労務

外国人雇用するときの雇用契約書のポイント

神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介

監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士

  • 外国人雇用

現在、少子高齢化などを背景に、日本で日本人の働き手を見つけることは難しくなりつつあり、その反面、外国人を雇用する会社が増え始めています。外国人を雇用することができれば、優秀な従業員を確保することができる可能性がより高まるため、また、グローバル化にも対応できる可能性があるため、今後ますます外国人を雇用する会社が続出するでしょう。

ただ、外国人を雇用する場合、日本人を雇用するときと同じような雇用契約書を使う等の対応では、文化や環境の違い等から、想定しなかった問題が生じてしまう可能性があります。

そのため、会社側の労働問題、労務管理などに精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が、外国人を雇用する場合の雇用契約書の注意点について、今回の記事で説明いたします。

外国人雇用における雇用契約書の必要性

外国人を雇用する場合、労働条件を協議した上で、書面による雇用契約を合意すること、つまり雇用契約書を作成することが極めて重要です。
特に、外国では日本以上に書面による契約書を重視する場合が多いことから、雇用後のトラブルが生じた場面で、雇用契約書は非常に役に立ちます。

また、労働条件を従業員に書面(労働条件通知書等)で配布することは「労働基準法」等で義務付けられており、国籍で区別していないため、当然会社としては、外国人労働者に対しても、日本人と同様に、労働条件を書面で配布することが義務付けられています。
そのため、労働条件について、後でトラブルにならないように、雇用契約書をしっかりと作成する必要があります。

雇用契約書と労働条件通知書の違いについて

雇用契約書と労働条件通知書にはいくつかの違いあります。
雇用契約書を成立させるためには、会社と従業員の署名押印が必要です。

他方、労働条件通知書は、労働基準法第15条(労働条件の明示)に基づいた事項を会社が従業員に通知(明示)するための書類です。会社が従業員に対して「一方的に」通知する書類ですので、労働条件通知書には従業員の署名押印等はありません。

また、雇用契約書の作成は「労働契約法」という法律で要請されていますが、この法律に違反したとしても、罰則はありません。そのため、雇用契約書を作成しなくとも、会社に罰金等は課されません。

他方、労働条件通知書は、「労働基準法」で要請されており、この法律には罰則が規定されていますので、労働条件通知書を送付しないと、30万円以下の罰金が課される可能性があります。

在留資格(就労ビザ)の取得と雇用契約書の関係

日本人であれば、会社側が同意しさえすれば、例えば学歴や経験など不問で従業員として採用可能ですし、「労働基準法」や「最低賃金法」などのルールを守っていれば、従業員として業務に従事させることも容易です。

他方で、外国人の場合、就労可能な「在留資格」が許可されなければそもそも日本で仕事に就くことはできないのが基本です。
日本人と外国人の雇用で一番違う点はこの点です。

この「在留資格」は、詳細は割愛しますが、行政(法務省入国管理局)が与える許可の一種で、外国人が「在留資格」で許可された範囲を超えて活動すると違法になる場合があります。特に、不法に就労させていると、外国人本人だけでなく、雇用した会社やその代表者も罰せられるおそれがあるので注意しましょう。

ただし、ビザ申請の添付資料として、「労働条件通知書」ないし「雇用契約書」が要求されるため、これから日本に入国して就労ビザを申請する外国人の場合、会社が採用を決めて「労働条件通知書」などを渡しても必ず「在留資格」を得られると決まったわけではないことは、事前に書面で伝える必要があることには注意しましょう。

このように、外国人と雇用契約を結ぶ際には、雇用予定の外国人に対して、就労ビザ取得を前提とした契約である旨をきちんと説明しておく必要があります。

外国人雇用するときの雇用契約書のポイントとは?

