監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士
配偶者に浮気(不倫)をされた場合、精神的苦痛を被ったことに対して、配偶者や浮気相手に慰謝料の請求ができます。
過去の浮気についても慰謝料は請求できますが、いつまでも請求できるわけではありません。
いわゆる「時効」があるので注意が必要です。
本記事では、浮気の慰謝料請求の「時効」について、時効を止める方法、時効で浮気の慰謝料を取り逃さないためのポイントなど「浮気の慰謝料請求の時効」に関して、離婚問題、慰謝料問題に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が詳しく解説していきます。
浮気に関する慰謝料については下記ページで詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
浮気に関する慰謝料について目次
浮気(不倫)の慰謝料請求には時効がある!
浮気(不倫)をされたことによって、相手に慰謝料請求しようと思っても、事前に時効について確認する必要があります。
時効が過ぎてしまっていると、配偶者や浮気・不倫相手に慰謝料を請求できなくなる可能性が高いです。この場合、時効と除斥期間は以下の日となります。
- 配偶者の不貞行為を知った日、および浮気・不倫相手を知った日から3年
*ただし、以下で述べるとおり、浮気を原因として離婚に至ったとして、離婚の慰謝料として請求する場合には、この限りではありません。 - または不貞行為が始まった日から20年
浮気が発覚して、慰謝料請求をするかどうか悩んでいるうちに3年が経過すると、慰謝料を請求できなくなるおそれがあり、また、20年以上、配偶者の不倫に気付かなければ、慰謝料請求ができなくなるおそれがあるということになります。
浮気相手への慰謝料請求の時効は?
浮気相手に対しても慰謝料請求は可能です。
そのときの時効は以下になります。
- 浮気の事実を知り、浮気相手の存在を知ってから3年
なお、浮気相手の名前や住所などが特定できず、不貞相手が不明な状態では時効は進行しません。
しかし、浮気相手が不明のまま、不貞行為が起きてから20年が過ぎてしまうと、上記した除斥期間により慰謝料請求ができなくなるので注意が必要です。
慰謝料請求の時効はいつから起算する?
不貞行為をされた際に、相手に請求できる慰謝料は以下の2種類があります。
①不貞行為により精神的苦痛に対する慰謝料
配偶者と浮気相手が請求できる対象となります。配偶者のみ、浮気相手のみ、あるいは配偶者と浮気相手両方に請求しても問題ありません。
②不貞行為が原因で離婚に至った精神的苦痛に対する慰謝料
こちらは、離婚に至ったことを原因とするので、配偶者のみが慰謝料請求できる対象となります。
慰謝料の種類によって、慰謝料請求できる時効の起算日(カウント)が、下記表のとおり異なります。
①不貞行為に対する慰謝料 | 不貞行為や浮気相手の存在を知った日から数えて3年 |
---|---|
②離婚に対する慰謝料 | 離婚した日から数えて3年 |
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浮気の慰謝料請求の時効を止める5つの方法
浮気の慰謝料請求の時効を止めるには、時効の更新あるいは時効の完成猶予の方法があります。
時効の更新とは、時効をリセットして新しく時効を進行させることをいいます。
時効の完成猶予とは、一時的に時効の進行を止めて、実質的に時効を延長できることをいいます。
具体的には次のとおり5つの方法となります。
- 裁判で請求する
- 内容証明郵便を送付する
- 債務を承認させる
- 協議を行う旨の合意をする
- 仮処分・仮差押え・差押えを行う
下記項目で詳しく解説していきましょう。
①裁判で請求する
慰謝料請求の裁判を提起すると時効が更新され、裁判手続き中は時効が完成しません。
確定判決が出たとき、もしくは裁判上の和解をしたときから時効のカウントが再び始まり、慰謝料の請求権が確定したことにより、時効は10年となります。
