労務

不当労働行為とは?禁止される5つの行為と罰則について

神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介

監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士

  • 不当労働行為

労働組合との「団体交渉」について、会社側(以下、「使用者側」と同義で使用させていただきます。)には誠実交渉義務という義務があります。

この誠実交渉義務の違反が認められると、「不当労働行為」だと評価され、労働委員会の救済命令や損害賠償命令等の問題を生じさせる可能性があり、会社としては各種手続きの対応に追われることになるので注意しなければなりません。

そこで、会社側としては、労働組合法で禁止されている行為について理解しておく必要があります。

特に、「不当労働行為」と呼ばれる行為に対して、労働者側が争ってくることも多いので特に注意が必要です。

そこで、本記事では、会社側の労働問題、労務管理、団体交渉に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が、どのような行為が「不当労働行為」に当たるのか、罰則はあるのか等を、わかりやすく解説していきますので、ぜひご参考にしてください。

不当労働行為とは?

まず、「不当労働行為」とは何かを見ていきましょう。

「不当労働行為」とは、憲法で保障された労働三権(以下の、①団結権、②団体交渉権、③団体行動権)を阻害する行為をいいます。

  1. 団結権
    労働者が労働組合を結成する権利
  2. 団体交渉権
    労働者が使用者と団体交渉する権利
  3. 団体行動権
    労働者が要求実現のために団体で行動する権利

「不当労働行為」として禁止されている行為は、労働組合法7条に定められています。

「不当労働行為」を禁止することによって、労働者と会社側との間に存在する交渉力、パワーの格差を是正するのが目的だと考えられます。

なお、そもそも団体交渉を申入れられたときにどのように対応すべきかについては、

不当労働行為として禁止される5つの行為

それでは、「不当労働行為」として禁止されるのは、具体的にはどのような行為なのかを見ていきましょう。

①不利益取り扱い

まず、「不当労働行為」として禁止されるのは、①不利益取り扱いです

①不利益取り扱いとは、具体的には、会社側が労働者に対して、⑴労働組合員であること、⑵労働組合に加入したり、労働組合を結成しようとしたりしたこと、⑶労働組合の正当な行為をしたこと、を理由に、解雇、懲戒処分、配置転換(組合活動が難しくなるもの)、賃金・昇給等の差別、パワハラ行為の対象にするといった不利益な取扱いをすることが、「不当労働行為」として禁止されます。

また、⑷争議行為(ストライキ等)に参加したことによる不利益取扱い、や、⑸労働組合の壊滅を目的とした全員解雇についても、①不利益取扱いとして「不当労働行為」に該当するので注意しましょう。

不利益取り扱いに該当する具体例

併せて、①不利益取り扱いに該当してしまう具体例も紹介しますので、ご参照ください。

②黄犬契約

まず、①不利益取り扱いに該当してしまう例として、②「黄犬契約」が挙げられます。

かかる②「黄犬契約」とは、労働者を雇入れる際、労働組合に加入しない、あるいはすでに加入している労働組合から脱退することを採用の条件とすることです。

なお、「黄犬契約」は、アメリカの「yellow-dog contract」を日本語に直訳したものだといわれています(yellow-dog = 黄犬)。

黄犬契約に該当する具体例

例えば、②「黄犬契約」に該当するものとして、次のような例が挙げられます。

  • 「労働組合に加入しないことを約束してくれれば採用する」と告げる
  • 「労働組合には加入しない」という趣旨の誓約書に署名させる
  • 入社時に組合加入の有無を調査する

こういった行為は、②「黄犬契約」として禁止されるので注意しましょう。

③団体交渉拒否

次に、①不利益取り扱いに該当してしまう例として、③「団体交渉拒否」が挙げられます。

かかる③「団体交渉拒否」とは、文字通りですが、会社側が労働組合からの団体交渉の申し入れを正当な理由なく拒否することです。

なお、③「団体交渉拒否」については、誠実交渉義務との関係が問題となるところ、かかる点については、以下の記事でも詳しく解説しておりますのでぜひご参照下さい。

使用者の誠実交渉義務とはについて詳しく見る

団体交渉拒否に該当する具体例

会社側は、上記したとおり、団体交渉に単に応じるだけでなく、誠実交渉義務を負っており、不誠実な態度で臨む交渉(=不誠実団交)も③「団体交渉拒否」に含まれるとされています。

例えば、次のようなケースが該当しますので注意するようにしましょう。

  • 交渉に必要な情報の開示請求を拒む
  • 対面での話し合いには応じず書面・電話等で対応する
  • 正当な理由もなく労働協約の締結(合意内容の書面化)を拒否する

団交拒否が認められる「正当な理由」とは?

