監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士
被相続人が亡くなった場合、相続が開始されます。
相続が開始された場合、相続人が複数いる場合の順位や各自が取得する割合については、「法定相続分」として定められています(900条)。
つまり、相続人と被相続人の身分関係によって、「法定相続分」が定められているということです。
もっとも、相続人の中に、被相続人の財産の維持・増加に特別の寄与をした人がいる場合、法定相続分どおりに遺産分割を行うと、相続人間の不公平が生じることがあります。
そこで、相続人の中で、被相続人の財産の維持・増加に特別の寄与をした人がいる場合、相続財産からその人が寄与したと見れるもの、つまり、【寄与分】を控除したものを相続財産とみなして相続分を算定し、共同相続人間の公平を図る制度が設けられています。
ここでは、相続の際によく問題となる【寄与分】について、相続問題、寄与分問題に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が以下詳しく解説していきます。
目次
寄与分とは
【寄与分】とは、被相続人の財産の維持・増加に特別の寄与をした者がいる場合に、その寄与による維持・増加分は遺産から差し引いて、寄与した者に多く渡す、という制度です(民放904条の2)。
【寄与分】が認められる場合には、法定相続分とは別に遺産の一部を受け取ることができます。
寄与がなければ残っていなかったはずの部分は遺産から除外して、寄与がなかった場合の金額だけを遺産分割の対象とするというような制度といえるかと思います。
ただし、実際には【寄与分】が認められることにはハードルがあることはご注意ください。
以下、詳しく見ていきましょう。
寄与分請求の要件
【寄与分】が認められるためには、以下の条件を満たす必要があります。
⑴寄与した者が共同相続人であること
⑵その寄与によって、被相続人の財産が維持・増加した、という関係が認められること
⑶「特別の寄与」と認められるものであること
以下、具体的に見ていきましょう。
共同相続人であること
【寄与分】は、あくまで相続分の修正を図るものであるため、⑴寄与行為の主体は共同相続人であることが必要です(904条の2第1項)。
そのため、相続人でない者がした寄与については、寄与分としては評価されません。
実務では被相続人の子の妻による献身的な介護について、妻は相続人ではないものの、相続人である子の行為と同一とみなして、寄与分を認めるというように、柔軟な取扱いもされていましたが、共同相続人でない者が寄与しても、寄与分は認められないというのが原則です。
ただ、法改正により、相続人でない者による寄与行為についても、被相続人の一定範囲の親族が行った場合は、「特別寄与料」が請求できる場合もありますが(1050条)、別制度であることは注意が必要です。
財産が維持・増加していること
【寄与分】と認められるためには、⑵その寄与行為の結果、被相続人の財産が維持又は増加した、という関係性が認められる必要があります。
例えば、被相続人のために、子供が1000万円を贈与したという場合、被相続人名義の財産が直接的に増加していますし、寄与がなければ被相続人名義の遺産のうち1000万円は存在していなかったという関係が言いやすいところです。
このように直接的なものであれば分かりやすいところですが、少なくとも【寄与分】として認められるためには、その行為が財産の維持・増加に向けられている必要があります。
近くに居住して精神的に支えた、見守りを行っていたというだけでは、財産の増加はないため、【寄与分】の対象とは評価されないので注意しましょう。
財産の維持・増加と因果関係があること
【寄与分】として認められるためには、上記したとおり、⑵寄与行為に「よって」財産が維持され、または増加したという関係(因果関係)まで認められることが必要となります。ここで求められるのは、法的な意味での因果関係であり、結果的に財産が維持・増加したかだけで判断されるものではありません。
したがって、被相続人の財産の維持または増加と関係がある寄与行為があったとしても、直ちに【寄与分】として認められるわけではないことにも注意しましょう。
期待を超える貢献があること
【寄与分】として認められるためには、⑶「特別の」寄与行為であることも要求されます。
