労務

ハラスメントの労働審判で、会社側が主張すべき反論と答弁書

神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介

監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士

  • 労働審判

ハラスメントを理由に、労働者から労働審判を申し立てられた場合、会社は限られた期間内に対応方針を決定し、答弁書を提出する必要があります。

しかし、労働者からハラスメントを主張されたからといって、直ちに会社の責任が認められるわけではありません。労働審判では、初動対応や答弁書の内容が結果を大きく左右する可能性があるため、会社側は適切な反論を答弁書に記載し、主張することが重要です。

この記事では、ハラスメントに関する労働審判への対応方法や会社側が主張すべき反論、答弁書の作成ポイントなどについて、詳しく解説していきます。

ハラスメントによる労働審判に会社はどう反論すべきか?

ハラスメントを理由とする労働審判を申し立てられた場合、会社は感情的に反論するのではなく、事実と証拠に基づいた主張を行う必要があります。

具体的には、以下のような点を個別に検討しなければなりません。

  • 労働者の主張するハラスメント行為が実際に行われたのか
  • 会社として適切な調査や再発防止措置を講じていたのか
  • ハラスメント行為と損害との間に因果関係はあるのか など

労働審判は短期間で審理が進むため、申立書の内容を十分に確認したうえで、会社側の主張や証拠を整理し、答弁書に的確に反映させることが大切です。初動対応が遅れると、十分な反論や証拠の提出ができなくなるおそれもあるため、早期に対応方針を決定する必要があります。

労働審判とはどのような制度か

労働審判とは、労働者と会社(使用者)との間で生じた労働関係の紛争について、裁判所が原則として3回以内の期日で迅速な解決を図る手続きです。

解雇や残業代請求だけでなく、パワハラやセクハラなどのハラスメント事案で利用されることも多いです。

労働審判では、裁判官1名と労働関係の専門知識を有する労働審判員2名が審理を担当し、当事者双方の主張や証拠を踏まえて調停による解決を目指します。
短期間で審理が進むため、会社としては初期段階から十分な準備を行うことが重要です。

労働審判の主な流れ

労働審判は、当事者のいずれかが裁判所に申立てを行うことから始まり、主に以下のような流れで進みます。

※労働者から労働審判を申し立てられたケースを想定しています。

  1. 申立て
    労働審判手続の申立て先は、地方裁判所です。
  2. 期日指定・呼出し
    労働審判官によって第1回期日が指定され、会社側に申立書や呼出状が送達されます。
  3. 答弁書等の提出
    会社側は、指定された期限までに答弁書や証拠を提出しなければなりません。
  4. 期日における審理
    裁判官と労働審判員が当事者双方から事情を聴き、調停による解決を試みます。
  5. 調停成立
    当事者間で合意に至った場合は調停成立となり、手続き終了です。
  6. 労働審判
    話し合いがまとまらない場合は調停不成立となり、労働審判委員会が事案に応じた審判を下します。

通常の裁判との違い

労働審判と通常の裁判(労働訴訟)の大きな違いは、解決までのスピードです。

労働審判は、原則として3回以内の期日で審理を終えることが予定されており、数ヶ月程度で結論に至るケースが少なくありません。一方、通常の裁判は、当事者双方が主張や証拠の提出を繰り返しながら審理が進むため、解決まで半年から1年以上かかることもあります。

また、労働審判では当事者間の話し合いによる解決が重視されます。
裁判所から和解案や調停案が示されることも多く、会社側としては法的な主張のほか、事案の内容によっては解決条件についても検討しておく必要があるでしょう。

ハラスメントで労働審判を申し立てられた際にすべきこと

重要となるのは、労働者の主張内容を正確に把握したうえで、自社に有利となる事実や証拠を早期に収集し、答弁書に反映させることです。そのため、社内調査や関係者へのヒアリングを実施し、客観的な証拠を整理しておくことが欠かせません。

ハラスメント事案では、当事者双方の認識が大きく食い違うことが多く、感情論ではなく事実と証拠に基づいて対応する必要があります。会社として適切な反論を行うためにも、まずは申立内容を十分に確認・分析し、計画的に準備を進めることが大切です。

