監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士
- フレックスタイム制
「ワークライフバランス」や「柔軟な働き方」が労働者にも浸透し、働き方改革のもと、今後さらに労働者自身が自分の働き方を考え、自ら働きやすい環境を選んでいく社会に進んでいくでしょう。
そして、労働者の事情に応じた多様な働き方の実現を期待できるのがフレックスタイム制です。
フレックスタイム制は、労働者に始業と終業の時間を決めるように委ねる制度ですので、日々の働き方を労働者本人の裁量で選ぶことができ、労働者は、仕事とプライベートのバランスをとりながら、仕事にも充実感をもって働くことが可能となります。
しかし、フレックスタイム制を導入しようと思っても、どうすればよいかと悩んでおられる方もいらっしゃると思います。
そこで、本記事では、会社側の労働問題、労務管理に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が、フレックスタイム制の導入について、その手順や注意点等を紹介していきます。
目次
- 1 フレックスタイム制を導入するための手続き
- 2 就業規則の作成・変更
- 3 労使協定の締結
- 4 法改正により必要となった手続き
- 5 フレックスタイム制を導入するにあたっての注意点
- 6 レックスタイムの導入に関するQ&A
- 6.1 フレックスタイム制においても36協定の締結・届け出は必要ですか?
- 6.2 フレックスタイム制の導入で、労使協定を締結しないとどのようなリスクが生じるのでしょうか?
- 6.3 特定の部署のみにフレックスタイム制を導入することは可能ですか?
- 6.4 フレックスタイム制を導入する場合、10人未満の会社の場合でも就業規則の作成は必要ですか?
- 6.5 就業規則を変更した場合、従業員全員に周知するにはどのような方法が有効ですか?
- 6.6 フレックスタイム導入による労使協定の様式は、所定のものでないとだめですか?
- 6.7 労使協定の有効期間はいつまでと定めるべきでしょうか?
- 6.8 フレックスタイムの休憩時間を社員に委ねる場合、労使協定の締結は必要ですか?
- 6.9 清算期間における総労働時間について「8時間×所定労働日数」というような定め方も可能ですか?
- 6.10 「業務の進捗状況に応じて残業命令を下す」という旨を就業規則に定めることは可能ですか?
- 7 フレックスタイム制の導入手続きで不備がないよう、弁護士に依頼することをお勧めします。
フレックスタイム制を導入するための手続き
それでは、フレックスタイム制を導入するための手続きとしては、どのようなものがあるか見ていきましょう。
フレックスタイム制の導入のために必要な手続きは、基本的には、以下のとおりです。
①フレックスタイム制のルールを定める
②就業規則に規定する
③労使協定を締結する
④労働基準監督署へ届け出る
⑤従業員に周知・説明する
特に、フレックスタイム制を導入するにあたり、②就業規則に規定し、③労使協定を締結することがポイントとなりますので、以下、詳しく見ていきましょう。
なお、フレックスタイム制の留意点などについて、以下の記事でも解説しておりますので、ぜひご参照ください。
フレックスタイム制の留意点就業規則の作成・変更
まず、フレックスタイム制を導入するためには、就業規則上でフレックスタイム制に関する規定を置く必要があります(労働基準法32条の3)。
具体的には、就業規則等に「始業・終業時刻の決定を対象者に委ねる」旨を規定しなければなりません。コアタイムやフレキシブルタイムを設ける場合には、具体的な時間帯の範囲も規定します。
就業規則に規定が必要な事項
フレックスタイム制を導入する際、就業規則上で、始業・終業時刻を労働者の決定に委ねる旨を定める必要があります。
また、コアタイムやフレキシブルタイムを設ける場合には、具体的な時間帯の範囲を定める必要がありますので、忘れずに規定しましょう。
就業規則への規定の一例としては、以下のような内容が考えられます。
『第○条 (始業終業時刻、フレキシブルタイム及びコアタイム)
