労務

テレワークで会社が行うメンタルヘルス対策とは

神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介

監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士

  • メンタルヘルス

新型コロナウィルスの流行に伴い、インターネット等のICTを活用して自宅等で仕事をするテレワークという働き方が、外出が少なく感染予防にも繋がるということで、多くの会社で導入され始めています。
テレワークの導入当初は、通勤時間の短縮や業務効率化、オフィスコストの削減などのメリットが大きく評価されていました。しかし、テレワークの導入から時間が経過し、仕事とプライベートとの切り分けが難しく、長時間労働になりやすいことや社員同士のコミュニケーションがとり辛いなどの思わぬ問題も指摘され始めています。
こういった問題は、テレワークで働く労働者のメンタルヘルスに大きく影響しており、会社としても、テレワークで働く従業員に関するメンタルヘルス対策を講じる必要があると指摘されています。
そこで、本記事では、労務問題、会社側の労働問題に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が、テレワークで会社が行うべきメンタルヘルス対策の具体的な内容等を記載していきますので、最後まで読んでいただければ幸いです。

テレワークにおいてもメンタルヘルス対策が必要な理由

会社としては、社員が健康で安全に働くための職場環境づくりやメンタルヘルス対策を行う責任があり、それは、労働基準法や労働安全衛生法、各種指導指針等に明記されています。
当然ながらテレワークによる働き方をしている従業員に対しても、会社には、従業員のメンタルヘルス対策を行う責任があります。そして、実際のところ、テレワークで働く従業員がメンタルヘルスの不調を訴え、休職した場合、会社としては、人員配置や業務量の調整等の問題が生じますので、無視できる問題ではありません。
そのため、会社として、テレワークにおいてもメンタルヘルス対策が欠かすことはできません。

テレワークにおけるメンタルヘルス不調の現状

株式会社リクルートが、2020年に、テレワークに関する調査を行いました。
それによると、対象者全体の59.6%がテレワークが導入されるまで感じなかったストレスを感じていると回答したとのことです。そして、その内の67.7%は未だにそのストレスを解消できておらず、さらに年代があがるほどストレス解消ができていない割合が高いとの結果が得られたようです。
そのため、テレワーク特有の原因でストレスを受ける従業員が多いと考えられ、そのストレスを解消できていない従業員が半数以上もいるため、テレワークによる働き方を継続するにあたり、会社として、テレワーク独自のメンタルヘルス対策を講じる必要があるといえます。

新型コロナウイルス禍における働く個人の意識調査 テレワーク経験者の6割、テレワーク前にはなかったストレスを実感 仕事中の「雑談」有無の違いでストレス解消具合に14.1ptの差(株式会社リクルート)

テレワークでメンタルヘルス不調が起きる主な要因

テレワークで働く従業員がメンタルヘルス対策をするためには、そのメンタルヘルスの不調の原因を知る必要があります。
そこで、テレワーク独自の主なストレス原因と思われるものを、以下で具体的に説明していきます。

コミュニケーション不足になりやすい

テレワークで働く場合、仕事場として選択されるのは、自宅であることがほとんどです。
そのため、会社に出社して勤務するように、周囲に同僚や上司がいない状況で働くため、同僚や上司とのコミュニケーションが取りにくいという状況が生じます。
こうしたコミュニケーション不足が原因で、従業員は同僚等との何気ない会話や相談がし辛くなり、悩みを抱え込み、孤独感や孤立感を感じるようになるものと思われます。
そして、このコミュニケーション不足がテレワーク独自のストレスの原因と指摘されています。

仕事とプライベートの切り替えが難しい

テレワークで働く場合、通勤して会社に出社して働かず、自宅などを仕事場とすることがほとんどです。そのため、仕事場とプライベートの場が同じであることから、仕事とプライベートをうまく切り替えられず、家にいる間はずっと労働をし続ける等の長時間労働の問題を引き起こしていると指摘されています。
従来であれば、仕事場から自宅に帰宅することで、強制的に仕事から抜け出せていたのが、テレワークという働き方で、仕事場とプライベートの場の境界線が薄まったために起きた問題であり、テレワーク独自のストレス要因だといえるでしょう。

上司からの評価に不安がある

テレワークに伴う不調の原因として、既に指摘したコミュニケーション不足に起因するものでもありますが、テレワークは、上司との会話や相談等、目に触れることが少なくなります。
そのため、従業員としては、上司とのコミュニケーションで感じられる自身に対する評価等を感じ取れる機会が少なくなり、自身がどう思われているか、どう評価されているかの予測を立てることができず、ストレスを感じるようです。

