監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士
交通事故の被害に遭われた際、複数の部位を負傷されるケースも少なくありません。
例えば、自転車に乗車していて乗用車に衝突されて、転倒した際に左膝と左肩を負傷するなどのケースでは、左膝の痛み・可動域制限、左肩の痛み・可動域制限など、2つ以上の後遺症が残ってしまうことがあります。
後遺症については、「後遺障害」として認定される場合、「後遺障害」が1つだけ認定されたときよりも、2つ以上認定された方が、当然残存した症状についての被害者の方の負担や苦痛が大きくなるので、2つの「後遺障害」を合わせてより重い等級へと引き上げられることがあります。
これを「後遺障害」の【併合】というのですが、【併合】された等級によって、後遺障害慰謝料などの金額が決まるため、【併合】の仕組みを知っておくことは重要といえます。
そこで、本記事では、交通事故案件に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が、複数の後遺障害が残ってしまった場合の「併合」について、基本的なルールや併合が行われないケース、慰謝料の相場などについてご説明しますので、ぜひお目通しください。
目次
後遺障害の併合とは
交通事故によって、痛みなどの後遺症が残存し、「後遺障害」として認定される場合があります。
そして、上記でも触れましたが、2つ以上の症状が「後遺障害」として認定される場合があり、その場合には、【併合】という処理がなされることになります。
【併合】により、結果として、複数の「後遺障害」について1つの等級を定めることになるのですが、詳しいルールなどは以下述べていくこととします。
なお、「後遺障害」とはそもそも何かについては、以下の記事でも解説しておりますのでぜひご参照ください。
等級認定について詳しく見る加重との違い
「後遺障害」が【併合】して評価されるルールがあるのですが、少し似ているものとして「加重」というルールがありますので、少し触れておきます。
「加重」とは、分かりやすく言えば、事故前から障害や症状を持っていたところ、交通事故に遭い、そのために、その障害や症状の程度がより重くなった場合を想定していただくと良いかと思います。
この場合、今回の事故での障害・症状によって生じる損害のすべてが、今回の交通事故によるものだとは言えないため、事故前からある障害や症状の分の金額は差し引かれる、という扱いとなります。
後遺障害の併合の基本ルール
それでは、具体的に、「後遺障害」の【併合】のルールを見ていき、理解を深めていきましょう。
「後遺障害」の【併合】のルールを定めているのは、自動車損害賠償責任法(自賠法)であり、自賠法に基づき、以下のように4つのルールにしたがって、【併合】が行われることが基本であるため、まずは確認するようにしましょう。
- 5級以上の後遺障害が2つ以上残っているのであれば、最も重い等級を3級繰り上げる
- 8級以上の後遺障害が2つ以上残っているのであれば、最も重い等級を2級繰り上げる
- 13級以上の後遺障害が2つ以上残っているのであれば、最も重い等級を1級繰り上げる
- 14級の後遺障害が2つ以上残っているときは、①~③のような繰り上げはせず、14級のまま
後遺障害の併合の例
上記の基本ルールに沿って、具体的に、「後遺障害」の【併合】の例を見ていきましょう。
-
上記①のルールに沿った【併合】の例
- 両眼の視力が0.06以下(4級1号)
- 右手ないし左手を手関節以上で失った(5級4号)
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上記②のルールに沿った【併合】の例
- 両眼の視力が0.1以下になったもの(6級1号)
- 外貌に著しい醜状が残った(7級12号)
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上記③のルールに沿った【併合】の例
- 10歯に対し歯科補綴を加えたもの(11級4号)
- 外貌に醜状が残った(12級14号)
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上記④のルールに沿った【併合】の例
- 頚部に神経症状が残った(14級9号)
- 腰部に神経症状が残った(14級9号)
併合の例外|ルールが変更されるケース
上記の【併合】の際の①~④のルールは、基本的なルールなので、負傷した部位や内容などの場合によってはそのルールに当てはまらないというケースもあります。
そこで、以下、具体的に、どのようなケースで、【併合】のルールが変更されるのかを見ていきましょう。
同一部位に後遺障害が残った場合(みなし系列)
【併合】のルールが適用されないケースとして、みなし系列の場合が挙げられます。
そもそも、「後遺障害」の等級、種類は、身体を10の部位に分け、各部位の機能障害を35種類の障害に分け、一定の順序で並べられているのですが、かかる35種類の障害に分けたものを障害の「系列」といいます。
「後遺障害」が1つだけ認定された場合、特に「系列」を意識する必要はありません。
