監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士
- 労働時間
働き方改革のもとで、労働者の生産性をいかに上げていけるか、ワークライフバランスに配慮できるかなどが注目されています。
これらについて具体的な取り組みとしては、【在宅ワーク(在宅勤務、以下略)】を導入する会社も増えてきました。また、現在流行している新型コロナウイルスの感染を防止するためにリモートワーク(テレワーク)の一環として【在宅ワーク】を積極的に取り入れている会社も多いです。
そもそも、【在宅ワーク】とは、狭く解釈すれば、会社と雇用関係にある従業員・労働者が会社に出社せず、『自宅』で情報通信機器を活用して働く勤務形態をいうものとされています。ただし、広く解釈をすれば、自宅に近い地域にある小規模なオフィスで業務に勤務する『サテライトオフィス勤務』や、スマホ・PC・タブレット等を利用して、柔軟に選択した場所で勤務する『モバイルワーク』も【在宅ワーク】に含まれるのではないかと思われます。
そこで、こうした広がりを見せている【在宅ワーク】において問題となる、従業員の労働時間管理と残業代の支払いについて、労働問題、労務管理に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が以下詳しく解説していきます。
【在宅ワーク】を進めようとされている会社の方は、ぜひご参考になさってください。
目次
在宅ワークで課題となる労働時間の管理
会社としては、【在宅ワーク】を活用すれば、従業員を会社に出勤させる必要がないため、従業員の交通費、電気代やオフィススペースなど、会社が通常であれば支払うべき多くのコストを削減することができます。
ただし、他方で、出勤しないため、タイムカードや日報などで適切に業務時間を報告させることが難しくなるため、従業員の管理、特に勤務時間の管理が難しい、また、実際には怠けていても成果が良ければ、その従業員を高く評価してしまうなど従業員の評価が難しいなどの問題も起こりえるところです。
そこで、以下では、【在宅ワーク】で課題となる、従業員の労働時間の管理についてどのような点に気をつけるべきか見ていきましょう。
使用者には従業員の労働時間を把握する義務がある
まず、使用者、つまり会社側には、従業員の労働時間を把握する義務があることに注意しましょう。
以前から、「労働時間の適正な把握 のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」によって、労働時間の適正な把握は義務付けられていましたが、このガイドラインの適用範囲からは管理監督者やみなし労働時間制が適用される労働者については適用対象外とされていました。
しかしながら、働き方改革によって、この適正把握義務の位置づけは、サービス残業対策から労働者の健康確保を目的とするものに改められ、法律上の義務とされました。
【在宅ワーク】でも、会社側には、従業員の労働時間を把握する義務があることには気をつけましょう。
在宅勤務者の労働時間を適正に管理する方法とは?
では、【在宅ワーク】をしている従業員の労働時間をどのように管理すれば良いのでしょうか。
従業員が何時に仕事を開始して、何時まで仕事をしていたのか、途中で仕事を中断していたのかといった勤務時間に関する管理がしづらいため、工夫が必要になります。
例えば、始業と終業をどのように管理するのかについて、WEB勤怠システムを導入したり、チャットで仕事の開始と終了を管理監督者に知らせてもらうようルールを決めたり、ZOOMなどオンライン会議を利用して、始業と終業時にミーティングをしたりといった方法が考えられます。
そのほかにも、「みなし労働時間制」や「裁量労働制」、「フレックス制度」の導入など新しい制度を導入することも考えられます。
以下、詳しく見ていきましょう。
労働基準法上の留意点
まず、【在宅ワーク】であっても、働く場所がオフィスではないということだけであるため、「労働基準法」「最低賃金法」「労働安全衛生法」「労働者災害補償保険法」といった労働基準関係法令が適用されます。
労働基準法の適用があるため、【在宅ワーク】で労働時間管理をしにくいということを理由にして、「リモートワークだから残業代を支払わなくてよい」というルールはありません。
上記したとおり、会社側には、従業員の労働時間を把握する義務があるためです。
また、「みなし労働時間制」や「裁量労働制」、「フレックス制度」の導入についても労働基準法に照らして導入できるかを吟味する必要があります。
就業規則にはどのような規定が必要か?