作業環境が整っていない

テレワークは、上記したとおり、自宅で作業することが多いために、パソコン等の通信機器の準備が欠かせません。
これに対して、会社であれば、パソコン機器や通信環境等が自然に整い、作業環境を高めることができます。しかし、生活する場でもある住居で、会社と同程度の作業環境を準備できず、会社で働くよりも作業環境が悪化することがあります。
そのため、従業員として、会社で勤務しているときには感じなかった作業効率の低下に対して、ストレスを感じることがあるようです。

運動不足になりやすい

テレワークは、会社に通勤することなく、自宅で働くことがほとんどであり、そのため、今までにあった会社への通勤で自然と伴っていた運動や昼休憩での外出等に要する運動がなくなったことで、運動不足に陥りやすくなりました。
また、仕事場と生活する場が一体と化していますので、従業員としては、家から出る必要性があまりありません。そのため、元々運動不足気味であった者が、より運動不足になり、それによって知らずのうちにストレスを感じることがあるようです。
これも住居で就業させるというテレワーク独自のストレス要因だといえるでしょう。

従業員のメンタルヘルス不調を知らせるサインとは?

従業員のメンタルヘルス不調を知らせるサインとして、①心理面、②体調面、③行動面に大別した方が分かりやすいと思われます。
まず、①心理面での不調のサインは、憂鬱感、不安、イライラ、気分の落ち込み等が挙げられます。こういったサインは、本人は気づきにくいため、見落としされやすいものだといえるでしょう。また、テレワークによるストレス以外の可能性もあるため、余計に見落としがちになる可能性があります。
次に、②体調面での不調のサインは、食欲不振、睡眠障害等が挙げられます。この点も他の原因が考えられるため、テレワークによるストレス要因だと見落とされる可能性が高いものといえるでしょう。
最後に、③行動面での不調のサインは、無気力、挑戦することが減った、会話が減った、ミスが増えた等が挙げられます。行動面での不調は、会社で勤務していれば周囲の人間が気づくことができ、早期に対応できていたのですが、テレワークだとそれは期待できないでしょう。

テレワークで会社が行うメンタルヘルス対策

それでは、上記で指摘したストレス要因を念頭におきつつ、会社が行うべきメンタルヘルス対策を説明していきます。

定期的にオンライン面談を行う

メンタル不調の原因として、コミュニケーション不足によるストレス要因が挙げられていたことから、会社として、定期的に従業員とのオンライン面談を行うべきでしょう。
面談ではありますが、仕事のことだけでなく、雑談を交えることも重要だと思われます。そのため、1対1にこだわらず、多人数での面談も検討するべきです。 また、面談では、長時間労働になっていないかの確認し、業務量の調整等をできるようにしましょう。
そして、面談を行う上で、本人の話し方、身なりなどから、不調のサインが生じていないかの確認をするべきでしょう。

健康に関する相談窓口を設置する

会社として、自身の不調に気づいた従業員のために、心身の健康について相談できる窓口を設置するべきです。例えば、相談がしやすいように、メールやチャット、電話等で相談できるように整備しておくのも良いでしょう。
また、そこでの相談内容については、きちんと記録に残し、誰にどの時点でどのような不調があるのかを把握しやすいようにしておきましょう。

ストレスチェックを定期的に実施する

上記したとおり、メンタルヘルスの不調を知らせるサインは、テレワークという特殊な環境の中では、多くは本人にとって気づきにくいものです。また、テレワークによって周囲の人間による発見もあまり期待できないことから、疲労度などを従業員自身で確認できるストレスチェックを定期的に実施するべきでしょう。
そして、その結果を踏まえて上記のような面談等を行うとより効果的にメンタルヘルス対策ができるでしょう。

メンタルヘルスに関する教育研修を実施する

テレワークは最近できた働き方であるため、テレワーク独自のストレス要因が周知されているとはいえません。そのため、管理職や全従業員を対象に、メンタルヘルスに関する教育研修を実施するべきです。
従業員に対しても、テレワーク独自のストレス要因等を周知することで、従業員ごとのセルフケアを期待でき、またセルフチェックやオンライン面談等の対策をより効果的に実施できるでしょう。

