労務

アルバイトを解雇するための正当な理由とは?解雇の流れや留意点について

神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介

監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士

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昨今、会社の従業員が職場での悪ふざけの写真をSNSなどに投稿し、それが流出して、雇用している会社に多大な損害を与えることが社会問題となっています。

このようなアルバイトの行為は、俗に「バイトテロ」と呼ばれています。

従業員の幼稚な悪ふざけや自慢がSNSを通じて拡散したことで会社の信用、ブランドに大きく影響して、消費者からの信頼が脅かされるだけでなく、会社の存続にも関わるほどのリスクにもなりうるところです。

こういった「バイトテロ」でなくとも、アルバイト・パート社員が真面目に働かない場合や問題行動をとる場合などには「解雇」したいと思う会社も少なくないと思います。

そこで、本記事では、会社側の労働問題、労務管理に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が、問題があるアルバイトやパート社員を「解雇」できるケースや注意点を解説します。

アルバイトやパート社員を解雇できるか?

まず、アルバイトやパート社員を「解雇」できるのか、についてですが、結論としては「解雇」することができます。

ただし、たとえ正社員ではない、アルバイトやパート社員でも簡単に「解雇」できるわけではありません。

アルバイトやパート社員にとっても、従業員としての地位は、賃金を得るなど生活の基盤となる極めて重要なものであるため、「解雇」は法律上厳しく制限されているのです。

この点、労働契約法第16条において、合理的な理由がなく、社会通念上相当であると認められない「解雇」は無効とされています。

そのため、適正な手続きを経ないで「解雇」させた場合、不当解雇とみなされる可能性があるので注意しましょう。

アルバイトを解雇するための正当な理由とは?

上記のとおり、労働契約法第16条において、「解雇」に合理的な理由がなく、社会通念上相当ではない場合には無効とされているため、「解雇」するためには、「解雇」するだけの合理的な理由、正当な理由がまずは必要となります。

それでは、具体的に、アルバイトやパート社員を「解雇」するために、どのような合理的な理由、正当な理由が必要かを見ていきましょう。

就業規則の解雇事由に該当する

まず、就業規則の解雇事由に該当するどうかを確認しましょう。

従業員を「解雇」するにあたっては、就業規則に解雇事由が定められていることが必要です。

上記したとおり、「解雇」というのは従業員にとって重大な結果をもたらすので、就業規則において、「このような場合に解雇する」旨をあらかじめ明示しておく必要があるのです。

就業規則に解雇事由がない、または就業規則がない、という場合でも解雇できなくはないのですが、その「解雇」が有効とされるハードルはかなり高いものといえるでしょう。

そのため、まずは就業規則に解雇事由が定めてあるか、当該従業員が解雇事由に該当するかどうかを確認するようにしましょう。

バイトテロなどで会社に損害を与えた

では、冒頭でも取り上げたような、バイトテロを起こしたようなアルバイトやパート社員に対して「解雇」する場合はどうでしょうか。

まず、バイトテロとして報道されたケースとしては、以下のようなものがありました。

  1. 従業員が店内のアイスクリーム展示用の冷蔵庫の中に入り込み、商品の上に寝そべっている写真を投稿
  2. レストラン内厨房の中の業務用冷蔵庫の中に従業員が入り、顔を出している写真を投稿
  3. 飲食店の厨房で食材をくわえたり、顔面に貼り付けたりしている写真を投稿

もちろん、こういったバイトテロ行為があれば、即解雇可能というわけではなく、バイトテロ行為の態様、動機・目的や会社側の注意指導の有無、被害の程度など諸般の事情を踏まえて総合的な検討が必要となります。

ただ、一般的には、バイトテロ行為は悪ふざけなどでされるでしょうから悪質性は高く、また、SNSなどで拡散されれば会社の信用毀損などの影響も大きいですから、解雇するだけの合理的理由があると判断されやすいものと思います。

横領や窃盗など不正行為に及んだ

では、横領や窃盗などの不正行為に及んだようなアルバイトやパート社員に対して「解雇」する場合はどうでしょうか。

この点、横領は、刑法252条に該当する犯罪行為であり、窃盗も同様に刑法235条に該当する犯罪行為であるなど、刑事上罰すべき行為や、法令違反行為などがあった場合には、解雇するだけの合理的な理由となりやすいでしょう。

