メンタルヘルス不調社員対応のポイントについて解説

神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介

監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士

  • メンタルヘルス

会社にとって、従業員のメンタルのケアも重要な課題となってきています。
メンタルヘルスケアは、従業員において心が健康な状態で働くことができるように支援することや、そのための仕組みを作って実践することであり、従業員がメンタルヘルス不調に陥らないために会社における重要な取り組みとなってきています。
なぜなら、従業員のメンタルヘルスの不調とは、ストレスや不安等、従業員の心身の健康や社会生活に影響を与える可能性のある精神的問題や行動上の問題を幅広く含む概念であり、精神障害や自殺までも引き起こすためです。
メンタルヘルス不調の従業員がいる場合、会社としては、どのような措置を講じれば良いのか、悩まれることも多いかと思います。
ただし、会社として、単に放置し、従業員のメンタルヘルス不調を悪化させてしまうと、会社は安全配慮義務違反により、メンタルヘルス不調の社員に対し、損害賠償責任を負う可能性があります。
そこで、労務問題や、労務管理に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が、以下、会社におけるメンタルヘルス不調の社員の対応、注意点等について、以下解説していきます。

目次

労働安全衛生法改正によるメンタルヘルス対策の強化

近年、パワハラやセクハラへの関心の高まりに伴い、従業員のメンタルヘルスに対する関心も高まっています。
これを受けて、労働安全衛生法が改正されました。
改正の内容としては、従業員の心理的な負担の程度を把握するため、医師、保健師等による検査(以下、「ストレスチェック」といいます。)の実施を会社に義務付けるというものです。
ストレスチェックを実施した場合には、会社は、検査結果を通知された従業員の希望に応じて医師による面接指導を実施し、その結果、医師の意見を聴いた上で、必要な場合には、作業の転換、労働時間の短縮その他の適切な就業上の措置を講じなければならないとされています。

メンタルヘルス不調社員への配慮は会社の義務

メンタルヘルス不調社員への配慮は、会社の義務となっています。
具体的には、労働契約法5条が「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」として、使用者(=会社)の労働者(=従業員)に対する安全配慮義務を定めています。
かかる安全配慮義務から、会社は、メンタルヘルス不調の状態にある従業員に対して配慮する必要があります。

安全配慮義務違反に対する損害賠償責任

会社が上記のような安全配慮義務を怠った場合には、民法上の不法行為、使用者責任もしくは債務不履行責任により、従業員に対して損害賠償責任を負う可能性があります。
実際に、裁判例においても、会社側に多額の損害賠償を命じた事案があります。
安全配慮義務違反となるか否かは、ケースバイケースですが、①従業員のメンタルヘルス不調を会社が予測できたか、②従業員のメンタルヘルス不調を回避できたか、どのような手段を講じていたか等により判断されるものと思います。

メンタルヘルス不調を早期発見する重要性

メンタルヘルス不調は、身体の不調と同様に症状の軽いうちにケアすることが非常に重要です。
放置してしまい、症状が悪化すると長期の休職につながることが多く、従業員本人にも会社にも大きな影響を与えてしまいます。
メンタルヘルス不調の早期発見、早期対応を注意するようにしましょう。

職場におけるメンタルヘルス不調の兆候とは

メンタルヘルス不調の兆候の例として、以下のようなものが挙げられます。

  • 従業員の顔色が悪い、寝不足の様子がある、食欲がなさそうである
  • 出退勤が遅い、早退が多くなる
  • 被害的なことを口にする、感情の起伏が激しい
  • 仕事のミスが増える

以下のような兆候が表れた場合には、注意するようにしましょう。

メンタルヘルス不調と休職時の対応

メンタルヘルス不調の従業員が出た場合、場合によっては、休職させる必要があるでしょう。
当該従業員を休職させるに当たっては、まずは会社の就業規則の休職規定の有無を確認するようにしましょう。
就業規則に休職の規定がある場合には、医師による診断書の提出、休職期間、休職期間中の賃金等を確認する必要があります。なお、仮に、就業規則に休職についての定めがない場合でも、休職命令を発出できることがあります。

休職中の社員への対応

休職させる場合、会社としては、当該従業員に具体的にどのように対応すればよいでしょうか。
まず休職開始時や休職前に、会社は本人へ就業規則や社内の休復職規程に基づき、休職のルールを伝えます。その際、個別の就業期間により定められている「休職可能期間」があることを説明しましょう。休職期間が満了する時点で治っておらず、復職して就業するのが困難であると認めた場合は(解雇ではなく)退職とするのが一般的です。

また、まずは、当該従業員に療養してもらうことが最も重要ですので、できるだけメールや書面での連絡としましょう。会社側の負担もあるため、休職中の窓口は一本化し、担当者をごくわずかの人数に絞ることが望ましいでしょう。
また、従業員にとって会社からの連絡が負担になることもあるため、会社から従業員へ頻繁に連絡することも控えましょう。その他、休職中の経済保障として、「休職中の給与・健康保険の傷病手当金」があり、一定の給付があることで安心して療養できる環境がある旨を伝えましょう。