労働時間の管理を徹底する

テレワークであっても、長時間労働がメンタルヘルスに悪影響を及ぼすことは言うまでもありません。特に、テレワークの場合、職場と住居が一体化していることや会社の管理が届かないことから、従業員が長時間の労働をしてしまう可能性が非常に高く、またそういった事態に会社として気づきにくい問題があります。
そのため、労働時間の管理の徹底は必須の対策です。具体的な対策としては、会社の社内システムへ外部からアクセスして仕事をする場合には、時間外や夜間、休日は許可のない限りアクセスできないようにするなどの対応が考えられます。
また、時間外や夜間、休日に業務に関するメールを送ることも原則として禁止とする、といった対応も考えられます。さらにいえば、パソコンなどに残された記録から時間外労働等が発覚した場合、オンライン面談での指導を行うなどのことも考えられます。

テレワークに適した作業環境に整備する

住居での作業環境を会社と同程度にするようサポートする、ということも重要でしょう。
そのため、例えば、住居を職場とする場合、パソコン等の通信機器の支給や通信環境を整えるための在宅勤務手当(WIFI料金相当額等)等の支給を行うべきでしょう。
また、住居を仕事場とできない従業員のために、シェアオフィスを契約し、その利用を推奨する方法もあります。

必要に応じて産業医と連携を図る

上記メンタルヘルス対策をする上で、産業医との連携は欠かせません。
業種によってストレス要因等も変化する可能性もありますので、諸事情を考慮して、具体的なメンタルヘルスケアの実施について、産業医と協議等をして、連携を図るべきでしょう。
また、テレワークによるストレスが原因でメンタルヘルス不調になった従業員がいる、職場復帰に対する支援について、産業医との連携は欠かせません。
そのため、会社として、メンタルヘルス対策を行う上で、産業医との連携は必須だと考えるべきです。

メンタルヘルスと使用者の安全配慮義務に関する判例

メンタルヘルス対策において、会社に多額の損害賠償を命じた判例として、最も有名なものが「電通事件」(最高裁平成12年3月24日第二小法廷判決)です。そこで、この判例について、紹介いたします。

事件の概要

大学卒業後、大手広告代理店Y社に入社した従業員Xは、ラジオ局に配属され企画立案などの業務に携わっていました。しかし、入社して4か月が経過した頃から、残業で深夜に帰宅することが多くなり、ときには社内で徹夜をして帰宅しない日もありました。Xの上司は、Xのこうした勤務実態を認識していたものの、業務調整等の対策を取ることはありませんでした。そして、Xは、こういった生活が続いたため、長時間残業、深夜勤務、休日出勤などの過重労働が続き、結果として入社から1年5カ月後に自殺してしまいました。
その後,このXの遺族が,Y社等に対して、従業員の長時間労働防止措置の懈怠による安全配慮義務違反等を理由に損害賠償請求をしました。

裁判所の判断

最高裁は、Y社について、「使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負担等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務が負い、使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の右注意義務の内容に従って、その権限を行使するべきである。」と指摘しました。
そして、Y社が、Xが恒常的な過重労働に従事していること及びその健康状態が悪化していることを認識しながら、その負担軽減措置を取らなかったとし、安全配慮義務違反を認定しました。
その結果、Y社とXの遺族との間で、多額の金銭を支払うという内容の和解が成立しました。

ポイント・解説

この判例のポイントは、会社が負う安全配慮義務に「労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務」が含まれることを明確に認定した点にあります。
そして、この最高裁判例以降、上記最高裁判例が指摘した注意義務と同一内容の義務を,会社が労働契約上の安全配慮義務として負うという判例法理が確立しました。

テレワーク下でのメンタルヘルス対策は、弁護士への相談をおすすめします。

新型コロナウィルスという未知だった感染症が拡大し、テレワークという新しい働き方ができてから、まだ間もない状況です。
そのため、テレワークを実施したものの、うまくいかなかったり、従業員の健康面で問題が生じてしまった会社やテレワークを実施する上でどのようにメンタルヘルス対策をするべきかと悩んでいる会社が多いと思われます。
従業員のメンタルヘルス対策を怠ると、後から多額の損害賠償を求められる等、大きなリスクを抱えることとなりますので、中途半端なメンタルヘルス対策を取るべきではありません。
そのため、テレワーク下でのメンタルヘルス対策について、一度、労務問題、会社側の労働問題に詳しい弁護士に相談されることをおすすめします。
この点、弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士は、これまで多数の労務問題、会社側の労働問題の相談を受け、解決してきたという実績があります。
既にメンタルヘルス対策を取っている会社には、より効果的なテレワーク及びそのメンタルヘルス対策をご提案できることもありますし、これからメンタルヘルス対策を検討しようという会社には様々な観点からのアドバイスが可能かと思いますので、ぜひ一度ご相談ください。

神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介
監修:弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長
保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:51009)
兵庫県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

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