外国人を雇用して、雇用契約書を作成する際、日本人を雇用するときと同じように対応するだけでは不十分です。
そこで、会社として、どういった点に配慮して、外国人を雇用するべきかという点を説明します。

日本語が読めない外国人に配慮した雇用契約書の作成

日本に来る外国人が日本語を話せたとしても、漢字カナ交じりの日本語を読めるとは限りません。
そのため、雇用契約書を日本語だけで作成したとしても、その外国人が全く読めず、理解もできない事態が生じます。こうなっては雇用契約書を作成した意味がなくなってしまいます。

そこで、日本語の雇用契約書に加え、その外国人が理解できる英語や母国語で翻訳文を作成の上、両方の書面を外国人本人に渡すことをおすすめします。

最近では、外国人本人に対して、入国審査官が電話調査を行うことがあり、この調査で雇用契約書と矛盾が生じる回答をすると審査にかなり悪影響が及びます。場合によっては、「外国人は契約内容について把握していないですね」ということで不許可になることもあります。
そのため、日本語の雇用契約書に加え、その外国人が理解できる英語や母国語で翻訳文を作成の上、両方の書面を外国人本人に渡すようにしましょう。

日本の労働に関するルールや慣行を理解してもらう

日本に来る外国人は、日本で働くことが初めての人が多いと思われます。
日本で初めて働く場合、日本で働く際のルールや慣行・習慣を全く知らず、働き始めてから知って驚くということが十分にあり得ます。

例えば、給料が日払いの国から来た外国人からすると、給料の月末払いというルールには驚くでしょう。また、中には、「こんな条件なら働けない」と後から言いだす外国人もいるため、このようなトラブルをできる限り回避するためにも、外国人の入社の際には「当たり前」と考えて日本人には説明しないような当然の前提条件も、丁寧に説明した上で、日本で労働する場合のルールや慣行について、できるだけ具体的に雇用契約書に盛り込むべきでしょう。

研修期間があれば雇用契約書に必ず明記する

外国人を雇用する場合、その外国人がどういった人物で、どういった能力等を持っているか等を正確には把握することが難しいことがほとんどです。そのため、雇用してから実際に働き始めて、「あれ?こんな人なら雇わなかったのに」ということも少なくありません。

この点、外国人といえども、「労働基準法」などの適用を受けるため、解雇するときのハードルの高さは日本人と同様ですので、一度雇用してしまうと、簡単に解雇できません。特に、いきなり無期契約を締結すると、解雇は非常に困難ですので、リスクがあります。
そのため、日本人を雇用するとき以上に、試用期間で、外国人の能力等の適切を見極める必要性があります。

また、場合によっては、まずは「有期雇用契約」での契約を検討するべきともいえます。例えば、1年間の「有期雇用契約」にしておけば、外国人の属性・特性を見極めるなどして状況によって期間満了により雇止めを行うことで契約を終了させるということも可能です。

そこで、外国人を雇用するときにも「試用期間」を設け、その試用期間中に、能力面での適正があるかをしっかりと見極めるためにも、雇用契約書に「試用期間」を必ず明記しましょう。また、場合によっては、「有期雇用契約」での契約の導入も進めるべきと言えます。

ビザの許可がおりたら契約が有効となる旨(停止条件)を入れる

外国人を雇用する場合、上記したとおり、「在留資格」がないままに、雇用してしまうと「不正就労」という状態になってしまいます。そのため、就労ビザ等の「在留資格」を取得できず、適法に働けなくなった外国人との間で雇用契約をそのまま放置しておくべきではありません。万が一、就労ビザが取得できない場合には、そもそも適法に日本で労働することができないため、雇用契約の効力は生じないということをはっきりと示しておきましょう。

そこで、外国人との雇用契約書には、「外国人が就労ビザ等を取得できてから初めて効力が生じる」(停止条件)という内容を必ず追記して、外国人が就労ビザを取得できなければ、雇用契約の効力が生じないようにしておきましょう。

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外国人の雇用契約書で明示すべき事項と注意点

次に、外国人の雇用契約書で明示するべき事項について、いくつかの注意点を記載します。

労働契約の期間に関する事項

外国人を雇用する場合でも、日本人と同様に、労働契約の期間を定めずに雇用することが可能です。

ただ、場合によっては、まずは「有期雇用契約」での契約を検討するべきともいえます。例えば、1年間の「有期雇用契約」にしておけば、外国人の属性・特性を見極めるなどして状況によって期間満了により雇止めを行うことで契約を終了させるということも可能です。

もっとも、特定技能ビザを持つ外国人を雇用する場合には、「特定技能1号」ビザの期間が通算して最長で5年間であるため、まず無期雇用とすることは実態に合いません。そこで、期間を定めて雇用する場合の契約期間が原則として3年間であることから、特定技能ビザを持つ外国人を雇用する場合、「3年間」とすることも多いでしょう。