しかし、2つ以上の「後遺障害」が残った場合、それらが同一の「系列」に属する障害か、異なる「系列」に属する障害かによって変わることがあり、このうち、「系列」が異なる2つ以上の「後遺障害」がある場合でも、以下のように、同一部位に後遺障害が認定された場合は、【併合】としてではなく、同一の「系列」として取り扱われます(みなし系列といいます)。
例:左手関節の可動域制限と、左手指の可動域制限
右足の可動域制限と、右親指の欠損
*「系列」については、以下のように分類されていますので、ご参照ください。
序列を乱す場合
【併合】のルールが適用されない2つ目のケースとしては、「序列」を乱す場合が挙げられます。
「序列」とは、障害の内容や程度を基礎として、障害の重さの上下を定めたとイメージしてもらえると良いかと思います。
上記で見た①~④の【併合】のルールに基づき、等級を繰り上げたものの、実際に残存した「後遺障害」の症状が、繰り上がった等級の「序列」に適しないようなケースがあり、それを「序列」を乱す場合としています。
等級を【併合】することで、「後遺障害」の「序列」を乱してしまう場合は、「序列」に従って等級認定が行われることになります。
こうした説明だけでは分かりにくいかと思うので、以下に例を挙げて説明していきます。
左足を膝関節以上で失った+右足が使えなくなった
例えば、以下のようなケースを想定してみましょう。
- 左足を膝関節以上で失った(4級5号)
- 右足が使えなくなった(5級7号)
この場合には、【併合】のルールの①に従うと、本来であれば、5級以上に該当する後遺障害を2つ以上有しますので、最も重い等級(4級)を3等級上げ、最終的に併合1級に該当するはずです。
しかし、実際の1級には「両足を膝関節以上で失った」(1級5号)と、「両足が使えなくなった」(1級6号)がある反面、上記⑴左足を膝関節以上で失った(4級5号)、⑵右足が使えなくなった(5級7号)では、1級相当とは言い難いと言えるかと思います。
このため、結果的に与えられる等級は、直近の下位にあたる併合2級に留まることになります。
組み合わせ等級がある場合
【併合】のルールが適用されない3つ目のケースとしては、組み合わせ等級がある場合が挙げられます。
組み合わせ等級とは、等級の評価のルールにおいて、左右を合わせた障害の等級があらかじめ定められている場合を指し、この場合は、組み合わせ等級が優先します。
例えば、以下のようなケースです。
- 右手の全ての指の用を廃した(7級7号)
- 左手の全ての指の用も廃した(7級7号)
このような場合、【併合】のルールの②によれば、等級が2等級繰り上がり、併合5級となりそうです。
しかし、両手の全ての指の用を廃した場合は、そもそも、4級6号という組み合わせ等級が定められているので、併合5級ではなく4級6号が適用されるという仕組みです。
併合によって1級以上になる場合
最後に、【併合】のルールが適用されない4つ目のケースとしては、【併合】によって1級以上になる場合が挙げられます。
そもそも、「後遺障害」の等級については、1級以上の障害等級は存在しないため、【併合】した結果、例えば、①のルールにそって3等級繰り上げると、障害等級が1級を超えている場合でも1級より等級が上がることはありません。
つまり、1級以上の障害等級は用意されていないため、併合第1級として扱われるにとどまります。
後遺障害の併合が適用されないケース
上記では、主に【併合】されるような場合でも、【併合】のルールが適用されないケースについて解説しました。
しかし、いくつかの「後遺障害」を負うことになっても、そもそも【併合】自体が行われないケースも、以下のとおり、存在します。
⑴第1級1号や2号、第2級1号や2号などの介護の必要のある後遺障害は併合されない
【併合】の対象となるのは、介護の必要のない「後遺障害」のみであり、要介護の「後遺障害」がある場合には、「後遺障害」が複数あったとしても、併合は行われません。
要介護の「後遺障害」としては、以下のⅰ~ⅳとなります。
- 1級1号:神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
- 2号:胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
- 2級1号:神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
- 2号:胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
⑵同じ「系列」の「後遺障害」は併合されない
「系列」については、上記したとおりですが、「系列」が同じ「後遺障害」の場合は【併合】の処理がなされません。
例えばですが、右肘関節の機能に著しい障害を残し(第10級)、かつ、右肩関節の機能に障害を残した場合(第12級)、これらはいずれも右上肢の機能障害であり、同一系列(系列番号18)の後遺障害になるため、【併合】の処理はなされません。
ただし、このような場合であっても、併合と「同様」の処理で第9級「相当」と扱われることになります(「相当等級」といいます)。
後遺障害等級を併合した場合の慰謝料はどうなる?