さらに、休職時・復職時の手続きにおいて必要な書類を会社に提出してもらう旨もしっかりと伝えておくようにしましょう。

復職可否の判断について

復職は休職の判断と同様に、産業医や主治医の判断のもと、使用者である会社側が決定します。
この判断の際には、①主治医の社員が復職可能であることが記載された診断書、②就業を前提として、社員が安定した生活を送れていることが記録された生活記録表、③体調悪化を予防する具体策・体調が悪化した際の対応策が記載されたメモ等を集めると良いでしょう。

主治医の診断書による判断

①主治医の診断書にはどのような事を記載してもらうべきでしょうか。
医師の診断書に書いてもらう事項としては、いつから勤務可能か、勤務時間の長さ、業務内容は通常のものと同様で良いか等、復職可能かどうかを会社が判断できる程度に具体的なものが望まれます。

職場復帰を支援する「リハビリ出勤制度」とは

一度休職した従業員が、休職前と同様に、いきなりフルタイムで働くなどが難しいケースもあります。
そのような場合には、「リハビリ出勤制度」を活用しましょう。
リハビリ出勤制度とは、本格的に職場復帰をする前に、試し出勤を行うという制度です。
勤務時間と同様の時間帯にデイケアなどで模擬的な作業を行うなどの「模擬出勤」、自宅から職場近くまで通勤経路で移動し、職場付近で一定時間すごした後に帰宅する「通勤訓練」、本来の職場などに試験的に一定期間継続して出勤する「試し出勤」などの方法があります。

メンタルヘルス不調を理由とした解雇は認められるか?

それでは、休職するなどした当該従業員を会社として解雇することはできるのでしょうか。
まず、解雇は、解雇するのに客観的に合理的な理由が必要であり、かつ社会通念上相当であると認められなければなりません。
メンタルヘルス不調を理由とした解雇がこのような基準を満たすかどうかは、就業規則の内容によるところでもありますが、例えば、メンタルヘルス不調による欠勤が長期間に及び、業務に耐えられるものではないと客観的に認められる場合等には、基準を満たす可能性もあります。
もっとも、メンタルヘルス不調を理由として安易に解雇すると、後々解雇無効と主張されて争われるリスクがありますので、慎重な判断が求められます。

メンタルヘルスケアで会社に求められる対応

上記したとおり、会社には、従業員のメンタルヘルスに関して法律上安全配慮義務が課されています。
そのため、会社としては、従業員のメンタルヘルスケアに関する措置を講じる必要があるといえます。
では、その措置としてどのようなものが考えられるかについてですが、厚生労働省は、以下に述べるような4つのケアを提唱しています。
詳しく見ていきましょう。

厚生労働省が提唱する4つのケア

厚生労働省が提唱する4つのケアは以下のとおりです。
①セルフケア: 労働者自身による取組み
②ラインによるケア: 管理監督者による取組み
③事業場内産業保健スタッフ等によるケア: 産業医や衛生管理者、保健師等による取組み
④事業場外資源によるケア: 事業場外の機関・専門家による取組み

ストレスチェック制度の導入

メンタルヘルス不調を未然に防ぐために、従業員が50人以上いる事業所では、2015年12月から、毎年1回、自らのストレスがどのような状態にあるのかを調べる簡単なストレスチェック検査を、全ての従業員(契約期間が1年未満の従業員や労働時間が通常の労働者の所定労働時間の4分の3未満の短時間労働者は対象外)に対して実施することが法律上義務付けられています。
ストレスチェックの実施者は、医師や保健師等の中から選ぶ必要がありますが、外部委託することも可能です。

産業医との連携による適切な対応

従業員のメンタルヘルス不調に気付くには、会社側の人間である管理職や人事担当者等が従業員のささいな「変化」に気付くことが重要です。
しかし、管理職や人事担当者等が従業員の一人ひとりを注意深く観察することは困難です。
そのため、従業員のメンタルヘルスの不調を見逃さない体制づくりのためには従業員の健康をチェックする産業医との協力体制が必要不可欠です。
ストレスを多く抱えている従業員に対する面談はどのような内容にするべきかなど、健康に関わる議題について産業医と事前に相談・計画するなど適切な対応を取ることが必要です。

メンタルヘルスに関するQ&A

以下、メンタルヘルスに関してよくある質問に回答していきます。

長時間労働者の面接指導でうつ病が疑われた場合、会社にはどのような対応が求められますか?

このような場合、面接指導をした医師から、就業上の措置の必要性の有無および措置の具体的な内容について意見を聞きましょう。
その意見を踏まえて、うつ病が疑われる従業員の労働時間を短縮したり、当該従業員が就労可能な業務に転換させたりする等の柔軟な対応が求められるものと考えられます。

診断書にメンタルヘルス不調のため就労不能と記された場合、必ず休職させなければならないのでしょうか?