労働者の主張を把握する

労働者の主張は、申立書や証拠資料を確認し、正確に把握しましょう。
労働者は、「上司から暴言を受けた」「不適切な発言や行為があった」など、ハラスメント行為や損害を具体的に主張してくることが一般的です。

会社側は、主張されている日時や場所、関係者、発言内容などを整理したうえで、メールやチャット履歴といった客観的証拠を収集し、事実関係を検証する必要があります。

また、関係者へのヒアリングを実施し、労働者の主張と異なる事情がないかを確認することも重要です。

会社側の反論を記載した答弁書の作成

労働者の主張を把握したら、会社側は申立書の内容を踏まえ、反論や主張を整理した答弁書を作成します。

答弁書は、会社側の見解を労働審判委員会に伝える重要な書面です。
特に、ハラスメント事案では、「どの事実を認めるのか」「どの事実を争うのか」を明確にしたうえで、会社側の主張を裏付ける証拠を併せて提出する必要があります。

単に労働者の主張を否定するだけでは不十分です。会社が実施していたハラスメント防止措置や相談窓口の運用状況、問題発覚後の対応などについても、具体的に主張するとよいでしょう。

答弁書の提出期限について

労働審判における答弁書の提出期限は、第1回期日の7~10日前と指定される場合が多いです。
会社側は、限られた期間内で事実関係の調査や証拠収集を行わなければなりません。

なお、提出期限までに十分な準備ができていない場合でも、答弁書を提出しないまま期日を迎えることは避けましょう。答弁書が提出されていないと、会社側の反論や事情が十分に考慮されないまま審理が進むおそれがあります。

そのため、期限までに最低限の反論や証拠を整理し、答弁書を提出しておくことが大切です。

答弁書作成のポイント

答弁書は、申立人である労働者の主張を踏まえながら、具体的な事実や証拠に基づいて反論を組み立てることが重要です。

事実関係を時系列で整理し、どの部分を認め、どの部分を争うのかを明確に記載することで、説得力のある主張につながります。また、「ハラスメント防止措置を講じていた」「問題発覚後に適切な調査・対応を行った」などの事情も重要な主張となり得ます。

パワハラの場合

パワハラ事案における答弁書では、問題となっている発言や行為の具体的な経緯、業務上の必要性、指導の目的などを明らかにすることが重要です。パワハラに該当しない理由を具体的に説明し、メールやチャット、業務記録などの客観的証拠があれば積極的に提出しましょう。

業務上必要な指導や注意であったにもかかわらず、労働者が一方的にパワハラと受け止めているケースは少なくありません。

また、仮に一部不適切な言動があったとしても、会社が速やかに調査や是正措置を実施していた場合には、その対応状況についても主張すべきです。
会社の対応は、責任の有無や損害額の判断に影響する可能性があります。

セクハラの場合

セクハラ事案における答弁書では、問題とされている発言や行為の内容、当時の状況、当事者間の関係性などを明らかにすることが重要です。

セクハラの有無は、行為者の認識ではなく、受け手の感じ方や客観的な事情を踏まえて判断されることが多いため、会社側としては事実関係を正確に把握する必要があります。

被害者が主張する発言や行為が実際にあったのか、あった場合は主張されている内容どおりなのかを具体的に検討し、客観的証拠に基づく反論を行います。メールやチャット、録音データのほか、当時の状況を知る第三者の証言なども重要な証拠となる場合があるため、あらかじめ準備しておくことが大切です。

労働審判において会社側が主張すべき反論とは

ハラスメントに関する労働審判では、労働者の主張をただ否認するのではなく、事実関係や法的責任の有無を踏まえた具体的な反論を行うことが重要です。

会社側が主張すべき内容は事案によって異なりますが、主な反論には以下のようなものが挙げられます。

  • 労働者が主張するようなハラスメントの事実は存在しない
  • 会社側は法的責任を負わない

労働者が主張するようなハラスメントの事実は存在しない

労働審判において、会社側がまず検討すべき反論の一つは、労働者が主張するハラスメント行為の事実は存在しないという点です。

ハラスメント事案では、当事者間の認識に相違があることも多く、労働者の主張だけで直ちに事実が認定されるわけではありません。例えば、パワハラと主張されている発言が、実際には業務上の指導や注意の範囲にとどまるケースもあります。

