家事従事型の寄与分が認められるポイントを解説します

相続問題

家事従事型の寄与分が認められるポイントを解説します

神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介

監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士

遺産分割を考える際に、【寄与分】という言葉を耳にすることがあるでしょう。
【寄与分】とは、相続人の特別の寄与行為によって被相続人の相続財産の増加維持がなされたと評価できる場合に認められます。

【寄与分】が認められるためには、「特別」の寄与を要求されるものであり、認められるハードルは高いため、しっかりと法律上の要件に沿った主張立証をする必要があります。

【寄与分】は、いくつかの類型に分かれておりますが、本稿では、「家事従事型」の【寄与分】について、相続問題、遺産分割問題に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が詳述しますので、ご参考になさってください。

目次

家事従事型の寄与分とはどんなもの?

「家事従事型」というと、その「家事」という文言から、一般的な家事のイメージである炊事洗濯を頑張ってやっていた場合に認められると思われるかもしれませんが、それは違います。

「家事従事型」の【寄与分】とは、被相続人の事業に関して、労務を提供する場合です。

具体的には、家業である農業や林業、製造業、加工業、医師、公認会計士等に従事することで【寄与分】が認められる場合があります。

そもそも、【寄与分】とは何か、「家事従事型」以外の寄与分の類型にはどのようなものがあるかなどについては、以下の記事でも詳しく解説しておりますのでぜひご参照ください。

寄与分とは|請求の要件と計算方法 扶養型の寄与分とは 金銭出資型の寄与分とは 療養看護型の寄与分とは 財産管理型の寄与分とは

家事=炊事洗濯ではない。家事従事型の具体例

上述したとおり、「家事従事型」における「家事」とは、炊事洗濯などの家事ではありません。
「家事従事型」における「家事」とは、いわば家業・事業です。

具体的には、被相続人が営む農業についておよそ毎日、無償・無報酬で手伝っていて、作物の売上等を維持するよう努めたことや、被相続人が個人で開業していた税理士事務所で、税理士としてフルタイムでほぼ無給で働いていた等の例があげられます。

寄与分を認めてもらう要件

そもそも、【寄与分】は、被相続人の財産形成に相続人が相当程度に高度な寄与(いわば協力)をした場合に認められる性質ですので、「家事従事型」の【寄与分】であってもその例外ではありません。

そのため、①相続人の行為が、被相続人との身分関係に基づいて通常期待される範囲を超えている寄与であること、②寄与行為の結果として被相続人の財産を維持又は増加させること(因果関係があること)が必要となります。

家事従事型の独自の要件

上述した①の「相続人の行為が、被相続人との身分関係に基づいて通常期待される範囲を超えている寄与であること」という要件が認められるためには、具体的には以下のア~ウの要件を満たす必要があります。

ア 無償性
「無償性」とは、全くの無報酬をさすわけではありません。
世間一般並の労務報酬に比べて著しく少額の場合には無償性を満たすとされています。

イ 継続性
「継続性」とは、労務の提供が一定期間以上に及んでいる必要があるということです。
期間について、明確な定めがあるわけではありませんが、概ね3年から4年程度要するものと言われています。

ウ 専従性
「専従性」ということで、片手間で労務提供を行っているような場合には認められることは困難です。
かなり負担を要するものであったと評価しうるものでなければ、この要件に該当すると認められることは困難といえます。
もっとも、「専従性」は、労務提供に専念することまで課されるわけではないため、他の業務に従事していても、直ちに否定はされません。

通常の手伝いをした程度では認められない

上述したとおり、「家事従事型」の【寄与分】を認められるには、「特別」の寄与をしたことが求められます。
そのため、通常期待されるような、通常の手伝いをした程度では到底認められません。

被相続人の事業について、無償且つ専属的に継続して協力を行って、その結果と被相続人の相続財産を形成維持できなければ、寄与分は認めらないといえます。

「家事従事型」の【寄与分】が認められるハードルは想定されているより高いものであると理解していただくと良いかと思います。

家事従事型の寄与分を主張するためのポイント

「家事従事型」の【寄与分】を主張するためのポイントは、上述した「無償性」、「継続性」、「専従性」に加えて、「寄与行為による財産の増加維持との因果関係」を資料をもって示すことです。

具体的には、まず、被相続人との身分・扶養関係や労務提供をするに至った事情を明らかにした上で、いつからいつまで労務の提供をしていたのか(継続性)、どのような働き方で労務に従事していたのか(専従性)、報酬の有無(無償性)、被相続人の財産が増加維持したこと、及びその財産の増加維持が自身の協力行為によってなされたことを主張する必要があります。

「家事従事型」の【寄与分】が認めらるハードルは想像以上に高いため、しっかりと要件に沿って、説得的に事実を主張する必要があります。

こういったものが証拠になります

もっとも、単に事実を主張するだけでは、第三者にはそれが本当になされたのか分かりませんので、客観的な証拠に基づいて立証する必要もあります。
具体的には、以下のようなものが証拠として考えられます。

  • 継続的に労務を提供したこと、その従事の程度が具体的に分かる資料
    ⇒例えば、業務日報、グーグルカレンダー等のスケジュール機能、タイムカード、少額の対価があった場合には給与明細書、取引先へのメールや電話履歴等が挙げられます。
  • 被相続人の財産の維持増加が分かる資料
    ⇒例えば、被相続人の確定申告、預貯金通帳等、会社の会計帳簿等が挙げられます。

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家事従事型の寄与分に関する裁判例

「家事従事型」の【寄与分に】関する裁判例は様々なものがあります。
そのため、どの程度の寄与があれば認められるのか、裁判所の着眼点はどこなのか、以下で具体的な裁判例を紹介します。