就業の場所・従事すべき業務に関する事項

まずは、就業の場所について明記するようにしましょう。
例えば、転勤は、日本人になじみがあるかもしれませんが、外国人からすると、勤務地が変わるということはなじみがないかもしれません。そこで、転勤等で当初の勤務地から変更となった場合、「初めの説明と違う」とトラブルになることも少なくありませんので、転勤等で勤務の予定がある場所について、日本人以上に、具体的に雇用契約書に記載しておくべきでしょう。

また、従事する業務の内容についても注意しましょう。
上記したとおり、外国人が日本国内で働くためには「在留資格」が必要です。国内で働く外国人はこの「職務内容」の範囲内と認められる業務以外に就いてはいけないため、これは会社内の配置転換、いわゆる部署異動や人事異動でも同様です。エンジニア技師として雇い入れた外国人を営業や一般事務などに配置転換したにもかかわらず、在留資格を更新しないでいると「不法就労」と見なされ、その後の就労ができなくなったり罰則を受けるおそれがあるため注意しましょう。

労働時間・残業に関する事項

外国人を雇用する場合でも、日本人と同様に、「労働基準法」の適用があります。
そのため、外国人の雇用契約書には、日本人と同様に、「1日8時間、1週40時間」の法定労働時間で働いてもらい、それ以上働いてもらう場合には、割増賃金を支払う必要があります。

また、外国人からすると、始業時間前や就業時間後に無給で働くこと(いわゆる、「サービス残業」)に抵抗感を持つ人が非常に多いと思われます。そのため、雇用契約書を交付する際に、労働時間や残業について、しっかりと説明する必要があります。

なお、「割増賃金」については、以下の記事でも詳しく解説しておりますので、ぜひご参照ください。

「残業代」とは何か?- 割増賃金が発生する3つの「労働」

休日・休暇に関する事項

休日や休暇について、宗教などの文化によって多くの考え方があります。
そのため、外国人を雇用する場合には、日本人の考え方・文化と違うという意識をもって、丁寧に説明する必要があるでしょう。

特に、休日労働を命令する場合がある場合には、そういった説明はしっかりとする必要がありますし、シフトを組んで働かせる場合には、日曜日の勤務があることをしっかりと説明する必要があるでしょう。

賃金・支払方法に関する事項

上記したとおり、外国人を雇用する場合でも、日本人と同様に、「労働基準法」の適用があります。
そのため、賃金の考え方や支払方法について、日本人と同様の扱いで問題ありません。

しかし、「給料の月末払い」が多い日本ですが、外国人からすると、「給料の月末払い」は当たり前ではありません。そのため、給料の計算方法や支払方法等はしっかりと説明しておくべきでしょう。

なお、賃金についての基本的なルールについては、以下の記事でも詳しく解説しておりますので、ぜひご参照ください。

賃金の支払いに関する法律上の定め「賃金支払いの5原則」とは?

退職・解雇に関する事項

上記したとおり、外国人を雇用する場合でも、日本人と同様に、「労働基準法」の適用があります。

そのため、外国人を解雇する場合には、日本人を解雇する場合と同様に考えなければなりません。そして、日本人であれば、「こういうことをすると、解雇される。」という認識があるかと思いますが、外国人の場合には、そういった認識がない可能性があります。そのため、退職や解雇について、日本人に説明する場合よりも具体的に説明する必要があるでしょう。また、退職する場合の手続きなどもしっかりと説明しておく必要があるでしょう。

就業規則等に定めがあれば明示が必要な事項

外国人を雇用する場合でも、日本人と同様に、「労働基準法」の適用があります。そのため、就業規則に記載された内容は外国人を雇用した場合の労働条件にもなります。

そのため、就業規則の内容を外国人にも説明する必要がありますし、就業規則の内容を外国人に周知するために、「外国人が理解できる言語」で記載しておく必要があります。

そこで、一定数の外国人を雇用している、あるいは今後順次外国人を増やしていく予定があるという会社においては、会社のルールを定めた就業規則についても、当該外国人の母国語や英語に翻訳したものを用意すると良いでしょう。