労使協定により、毎月●日を起算日とするフレックスタイム制を実施する。フレックスタイム制の適用を受ける従業員の始業及び終業の時刻については、労使協定の定めにしたがい、その自主的決定に委ねるものとする。』
従業員への周知義務について
フレックスタイム制を規定した就業規則について、その就業規則の内容を従業員に周知させる必要があります(労基法106条1項)。労働条件に関わる就業規則の変更ですので、周知しなければ効力を生じないおそれがありますので注意しましょう(労契法10条)。
したがって、就業規則を作成するにとどまらず、従業員にその内容を周知することが必要です。
労使協定の締結
フレックスタイム制を導入するためには、労使協定でフレックスタイム制に関する事項を規定する必要があります(労働基準法32条の3)。そして、この労使協定は必ず書面で締結する必要があります(同条)。
労使協定とは、使用者と労働者が締結する協定であり、必ず書面で締結しなければならず、フレックスタイム制を導入するときには、以下で述べるとおり、①対象労働者や②清算期間、③清算期間における総労働時間、④標準となる1日の労働時間、⑤コアタイム、フレキシブルタイム等、制度設計時に検討した取り決め事項について定めた労使協定を締結するように注意しましょう。
対象となる労働者の範囲
まず、労使協定で定める事項として、フレックスタイム制の①「対象となる労働者の範囲」を定める必要があります。
この「対象となる労働者の範囲」の定め方は、特定の個人(例:Aさん、Bさんといった個人)、特定の部署(例:営業部の職員)など様々な範囲を定めることが可能ですし、また一部従業員に限らず、全従業員とすることも可能です。
清算期間
次に、労使協定で定める事項として、フレックスタイム制の②「清算期間」を定める必要があります。
この「清算期間」とは、フレックスタイム制において労働者が労働すべき時間を定める期間のことです。例えば、「1か月間で所定労働時間は170時間」などと定めますが、この際の「1カ月」という期間が「清算期間」です。
従業員側からすると、清算期間の中で所定労働時間に達するように日々の労働時間を調整する必要があります。
なお、「清算期間」は、「3か月以下」とする必要がありますが、1か月を超える期間を定めるときには労使協定を労働基準監督署に届け出る必要がありますので、注意が必要です。
清算期間における総労働時間
また、労使協定で定める事項として、③「清算期間における総労働時間」を定める必要があります。
この「清算期間における総労働時間」とは、労働契約上、労働者が清算期間において労働すべき時間として定められた時間をいい、フレックスタイム制では、清算期間を単位として所定労働時間を定めることとなります。
上記例でいうと、「1か月で所定労働時間は170時間」の「170時間」というものが清算期間における総労働時間となります。
ただし、清算期間内に労働するべき時間として、「週平均40時間以下となる労働時間」あるいは「1日あたり8時間以下となる労働時間」を定める必要があります。
標準となる1日の労働時間
さらに、労使協定で定める事項として、④「標準となる1日の労働時間」を定める必要があります。
これは、従業員が有給休暇を取得した日に働いたとみなされる労働時間を定める必要があり、通常の場合には、総労働時間と勤務日から、1日の勤務日あたりの労働時間を計算して求めます。
つまり、「標準となる1日の労働時間」が、フレックスタイム制の対象労働者が年次有給休暇を1日取得した場合の労働時間としてカウントします。
コアタイムとフレキシブルタイム
そして、フレックスタイム制で「コアタイム」や「フレキシブルタイム」を設ける場合には、労使協定でこれらの事項を定める必要があります。
簡単に言えば、「コアタイム」は、「労働しなければならない時間」、「フレキシブルタイム」は、「その時間内であればいつ出社または退社してもよい時間」です。
まず、「コアタイム」を定める場合には、その「コアタイム」の開始時刻と終了時刻を定める必要があります。この点、「コアタイム」の時間帯は労使協定で自由に定めることができ、例えば、「コアタイム」を設ける日と設けない日を設定できたり、日によって時間帯が異なるようにすることも可能です。なお、「コアタイム」を設けると、育児や介護などにおいて負担になるおそれがあるため、コアタイムを設けないという選択もでき、その場合には、所定休日をあらかじめ定めておく必要があります。