他方で、誠実交渉義務に反していない態様で、正当な理由があれば団体交渉を拒否することも許容されうるのですが、例えば、以下のような合理的な事情が必要と考えられます。

  • 組合側からの暴言・暴力により心身に危険が及ぶおそれがある場合
  • 交渉を重ねたもののこれ以上進展が見込めない場合

④支配介入及び経費援助

次に、①不利益取り扱いに該当してしまう例として、④「支配介入及び経費援助」が挙げられます。

かかる「支配介入及び経費援助」というのは、使用者の組合結成・運営に対する干渉行為や諸々の組合弱体化行為などをいいます。

なお、実際に、労働組合の組織・運営を現実に阻害したり、影響を与えたという結果発生まで必要となるわけではありません。

支配介入に該当する具体例

労働者が行う労働組合の結成や運営に会社側が「支配介入」することは、「不当労働行為」にあたります。

例えば、次に挙げるような行為がこれに該当し得ます。

  • 使用者が、日頃から組合を嫌悪する言動をしている
  • 組合への加入状況を調査・聴取した
  • 組合結成の動きに対して威嚇又は非難を行った
  • 組合結成大会の当日に、あえて緊急性の乏しい業務を命じた
  • 組合への加入を妨害した
  • 組合員に脱退を働きかけた
  • 既存の組合を弱体化させるために、新たな組合を結成するように促した
  • 複数併存する組合において扱いに差異を設けている

経費援助に該当する具体例

「経費援助」とは、会社側が、労働組合の運営に必要な経費を援助することをいいます。

労働組合は、労働者が団結し、会社を相手として、労働環境の改善や労働者の地位の向上を目指すものですから、会社の影響力を受けることなく独立している必要があります。

そのため、会社が労働組合の運営に必要な「経費援助」をしていると、労働組合は会社に対して率直に意見を出しにくくなるため、「経費援助」が不当労働行為として禁止されています。

「経費援助」の具体例は、以下のとおりです。

  • 労働組合の専従者の給料を会社が負担している
  • 従業員が労働組合のための用事で出張するのに会社が出張費を負担している

⑤報復的不利益取扱い

次に、①不利益取り扱いに該当してしまう例として、⑤「報復的不利益取扱い」が挙げられます。

かかる「報復的不利益取扱い」とは、不当労働行為の救済申立てを行ったり、審査や調整の場で証拠の提示や発言を行ったこと等を理由として、不利益な取扱いをすることを指します。

審査や調整に対する使用者の報復的な行為を禁止することで、労働者の権利をより確実に保護するという目的を持っています。

報復的不利益取扱いに該当する具体例

「報復的不利益取扱い」の具体的な例には、例えば、以下のようなものがあります。

  • 労働組合が救済申立てを行ったことに対し、組合員が横領をしたなど確たる証拠や十分な調査もしないまま懲戒解雇にした。
  • 労働組合が救済申立てを行ったことに対し、労働組合を一方的に非難する掲示を社内に長期間にわたって行い、申立ての取下げを強要した。
  • 労働争議のあっせんを申請した従業員に対して、申請を取り下げるよう圧力をかけた。

不当労働行為を行った場合の罰則は?

「不当労働行為」を行ってしまうと、会社としては、以下のようなペナルティを受けるおそれがあります。

  1. 労働委員会からの救済命令
  2. 民事上の損害賠償責任

そこで、これらのペナルティについて、以下で解説します。

労働委員会からの救済命令

まず、①労働委員会からの救済命令について解説します。

労働委員会は、労働者や労働組合の申立ての全部又は一部に理由があると判断した場合、その申立てを認容する命令を出すのですが、これを「救済命令」といいます。

かかる「救済命令」は、基本的には、原状回復、使用者による不当労働行為を解消して元の状態に戻すというのが目的になります。

「救済命令」は、法律上、行政処分という部類に当たるものであり、基本的にどのような内容の命令を下すかについては労働委員会に裁量権が認められているため、どのような内容のものが出るかはケースによって様々です。

救済命令違反に対する罰則

「不当労働行為」について、上記の救済命令が発令された場合において、労働委員会の救済命令に不服がある場合、「再審査の申立て」または「取消訴訟の提起」が可能です。

これらの手続きを行わずに、または手続きを行ったものの敗訴するなどして「救済命令」が確定したにもかかわらず、会社が「救済命令」を履行しなかった場合には、以下のような過料や刑罰を受けるおそれがありますので、注意しましょう。

  • 取消訴訟なしで救済命令に違反した場合:50万円以下の過料
  • 取消訴訟を経て救済命令に違反した場合:1年以下の禁固もしくは100万円以下の罰金刑

損害賠償・慰謝料請求

「不当労働行為」は、民法における不法行為(民法709条)にあたります。

そのため、「不当労働行為」により労働者や労働組合が損害を受けた場合、会社側は、民事上の損害賠償責任を負うことになりますので、この点も注意が必要です。

不当労働行為で刑事罰は科されるか?