具体的に説明すると、親子等の親族は、互いに扶養義務等を負う関係にあるため、例えば、家業に従事していたとしても、雇用されて給与等の報酬をもらっていたというなら、従業員の立場ですから、ある程度業務に従事するのは当然です。そのため、こういったケースで、【寄与分】の対象と評価されるためには、これら扶養義務等から通常期待される範囲を著しく超えて、「特別の貢献をした」、といえる必要があります。
もちろん、通常期待される範囲を超えてというのは、扶養義務の範囲や順序等、被相続人との関係性等によって異なりますが、例えば、「他の兄弟姉妹は見舞いに行ってないのに、自分だけは何度も被相続人のお見舞いに行った」などというだけでは、他の兄弟姉妹と比べると親孝行だった、と言えるかもしれませんが、【寄与分】に関しては、親子の関係で当然期待される範囲を超えないと判断されるおそれが多分にあります。
寄与分の種類
【寄与分】については、どのように財産の維持・貢献をしたかということで、さまざまなケースがありますが、基本的には、以下の5類型のいずれかに分類できます。
各類型によって、寄与分額の計算方法も変わってきますので、以下詳しく見ていきましょう。
家事従事型
『家事従事型』というのは、被相続人が営む家業や事業を手伝っていたことを【寄与分】と主張するものです。
例えば、「家業の農家を一人継いで担い、先祖伝来の土地を守った」、「被相続人の事業を被相続人とともに担い、共に盛り立てて事業を大きくさせた」というような場合が想定されます。
ただし、上記したとおり、【寄与分】が認められるためには、被相続人との身分関係等を前提に、通常期待される程度を超える寄与でなければなりません。
そのため、業務内容等の特別に寄与したといえるのか、無償であったのか、継続的であったのか、専従的であったのかといった要素も重要視されますので、家業に従事していただけというだけでは足りず、認定されるためのハードルは高いと言えます。
金銭出資型
『金銭出資型』というのは、被相続人の事業や生活のために、一定の財産上を贈与・出資等した場合のことを指します。
一定の財産の贈与など金銭的援助を行った場合以外にも、被相続人に対して不動産や動産を貸した場合も含まれます。
もっとも、あくまでも被相続人に対して贈与・出資等したことが必要なので、被相続人が代表を務める会社に出資しただけである場合などは、【寄与分】として認められないでしょう。
扶養型
『扶養型』というのは、被相続人を扶養したことで、被相続人が支出を免れた結果、財産を維持することができたというような類型です。
ただし、親子など親族間には扶養義務(配偶者の場合は協力義務)がありますので、単に扶養したというだけではなく、その身分関係を前提にしても、期待される扶養の程度を大きく超えるような寄与をしたこと(特別性)が要求されます。
その他、扶養の必要性があったのか、無償であったのか、継続的であったのかなど点も問題となりますが、そもそも、親子や配偶者の場合だと『扶養型』に該当するのは容易ではなく、【寄与分】として認定されるためのハードルは高いと言えます。
療養看護型
『療養看護型』は、相続人が療養看護を行ったために被相続人が看護や介護の費用を支出せずに済んだ場合です。
日常生活の合間に定期的に看護や介護を行っている場合ではなく、仕事を辞める等して付きっ切りで被相続人の看護や介護をした場合が想定されています。
つまり、被相続人との身分関係を前提にしても、通常期待される扶養義務の範囲を著しく超える特別の貢献であること(特別性)が要求される点は、扶養型と共通しており、どのような介護等を行ったかという実態だけではなく、無償であったのか、継続的であったのか、専従的であったのかなどという要素も重要視されます。
また、『療養看護型』の場合、療養看護の必要性等の判断において、要介護2以上と認定されていることが目安とされていますので、要介護認定が1以下の場合、『療養看護型』の【寄与分】が認定されるためのハードルは極めて高いものといえます。
財形管理型
『財産管理型』は、被相続人の財産を代わりに管理してあげたことで、その財産の維持や増加に貢献したというケースです。
例えば、被相続人が保有する不動産の賃貸管理や、具体的な資産の運用管理を長期間、無償で行ってきたというような場合が想定されます。
被相続人の財産を管理する必要性があることに加えて、無償であったか、どれくらい継続していたか等が重視されます。
もっとも、被相続人の財産の管理をしたといっても、家業に従事することに比べれば多くの労力を割くものではない場合が多く、そもそも財産の維持増加に寄与したといえるかとの点も問題になりますので、基本的には【寄与分】として認められることは難しいといえるでしょう。
寄与分を主張する相続人が複数いる場合はどうなる?