家事従事型の寄与分が認められた裁判例

まず、「家事従事型」の【寄与分】を認めた裁判例として、大阪高裁決定平成27年10月6日を紹介いたします。

当該事例は、寄与したと主張する相続人が、家業である農業に従事したことでみかん畑が荒地になって取引価格が低下することを防いだことに寄与を認めた事例です。

裁判所は、「みかん畑を維持することにより遺産の価値の減少を防いだ寄与があるといえ、農業の収支が赤字であったことは上記判断を左右するものではない」として、寄与したと主張する相続人の【寄与分】については「各土地の相続開始時の評価額の30%とみるのが相当である」としました。

なお、寄与行為を金銭的にどのように評価するかは、増加分などがそのまま【寄与分】として認められるとは限らず、あらゆる事情を考慮して裁判所によって定められます。

家事従事型の寄与分が認められなかった裁判例

次に、「家事従事型」の【寄与分】を認めなかった裁判例として、札幌高裁決定平成27年7月28日を紹介いたします。

当該事例は、郵便局を経営していた被相続人の事業に従事していた【寄与分】を主張する相続人について、「家業従事型」の寄与として、無償性の要件がかけるとした事例があります。

裁判所は、【寄与分】を主張する相続人について「収入が低額であったとはいえず、むしろ月25万円から35万円という相応の収入を得ていたことが認められること」、【寄与分】を主張する相続人は「被相続人と同居し、家賃や食費は被相続人が支出していたことをも考慮すると・・・上記郵便局の事業に従事したことにより相応の給与を得ていた」として、無償性を否定し、寄与分を認めませんでした。

家事従事型の寄与分の額はどのように決めるか知りたい

「家事従事型」の【寄与分】の算定方法は、基本的には、次に述べる2通りの計算方法があります。

①一般的な算定方法
寄与したとする相続人が通常得られたであろう給付額×(1―生活費控除割合)×寄与期間

②寄与したとする相続人が相当長期間にわたって被相続人と共に事業に従事した場合
相続財産の総額×寄与相続人が相続財産の形成に貢献した割合

家事従事型の寄与分に関するQ&A

それでは、「家事従事型」の【寄与分】についてよくある質問を取り上げたいと思います。

夫の飲食店を無償で手伝っていたが離婚しました。寄与分は認められますか?

認められないものと思います。

理由としては、【寄与分】は法定相続人でなければ認められないため、すでに離婚をして、法定相続人ではなくなっている以上(妻であれば法定相続人の立場でした)、【寄与分】が認められることはないでしょう。

長男の妻として農業を手伝っていました。寄与分は主張できるでしょうか。

認められないものと思います。

理由としては、上記と同様に、【寄与分】は法定相続人でなければ認められないため、長男の妻では法定相続人ではない以上、【寄与分】が認められることはありません。

もっとも、「特別寄与者」として「特別寄与料」を相続人に請求することはできます。

夫の商店を手伝いながら、ヒット商品の開発にも成功しました。寄与分を多くもらうことはできますか?

認められる可能性はあると考えます。

夫の商店を手伝いながら、さらにヒット商品の開発に成功している場合には、夫の財産の増加などにも寄与したと言いやすいでしょうから、【寄与分】が認められる可能性は高いと考えられます。

もっとも、「寄与分」の算定について、遺産総額に貢献の割合を乗じるといった、貢献の程度によって寄与分が多くなる計算方法を用いても、そもそもの遺産総額が低額であれば、期待した額の金銭は得られない可能性もあります。

父の整体院を給与無しで手伝っていました。小遣いを月4万円もらっていたのですが、寄与分は請求できるのでしょうか?

認められる可能性はあります。

受け取っていた月4万円が、整体院で職務していた時間や職務内容に鑑みて著しく低額であって、整体院に勤務していた継続性及び専従性が認められるのであれば、【寄与分】として認められる可能性はあるといえるでしょう。

父の会社に従業員として勤めて経営を支えていた場合、寄与分は認められますか?

認められるのは難しいと考えます。

理由としては、法律上、法人は個人とは別個独立した主体だと考えられているため、原則として、父親と父親が経営する会社は別とされるためです。
したがって、従業員として父の会社を支えたという貢献は、会社に対する貢献であって、父親の財産に対する貢献ではないと考えられます。

もっとも、例外的に、形式上は法人であっても、実質は一人会社であるなど個人と同一視しうる例外的な事情がある場合などには【寄与分】が認められる余地があるかもしれません。

無給で手伝っていましたが、たまの外食や旅行等に行く場合は費用を出してもらっていました。寄与分の主張はおかしいと言われましたが、もらうことはできないのでしょうか。

【寄与分】が認められる可能性はあります。

たまの外食や旅行等に行く場合にかかった費用が、親族が負担する金銭として社会通念上相当の範囲なのであれば、それを支出して貰っていたからといって【寄与分】が認められないというわけではありません。

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ご自身のケースが寄与分として認められるか、弁護士へ相談してみませんか?

【寄与分】は、そもそもこれが認められるために充足しなければならない要件のハードルが高い上に、自身の行為が特別も寄与にあたり、さらにはどの類型にあたるのかを、自身が行った寄与行為に照らし合わせて選択して、説得的に主張立証する必要があります。
また、説得的な主張立証のためには、【寄与分】を裏付ける有効な証拠の収集が必要です。

そのため、法の専門知識を持たずにやみくもに行っても、骨が折れるだけの結果となる可能性も十分にあることから、法の専門家である弁護士に一度相談することをおすすめします。

弁護士法人ALG神戸法律事務所には相続問題、遺産分割問題に精通した弁護士が在籍しておりますので、お気軽にご相談ください。

神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介
監修:弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長
保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:51009)
兵庫県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。