労務

2022年から中小企業も義務化!パワハラの防止措置義務について

神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介

監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士

  • ハラスメント

2022年4月から、中小企業に対しても職場におけるパワーハラスメント(パワハラ)の防止措置を講じることが法律上義務化されました。

パワハラへの対応は、単なるコンプライアンス対策ではなく、従業員が安心して働ける職場環境の整備や人材の定着、企業価値の向上にもつながる重要な取組みです。
しかし、「何をすれば義務を果たしたことになるのか分からない」という事業主の方も少なくありません。

この記事では、中小企業に求められるパワハラ防止措置の内容や注意点、中小企業が対策に取り組むメリットなどについて詳しく解説していきます。

2022年から中小企業もパワハラの防止措置が義務化

改正労働施策総合推進法により、2022年4月1日からは中小企業にもパワハラ防止措置が義務付けられました。職場でのパワハラは、従業員の心身に深刻な影響を及ぼすだけでなく、離職率の上昇や生産性の低下、企業の信用失墜にもつながる重要な労務問題であるためです。

これにより、中小企業の事業主は、パワハラを許さない方針の周知や相談窓口の設置、問題発生時の適切な対応などを行う必要があります。

まずは、自社が法令上の「中小企業」に該当するかを確認するとともに、どのような行為がパワハラにあたるのかを正しく理解することが重要です。

パワハラ対策が必要となる「中小企業」の定義とは?

パワハラ防止措置義務の対象となる「中小企業」とは、業種ごとに定められた「資本金の額または出資の総額」と「常時使用する労働者数」のいずれかを満たす企業を指します。

【例】

  • 小売業:資本金5000万円以下または従業員50人以下
  • サービス業:資本金5000万円以下または従業員100人以下
  • 卸売業:資本金1億円以下または従業員100人以下

一定以上の規模の企業でも、資本金の額などによっては中小企業に該当する場合があるため注意しましょう。

どのような行為がパワハラにあたるのか?

厚生労働省は、パワハラの代表例として、以下の6類型を示しています。

  • ① 身体的な攻撃(暴行・傷害)
  • ② 精神的な攻撃(暴言・侮辱・人格否定)
  • ③ 人間関係からの切り離し(仲間外し・無視)
  • ④ 過大な要求(達成困難なノルマの強制)
  • ⑤ 過小な要求(能力とかけ離れた簡単な業務のみを命じる)
  • ⑥ 個の侵害(私生活への過度な干渉)

同じ言動であっても、業務上の必要性や態様、頻度、当事者間の関係性などによって、パワハラに該当するかどうかの判断は異なります。そのため、企業は管理職や従業員にパワハラの判断基準を周知し、適切な指導との違いを理解させることが重要です。

中小企業に課せられるパワハラ防止措置の内容とは?

厚生労働省の指針では、企業が講ずべきパワハラの防止措置として、以下の4つが定められています。

  • ① 事業主の方針の明確化およびその周知・啓発
  • ② 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
  • ③ 職場におけるパワハラの事後の迅速かつ適切な対応
  • ④ ①~③とあわせて講ずべき措置

これらの措置は企業規模を問わず求められるため、中小企業であっても、自社の実情に応じて必要な体制やルールを整備することが重要です。

①事業主の方針の明確化およびその周知・啓発

パワハラ防止措置としてまず求められるのは、パワハラを許さないという方針を明確に示し、全従業員へ周知・啓発することです。具体的には、就業規則やハラスメント防止規程にパワハラの禁止や懲戒処分の内容を定め、その内容を社内報や研修などを通じて周知します。

また、管理職に対しては、適正な業務指導とパワハラの違いを理解させるための研修を実施することも重要です。明確なメッセージを発信することで、従業員の意識向上やパワハラの未然防止につながります。

②相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

企業は、相談窓口の担当者や連絡先、利用方法などを全従業員へ周知する必要があります。相談窓口が設置されていても、その存在が周知され、利用が促されていなければ十分な措置とはいえません。