【寄与分】は、被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした者に対して認められる制度ですから、複数の相続人が要件を充たす場合には、複数の相続人に対して【寄与分】が認められることもあります。
また、【寄与分】として各相続人の貢献度をそれぞれ考慮していくことになるため、各相続人間の優先順位はありません。
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寄与分決定までの流れ
【寄与分】は、割合や額が決められているものではありません。
そもそも、特別の寄与に当たるのか等【寄与分】として認められるのかが問題となります。
また、自ら【寄与分】があることを主張しない限り、【寄与分】を踏まえて遺産分割がされないでしょう。そのため、【寄与分】について、どのように主張していくべきか以下解説していきます。
遺産分割協議で寄与分を決める
【寄与分】としていくら認められるべきかについて、遺産分割協議の際に相続人間で決めることができます。
ただし、【寄与分】については、多くの場合、具体的にいくらを【寄与分】として認めるべきであるのか判断は難しく、遺産分割協議の際に全員が合意することは難しいことも多いです。
協議で決まらない時は調停へ
【寄与分】について、相続人間で協議が整わない場合、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に対して、寄与分を定める処分の調停の申立てを行うことが可能です。
上記したとおり、【寄与分】は遺産分割調停の中で協議することもできますが、相続人全員で合意できるケースは少なくなく、遺産分割調停とともに、寄与分を定める処分の調停の両方の調停を申立てておくことも多いです。
それでも決まらない場合は裁判(審判)・即時抗告へ
上記のような【寄与分】の調停でも決まらない場合、審判によって裁判所に判断してもらうこととなります。
仮に、【寄与分】に関する家庭裁判所の判断に不服がある相続人がいる場合、高等裁判所、さらに最高裁判所へと不服申立てをすることができます。
寄与分の計算方法
【寄与分】は、先にご説明した類型ごとに算定方法が異なります。
以下で、一般的な算定方法について解説していきます。
家事従事型(事業従事型)の計算方法
『家事従事型(事業従事型)』の場合、無償で業務に従事した期間に対し、本来受け取るべきであった給与等の金額を算出して計算します。
家業に従事する代わり、被相続人と同居する等して、生活費を負担してもらっていたという場合は、その生活費分を控除します。
これらを簡易な計算式に直すと、【本来受け取るべき給与×(1-生活費控除割合)×無償で従事した期間】というような内容になるかと思われます。
金銭出資型の計算方法
『金銭出資型』の場合、寄与行為自体は分かりやすいため、問題は贈与等の評価等が中心となります。
具体的には、以下のとおり、相続人が給付した財産の相続開始時における価額(金銭の贈与の場合には給付額に貨幣価値変動率を乗じます)に、一定の裁量割合を乗じる方法によって算出するのが一般的です。
【計算方法】
①金銭の給付の場合
給付金額×貨幣価値変動率×裁量割合
②金銭の融資の場合
利息相当額×裁量割合
③不動産・動産の贈与の場合
相続開始時における価額×裁量割合
扶養型の計算方法
『扶養型』の場合、被相続人を扶養するために相続人が負担した金額に、一定の裁量割合を乗じる方法によって算出するのが一般的です。
【計算方法】
被相続人の扶養のために相続人が負担した金額×裁量割合
療養看護型の計算方法
『療養看護型』の場合、介護保険における介護報酬基準などに基づく報酬相当額に療養看護の日数を乗じ、これに一定の裁量割合を乗じる方法によって算出するのが一般的です。
【計算方法】
報酬単価×療養看護日数×裁量割合
財産管理型の計算方法
『財産管理型』の場合、当該管理行為を財産者に委託した際の報酬相当額(財産管理に際して相続人が金銭を出資した場合には実際に負担した額)に一定の裁量割合を乗じる方法によって算出するのが一般的です。
【計算方法】