ここまで、後遺障害が【併合】して評価される場合とはどのような場合か、【併合】のルールが適用されない場合はどのような場合かを見てきました。
それでは、後遺障害等級を【併合】した場合の慰謝料はどうなるのかを確認しましょう。
まず、そもそもの話ですが、慰謝料を計算する基準には、①自賠責基準、②任意保険基準、③弁護士基準(裁判基準)という3つの基準があり、基本的には、①自賠責基準≦②任意保険基準<③弁護士基準(裁判基準)という順で、③が最も高額となります。
以下に、①自賠法基準と、③弁護士基準(裁判基準)の差を確認していただくために、分かりやすく表にしましたので、ご確認ください。
表を見ていただくと、①自賠責基準よりも③弁護士基準(裁判基準)の方が、どの等級においても慰謝料が高額になることがお分かりいただけると思います。
ただ、「後遺障害」が【併合】された場合、3つの計算基準のいずれの場合でも、「併合前の複数の等級に応じた慰謝料の合計額」と「併合後の等級の慰謝料額」を比べ、低額な方を適用することになっているので、念のためにご注意ください。
後遺障害等級 | 自賠責基準での後遺障害慰謝料 ※()内の金額は2020(令和2)年3月31日以前に 発生した交通事故の場合です |
|
---|---|---|
別表第1 | 1級 | 1650万円(1600万円) |
2級 | 1203万円(1163万円) | |
別表第2 | 1級 | 1150万円(1100万円) |
2級 | 998万円(958万円) | |
3級 | 861万円(829万円) | |
4級 | 737万円(712万円) | |
5級 | 618万円(599万円) | |
6級 | 512万円(498万円) | |
7級 | 419万円(409万円) | |
8級 | 331万円(324万円) | |
9級 | 249万円(245万円) | |
10級 | 190万円(187万円) | |
11級 | 136万円(135万円) | |
12級 | 94万円(93万円) | |
13級 | 57万円(57万円) | |
14級 | 32万円(32万円) |
通院期間 | 重傷 | 軽傷 |
---|---|---|
1ヶ月 | 28万円 | 19万円 |
2ヶ月 | 52万円 | 36万円 |
3ヶ月 | 73万円 | 53万円 |
4ヶ月 | 90万円 | 67万円 |
5ヶ月 | 105万円 | 79万円 |
6ヶ月 | 116万円 | 89万円 |
7ヶ月 | 124万円 | 97万円 |
8ヶ月 | 132万円 | 103万円 |
9ヶ月 | 139万円 | 109万円 |
なお、慰謝料の3つの基準については、以下の記事でも解説しておりますのでぜひご参照ください。
自賠責基準について詳しく見る 弁護士基準について詳しく見るまずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
後遺障害の併合についてご不明な点がございましたら弁護士にご相談ください
これまで見てきたとおり、「後遺障害」での等級の認定は、後遺障害慰謝料の額に反映されるなど被害者の方が適正な賠償を受ける上でとても重要です。
そして、交通事故において複数の部位を負傷されるようなケースも少なくなく、その場合には、「後遺障害」の【併合】についても、きちんと理解をして、どのように等級の認定を受けていくか把握しておくべきです。
この点において、弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士は、交通事故の経験も豊富であり、「後遺障害」の等級認定申請手続きを被害者請求で行い、適正な等級が認定されたケースや異議申立てで結果を覆らせたケース等多数の実績を残しています。
今後、「後遺障害」の等級の認定申請を行う方や異議申立てを検討される方は、まずは一度、弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士にご相談ください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)