監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士
- テレワーク
令和2年(2020年)4月の緊急事態宣言の発令をきっかけに、【テレワーク】の導入や検討は多くの企業にとって身近なトピックになりました。
【テレワーク】とは、情報通信技術(ICT)を活用し、時間や場所にとらわれずに柔軟に働くことができる勤務形態のことを指します。ちなみに「リモートワーク」ということもありますが、両者の違いはあまりありません。
そもそも働き方改革と東京オリンピックの混雑緩和のために注目されていた【テレワーク】ですが、新型コロナウイルスの流行に伴い、【テレワーク】の導入・実施を考えている会社も多いのではないでしょうか。
ちなみに、令和3(2021年)3月に国土交通省が発表したデータによると、2020年の【テレワーク】を実施した会社は、2019年の9.8%から19.7%へと倍増しています。新型コロナウイルスの影響でテレワークを導入する企業が増えたものと考えられます。
しかし、いざ【テレワーク】を導入する際に、まずは何から準備するべきか、何に気をつければ良いのか分からない会社も多いのではないでしょうか。
そこで、労務問題、会社側労働問題に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が、以下、【テレワーク】の導入の際に気をつけるべきポイント、留意点等について詳しく解説していきますので、ぜひご参照ください。
目次
テレワーク導入時の対象業務・対象者に関する留意点
まず、【テレワーク】を導入するとしても、どのような業務に、また、どのような従業員に導入するのかを考える必要があります。
以下、対象業務の選定、範囲の選定などの留意点について解説していきます。
テレワークの対象業務の選定
まずは、【テレワーク】の対象となる業務を選定することから始めましょう。
対象となる業務については、「業務単位」で整理すると良いでしょう。
特に、【テレワーク】を行いやすい業務と行いにくい業務を整理していき、併せてこれまでの業務プロセスを見直し、電子化・ペーパーレス化などをも見直すとさらに良いかと思います。
例えば、【テレワーク】を行いやすい業務としては、最初から最後まで、他の従業員と綿密なコミュニケーションをとらなくても一人で完結することができる業務は【テレワーク】に向いているといえます。また、1人ではなく分担制の業務であっても、直接的なやり取りが必要なければ【テレワーク】に適していると言えます。
また、プログラムの作成や一定の量のデータを入力など、仕事の成果が客観的に判断できる業務は【テレワーク】に向いているといえます。会社側としても、在宅勤務中の様子を完全に管理することは難しいため、成果や仕事量が可視化できない業務の場合、【テレワーク】には適しているとはいえません。
テレワークに向かない業務とは?
では、【テレワーク】に向かない業務とは何が考えられるでしょうか。
まずは、対面でのやり取りが必要となる接客業務や販売業務については【テレワーク】に向いていないものと思われます。
また、製造業務・研究業務などの物理的に商品を生み出したり研究開発するような職種では【テレワーク】に向いていないものと思われます。
さらに、向かない業務ではないかもしれませんが、新入社員、中途採用の社員及び異動直後の社員は、業務について上司や同僚等に確認したいことが多く、【テレワーク】にしないという配慮も必要になるかと思います。
テレワーク勤務の対象者の範囲
上記のとおり、【テレワーク】に向いている業務内容や対象者がいるため、まずは、導入の効果が分かりやすい対象業務、対象者に限定して導入するということも前向きに検討してよいかと思います。
ただし、あまり範囲を限定しすぎてしまうと、対象者は、自分たちだけ特別扱いされていると、肩身のせまい思いをして、逆に【テレワーク】を利用しづらいというデメリットがあります。また、その他の従業員が不公平感を抱くこともあるので、できるだけ対象者は広げることが望ましいでしょう。
特に、【テレワーク】の対象者を選定するに当たっては、正規雇用労働者、非正規雇用労働者といった雇用形態の違いのみを理由として【テレワーク】の対象者から除外することのないよう留意する必要があります。
テレワークを希望しない労働者への対応は?
【テレワーク】の実施に当たっては、就労場所の変更を伴います。
労働契約締結の際に、自宅勤務等を予定しておらず、労働契約締結後に【テレワーク】制度を導入する場合には、労働条件の変更となりますので、対象となる従業員の同意を得る方がよいでしょう。
特に、【テレワーク】での就労場所は、サテライトオフィス等を利用しない場合には、従業員の自宅など私的領域にあるのが基本です。そのため、従業員のプライバシーへの配慮も必要性であり、仮に、就業規則上の根拠があったとしても、従業員から同意を得ておくべきでしょう。
そのため、【テレワーク】を希望しない従業員に対しては、その必要性を説明するとともに、就労環境をどのように整えるかの説明も尽くすべきでしょう。
テレワークの導入時には就業規則の変更が必要か?
