直しができませんので、相続問題に精通した弁護士に依頼した方が間違いはないでしょう。

相続放棄が無効・取り消しになるケースがある

【相続放棄】が無効・取り消しになるケースもあります。
それは、【相続放棄】の意思表示は本心ではなくなされたと疑われるようなケース、意思表示に瑕疵があるようなケースです。
例えば、
①詐欺または脅迫によって【相続放棄】の意思表示をした場合
②未成年者が法定代理人の同意を得ないで【相続放棄】の意思表示をした場合
③成年後見人が成年被後見人の同意を得ないで【相続放棄】の意思表示をした場合
④成年被後見人本人が【相続放棄】の意思表示をした場合
⑤他人が勝手に【相続放棄】の意思表示をした場合
などが挙げられます。

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後から財産がプラスだと分かっても撤回できない

【相続放棄】は、後から撤回できないため注意が必要です。
具体的には、一旦なされた相続放棄の意思表示は、たとえ熟慮期間が残っていたとしても撤回することができません(民法919条1項)。
そのため、【相続放棄】を行うべきかどうか悩んだ場合には、相続問題に精通した弁護士の力も借りながら、財産調査などを十分に行うなどをした上で、慎重に決定すべきといえます。

相続放棄は一人でもできるがトラブルになる場合も…

【相続放棄】は、相続人が個々で行いますので、複数の相続人がいる場合であっても、他の相続人の許可や同意なく【相続放棄】を行うことができます。
もっとも、【相続放棄】をするということは、マイナスの財産が多いなどのケースでしょうから、ほかの相続人に知らせずに相続放棄をするとトラブルになることもあり得ますので、以下見ていきましょう。

明らかに相続放棄したほうがいい場合

被相続人に多額の借金がある場合、相続してしまうと相続人がその借金を背負うことになるため、基本的には、【相続放棄】をした方がよいといえます。
この場合、とある相続人が【相続放棄】をすると、相続放棄をした相続人は借金を相続しないことになりますので、他の相続人が相続する借金はより多くなります(例えば、1000万円の借金で、相続人2人のケースでは、相続人1人が相続放棄をした場合、残る一人が1000万円の借金を相続しかねない)。
このような場合、他の相続人に【相続放棄】をすることを伝えないと、他の相続人が【相続放棄】を失念してしまった場合などには、想定以上に借金を背負うことになります。
また、被相続人の子全員が【相続放棄】をした場合は、被相続人の両親が生存していれば両親が相続人となりますが、被相続人の両親は、知らないうちに相続人となっており、突然、債権者から督促状が届くということにもなりかねません。多額の借金があるような場合は、他の相続人や相続人となり得る者に【相続放棄】をすることを伝えた方がトラブルを避けることができるといえます。

把握していない相続人がいる場合がある

また、【相続放棄】すべきかを一人で判断しない方が良いケースとしては、把握していない相続人、面識のない相続人がいるケースです。
例えば、夫婦の片方が亡くなった場合に、残された配偶者の相続分を増やすために夫婦の子供が良かれと思って【相続放棄】した場合、もちろん、【相続放棄】により配偶者の相続分は増えるのですが、他方で、把握していなかった、疎遠となっていた被相続人の兄弟がいた場合には、当該被相続人の兄弟に相続が発生してしまうことがあります(夫婦の両親も亡くなっているケースなど)。つまり、兄弟姉妹は、相続において第三順位にあり、4分の1の割合の法定相続分を有しますので、残された配偶者4分の3、兄弟姉妹4分の1で遺産分割協議をしなければならなくなります。
面識のない相続人に多額の財産を渡してしまう可能性がありますので、【相続放棄】にあたっては相続人を十分に把握する必要があり、相続問題に精通した弁護士の下で【相続放棄】を行うべきでしょう。

相続放棄後の相続財産について

よく誤解されている方がいるのですが、【相続放棄】をしても、その後、相続財産と一切関わらなくても良い、無関係になるというわけではありません。
そこで、相続放棄後の相続財産に関してどのような扱いになるかを見ていきましょう。

墓や生命保険など、相続放棄しても受け取れるものはある

例えば、墓については、相続人ではなく、祭祀承継者(民法897条1項)が承継します。なので、相続人の中で「祭祀承継者」となっている場合には、その人が【相続放棄】を行っていても、墓を承継することができます。
また、生命保険金も、【相続放棄】をしていても受け取れるケースがあります。
相続人の中で、被相続人の生命保険の受取人として、特定の相続人が指定されていた場合には、その相続人が受け取る生命保険金は、相続財産からは除外されますので、その相続人が【相続放棄】を行った後でも生命保険金を受け取ることができます。

