傷害罪とは?成立要件や罰則、暴行罪との違いなど
他人を殴ってしまった場合には、【傷害罪】(刑法204条)が成立してしまう可能性があります。
【傷害罪】は、暴行などにより人の身体に障害を生じさせることで成立する犯罪です。
例えば、かっとなって人を殴って怪我をさせてしまった場合や、夫婦喧嘩で手が出てしまい、配偶者に怪我をさせてしまった場合には、【傷害罪】が成立する可能性があります。
こういった【傷害罪】を犯してしまった場合には、警察に逮捕される可能性も十分にありえます。
そこで、本記事では、刑事事件、刑事弁護に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が、【傷害罪】とはどういった犯罪なのか、【傷害罪】で逮捕されてしまった場合にどうすべきか、などについて解説をいたします。
目次
傷害罪とは
まず、【傷害罪】(刑法204条)がどのような犯罪なのかを説明します。
【傷害罪】は、文字どおりですが、人に「傷害」を負わせる犯罪のことをいいます。
かかる「傷害」とは、人の生理的機能に障害を与えることなどと定義されるのですが、傷や打撲を含めた外傷を与えることだけでなく、心的外傷後ストレスなどの精神的な苦痛を与えることも「傷害」に含まれる、とされています。
ただし、故意に(わざと)人の身体の生理的機能に障害を与えない限り、【傷害罪】は成立しません。
他方で、不注意で手が当たってしまったなど過失行為によって人の生理的機能に障害を与えた場合には、【傷害罪】ではなく「過失傷害罪」(刑法209条1項)が成立します。
なお、【傷害罪】については、被害者がいる犯罪類型ですが、親告罪ではありませんので、第三者の通報からでも事件化される点には注意しましょう。
傷害罪の刑罰
次に、【傷害罪】を犯してしまった場合に、どのような刑罰が下る可能性があるのかを説明します。
刑法上、【傷害罪】の刑罰は、「15年以下の懲役又は50万円以下の罰金」と定められています。
ただし、10年以上の懲役刑になるケースは少なく、怪我の程度や暴行の内容などによりますが、【傷害罪】に関する判決の多くは、6か月以上~3年以下の懲役刑としているようです。
傷害罪の成立要件
では、改めて、【傷害罪】がどのような場合に成立するのかを説明します。
【傷害罪】が成立するためには、以下の4つの要件を満たす必要があります。
- 傷害罪の実行行為があること(暴行だけでなく、執拗に嫌がらせするなども含みます)
- 傷害という結果が生じたこと(身体的な怪我をしたり、精神的不調をきたしたことなど)
- 実行行為と傷害結果との因果関係があること
- 傷害罪の故意があること(怪我をさせようと思っていなくても、殴るということを認識していれば故意が認められうることになります)
傷害罪と暴行罪の違い
【傷害罪】と似た犯罪類型として、「暴行罪」という犯罪があるため、どのような点で違うのかを説明します。
まず、「暴行罪」は、刑法上、「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。」と規定されています。
つまり、「傷害するに至らなかった」場合には「暴行罪」、傷害した場合には【傷害罪】が成立し得ることになります。
そのため、上記で説明した【傷害罪】の要件のうち、②傷害という結果が生じたこと(身体的な怪我をしたり、精神的不調をきたしたことなど)あが、分水嶺になるとお考えいただいて問題ないかと思います。
傷害罪の時効
次に、【傷害罪】の時効、つまり、「公訴時効」を見ていきましょう。
刑法上の「公訴時効」とは、一定の期間が経過すれば、検察官から起訴されなくなる(公訴権が消滅する)というものです。
この点、【傷害罪】の公訴時効は10年とされています。
つまり、傷害行為を行い、結果的に怪我を負わせたとしても、起訴されることなく10年間を経過すれば、検察官は、今後、傷害行為について起訴することができなくなります。
もっとも、刑事事件としての時効が成立した場合でも、民事事件としての時効が完成しておらず損害賠償を請求される場合もあるので注意が必要です。
傷害罪で逮捕されたときの対処法
それでは、万が一、【傷害罪】で逮捕されたときにはどのように対処すべきかを説明します。
【傷害罪】は被害者がいる犯罪であるため、【傷害罪】で逮捕されてしまったとしても、被害者に対し深く反省している姿勢を示して、被害者との間で「示談」を成立させることができれば、不起訴処分(起訴されない)になる、または起訴されても減刑される可能性が高くなります。
ただし、逮捕されて身柄拘束された場合には、被害者に直接反省の姿勢を示すことはできません。
また、逮捕されていなくても、通常、被害者は加害者に会いたいとは思わないため、直接被害者に対して反省の示すことは難しいといえます。
この点、加害者の方が、弁護士に依頼すれば、弁護士であれば被害者に直接会える可能性が高いため、弁護士を通じて直筆の謝罪文などを渡し、反省の姿勢を示して示談交渉を進めていくことが有用であるといえます。
そのため、【傷害罪】で逮捕された場合には、刑事事件に精通した弁護士に依頼するようにしましょう。
示談交渉の必要性
上記のとおり、【傷害罪】を犯して逮捕された場合でも、被害者との「示談」が重要であることは説明しましたが、どういった点で重要なのか改めて説明します。
「示談」とは、加害者と被害者で、【傷害罪】に当たる犯罪行為について、合意・和解することを指します。
もちろん、合意・和解の内容は個々のケースで異なるものの、通常は、①加害者から被害者への謝罪の意を示す、②加害者から被害者へ示談金を支払う、ことで成立することになるでしょう。
上記のとおり、加害者と被害者という関係性上、加害者が被害者に対して直接連絡を取って「示談」しようとしても、被害者の心情的に難しいケースが多いため、弁護士に依頼して代わりに「示談」してもらうべきでしょう。
②示談金についての相場は、ケースによって変わるため、明確に申し上げにくいのですが、傷害罪の罰金額(50万円)は示談金の一応の目安になると考えられています。
傷害罪で有罪となった裁判例
ここで、【傷害罪】で有罪となった裁判例を取り上げたいと思います。
事例としては、約3年半もの長期にわたって、被害者の住まいやその実家に合計1万回以上の無言電話や被害者を中傷する嫌がらせ電話を続けて、被害者に外傷後ストレス障害(PTSD)を負わせたというものです。
かかる事案において、富山地方裁判所平成13年4月19日判決は、被害者の不安感、神経衰弱などの症状は、加害者の嫌がらせ電話などが外傷体験となり、それによる強度のストレスが原因となって発症したものと認めるのが相当として、【傷害罪】が成立すると判断しました。
傷害事件で逮捕された場合は、早期に弁護士にご相談ください
もし、傷害事件を起こしてしまったら、なるべく早期に弁護士に相談されることをお勧めします。
上記で説明したとおり、被害者との「示談」が重要となるので、被害者に対して謝罪の意を示し、「示談」を成立させることによって、不起訴処分になる、または起訴されても減刑が見込まれます。
特に、早期に対応することが重要で、これは、被害者の立場から見ても加害者が早期に謝罪、示談に向けた対応をすることにより、心情的に和らぐ、収まる可能性が高いためです。
たとえどのような事情があったとしても、人を身体的に精神的に怪我させてしまった場合には、【傷害罪】が成立するおそれがありますので、自分では問題ないと考えていても、その後の対応次第で刑罰等に大きな差がでる可能性も十分にあるため、傷害事件を起こしてしまったら、速やかに弁護士にご相談ください。
この点、弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士は、これまで数多くの刑事事件を解決してきた実績がありますので、ぜひ一度ご相談ください。