違法な外国人雇用を行った企業への罰則

上記でも少し触れましたが、在留資格がない等の日本で働くことが認められない外国人を雇用した場合、会社に「不正就労助長罪」(入管法73条の2)という罪が成立する可能性があり、3年以下の懲役や300万円以下の罰金(又はその両方)が課せられる可能性があります。

この「不正就労助長罪」は、わざと不法就労者を働かせただけた会社だけでなく、「外国人の雇用は初めてで、ルールさえ知らなかった」、「つい確認を忘れていて不法就労になってしまったが、悪気はない」という悪意のない会社に対しても適用されます。

そのため、外国人を雇用する場合には、必ず、在留資格を確認し、就労できるかどうかをしっかりと把握しましょう。

外国人の雇用契約に関する裁判例

外国人が、他の外国人との待遇の違いについて、不当な差別だと主張して、会社に対して損害賠償請求を求めた事案(東京地裁平成6年3月25日判決「三菱電機事件」)を紹介いたします。

事件の概要

インド国籍の外国人のXは、Y社に勤務していたところ、欧米系国籍の外国人に対しては日本語教育が行われているものの、インド国籍である自分には日本語教育が行われていないことを理由に、Y社に対して損害賠償請求(民法709条等)を求め、提訴しました。

裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)

裁判所は、Y社が欧米系国籍の外国人に日本語教育を施した理由として、欧米系国籍の外国人が外国大学新卒採用であること及び二年間の有期の嘱託契約で採用していることから、欧米系国籍の外国人に対して日本語教育を施すことを雇用の条件として、Y社負担で、限られた期間で、会社Yにおいて技術を習得してもらうために、日本語を習得してもらうことが会社Yにとっても国際化という観点からも価値あることと考えていることによるものとして、Y社が、欧米系国籍の外国人と比較して、Xを差別的に取り扱っていないと判断しました。

その結果、裁判所は、欧米系国籍の外国人とインド国籍の外国人のXとの間で日本語教育に関する差が生じたとしても差別的な取扱いにはならない、として請求を棄却しました。

ポイント・解説

労働基準法3条は、労働者の国籍や信条等を理由とする労働条件の差別を禁止しており、合理的な理由のない労働条件格差は許されません。そして、ここでいう「労働条件」には、人事異動や福利厚生等の労働者の待遇一切を含みます。

そのため、本件では、Xと欧米系国籍の外国人との間の格差(日本語教育の有無)に合理的な理由があるかという点が争点となりました。

そして、本件では、Y社が欧米系国籍の外国人を募集した理由や事情を確認した上で、その理由について、欧米系国籍の外国人は、有期雇用契約だから早期に日本語能力を習得させる必要があると判断しました。

この点、差別的取扱いの判断は、格差が生じている内容とその理由を確認した上で、その理由が合理的であるかどうか、という流れで行われます。

そのため、外国人について、日本人労働者を含む他の人と異なる労働条件で雇用する場合には、その内容と理由を明確にした上で、その理由について合理性があるかを改めて検討する必要があるでしょう。

外国人雇用でトラブルとならないために、弁護士が雇用契約書の作成をサポートいたします。

以上で説明してきたとおり、外国人を雇用する場合の雇用契約書について、注意するべき点がいくつかあることが分かりました。

最近は、飲食店やコンビニの店員、取引先の従業員として働く外国人が多くなったと感じている方も多いのではないでしょうか。日本では、海外市場への進出や優秀な人材の確保、労働力不足解消などを目的に、外国人労働者の雇用を積極的に行っている企業が年々増えていることは既に言及したとおりであす。

しかし、他方で、上記したような不法就労など在留資格に関するトラブル、労働時間や賃金など労働環境に関する問題など、外国人労働者を受け入れる会社には、より一層の法令遵守(コンプライアンス)が強く求められるといえます。

こういった問題を確認し、さらに対処していくためには、会社側の労働問題、労務管理に精通した弁護士に一度相談いただくことが何よりも肝心です。この点、弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士には、会社側の労働問題、労務管理に精通した弁護士が揃っていますので、外国人を雇用する際にお役に立てるかと思いますから、ぜひ一度ご相談ください。

神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介
監修:弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長
保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:51009)
兵庫県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

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