【テレワーク】の導入時には就業規則の変更が必要になるものと考えられます。
厚生労働省が公開している「テレワークモデル就業規則〜作成の手引き」には、「通常勤務とテレワーク勤務において労働時間制度やその他の労働条件が同じである場合は、就業規則を変更しなくても、既存の就業規則のままでテレワーク勤務ができます」と記載されています。
しかし、あくまで「労働時間制度やその他の労働条件が同じである場合」に限られることであり、自宅等での勤務であり、労働時間管理も容易ではなく、始業・終業時間を変更したり、休憩時間の⻑さや与え方が変わったりする可能性があります。また、「通勤手当」など手当に関する項目、賃金に関わる要件、計算方法が変わるなど、【テレワーク】によって従業員の処遇に変更が生じることもあります。
そのため、【テレワーク】の導入時にはに【テレワーク】についての規程を就業規則に定める必要があります。
就業規則の作成義務がない会社の場合
就業規則については、常時雇用する労働者が10名以上の会社に法的な作成義務があるとされていますが、10名未満の会社には作成義務まではありません。ただし、就業規則に準じるものを作成することが推奨されています。
このことを考えれば、改めて【テレワーク】を従業員の「働き方」として導入するのであれば、職場におけるルールとして就業規則を見直しておくのがよいでしょう。
「テレワーク勤務規程」の新設について
【テレワーク】で新しく就業規則を盛り込む場合、次の2つの方法があります。
①【テレワーク】の勤務にかかる定めを就業規則に盛り込む
②新たに【テレワーク】勤務規程を作成する
厚生労働省は、①②いずれの方法でも良いとしています。
ただし、①就業規則に盛り込む場合は全体を見直す必要があり、後々の周知徹底にも影響するため、②新たに【テレワーク】勤務規程として別に集約するほうが取り扱いやすいでしょう。
テレワークの就業規則で定めておくべき事項
それでは、【テレワーク】の就業規則においては、どのような内容を定めておくべきか見ていきましょう。
対象者
まずは、【テレワーク】での勤務の対象者がどこまでの範囲なのか明記すべきでしょう。
就業規則に規定する対象者は、実際にテレワークを行う者やテレワークをする可能性がある人すべてにしておくべきです。
ただし、その規定の仕方については、例えば、
①テレワークを希望する、
②勤続年数の要件(1年以上など)を満たす、
③自宅の執務環境・セキュリティ環境などが適正と認められる
など対象者を明確に限定する規定が必要です。
他方で、近時の新型コロナウィルス感染症の拡大のような緊急時の対策として、感染症の拡大や災害発生時などには全従業員に【テレワーク】を命じることができる旨の規定を設けておくという方法もあります。
就業場所
【テレワーク】での就業場所をどこにするのかも明記しておくべきです。
【テレワーク】は、
①自宅での勤務(在宅勤務)
②サテライトオフィス勤務(所属するオフィス以外の他のオフィスや遠隔勤務用の施設を就業場所とする働き方)
③モバイル勤務(カフェなどを就業場所とする働き方)
を含むものとされています。
そのため、導入しようとする【テレワーク】の制度が①在宅勤務のみなのか、②サテライトオフィス勤務、③モバイル勤務も含むものなのかは明確にすべきです。
就業場所を不明確にしたままですと、カフェや漫画喫茶などで仕事をしてしまい、会社としては情報漏えいなどのリスクに晒されることになります。
労働時間の取扱い
【テレワーク】では、自宅等での勤務であるため、出勤してタイムカードにより労働時間を管理する等の対応ができません。
そのため、【テレワーク】の際の労働時間をどのように記録するのかを規定しなければなりません。
例えば、【テレワーク】の際の労働時間の管理方法としては、
- 業務の開始・終了時に、直属の上司などに電話やメールなどで報告させる方法、
- クラウド型の勤怠管理システムなどを導入してそのシステムに打刻させる方法、
などがあります。
加えて、【テレワーク】の、始業時間や終業時間、休憩時間の⻑さや取り方、賃金の額や計算方法などをどのようにするかも考える必要があります。【テレワーク】であったとしても、会社側には、従業員の労働時間を把握・管理する義務があるので注意しましょう。
通信費等の費用負担
【テレワーク】では、自宅でインターネットを利用するなどして従業員を勤務させることになります。
そのため、【テレワーク】中における自宅でのインターネット接続の費用や光熱費の負担について、従業員に負担させる場合は、会社側としては従業員と充分に話し合い、就業規則に規定する必要があります。例えば、従業員に負担させるとして、【テレワーク】に関する手当などを設けて従業員からも不満を回避することも検討すべきでしょう。
仮に、会社側が通信費等を負担する場合も、限度額や従業員からの請求方法などについて、 あらかじめ、就業規則に定めておくのが望ましいでしょう。
通勤手当