特に、こういった犯罪行為・不正行為については、会社と従業員の信頼関係を著しく毀損するものであるため、「解雇」は有効と判断されやすいでしょう。

経営不振によるリストラ(整理解雇)

では、経営不振から、アルバイトやパート社員に対してリストラ、「解雇」を行う場合はどうでしょうか。

まず、このような経営不振、経営上の理由から、人員削減などの目的で行われる解雇を、「整理解雇」といいます。

かかる「整理解雇」については、上記バイトテロや横領等のケースとは異なり従業員側の事情を理由とした「解雇」ではないことから、一般の「解雇」と比較してより厳しい要件が必要となります。

具体的には、以下の要件を満たす必要があります。

  1. 「整理解雇」の必要性がある
  2. 解雇を回避するための努力をした
  3. 解雇の対象者の選定基準が客観的合理的であること
  4. 必要性・時期・基準について従業員に説明し協議を尽くしたこと

正社員よりも解雇しやすいと誤解しがちですが、解雇の制限のルールは同じなので、漫然と解雇しないように注意しましょう。

アルバイトの解雇が不当解雇に該当するケース

それでは、アルバイト、パート社員に対する「解雇」が不当解雇に該当するケースとしてどのようなものがあるかを見ていきましょう。

能力不足や成績不良による解雇

まず、能力不足や成績不良による「解雇」が、不当解雇に該当するケースは少なくありません。

なぜなら、能力不足や成績不良があったとしても、会社側として、改善の機会を与え、教育指導をするなど当該従業員をなるべく解雇しないように、解雇を回避するために努力する必要があるとされているためです。

そのため、能力不足や成績不良による「解雇」は、それだけでは、解雇するだけの合理的な理由があるとは言い難いとされてしまうためです。

なお、能力不足や成績不良を理由とした「解雇」については、以下の記事でも解説しておりますのでぜひご参照ください。

能力・適格性が欠如する問題社員対応について詳しく見る

数回の遅刻や欠勤による解雇

また、同様に、数回の遅刻や欠勤による「解雇」も、不当解雇に該当するケースは少なくないと思います。

なぜなら、数回の遅刻や欠勤であれば、数回程度であれば誰にでも起こりうることであり、遅刻や欠勤の事情によっては従業員側にも汲むべき事情があるとされることもあるでしょうし、改善の機会を与えるなど当該従業員をなるべく解雇しないように、解雇を回避するために努力する必要があるのは上記と同様であるためです。

そのため、数回の遅刻や欠勤による「解雇」は、それだけでは、解雇するだけの合理的な理由があるとは言い難いとされてしまうためです。

アルバイトの不当解雇で会社が被るリスクとは?

それでは、上記のように、アルバイトやパート社員を解雇してしまい、それが不当解雇であるとされたことで、会社としてどのようなリスクを被ってしまうのかを見ていきましょう。

まず、不当解雇となる場合、解雇は無効と判断されてしまいます。

解雇が無効であることで、会社と従業員との間の雇用契約が継続していると判断されます。

その結果、雇用契約が継続しているにも関わらず、会社の責任で従業員が働けなかったことになってしまいますので、従業員が働けなかった期間に対応する賃金(いわゆる「バックペイ」)の支払いをしなければなりません。

こういった点で、不当解雇により、会社が多大な金銭を負担する経済的なリスクが挙げられます。

それだけでなく、不当解雇であると明確に判断された場合、会社が不当解雇をしたということで従業員や取引先への情報が伝わり(例えば、労働裁判で敗訴してしまった場合、会社名+裁判事件、などという形で裁判例として残ってしまうおそれがあります。)、信用低下、評判低下、ブランド低下、などといった会社の経営にも影響しかねないリスクを被る可能性があります。

有期雇用契約のアルバイトの雇止めについて

ここまで見てきたのは、アルバイトやパート社員の「解雇」です。

ただ、アルバイトやパート社員については「有期雇用契約」といって、1年といった雇用期間の定めがある雇用契約を締結していることが通常であり、契約更新をしない、つまり、「雇止め」をする、ということも考えられるところです。

このように、アルバイトやパート社員を「雇止め」する場合には、どのような注意点があるのかを解説します。

まず、有期雇用契約であるからといって、雇用期間が満了時に「雇止め」できるとは限りません。

有期雇用契約を反復継続して更新してきた場合など、使用者が有期労働契約社員に対し、継続雇用を期待させるような外形がある場合には、「雇止め」が無効だということで、トラブルに発展する危険があります。