「不当労働行為」をしてしまった場合、会社側に罰則は科されてしまうのでしょうか。

この点、会社側が「不当労働行為」をした場合でも、会社やその代表者が刑事罰(罰金や懲役など、犯罪に対する処罰)を受けることはありません。

つまり、「不当労働行為」をした会社の代表者に前科がつくこともないといえます。

ただし、上記のとおり、労働組合によって救済申立てがされ、その結果、救済命令が出されて確定したときには、会社はその命令にしたがわなければなりませんので、刑事罰がないからといって「不当労働行為」を甘く考えないようにしましょう。

不当労働行為とならないために企業がとるべき対策

それでは、「不当労働行為」とならないために、会社としてどのような対策を取るべきでしょうか。

これについては、労働組合があるだとか団体交渉を申し入れられたなどの場面で、会社側としても法律的な専門知識と団体交渉の経験やノウハウを備えておく必要があるといえるでしょう。

団体交渉を行う上で、会社側には「誠実交渉義務」が課されており、団体交渉を進めるにあたってのルールにも十分に気を付けなければなりませんし、団体交渉を申し入れてくる労働組合等は団体交渉の経験やノウハウを多く持っていることが予想されるためです。

このように団体交渉をするにあたって法的な専門知識や団体交渉の経験やノウハウが必要となることから、やはり、団体交渉を有利に進めるためには、弁護士の関与は不可欠だと言わざるを得ません。

特に、会社側の労働問題などを得意とする弁護士であれば、正確な知識を有するのみならず、多数の労働問題について、団体交渉の解決など関与してきた経験があるでしょうから、このような弁護士に対応を依頼されるべきでしょう。

不当労働行為について争われた裁判例

それでは「不当労働行為」について争われた裁判例をご紹介いたします。

具体的には、労働者側から「支配介入」と主張されたにもかかわらず、会社側の「支配介入」に当たらない、と判断された裁判例です(最高裁昭和58年12月20日判決、全逓新宿郵便局事件)。

事件の概要

事件の概要として、以下の①②の言動が支配介入の不当労働行為に当たるかどうかが争われた事案です。

  1. 郵便局長が、特定の組合を指して「闘争主義者」と呼称したり、「極力組合にはいかないように、組合の行動にはまき込まれないように」等と発言したこと
  2. 局内施設の利用について無許可で開かれた職場集会に対し、局次長らが解散命令等を行ったこと等

裁判所の判断(事件番号 裁判年月日・裁判所・裁判種類)

裁判所は、会社側の上記➀の発言について、その妥当性が疑われることは否定できないが、いずれも当該事案の事実関係に照らせば、①の発言のみをもって「支配介入」に当たるとまではいえないと判示しています。

また、労働組合が、会社側の許可を得ずに会社の管理する施設を利用して行った組合活動は、特段の事情がある場合を除いて正当な組合活動に当たらず、会社においてその中止等の指示、命令を発することができるので、②の解散命令等も「不当労働行為」には当たらないとしています。

ポイントと解説

かかる裁判例からすれば、発言内容からすれば「支配介入」には当たりそうであるものの、経緯等を踏まえて「支配介入」に当たらない判断されるケースがあるというものです。

ただし、事例判断なので、いかなる場合でも不当労働行為にはならないとしているものではないことに注意が必要です。

不当労働行為で労使トラブルとならないために弁護士がアドバイスいたします。

これまで見てきたとおり、「不当労働行為」に該当してしまうと、労働委員会への救済申し立て、その後の救済命令、その対応など、様々な面で会社側での対応に追われてしまいます

その意味では、そもそも「不当労働行為」に該当しないようにどのように対応していくべきか、団体交渉についてどのように対応すべきか、という点に注意すべきといえます。

相手方となる労働組合は、一般的に団体交渉に関する知識や経験を有していることが多いため、弁護士もつけず、何らの準備もせずに団体交渉の初動対応を漫然と進めることは非常に危険です。

そのため、団体交渉に関する初動対応には、労働問題、団体交渉問題に関する専門的知識や経験を有する弁護士が必須です。

弁護士法人ALGの神戸法律事務所では、これまで数多くの会社側労働問題、労務管理、団体交渉問題に携わってきましたので、団体交渉を申し入れられた会社の方は、ぜひ一度ご相談ください。

神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介
監修:弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長
保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:51009)
兵庫県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

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