監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士
交通事故後は、一定期間治療を続けても「腕や足が動かない」「曲がらない」「痛みで曲げられない」といった後遺症が残ることがあります。この症状は「可動域制限」といわれ、後遺障害等級が認定される場合があります。
ただし、後遺障害等級認定を受けるには、残った症状を訴えるだけでなく、適切な検査を行い医学的根拠にもとづいた主張をする必要があるため注意が必要です。
そこで、可動域制限で後遺障害等級認定を受けるためのポイントを、交通事故に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が本記事で解説していきます。
目次
可動域制限とは
可動域制限とは、腕や足といった関節の動く範囲が狭くなることです。可動域制限が残ると、物をうまく持てなかったり,歩行が困難になったり、重心のバランスが取れず転倒しやすくなったりと日常生活にも支障が出る可能性があります。
交通事故では、一定期間治療を継続しても可動域制限が残ってしまうケースは比較的多く見られます。では、具体的にどんな怪我が可動域制限につながるのか、以下で確認しましょう。
交通事故による可動域制限の原因
交通事故では、以下の症状によって可動域制限が起こりやすいです。
【関節の器質的変化】
骨折や脱臼、軟部組織(筋肉・腱・靭帯)の損傷のことです。これらの怪我によって関節が破壊され、癒合不良や変形癒合が起こると、可動域制限につながります。
【神経麻痺】
交通事故の衝撃により神経麻痺が起こると、自力で関節を動かすのが難しくなります。
どの神経を麻痺したかによって症状は異なりますが、腕の感覚障害・指の屈曲障害・筋力低下による下垂手などが現れるのが一般的です。
【人工関節や人工骨頭の挿入・置換術】
交通事故で膝関節や股関節を損傷すると、痛みを取り除くため人工関節や人工骨頭を挿入・置換することがあります。しかし、人工関節や人工骨頭の可動域は決まっており、それを超えて動かすことはできません。そのため、人工関節や人工骨頭を挿入・置換すると、日常生活では正座の姿勢や激しい運動が制限されるでしょう。
可動域制限の後遺障害等級認定に必要な要件
可動域制限で後遺障害等級認定を受けるには、「機能障害」として以下3つの症状のうちいずれかに該当する必要があります。どの症状に該当するかによって等級が変わるため、しっかり把握しておくことが重要です。
ただし、いずれかに該当さえすれば良いわけではありません。適切な後遺障害等級認定を受けるには、可動域制限の原因が「器質的変化(骨や軟部組織の損傷)」だと画像検査結果や診断結果から証明したり、交通事故と可動域制限の因果関係を立証したりするのがポイントです。
関節の「用を廃したもの」
関節の「用を廃したもの」とは、以下のいずれかにあてはまる状態をいいます。
- 関節が完全に固まって動かないか、それに近い状態※であること
- 関節が完全弛緩性麻痺によって動かないか、それに近い状態※であること
- 人工関節や人工骨頭を挿入・置換した関節のうち、可動域が健側(怪我をしていない側)と比べて2分の1以下に制限されたもの
※可動域が健側の10%以下であること
関節の機能に「著しい障害」が残ったもの
関節の機能に「著しい障害」が残ったものとは、以下どちらかの状態をいいます。
- 関節の可動域が、健側と比べて2分の1以下に制限されたもの
- 人工関節や人工骨頭を挿入・置換した関節のうち、可動域が健側と比べて2分の1以下に制限されていないもの
よって、人工関節や人工骨頭を挿入・置換した場合、それだけで関節の機能に「著しい障害」が残ったとして、後遺障害等級が認定されることになります。
関節の機能に「障害」が残ったもの
関節の機能に「障害」が残ったものとは、以下の状態をいいます。
- 関節の可動域が、健側と比べて4分の3以下に制限されたもの
上記2つと比べて軽い症状ですが、関節の機能に可動域制限という「障害」が残るだけでも日常生活に支障が出ます。例えば、衣類の着脱・洗顔・洗髪がスムーズにできなかったり、走る動作や膝を曲げて座る動作が困難になったりすることが考えられます。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
可動域制限の後遺障害等級と慰謝料
ここで、可動域制限で認定され得る「後遺障害等級」と「後遺障害慰謝料」の金額をみていきます。可動域制限が残った部位と症状の程度によって大きく異なるため、しっかり検査してから後遺障害等級申請を行いましょう。
また、以下の後遺障害慰謝料は、基本的に最も高額な「弁護士基準」の金額を記載しています。弁護士基準で請求できるのは基本的に弁護士だけですので、弁護士基準での慰謝料等の増額交渉は弁護士に依頼することをおすすめします。
上肢の障害(肩関節・肘関節・手関節)
等級 | 後遺障害の内容 | 後遺障害慰謝料 (弁護士基準) |
---|---|---|
1級4号 | 両上肢の用を全廃したもの | 2800万円 |
5級6号 | 1上肢の用を全廃したもの | 1400万円 |
6級6号 | 1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの | 1180万円 |
8級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの | 830万円 |
10級10号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの | 550万円 |
12級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの | 290万円 |
下肢(股関節・膝関節・足関節)
等級 | 後遺障害の内容 | 後遺障害慰謝料 (弁護士基準) |
---|---|---|
1級6号 | 両下肢の用を全廃したもの | 2800万円 |
5級7号 | 1下肢の用を全廃したもの | 1400万円 |
6級7号 | 1下肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの | 1180万円 |
8級7号 | 1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの | 830万円 |
10級11号 | 1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの | 550万円 |
12級7号 | 1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの | 290万円 |
可動域制限が認められた裁判例
【大阪地方裁判所 平成28年9月16日判決】
原告が運転する自転車と、被告が2人乗りで運転する自転車が正面衝突した交通事故です。本事故で、原告は左鎖骨遠位端骨折などを負いましたが、可動域制限をめぐり後遺障害等級認定の可否が争われました。
裁判所は、医師の見解を踏まえ、「本事故での怪我によって可動域制限が残るのは不思議ではないこと」「今後、肩関節の拘縮によって可動域がさらに制限されるのが医学的に常識であること」を認めました。
一方、被告は、「原告の可動域制限の原因は加齢による肩関節周囲炎であり、本事故とは因果関係がないこと」「検査結果から症状が緩和していること」などを主張しましたが、裁判所は、被告の主張の裏付けや測定方法が不十分だとして被告の主張を却下しました。
その結果、裁判所は、原告の左肩関節の可動域制限は「後遺障害等級10級10号」に該当するのが相当だと認めました。
可動域制限の後遺障害が残ってしまったらご相談ください
可動域制限が残ると日常生活にさまざまな支障が出るため、きちんと補償を受けるべきです。しかし、適切な後遺障害等級認定を受けるにはコツがあるため、交通事故に精通した弁護士に相談することをおすすめします。交通事故に精通した弁護士であれば、適切な検査内容や後遺障害診断書の有効な書き方を熟知しているため、被害者の方個人で後遺障害等級認定申請等を行うより有利に進められる可能性が高まります。
弁護士法人ALG&Associatesは交通事故事業部を設置しており、交通事故事案の経験が豊富な弁護士が揃っています。そのため、結果を追求することはもちろん、ご依頼者様ひとりひとりに寄り添った対応をすることができます。弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士は,かつて,交通事故事業部に所属していた弁護士も所属しており,日々多くの交通事故の被害者の方から依頼を受け,解決に導いているという実績があります。
交通事故による苦痛を和らげるためにも、可動域制限が残ってしまった方は、ぜひお気軽に弊所へご相談ください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)