このように、有期雇用のアルバイトやパート社員に対する「雇止め」は、正社員の解雇と異なるという考えから、適切な対応を取らなければ、紛争に発展するリスクが高まるので、注意しましょう。

アルバイトを解雇する方法と流れ

それでは、アルバイトやパート社員を「解雇」したいと考えた場合には、どのような方法をとったり、どのような流れで進めていけばよいでしょうか。

以下、具体的に見ていきましょう。

①まずは退職勧奨を検討する

まず、「解雇」したいと思ったとしても、すぐに「解雇」するのは危険といえます。

なぜなら、上記したとおり、不当解雇に該当した場合に、会社側が被るリスクは甚大であるためです。

そこで、会社側としては、「解雇」の前に、「退職勧奨」を検討すべきでしょう。

「退職勧奨」とは、会社が従業員に対して、自発的に退職するように促すことです。

詳しくは、①従業員からの辞職を勧める会社側の行為、あるいは、②会社からの労働契約の合意解約の申込みに対して従業員側の承諾を勧める行為をいいます。

この「退職勧奨」は、上記で見たような「解雇」とは異なり、事実上の行為なので、法的に定められたルールはありません。

そのため、どのようなタイミングで行うか、どのような方法で行うかについて、会社側である程度自由に行うことができます。

そして、「退職勧奨」は、会社と従業員との間で合意退職を目指すものであるため、後で争われて従業員の退職が無効になるというリスクが低くなることになります。

このように、会社側としては、まずは、「退職勧奨」を検討すべきでしょう。

なお、「退職勧奨」については、以下の記事でも解説しておりますのでぜひご参照ください。

退職勧奨が退職強要とならないために会社が注意すべきポイントについて詳しく見る

②解雇を検討する

もっとも、「退職勧奨」は、従業員側との合意解約等を目指して行われるものですので、従業員側が抵抗するなど、必ずしも当該従業員が退職するとは限りません。

このような場合には、「解雇」するかどうかを検討しましょう。

その際、上記したとおり、①就業規則上に解雇事由があり、それに該当するか、②解雇するだけの合理的な理由、正当な理由があるか、③解雇する前に、指導・改善の機会を与えたり、注意等の相応の対応をしてきたか、などの事情から、「解雇」が相当かを検討すべきでしょう。

③解雇予告通知書を作成する

上記のとおり、「解雇」が相当かを検討した上で、「解雇」する場合には、解雇予告通知書の作成などの対応が必要です。

具体的には、「解雇」しようとしても、突然「解雇」にすることはできず、「解雇」まで一定時間の猶予か生活の補償(「解雇予告手当」といいます。)をするかが必要になります。

そのため、入社後15日以上経った後は、試用期間中であっても、解雇予告手当を支払わない限り、30日前の解雇予告が必要になり、その場合は、「解雇予告通知書」を作成することになります。

④30日以上前に解雇予告をする

上記のとおり、解雇予告手当を支払わない限り、「解雇」するとしても、突然「解雇」にすることはできず、従業員側に一定時間を与えることが必要となるので、解雇を事前に予告すべきとして、30日前から解雇予告をした上で30日後に解雇することが必要になります。

⑤予告できない場合は解雇予告手当を支払う

上記のとおり、30日以上前に解雇予告が出来ない場合には、従業員に対する生活の補償(「解雇予告手当」といいます。)をするかが必要となります。

そのため、30日以上前に解雇予告が出来ない場合には、解雇予告手当を支払うようにしましょう。

⑥解雇後に必要な手続き

上記の流れで「解雇」手続きを取った場合、その後に必要な手続きを解説します。

従業員の「解雇」後の事務手続きの流れの中でまず最初におさえておきたいのが、離職票等のハローワークの手続きについてです。

アルバイト・パート社員の退職時にも離職票の発行が必要になるケースがあります。

それは、当該アルバイト・パート社員が雇用保険に加入していた場合です。

雇用保険に加入している従業員は、失業手当を受給する権利が存在する場合があります。

また、「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届」の手続きが必要になるケースも少なくないので、注意が必要です。

解雇された従業員は、会社の健康保険から抜け、次の就職までの期間、国民健康保険に加入するか、あるいは「任意継続」といって解雇後も会社の健康保険に加入し続けるかのいずれかを選択することになるのですが、従業員が国民健康保険に加入するためには、会社がその従業員について健康保険の資格喪失手続をし、退職者は会社の健康保険から抜けたことを証明する「資格喪失証明書」を区市町村に提出する必要があるためです。