他方で、「フレキシブルタイムタイム」を定める場合には、その時間帯の開始・終了時間を協定で定める必要があり,時間帯も協定で自由に定めることができます。
法改正により必要となった手続き
令和元年4月に施行された「働き方改革関連法」により、フレックスタイム制の「清算期間」が最大3か月へと延長されました。この清算期間の延長で、より個人の都合に応じた労働時間の調整が可能となりました。
しかし、清算期間の延長が可能となったことで、過度な労働を防止する必要が生じました。そこで、清算期間が1か月を超える場合には、労使協定を労働基準監督署へ届け出ることが必要となりました。この届出をしない場合、30万円以下の罰金を科される可能性がありますので、注意しましょう。
このほかにも、清算期間における総労働期間が法定労働時間の総枠を超えないことや、1か月ごとの労働時間が週平均50時間を超えないことが条件とされました。
フレックスタイム制を導入するにあたっての注意点
フレックスタイム制を導入する際の注意点として、まず、「コアタイム」を設けない場合、個々の対象労働者の実労働時間の把握が困難となり、時間外労働の扱いといった勤怠管理が非常に難しくなりますので、注意が必要です。
また、フレックスタイム制は、労働時間の開始と終了の両方を労働者の判断に委ねる制度です。
そのため、労働時間の開始と終了の両方を固定することや、どちらか片方を固定することはできません。例えば、コアタイムが午前11時から午後3時とされている労働者に対して、業務命令として「毎朝9時のミーティングに参加するように」とすることはできません。
フレックスタイム制の留意点については、以下の記事でも解説しておりますので、ぜひご参照ください。
レックスタイムの導入に関するQ&A
フレックスタイム制に関して、よくある質問について、以下回答していきます。
フレックスタイム制においても36協定の締結・届け出は必要ですか?
36協定の締結・届け出は必要です。フレックスタイム制においても、時間外労働を行う場合には、通常の労働者と同じように、36協定の締結・届け出は必要です。
なお、フレックスタイム制では、あらかじめ定めた「清算期間」における総労働時間を超過して働いた分の時間を「時間外労働」と考えます。また、清算期間が1ヶ月を超えるフレックスタイム制については、週平均の労働時間が50時間を超えた分の時間についても「時間外労働」として扱われるので注意が必要です。
フレックスタイム制の導入で、労使協定を締結しないとどのようなリスクが生じるのでしょうか?
フレックスタイム制を導入する上で、労使協定を締結することは法律上求められる手続きであり、必須の手続です。
そのため、労使協定を締結しないフレックスタイム制は無効であるため、賃金の計算も通常と同じ扱いを受けることから、法定労働時間を超えた分は時間外労働として、割増賃金を支払わなければならない等、予想外の人件費がかかるおそれがあります。
特定の部署のみにフレックスタイム制を導入することは可能ですか?
特定の部署のみにフレックスタイム制を導入することは可能です。
上記でも解説したとおり、労使協定で定める事項として「対象となる労働者の範囲」を定める場合、その対象労働者について自由に労使協定で定めることが可能です。
そのため、対象労働者の定め方として、特定の部署(例:営業部職員)で定めることが可能です。
フレックスタイム制を導入する場合、10人未満の会社の場合でも就業規則の作成は必要ですか?
10人未満の会社では就業規則の作成は義務ではありません。
労働基準法32条の3では、「就業規則またはこれに準ずるもの」でフレックスタイム制を定めることが必要ですが、就業規則の作成義務は「常時10人以上の労働者を使用する使用者」(労働基準法89条)ですので、10人未満の会社では、就業規則を作ることまでは不要です。
しかし、就業規則に準ずるものを作成する必要があるため、書面で、「始業及び就業の時刻をその労働者の判断に委ねる」旨を記載して配布するなどして、就業規則がある場合と同様に、従業員全員に周知することが必要です。
就業規則を変更した場合、従業員全員に周知するにはどのような方法が有効ですか?