また、相談担当者には、相談内容や相談者のプライバシーに配慮しながら適切に対応できるよう、必要な研修を実施することが望まれます。さらに、相談を理由とする不利益な取扱いを禁止し、従業員が安心して利用できる環境を整えることも重要です。

こうした体制の整備は、パワハラの早期発見や迅速な解決につながります。

③職場におけるパワハラの事後の迅速かつ適切な対応

パワハラに関する相談や報告があった場合、企業は事実関係を迅速かつ適切に調査し、問題の早期解決を図らなければなりません。対応が遅れると、被害の拡大や職場環境の悪化を招くおそれがあるためです。

まずは相談者や関係者から事情を聴取し、客観的な証拠も踏まえながら事実確認を行いましょう。
その結果、パワハラの事実が認められた場合には、被害者へのフォロー行為者への指導・処分などを適切に実施し、再発防止策も検討する必要があります。

適切な事後対応は、従業員からの信頼維持や再発防止につながる重要な取組みです。

パワハラ被害者への対応

パワハラの事実が確認された場合、企業は被害者の心身の状況や意向を十分に踏まえながら、適切な救済措置を講じる必要があります。例えば、被害者と行為者の配置転換や業務内容の見直し、メンタルヘルスケアの実施などが考えられます。

また、被害者が安心して就業を継続できる環境を整えることも重要です。
パワハラについて相談したことを理由に、解雇や降格など不利益な取扱いをすることは認められません。

被害者への適切な対応は、職場環境の回復だけでなく、従業員の信頼確保にもつながります。

パワハラ行為者への対応

パワハラ行為が認められた場合、企業は行為者に適切な措置を講じる必要があります。
例えば、事案の内容や程度に応じて、注意や指導、再発防止のための研修や配置転換、懲戒処分などを検討することになります。

このとき重要なのは、感情的な対応ではなく、事実関係に基づいて公平かつ適正に対処することです。
また、行為者本人にパワハラの認識がないケースも少なくないため、なぜ問題となるのかを理解させ、再発防止に向けた指導を行うことも大切です。

④①~③とあわせて講ずべき措置

企業は①から③までの措置に加え、相談者や協力者のプライバシー保護、不利益な取扱いの防止に関する措置を講じる必要があります。
従業員が安心して相談できる環境が整っていなければ、パワハラの早期発見や解決は期待できません。

具体的には、相談内容や調査で知り得た情報の秘密保持を徹底しましょう。
また、「相談内容や事実関係の調査への協力を理由に、解雇や降格などの不利益な取扱いはしない」と社内に周知することも重要です。
こうした措置は、従業員が安心して相談できる環境の構築につながります。

中小企業がパワハラ防止対策に取り組むメリット

パワハラ防止対策に取り組むと、従業員が安心して働ける職場環境が整い、従業員の満足度向上や信頼関係の構築が期待できます。
その結果、人材の定着率向上や離職防止につながり、人材不足のリスク軽減にも役立ちます。

近年は、就職活動において職場環境を重視する求職者も増えているため、パワハラ防止への取組みは優秀な人材の確保にもつながるといえるでしょう。

パワハラの防止措置義務を怠った場合はどうなる?罰則は?

パワハラ防止措置義務を怠ったからといって、直ちに罰金などの罰則が科されるわけではありません。

ただし、都道府県労働局による助言・指導・勧告の対象となる可能性があります。勧告に従わない場合には企業名が公表されることもあるため、企業の社会的信用に大きな影響を及ぼすおそれがあります。