裁判で決まった慰謝料を支払わなかった場合は、10年を過ぎる前に強制執行などの手続きを行って回収を図るようにすれば問題ないということになります。
なお、裁判の途中で、取下げをしてしまうと時効は更新されず、3年で時効が完成してしまうので注意が必要です。
②内容証明郵便を送付する
相手に慰謝料請求の意思を示すために「催告書」を内容証明郵便で送ると時効の完成が猶予され6ヶ月間延長ができます。
電話や普通郵便でも意思を示すことはできますが、確かに相手が受け取ったという証拠になりにくいため、「送った日時・宛先・内容」を郵便局が証明を行ってくれるので内容証明郵便を使用するのが一般的となっています。
しかし注意しないといけないのは、内容証明郵便を送付して、時効の完成が猶予できるのは1回限りとなっていますので、内容証明送付後に6ヶ月以内に慰謝料請求の裁判や調停を申し立てなければ時効が成立してしまいます。
③債務を承認させる
債務承認とは、配偶者や不倫相手に慰謝料の支払いを認めさせることをいいます。
債務承認をすると、慰謝料の請求権があることが確認されたと考えられ、時効の更新ができ、「慰謝料の支払いを認めた日から3年」が経過するまで時効は完成しません。
相手が「慰謝料を支払う」と意思を示せば、口頭でも成立しますが、証拠を残すために書面を残しておきましょう。つまり、その後に「支払うなんて言ってない」と言いだすようなトラブルを未然に防ぐため、示談書(合意書)や公正証書などを作成しておくことをお勧めします。
④協議を行う旨の合意をする
相手と慰謝料請求について協議をする旨を書面で合意できれば、時効を止めることも可能となります。
なお、協議を行う合意後は次の3つのうち、一番早いときまで時効が止まりますが、その後は再び、時効の進行が再開することになります(民法151条)。
①協議に合意してから1年経過したとき
②合意時の協議期間(1年未満の場合)を定めた場合、その期間を過ぎたとき
③一方が協議を拒否する書面を通知した場合、通知から6ヶ月経過したとき
⑤仮処分・仮差押え・差押えを行う
仮処分・仮差押え・差し押えの手続きを行うと慰謝料請求の時効を止めることができます。
それぞれどんな手続きなのか、時効をどれくらい止められるのか下記表にまとめました。
仮処分 | 配偶者や浮気相手の金銭債権以外の仮差押えができないものを仮に権利の処分禁止(現状維持の命令)を行ったり、仮に一定の地位を認めさせたりする手続き。 手続きが終了したときから6ヶ月間、時効の完成が猶予されます。 |
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仮差押え | 配偶者や浮気相手の財産を仮に差し押さえる手続き。 財産隠しを防止する目的で判決が出る前に行われるのが一般的です。 手続きが終了したときから6ヶ月間、時効の完成が猶予されます。 |
差押え | 配偶者や浮気相手の給与や預貯金などの財産を差し押さえる手続き。 確定判決や公正証書の内容どおりに慰謝料を支払わない場合に利用できます。 申立てから手続きが終了するまでの間、時効の完成が猶予され、手続きが終了したときに時効が更新されて新たに進行する時効は6ヶ月間となります。 |
民法改正による慰謝料請求権の時効への影響
2020年4月1日の民法改正によって、慰謝料請求権を始めとする権利の時効についても変更されました。
変更点は次のとおりです。
つまり、浮気が2020年4月1日の前か後かによって変わり得るところなので注意しましょう。
①改正前・・・不法行為のときから20年の「除斥期間」
改正後・・・不法行為のときから20年の「消滅時効」
「除斥期間」では20年経過すると問答無用で権利が消滅しますが、「消滅時効」では裁判の提起などを行えば、時効を中断することができるようになり、慰謝料請求できる範囲が広がりました。
②改正前・・・時効の「中断」、「停止」
改正後・・・時効の「更新」、「完成猶予」
「中断」、「停止」という概念を、意味や内容をそのままに「更新」、「完成猶予」という言葉に変更しました。概念の変更にすぎないため、改正によって影響はほぼありません。
時効が過ぎた後では慰謝料を請求できない?