パート社員の解雇の有効性について争われた裁判例

それでは、パート社員の解雇の有効性について争われた裁判例(東京地裁平成20年5月16日判決)について解説します。

当該裁判例では、会社側は、会社の経営状態の悪化に伴う経営合理化の一環という理由のもとで、パート社員を解雇したため、整理解雇としての効力が認められるかどうかが問題となりました。

事件の概要

Y社は、宣伝・広報、イベントプロデュースなどを業とする株式会社で、Y社には、従業員12名いましたが、期限の定めのないパート従業員として勤務していた従業員Xに対して、Y会社の経営状態の悪化に伴う経営合理化の一環と説明して解雇しました。

Y社としては、解雇に至るまでの5年間にわたって売上げがほぼ横ばいであるのに対して、仕入れが約2割増加した結果、粗利が約3割減少しており、しかも、これは、公的団体が発注を競争入札で行うことになったという構造的な要因によるものであるから、人員削減の必要性が認められるという主張でした。

そこで、従業員Xは、かかる解雇について無効を主張して裁判となりました。

裁判所の判断

裁判所は、粗利の減少は認められるものの、営業利益については5年前から増加傾向にあることに照らすと、人員削減の必要性があるとは認めがたいとしたうえで、Y社が積極的な希望退職募集や退職勧奨を実施しなかったことを指摘し、真摯な解雇回避努力をしたとは認められないとしました。

また、Y社が解雇を行った時期にも新たに正社員を募集して増員し、その後も社員の募集を行っていることから、やはり解雇回避のための努力をしていたとは認められないとしました。

他方で、Xの職務が、名刺の整理や書籍の発送、データ入力作業等であり、単なる雑用とはいえないものの、他の従業員で代替が十分に可能な業務であるから、解雇の対象として原告労働者を選定したことに一定の合理性があることは否定できないとし、Xの雇用形態がパート従業員であった点については、「正規従業員との雇用形態の差異は、人選の際の理由の一つとなりうる」としました。

もっとも、Y社が解雇に際して事前の説明、協議を一切行っていないことを指摘して、「手続きの相当性を欠くことは明らか」とし、特にXが家庭が生計を維持する上でXの収入が欠かせない状況にあったことをY社は認識しており、事前の説明、協議を一切行っていないことは、解雇によってXが被る経済的打撃について全く配慮していないことを意味し、「手続きの相当性を欠く程度は著しい」としました。

以上を踏まえて、裁判所は、Y社の整理解雇は、解雇権を濫用したものであって無効と結論づけました。

ポイント・解説

以上のとおり、パート社員が、整理解雇された場合に解雇権の濫用として無効とした裁判例を紹介させていただきました。

パート社員であるから、正社員と異なり、解雇は有効とされやすいと考えられるかもしれませんが、そうではなく、解雇であるかどうかを裁判所はしっかり検討します。

そのため、安易に解雇するのではなく、解雇するに足りる合理的な理由があるか、解雇手続きが相当かどうかを事前によく検討するようにしてください。

アルバイトの解雇でトラブルとならないために、弁護士が最善の方法をアドバイスいたします。

以上見てきたとおり、アルバイト・パート社員を解雇するという場合、解雇が有効と言えるケースか、そして、解雇に必要な手続きをきちんと取っているかという基本的な部分は押さえておくようにしましょう。

安易に解雇してしまうと、解雇無効とされて、会社側にバックペイの支払いが命じられる可能性が高まるため、解雇の前に事前に解雇すべきかどうかを検討する必要があります。

他方で、解雇相当の事情があるにもかかわらず、適切なタイミングを失してしまうと、他の従業員への影響や、取引先への影響等会社にとって看過できないほどの影響が生じるリスクもあります。

そこで、たとえ、アルバイト・パート社員を解雇しようと思ったとしても、まずは、解雇に

適切に対応すべく、会社側の労働問題、労務管理に精通した弁護士に相談しましょう。

この点、弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士は、これまで数多くの会社側の労働問題、労務管理に関する案件を解決に導いてきた実績がありますので、ぜひ一度相談されることを強くお勧めします。

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神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介
監修:弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長
保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)
兵庫県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

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