また、実際にパワハラが発生した場合には、事業主の安全配慮義務違反使用者責任などを理由に、企業が損害賠償責任を負うケースもあるため注意が必要です。

近年はSNS等で企業への不満が拡散されるケースもあり、法的リスクだけでなく、企業イメージの低下を招くおそれもあるため、適切な対策が不可欠です。

パワハラだけでなくセクハラ・マタハラ等の対策も必要

企業に求められるハラスメント対策は、以下の行為においても必要です。

  • セクシャルハラスメント(セクハラ)
    男女雇用機会均等法では、性的な言動により労働条件について不利益を受けたり、就業環境が害されたりすることを禁止しています。
  • 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント(マタハラ・パタハラ)
    育児・介護休業法などでは、妊娠・出産や育児支援制度の利用などを理由に、嫌がらせや不利益な取扱いを行うことを禁止しています。

職場では、パワハラとセクハラ、マタハラ(パタハラ)が複合的に発生するケースも少なくありません。
そのため、相談窓口を一本化するなど、各種ハラスメントに対応できる体制を整備することが重要です。

職場内でのパワハラに関する裁判例

パワハラは、行為者本人だけでなく、事業主である企業が損害賠償責任を負うケースもあります。
そのため、実際の裁判例を通じて、どのような行為が問題とされ、企業の責任が認められたのかを理解しておくことが重要です。

ここでは、職場内でのパワハラが争われた裁判例(ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル(自然退職)事件)をご紹介します。

事件の概要

ホテル勤務の従業員が、上司からパワハラを受けたとして、上司と企業に対して損害賠償を請求した事案です。従業員は、出張中に上司から執拗に飲酒を強要されたほか、飲酒の影響で体調を崩しているにもかかわらず、自動車の運転を命じられました。

また、深夜に威圧的なメールや留守番電話を繰り返し受け、「ぶっ殺すぞ」「辞表を出せ」などの暴言を浴びせられていました。
その後、従業員は精神的不調により休職し、最終的には自然退職扱いとなりました。

そこで、従業員は上司と企業に対し、パワハラを理由とする損害賠償請求や従業員としての地位確認などを求めて提訴しました。

裁判所の判断(平成24年(ネ)2402号/東京高等裁判所 平成25年2月27日判決)

裁判所は、上司による飲酒強要や体調不良時の運転強要、深夜の威圧的なメール・暴言について、パワハラに該当する不法行為であると認定しました。

また、これらの行為は業務に関連して行われたものであるため、企業も「使用者責任」を負うと判断し、上司と企業に対して連帯して慰謝料150万円の支払いを命じました。

一方、自然退職の有効性については、企業側に信義則違反や権利濫用は認められないとして、自然退職後の未払い賃金(バックペイ)の請求は棄却しました。

ポイント・解説

この裁判例のポイントは、業務時間外の行為であっても、業務との関連性が認められれば、パワハラとして企業の責任が問われる可能性があると示されたことです。本件では、飲酒強要や暴言といった典型的なパワハラだけでなく、深夜の執拗な連絡や心理的圧力も違法と判断されました。

これらの行為は、業務上必要な指導の範囲を超え、従業員に精神的苦痛を与えるものであったと評価されたためです。

また、企業はパワハラ行為を直接行っていなくても、使用者責任を負う場合があります。
そのため、企業はハラスメント防止研修の実施や相談窓口の設置だけでなく、問題発生後に当事者同士を速やかに引き離すなど、適切な措置を講じることが重要です。

中小企業におけるパワハラ対策でお悩みなら弁護士にご相談ください。

パワハラ防止措置は、就業規則や社内規程の整備、相談窓口の設置、事案発生時の対応など、企業に継続的な運用が求められる取組みです。

しかし、「自社の対策が法的に十分か分からない」などと、対策の運用に迷われる事業主の方も少なくありません。また、パワハラ発生時の対応を誤ると、労務トラブルの深刻化や損害賠償請求につながるおそれもあります。

パワハラ対策に不安がある場合には、早い段階で労務問題に精通した弁護士へ相談することが重要です。
弁護士のサポートを受けることで、自社の実情に応じた予防策の構築から問題発生時の対応まで、適切に進めることができます。

中小企業におけるパワハラ対策でお悩みの際は、弁護士法人ALGにご相談ください。

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神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介
監修:弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長
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