財産管理報酬(費用)×裁量割合
寄与分が認められるケース
具体的に【寄与分】が認められる可能性があるケースについて以下具体例をご説明いたします。
夫の会社でヒット商品の開発に貢献した場合
被相続人である夫の経営する会社について、従業員ではない妻がヒット商品の開発という特別の貢献をしたというケースでも、妻の貢献はあくまで会社に対する貢献であるため、被相続人の財産への貢献とは認められず、寄与分とはならないのが原則です。
ただし、会社と被相続人個人とが実質的には同一であるといえる場合などには、寄与分が認められる可能性はあります。
兄弟で出資をしていた場合
兄の事業について、弟が金銭を出資・贈与していたケースでは、兄が亡くなり、弟が相続人となるケースにおいては、弟による兄の事業への金銭の支出が寄与分となる可能性があります。
もっとも、事業を法人化していた場合などは、前記したとおり、会社に対する貢献であるとみなされる可能性もあります。
介護費用を全額出した場合
被相続人の介護費用を、特定の相続人が全額支出していた場合、それによって、当該介護費用の分だけ、被相続人の財産の減少を防ぐことができたといえます。
そのため、こうしたケースについて当該相続人に【寄与分】が認められる可能性があります。
寄与分が認められないケース
【寄与分】が認められないと思われるケースについても以下触れていきたいと思います。
夫の仕事を無償で手伝っていたが離婚した場合
離婚した妻は夫の相続人とはならないため、【寄与分】の要件である相続人であることとの要件を満たさないため、寄与分が原則認められません。
父の会社に従業員として勤めて経営を支えていた場合
父の会社で従業員として勤めていたという貢献は、会社に対する貢献であって被相続人である父への貢献ではないため、原則、【寄与分】として認められないでしょう。
また、従業員として勤めているということは、給与を受け取っているでしょうから、対価性が認められるため、やはり【寄与分】として認められることは難しいでしょう。
義両親を介護していた場合
義両親への介護についても、義理の両親の相続の際に相続人とはならないため、【寄与分】の要件である相続人であることとの要件を満たさないため、寄与分が原則認められません。
もっとも、相続人である配偶者の貢献と同様に見ることができる場合には、寄与分が認められる余地があります。
仕送りをしていた場合
仕送りをしていた場合、その額等が問題となるものの、基本的には扶養の範囲を超えた特別の寄与と見ることは難しく、【寄与分】としては認められないでしょう。
介護施設の月額費用を支払っていた場合
同様に、介護施設の月額費用を支払っていた場合でも、その額等が問題となるものの、基本的には、扶養の範囲を超えた特別の寄与と見ることは難しく、【寄与分】としては認められないでしょう。
寄与分を認めてもらうのは難しいため、弁護士にご相談ください
上記で説明したとおり、【寄与分】について、相続人間の協議が整わない場合、調停・審判の申立てが必要となります。
また、【寄与分】は寄与行為の態様によって、それぞれ要件・計算方法が異なるため、寄与分を主張する相続人が適切な主張・立証を行う必要があります。特に、【寄与分】が認められるためには、「特別の寄与」、「無償性」などの要件が必要となるため、調停・審判において、寄与分が認められるケースは実務上あまり多くありません。
この点において、どのような資料を収集し、いかにして他の相続人や裁判所を説得すべきかなど、的確な主張立証活動を行うことが、【寄与分】を獲得するために必要です。むしろ、【寄与分】として認められる可能性が低いにもかかわらず【寄与分】を主張して、遺産分割協議がより成立しなくなるというおそれもありますので注意が必要です。
このように、【寄与分】の主張をしたいとお考えの相続人の方は、相続問題、寄与分問題に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士にぜひ一度ご相談ください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:51009)