就業規則の変更の際の従業員への周知方法として、労働基準法106条1項及び労働基準法施行規則52条の3では、以下の3つの方法を規定しています。
①就業規則を常時確認できる状態にすること、
②書面で交付すること、
③デジタルデータとして記録し、共有すること、
そのため、これらの方法を参考にするべきですが、最も確実なのは、②書面で交付することを参考に、全従業員に対して就業規則を渡し、かつ③デジタルデータでも保存し、誰でも閲覧できる場所に保管しておくことだと考えます。
フレックスタイム導入による労使協定の様式は、所定のものでないとだめですか?
労使協定の様式は所定のものでなければならないわけではありません。
厚生労働省等で労使協定届の記載例が載っていますが、この記載例の様式でなければだめな理由はありませんが、記載漏れなどがないように、記載例にそって作成することをおすすめします。
労使協定の有効期間はいつまでと定めるべきでしょうか?
労使協定の有効期間は、36協定と同じく、「1年」と定めておくのがよいでしょう。
フレックスタイムの休憩時間を社員に委ねる場合、労使協定の締結は必要ですか?
休憩時間を従業員に委ねる場合には、労使協定の締結が必要です。
一斉休憩が必要のない事業であれば、各日の休憩時間の長さを定め、その時間帯を労働者に委ねる旨を定めておくことで足りるとされています(昭63・3・14基発第150号)ので,労使協定で定めておきましょう。
具体的には、労使協定において、「対象の社員は、各日60分の範囲内において労働時間の途中で休憩時間をとること」などといった旨を定めておくとよいでしょう。
清算期間における総労働時間について「8時間×所定労働日数」というような定め方も可能ですか?
完全週休2日の労働者の場合であれば、労使協定で定めることで、「8時間×所定労働日数」と定めることが可能とされています(労働基準法32条の3第3項)。
「業務の進捗状況に応じて残業命令を下す」という旨を就業規則に定めることは可能ですか?
フレックスタイム制を採用しているのであれば、「業務の進捗状況に応じて残業命令を下す」という旨の規定を就業規則に定めるべきではありません。
フレックスタイム制は、労働時間の開始と終了の両方を労働者の判断に委ねる制度です。
そのため、「コアタイム」を設けている場合、「コアタイム」については、労働者は労働義務を負っていますが、「コアタイム」外(「フレキシブルタイム」)において残業命令を下すことができると、労働者が自由に始業時刻と終業時刻を決定できるというフレックスタイム制の趣旨に根本から反するため、このような就業命令を下すことはできないのです。
フレックスタイム制の導入手続きで不備がないよう、弁護士に依頼することをお勧めします。
以上で説明してきたとおり、フレックスタイム制の導入には、法律で定められた手続きを遵守する必要があります。そして、これらの手続きを遵守できない場合、せっかく導入したフレックスタイム制が無効だと判断され、勤怠管理が曖昧なまま時間外労働をしているなどと未払残業代などの問題を生じさせることとなります。
この点において、そもそも、フレックスタイム制を導入するべきかどうかという点からの検討も必要ですし、導入するとしても制度の内容や運用をしっかりしていかなければなりません。
そこで、フレックスタイム制の導入で不備等がないように、会社側の労働問題、労務管理に精通した弁護士が数多く所属する弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士にぜひご相談ください。
-
保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:51009)
来所・zoom相談初回1時間無料
企業側人事労務に関するご相談
- ※電話相談の場合:1時間10,000円(税込11,000円)
- ※1時間以降は30分毎に5,000円(税込5,500円)の有料相談になります。
- ※30分未満の延長でも5,000円(税込5,500円)が発生いたします。
- ※相談内容によっては有料相談となる場合があります。
- ※無断キャンセルされた場合、次回の相談料:1時間10,000円(税込み11,000円)