会社としては、メールやチャットの履歴、録音データ、防犯カメラ映像などの客観的な証拠を収集し、事実関係を検証することが重要です。
また、労働者の主張に時系列の矛盾や不自然な点がある場合には、その点を具体的に指摘することも有効です。

会社側は法的責任を負わない

労働者が主張するハラスメントの事実が認められたとしても、会社が当然に法的責任を負うとは限りません。

会社がハラスメント防止規程の整備や相談窓口の設置を行い、適切な調査を講じていた場合には、「対応を尽くしていた」と評価される可能性があります。

また、問題行為が会社の管理下にない私的な場面で行われた場合や、ハラスメントの事実を認識できなかった場合には、責任が否定または限定されることもあります。

そのため、会社として講じていた防止措置や事後対応の内容などを整理し、会社の責任の有無や範囲について具体的に主張することが重要です。

ハラスメントによる労働審判を未然に防ぐための対策

ハラスメントによる労働審判を未然に防ぐためには、発生後の対応だけでなく、日頃から予防措置を講じておくことが重要です。

具体的には、ハラスメント防止規程の整備や相談窓口の設置、管理職を含む労働者に対する定期的な研修などを実施し、問題が発生しにくい職場環境を作る方法があります。

また、労働者から相談があった場合は迅速に事実調査を行い、必要に応じて加害者への指導や配置転換などの措置を講じるべきでしょう。

日頃から適切な体制を整えておけば、ハラスメントの発生を防止できるだけでなく、紛争時も会社として適切な対応を取っていたことを示しやすくなります。

よくある質問

労働審判では、必ず代理人を選任しなければならないのでしょうか?

いいえ、労働審判では、必ずしも弁護士を代理人として選任しなければならないわけではないため、会社の代表者や担当者が対応することも可能です。

ただし、労働審判は短期間で審理が進み、初回期日までに答弁書や証拠を提出する必要があります。また、法的な主張や証拠の整理が重要となるため、適切な対応ができなければ不利な結果につながるおそれがあります。

会社側としては、労働問題に精通した弁護士へ相談しながら対応することが望ましいでしょう。

労働審判の代理人を弁護士に依頼した場合、会社関係者は出席しなくても良いのでしょうか?

いいえ、代理人を弁護士に依頼した場合でも、会社関係者は出席する方が望ましいです。

労働審判では、裁判官や審判委員から会社関係者の出席を求められるケースがあるためです。特に、ハラスメント事案では、社内調査の経緯や当時の対応状況などについて、会社関係者が説明を求められることも少なくありません。

具体的に誰が出席すべきかについては、事案の内容や裁判所の運用によって異なるため、事前に代理人弁護士と十分に打ち合わせを行うとよいでしょう。

答弁書に必ず記載しなければならない事項はありますか?

はい、答弁書には、申立人の主張に対する会社の認否や反論を記載する必要があります。主な記載事項は以下のとおりです。

・申立ての趣旨に対する答弁
・申立書の事実に対する認否
・答弁を理由づける具体的な事実
・予想される争点と関連事実
・予想される争点ごとの証拠
・当事者間で行われた交渉など、申立てに関係する経緯

労働者が主張する事実に対し、「認める」「否認する」「不知(知らない)」などと回答し、その理由や根拠を整理して記載しましょう。

労働者がハラスメントの証拠を持っている場合、会社はどう対処すべきでしょうか?

まずは、証拠の内容を正確に確認し、どのような事実が読み取れるのかを慎重に検討することが重要です。証拠は、労働者によって一部分だけが切り取られている場合もあるため、前後のやり取りや当時の状況も含めて検証する必要があります。

また、会社側もメールや勤怠記録、業務資料、関係者からの証言などの客観的証拠を収集し、反証できる事情がないかを確認すべきです。

証拠の評価は内容や信用性によって異なるため、証拠が存在するという理由だけで直ちに会社の責任が認められるわけではありません。

ハラスメントによる労働審判は、解決までにどれくらいの期間がかかりますか?