メンタルヘルス不調者に対しては、必ずしも休職させなければならないということにはなりませんが、退職等についても検討し、退職の合意が得られないのであれば休職させることが望ましいものといえるでしょう。

派遣社員がメンタルヘルス不調を抱えている場合、派遣先としていかなる対応をなすべきでしょうか?

裁判例では、うつ病で派遣社員が自殺をした事案に関し、派遣元と派遣先の双方に安全配慮義務違反を認めたものがあります。
派遣社員がメンタルヘルス不調を抱えていることを派遣先が把握した場合、派遣先は、派遣元にこの事実を伝えて速やかに対応を求めるとともに、派遣先から派遣社員に対しても、通院を進めるなどの対応をする必要があるでしょう。

うつ病の発症を理由に、退職勧奨を行うことは法的に認められますか?

うつ病の発症を理由に、退職勧奨を行うことは、態様によっては、不当な退職勧奨になる可能性があります。
うつ病が発症していても、服薬などで労務の提供に影響がない場合もありますが、うつ病により、労務の提供に問題が生じているようなケースにおいて、退職勧奨を行うことは問題がないといえるでしょう。 もっとも、退職勧奨を労働者が拒否しているにもかかわらず、執拗に退職を迫る等の行為は不法行為になり得ますので注意してください。

うつ病の社員が休職から職場復帰する場合は、元の職場に戻すべきでしょうか?

休職から従業員が職場復帰をする場合には、元の職場に戻す方が負担なく業務に戻れるというメリットがあります。
しかし、うつ病の社員の場合、元の職場の環境が病気の原因となっているケースもあり、このような場合に元の職場に戻すことは、症状を再発させかねない行為です。
うつ病の原因を踏まえて、適切な職場に復帰させる配慮が必要であるので、別の職場に戻すことが適切な場合もありますから、十分に検討しましょう。

メンタルヘルス不調が疑われる社員に受診を勧めましたが、応じてくれない場合はどうしたらいいですか?

上記したとおり、会社は、労働者に対し安全配慮義務を負っています。
メンタルヘルス不調が疑われるにも関わらず、当該従業員が病院を受診しない場合には、受診命令を下すべきケースもあるでしょう。
もっとも、業務命令として受診命令を下す場合には、その命令が有効であったかどうかが争われるリスクが残ります。そのため、あらかじめ、就業規則において、上記のような場合に、会社が社員に受診命令を下すことができる旨の定めを設けておくことをお勧めします。

ストレスチェックを実施しない会社への罰則はあるのでしょうか?

ストレスチェック制度の実施義務がある会社は、ストレスチェックの報告を行う義務があり、その報告を怠ると、50万円以下の罰金という罰則があります(労働安全衛生法120条5号)。
ただし、実施しないことについての罰則は定められていません。

メンタルヘルス不調による再休職を予防するにはどうしたらいいでしょうか?

メンタルヘルス不調の従業員は、何度も休職を繰り返すケースがあります。
理想的な解決は、完治してから復職してもらうことですが、現実には、完治せず復職するケースの方が多いといえます。
このような場合には、同種の傷病で休職する場合には休職期間を通算するという休職規定を設け、再休職を繰り返す場合には、休職期間満了により、当然退職となるといった対応をとることが可能な制度を会社側において設計しておくことにより対応する必要があります。

職場のメンタルヘルス不調における、管理職の役割を教えて下さい。

管理職は、部下の様子を把握し、「いつもと違う」という状況を発見して、早期にメンタルヘルス不調を発見するという役割を担っています。
また、日常的に、部下からの相談に対応して、メンタルヘルス不調が発生しないように努めるという役割もあります。
さらに、メンタルヘルス不調で休職した部下の復帰にあたり、職場復帰の支援に関し、中心的な役割を果たすことになります。

メンタルヘルス不調で遅刻・欠勤を繰り返す社員を解雇することは違法ですか?

メンタルヘルス不調で遅刻・欠勤を繰り返す社員を解雇することは、必ずしも違法ではありません。
もっとも、上記したとおりの休職制度の利用の有無や、メンタルヘルス不調の原因が業務に起因するか等の事情により、解雇が無効となる可能性はありますので、解雇の前に、弁護士等の専門家に相談することをお勧めします。

メンタルヘルス不調社員への対応でお悩みなら、労働問題を専門とする弁護士にご相談下さい。

メンタルヘルス不調社員がいる場合には、会社としては適切な対応と対策が望まれます。
さらには、後々の損害賠償等のリスクを考慮すると、早期に対応することが望まれます。 しかしながら、具体的にどのような対応を採ったら良いのか、判断に悩む会社の担当者は多いのではないでしょうか?

近年、従業員がメンタルヘルス不調になるというケースは、珍しいことではなくなっており、会社が行うメンタルヘルスへの取り組みは重要性を増しています。
メンタルヘルス不調社員への対応にお困りの際には、労働問題を専門とする弁護士に相談することをおすすめいたします。
弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士は、労務問題、人事問題に精通しておりますので、ぜひ一度ご相談ください。

神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介
監修:弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長
保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:51009)
兵庫県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

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