全員で相続放棄をしても家や土地の管理義務は残る

【相続放棄】をしても、相続財産の管理義務が残ることには留意しましょう。
具体的には、【相続放棄】を行っても、相続財産管理人が選任されるまでは、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければなりません(民法940条1項)。
例えば、被相続人に、子が一人と両親がおり、相続財産として持ち家(家・土地)があるケースを想定します。この場合、子は、【相続放棄】をしても、次の相続人である被相続人の両親がこの持ち家の管理を始めるまでは、持ち家の管理をしなければなりません。このように【相続放棄】をしても一定の管理義務が残りますので、注意が必要です。
なお、相続人の全員が【相続放棄】をした場合、相続財産を引き継ぐ者がいなくなってしまいます。この場合、『相続財産管理人』の選任申立てをして、『相続財産管理人』が相続財産の管理を始めるまでは、相続放棄をした相続人が相続財産の管理をする必要があります。

相続放棄したのに固定資産税の請求がきたら

固定資産税の請求があった場合については注意しましょう。
固定資産税について、被相続人が亡くなる前に発生していたものに関しては、相続財産の一部であり、【相続放棄】をするのであれば、支払う必要はありません。
他方で、被相続人が亡くなった後に発生した固定資産税については、相続人が納税義務者に当たる可能性があります。固定資産税の納税義務者は、1月1日時点で課税台帳に登録されている者ですので、相続開始から【相続放棄】の受理までの間に年をまたいだ場合、【相続放棄】した相続人は新年の1月1日時点では被相続人の法定相続人として当該不動産を所有していると推定される者として課税台帳に登録されている納税義務者にあたるとされているケースがあります。

相続放棄手続きにおける債権者対応

【相続放棄】の際の債権者対応には注意が必要です。
債権者が、相続人に対して債務の履行を求めてくることがありますが、このような場合、誤った対応をすると、【相続放棄】ができなくなったり、【相続放棄】の効力が否定されてしまうことがあります。
以下、見ていきましょう。

「とりあえず対応しよう」はNG

【相続放棄】を検討している場合には、債権者の請求に対して少額でも支払うなどしてはいけません。【相続放棄】をすれば、一切支払う必要がないためです。
少額でも被相続人の債務を弁済してしまうと法定単純承認事由(民法921条1号)に該当する可能性があり、【相続放棄】できなくなる、または、既に行った【相続放棄】の効力が否定されるおそれがあるからです。
債権者からの請求があった場合には、【相続放棄】を行うか否かの検討を行っていることを伝え、【相続放棄】が完了するまで待ってもらうように伝えましょう。
なお、単純承認については、以下の記事でも解説しておりますので、ご参照ください。

単純承認とは|借金相続のリスクについて

「利子だけ払っておこう」はNG

利子の支払いについても、【相続放棄】をすれば支払う必要がないものです。
そのため、利子のみの支払いであったとしても、相続財産の承継をしたと判断され、【相続放棄】が認められなくなってしまいます。
上記と同様、安易に支払いをすると【相続放棄】が認められなくなりますので、支払いは一切しないようにしましょう。

サインはしないようにしましょう

債権者から何らかの書面などにサインを求められることがありますが、このような書面にサインをしてしまうと、相続財産を承継したと判断されるおそれがあり、【相続放棄】が認められなくなることがあります。
債権者から書面が送られてきた李、書面にサインを求められたとしても、中身を十分に確認せずにサインを行うようなことは控えましょう。

遺産に触れないようにしましょう

これまで見てきたとおり、【相続放棄】が認められるためには、被相続人の財産を処分するような行為をしないことが大前提です。
遺産の金品を費消しないということももちろんですが、たとえば、銀行等から被相続人名義の住宅について「住宅ローンの解約をしてくれれば、今の家に住み続けられるようにする」等言われることがあります。
相続人がそのような被相続人の財産や権利義務関係に関して一定の行為をしてしまうと、やはり遺産の処分にあたり、【相続放棄】が認められなくなってしまうため、応じてはいけません。

相続放棄に関するお悩みは弁護士にご相談下さい

以上見てきたように、【相続放棄】を行うにあたっては守るべきさまざまなルールがあります。
また、【相続放棄】は、ルールを守れば基本的には認められるものですが、被相続人の戸籍謄本、住民票の除票などいくつもの必要書類を収集・提出する必要があり、手間がかかります。
他方で、被相続人の死亡に伴い遺族(相続人)らが対応を迫られることも少なからずあります。
このように、【相続放棄】に関する手続自体も少なからず負担がありますし、【相続放棄】までの間の遺産の管理等についてどうすべきか、どのような行為なら対応してもいいか、してはいけないかについてなど、専門家でなければ判断の難しいことも多々あります。
そのため、【相続放棄】をお考えの方は、早めに相続問題、遺産問題に精通した弁護士に相談すべきです。
この点、弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士は、【相続放棄】の手続も多数経験し、また、【相続放棄】後の債権者対応についても多数アドバイスをしてきました。
【相続放棄】については、ぜひ一度弊所までご相談ください。

神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介
監修:弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長
保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:51009)
兵庫県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。