労働審判は、迅速な紛争解決を目的とした制度であるため、申立後2~3ヶ月程度で審理が終了するケースが多いです。

ただし、事案が複雑で争点が多い場合や、当事者間の主張に大きな隔たりがある場合には、解決までに時間を要することもあります。
また、労働審判の内容に不服がある当事者が異議申立てを行うと、訴訟へ移行するため、解決までさらに時間を要する可能性があります。

会社としては、早期解決を目指すためにも、申立てを受けた段階で客観的な証拠や主張を整理し、十分な準備を行うことが重要です。

労働審判でも合意に至らなかった場合、会社は異議申立てをすべきでしょうか?

いいえ、労働審判で調停不成立となると、裁判所から審判が下されるため、審判の内容を確認してから異議申立てを検討した方がよいでしょう。
審判の内容に不服があり異議申立てを行うと、事案は訴訟へ移行し、改めて裁判所で審理が行われます。

異議申立てを行うべきかどうかは、審判の内容や会社が持つ証拠、訴訟へ移行した場合の見通しなどを踏まえて慎重に判断することが重要です。

訴訟では審判と異なる判断が示される可能性もありますが、解決まで長期化し、費用負担が増加するなどのリスクも考えられるためです。

ハラスメントが業務と無関係である場合でも、会社が責任を負うことになりますか?

いいえ、労働者同士の私的な交流の場で発生したトラブルなど、業務との関連性が乏しいケースでは、会社の責任が否定または限定される可能性があります。

ただし、以下のような場合は、実質的に会社と関連性があったと評価され、責任を負う可能性があります。

・会社の飲み会など、職場の延長といえる状況である場合
・会社がハラスメントの存在を把握していたにもかかわらず放置していた場合 など

会社側としては、問題となった行為が業務とどのような関係にあったのかを整理し、具体的な事情に基づいて主張することが重要です。

ハラスメントの原因が被害者側にもあったのですが、この点について主張すべきでしょうか?

はい、被害者側にもトラブルの原因があった場合、会社側に有利な事情として評価される可能性があるため、主張すべきといえます。ただし、そのことだけを理由にハラスメント行為が正当化されるわけではありません。

また、「被害者にも落ち度があった」という主張は、伝え方を誤ると、ハラスメント行為を正当化していると受け取られるおそれがあるため、注意しましょう。
感情的に非難するのではなく、客観的な証拠に基づいて事実関係を説明することが重要です。

答弁書が期日までに提出できない場合、どうしたらいいでしょうか?

答弁書が提出期限までに間に合わない場合は、速やかに裁判所や代理人弁護士に相談しましょう。

労働審判は短期間で審理が進むため、答弁書が提出されていないと、会社側の主張や反論が十分に考慮されないおそれがあります。
まずは、判明している事実や基本的な反論を記載した答弁書を提出し、その後、必要に応じて追加の証拠提出や主張を行う方法も考えられます。

ハラスメント事案では、関係者への聞き取りや資料収集に時間を要することも少なくありません。労働者から申立てを受けた場合は早期に対応を開始し、必要に応じて弁護士のサポートを受けながら準備を進めることが大切です。

精神疾患の発症が、ハラスメントではなく別の原因によるものであった場合、会社は慰謝料を支払う必要がありますか?

いいえ、精神疾患の発症が、本人の私生活上の問題や既往症など別の要因によるものである場合は、会社に慰謝料の支払義務が認められない可能性があります。

慰謝料などの損害賠償金が認められるためには、一般的にハラスメント行為と精神疾患との間に因果関係があることが必要です。

会社側としては、診断書だけで判断するのではなく、医療記録や就労状況、発症前後の事情などを踏まえ、因果関係の有無を慎重に検討することが重要です。

ハラスメントの労働審判において、会社側は可能な限り反論すべきです。答弁書の作成などでお悩みなら弁護士にお任せください。

ハラスメントを理由とする労働審判では、労働者の主張をそのまま受け入れるのではなく、会社側として主張すべき事実や反論を適切に整理することが重要です。

ただし、ハラスメント事案は事実関係が複雑で、法的な判断も容易ではありません。
十分な準備を行わないまま対応すると、本来主張できたはずの反論や証拠を十分に提出できず、不利な結果につながるおそれがあります。

弁護士法人ALGでは、ハラスメントに関する労働審判への対応について、事実関係の整理から答弁書の作成、期日対応まで弁護士がサポートしております。
労働者から労働審判を申し立てられ、お困りの際はお気軽にご相談ください。

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神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介
監修:弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長
保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)
兵庫県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

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