働き方のルールは、従業員と個別の労働契約で定めることも可能ではありますが、特に、【在宅ワーク】を多数の従業員にさせる場合、また、「会社の制度」として全体的におこなう場合、統一的に適用される就業規則で定めるべきです。
就業規則には、例えば、【在宅ワーク】にしてしまうと会社の業務に支障のある従業員もいる可能性があるでしょうから【在宅ワーク】の対象となる従業員について定めたり、労働時間を把握するための手段(始業時間、終業時間、休憩時間を電子メールで報告させたり、会社のサーバーへのアクセスにより記録するなど)を講じて、これらの報告方法などについても就業規則に定めておく必要があります。他にも、【在宅ワーク】では、情報通信機器、通信費(電話料金、インターネット回線料金)などを会社負担とするなら、その規定も設けておくべきでしょう。
労働時間を自己申告制とする場合に企業が講じるべき措置
労働時間の自己申告制とは、従業員の申告によって労働時間を管理する方法です。自己申告の方法としては、エクセルや勤怠管理ソフトなどに従業員が始業時刻・就業時刻・休憩時間などを記入・入力する形式が考えられます。
厚生労働省はガイドラインの改定の中で、従業員に対して十分な説明を実施することなどを条件に、【在宅ワーク】での労働時間の自己申告を認めると明記しました。ただし、自己申告による労働時間の把握については、企業の性質的にあいまいな労働時間管理となりがちである場合に、やむを得ず導入するものとされています。
自己申告制を導入する前に、その対象となる従業員に対して、労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明をする必要があります。また、適正な自己申告を行ったことで不利益な取扱いをされないことを説明し、自己申告制による労働時間の把握が、従業員の待遇に悪影響を及ぼさないことについて、納得してもらうことも大切です。
在宅ワークでの休憩時間はどのように取り扱うのか?
【在宅ワーク】でも休憩時間は当然必要になります。
休憩時間は、原則として全社員に一斉に付与しなければならないことが労働基準法上のルールとされています。【在宅ワーク】の対象となる従業員について、このルールを変更し、休憩時間を各社員に個別にあたえるためには、労使協定を作成して適用を除外しておく必要があります。
なお、一斉付与の原則が適用されるのは、労働時間が6時間超の場合の45分休憩、8時間超の場合の60分休憩についてであり、それ以外に休憩を付与する場合には、一斉に付与する必要はありません。
また、休憩時間を電子メールで報告させたり、会社のサーバーへのアクセスにより記録するなど、労働時間を把握するための手段を講じるべきです。
在宅ワークの時間外・休日・深夜労働について
【在宅ワーク】においては、仕事と日常の区別がつきにくくなっており、従業員の労働時間の管理に伴い、時間外労働や、休日労働、深夜労働の管理が問題にあります。
会社によっては、就業規則等において、深夜労働や休日労働については、事前の許可が必要である旨定めているところもあります。また、時間外労働、つまり残業についても事前許可制を設けている会社も多いかと思います。
このような会社において、在宅勤務の従業員が事前の許可を得ずに労働した場合、当該労働について残業代を支払わなければならないかが問題となります。
在宅ワークでも残業代の支払いは生じるのか?
まず、上記2.1でも触れたとおり、【在宅ワーク】でも労働基準法の適用があるため、【在宅ワーク】で労働時間管理をしにくいということを理由にして、「リモートワークだから残業代を支払わなくてよい」というルールはありません。
そのため、従業員に、時間外労働、休日労働、深夜労働が生じた場合には、当然ながら会社側として、残業代等を支払う必要があります。
ただし、特に、深夜労働や休日労働については、以下の要件を全て満たせば、労働時間には該当せずに残業代を支払う必要がないというケースもあるかと思います。
①深夜又は休日に労働することについて、会社から強制されたり、義務付けられたりした事実がない
②当該従業員の当日の業務量が過大である場合や期限の設定が不適切である場合など、深夜又は休日に労働せざるを得ないような会社からの黙示の指揮命令があったと解し得る事情がない
③深夜又は休日に当該従業員からメールが送信されていたり、深夜又は休日に労働しなければ生み出し得ないような成果物が提出された等、深夜又は休日労働を行ったことが客観的に推測できるような事実がなく、会社が深夜・休日の労働を知り得なかった
残業を許可制にすることは可能?