時効はあくまでも相手方が時効を主張した場合(「援用」といいます。)に効果が出るものであるため、時効が過ぎた後でも、配偶者や浮気相手が任意で慰謝料の支払いに応じれば、受け取っても問題ありません。
また不貞行為の慰謝料の時効が過ぎていても、上記したとおり、その後、不貞行為が原因で離婚に至ったときは、離婚慰謝料として請求できるため、「離婚から3年以内」となりますので、時効の起算日が変わります。
また民法改正後は、時効は相手から「時効が完成しているので慰謝料は払いません」などと主張して時効の援用をしないと、請求権は消えません。
さらにいえば、相手が慰謝料の支払いを済んでから、「時効が完成していたから慰謝料を返してほしい」と述べて時効の完成を主張しても認められません。
時効で浮気の慰謝料を取り逃がさないためのポイント
配偶者の浮気の事実が発覚したら、時効もあるため、できるだけ早い段階で慰謝料請求の準備をして請求するようにしましょう。時効が過ぎてしまうと、相手が時効の存在を主張してくると請求できなくなってしまいます。
しかし、急いで慰謝料請求をしたばかりに、不倫の事実がわかる証拠が不十分であるなどと、相手が浮気の事実を認めず、支払いに応じないということも生じます。まずは証拠集めと浮気相手の情報集めを行い、準備が整い次第、相手に請求するようにしましょう。
証拠集めや浮気相手の情報集めは、予想外に時間がかかるものです。
時効まで時間があると余裕に思っていたら、気付いたら時効寸前ということにならないように、法律の専門家である弁護士に依頼することもお勧めします。弁護士に証拠を確認してもらいながら、正確な時効を把握してもらい、時効を念頭に置きながらサポートしてもらうと慰謝料を時効によって取り逃がすようなことは防げるでしょう。
浮気の慰謝料の時効に関するQ&A
以下、浮気の慰謝料の事項に関してよくある質問を取り上げたいと思います。
5年前の浮気を最近知ったのですが、浮気相手に慰謝料を請求することは可能ですか?
不貞行為に関する慰謝料請求の時効は
- 不貞行為を知った日、および浮気・不倫相手を知った日から3年
または - 不貞行為があったときから20年
です。
5年前の浮気を最近知った場合は、時効は成立しておらず慰謝料請求が可能です。
浮気相手に対する慰謝料請求は、浮気相手が誰なのか特定してから時効が開始するため、特定後3年以内に請求すれば問題ありません。
10年前の浮気が発覚したのですが、既に離婚しています。元夫に慰謝料を請求することはできますか?
元夫に慰謝料請求できるかどうかは、もっと細かな事情や状況によります。
例えば、10年前の浮気が発覚して、その浮気が原因で離婚して3年以内であれば、慰謝料請求できるでしょう。
しかし、離婚して3年以上経過している場合には請求できません。
もし、浮気相手にも請求したいと考えるならば、浮気相手の特定ができたのが過去3年以内であれば慰謝料請求もできますが、特定から3年以上経っていれば請求できません。また、既に別の原因で離婚したと思われることから、慰謝料額もそう多額とはならないでしょう。
10年前の浮気の慰謝料を請求できるかはとても判断が難しいので、やはり一度弁護士に相談することをお勧めします。
時効を止めるために裁判を起こしたいのですが、相手の居場所が分かりません。
何か対処法はありますか?
相手の電話番号やメールアドレスがわかれば、弁護士会照会という手続きによって、携帯電話会社に照会をかけて相手の氏名・住所・自宅電話番号など相手の情報が特定できる可能性があります。
そのほかに以前住んでいた住所がわかれば、職務上請求を利用して住民票や戸籍の附票をたどり、現在の住所を特定することも可能です。
どのような調査を経ても相手の住所がわからない場合は、公示送達という方法があります。
公示送達は、裁判所の掲示板に裁判を提起した旨を記載した書面を掲示します。
掲示期間の2週間が経過すれば相手に訴状を送達したのと同じ効力が発生します。
ただし、結局は、相手方の所在不明で相手方に支払わせることが難しいと考えられるため、あまり期待値は高くもつべきとはいえません。
いずれの方法もご自身で行うのは困難ですので、弁護士に相談して、どの方法で裁判を行うか検討することをお勧めします。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
浮気の慰謝料請求は早い段階で行う必要があります。まずは弁護士にご相談下さい。
浮気による慰謝料を請求したいとお考えの方は、これまで説明してきたとおり、時効がありますのでご注意ください。
配偶者に請求するのか、浮気相手に請求するのか、配偶者と離婚をするのか、しないのかによって、時効の起算日(カウント)が異なります。
また、時効を止める方法もありますが、ご自身の状況にどの方法が最適なのか判断が難しい場合もありますし、裁判を起こす方法で時効を止める場合は、専門的知識が必要なためご自身のみでの対応はとても困難です。
浮気による慰謝料請求をお考えの方やお困りのある方は、ぜひ弁護士にご相談ください。
ご自身の状況を伺って、時効がいつなのかをお伝えして、時効を念頭に置きながら、不貞行為のわかる証拠集め、浮気相手の特定などの準備から、相手との直接交渉、裁判の提起などの慰謝料を獲得するまで、トータルサポートさせていただきます。
まずは、離婚問題、慰謝料問題に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士にお気軽にご相談ください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)