上記したとおり、【テレワーク】では、自宅でインターネットを利用するなどして従業員を勤務させることになります。そのため、出勤する際に支給していた「通勤手当」をどうするかを検討する必要があります。
例えば、【テレワーク】前の就業規則や賃金規程に「6か月間の定期券代相当額を支給する」など定期代の支給額に関する事項が書かれている場合は、【テレワーク】の手当に関する規定を就業規則で定める必要があります。
その他にも、「固定残業手当」や「皆勤手当」についてもどうするかを検討する必要があります。
人事評価
また、【テレワーク】では、出社する従業員と異なり、成果や勤務態度を評価しにくい面もあります。
そこで、業績評価や人事管理について、会社へ出社する従業員と異なる制度を用いるということもあるでしょうが、その場合には、その取扱い内容をきっちり規定しておく必要があります。
業績評価、人事評価にあたっては、上司が部下に求める水準をあらかじめ具体的に示すとともに、その達成状況について話し合う機会を設けることが望ましいです。
【テレワーク】を実施せずにオフィスに出勤している従業員をそれだけで高く評価することは、適切な人事評価とはいえません。
服務規律
【テレワーク】では、上司は部下の勤務態度等を確認できないため、服務規律にも目を配る必要があります。
また、【テレワーク】に従事する従業員も、当然服務規律は遵守しなければなりません。
就業規則本文にて定められている遵守事項がある場合は、それを基本として、【テレワーク】の際に特に必要な服務規律について追加する形が良いかと思います。
特に、会社内で勤務するわけではないので、企業情報や顧客情報、作成データの取り扱い、保管・管理の方法、公共性の高いネットワーク(Wi-Fi等)への接続禁止など、セキュリティ面に対する注意事項もここに記載すべきでしょう。
安全衛生
【テレワーク】では、従業員は自宅等目の届かない場所で勤務することになるため、労働時間の管理等も出社時に比べると甘くなったりします。 加えて、従業員の安全衛生として、会社側は、【テレワーク】を行う従業員の健康保持の確認義務や健康診断を行う必要があること(労働安全衛生法66条1項)、必要な安全衛生教育を行うこと(同法59条1項)は変わらず課されますので、留意するようにしましょう。
教育訓練・研修
【テレワーク】では、教育訓練・研修についても問題となることがあります。
【テレワーク】を行う従業員は、基本的には一人で業務に向き合っており、上司等から指導を受ける機会も自然と減ってしまうおそれがあるためです。
特に、新人教育が問題となることが多く、教育体制が整えられていないのが挙げられます。教える側の担当者も、オンライン移行によるデメリットや従来の研修との違いについて把握しておかなければなりません。
会社側としては、【テレワーク】を行う従業員向けの、特別な教育訓練や研修の場を設ける必要があり、それを就業規則に明記すべきといえます。
テレワークの導入について不明点があれば弁護士にご相談ください。
【テレワーク】は、多くの会社にとっては新しい働き方であり、従業員だけでなく、会社側にも戸惑いの面があることは仕方のないところです。
しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大をきっかけとして、今後、【テレワーク】は一般的な働き方という位置づけになっていくものと思われます。実際に、インターネット等の通信技術の発達により、会社に出勤しなくても、会社外(自宅等)で仕事をすることができる範囲が拡大してきたものといえます。
そのため、会社側は、【テレワーク】の基本的なルールを理解し、従業員のためにも快適な労働環境を作っていき、出社しなくても生産性を維持できるような仕組みづくりをすべきといえます。
政府も「仕事と生活の調和推進、ワーク・ライフ・バランス推進」という観点から、【テレワーク】の普及促進を図っています。
他方で、上記したとおり、既存の枠組みとは異なる枠組みで従業員を管理等しなければならず、その枠組みをいかに設けていくことができるかが会社側の課題となります。
この点、弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士は、これまで労務問題、会社側の労働問題に数多く携わってきました。
【テレワーク】の導入を検討している、また、既に【テレワーク】を導入したけれどもうまく活用できていないなどといったお悩みを抱えている会社の方は、ぜひ一度弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士にご相談ください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)
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企業側人事労務に関するご相談
- ※電話相談の場合:1時間10,000円(税込11,000円)
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