残業、つまり、時間外労働について許可制にすることは可能です。
「残業許可制」としては、例えば、残業する前に、①残業する時間、②行う業務内容、③残業しなければならない理由、などを書面(例えば、残業届)などで労働者に提出させるのです。このような制度を導入すれば、会社としては、誰がなぜ残業を行うのか、その残業は本当に必要なのかを、事前に確認できるために、不必要な残業を防止することができます。
上記したとおり、「残業許可制」を導入する際には、きちんとしたルールを定めておく必要があります。ルール化にあたっては、就業規則にきちんと規定を置くなどしましょう。
「残業許可制」については、以下の記事でも解説しておりますので、ご参照ください。
「事業場外みなし労働時間制」の適用について
上記2.1で少し触れましたが、「みなし労働時間制」を適用するということもできます。
「みなし労働時間制」とは、従業員の労働時間について、厳密に実労働を算定することなく、あらかじめ規定した時間働いたとみなして定額の賃金を支払う制度です。
労働基準法第38条の2には、「労働者が…事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いとき」にみなし労働時間制を適用することができると規定されています。
【在宅ワーク】であっても、次の要件を満たす場合には、「みなし労働時間制」の適用の対象となりうるので、ご参考にしてください。
①当該業務が、起居寝食等私生活を営む自宅で行われること
②当該情報通信機器が使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと
③当該業務が、随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていないこと
ただし、従業員からパソコンやタブレット、スマートフォンなどの通信機器から離れたり、通信回線を切断したりすることが認められていない場合には、この要件を満たしません。
例えば、【在宅ワーク】において、チャットで仕事の指示を進める場合などのように、常時通信可能な情報通信機器を利用して勤務している場合には、「みなし労働時間制」を使うことが適切でないケースもありうるので注意が必要です。
みなし労働時間制でも残業代の支払いは必要
「みなし労働時間制」を仮に採用したとしても、なお、残業代の支払いは必要です。
みなし労働時間制において時間外労働が生じる場合の一つとして、その事業場外労働に通常必要となる労働時間(通常必要時間)が法定労働時間を超える労働時間数である場合です。
例えば、その事業場外労働は、通常10時間かかるものであるから、通常必要時間は10時間であるということを主張立証することによって、みなし労働時間が10時間であるはずということです。
10時間労働したものとみなすということになれば、8時間を超える部分は時間外労働となりますから、その8時間を超える2時間分については残業代が発生するということになります。
長時間労働対策として企業に求められる対応
働き方改革のもと、長時間労働対策として会社側として多くの対応を求められることになります。
上記1.1でも触れましたが、「労働安全衛生法(労安衛法)」の改正により各企業や事業者に「従業員の労働時間の把握」が義務化されています。長時間労働の対策として、いくら労働時間の上限規制がなされても、肝心の実際の労働時間が適正に把握されていないと、労働時間規制は無意味化してしまうためです。
企業側にとって大きな負担とも取れそうですが、労働者の労働時間について適正に把握することで残業時間・残業代の適切な管理・対応につながるため、紛争を抑えることができる点においては、企業側にも利点となる点はあります。
これは、【在宅ワーク】でも同じであることは説明したとおりです。
在宅ワークを円滑に運用するには、労働時間の適正な管理が重要となります。不明点があれば一度弁護士にご相談下さい。
これまで、【在宅ワーク】についての労働時間管理の注意点などについて解説してきました。
【在宅ワーク】では、「労働時間管理」という側面での検討を行ってきましたが、労働時間管理をどのように行えるかももちろん重要ですが、在宅でありながら、どれだけ従業員の労働の質と指揮監督機能を高められるかということも大いに問題になります。
例えば、労働時間の管理自体は勤怠管理ソフトに任せることは簡単ですが、むしろ、その所定労働時間内に、個々の従業員がどれだけの作業ができるのか、その監督・評価手法を会社側としてどうするのか、どうやって作業を配分するのかも重要な問題になるかと思います。
このように、【在宅ワーク】については、その導入や運用にあたっても、数々の問題がありますので、労働問題、労務管理に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士に一度ご相談ください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:51009)
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企業側人事労務に関するご相談
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